<土つくり>

土つくりとは、土壌の化学性、物理性、生物性を改良することにより、作物生産力を維持・向上させる事を意味し、作物生産力は地力とも呼ばれています。この地力と維持方法についてまとめたものが下表の様になります。

◆地力要因と地力維持手段◆(栃木県発行の農作物施肥基準から引用)
地力要因 地力維持手段
有機物施用 輪作 地力増進作物 客土・深耕 水管理 土壌改良資材 土つくり肥料 化学肥料 有機質肥料 緩効性肥料 施肥方法
C/N比の低い物 C/N比の高い物
鶏糞・汚泥等 堆きゅう肥・バーク堆肥・生ワラ等
クローバ・ソルゴー等
灌排水・湛水 泥炭ゼオライト・パーライト等 炭カル・けいカル・熔リン
骨粉・なたね油粕等 被覆肥料等 側条施肥・溝施肥等
化学性 1.養分供給




2.養分の持続的供給


3.緩衝能、pH等





4.毒性物質の除去








物理性 1.保水性・透水性・通気性






2.易耕性






3.耐食性(表土の流出抑制)









生物性 1.有機物分解・窒素固定等





2.病原菌、害虫の抑制








表中:○印は効果が期待される項目です。

堆きゅう肥などの有機物施用は地力維持の為に有効な方法と思われます。

<堆きゅう肥>

ところで堆肥とは、「わら、もみがら、樹皮、動物の排泄物その他動植物の有機物質をたい積又は攪拌し、腐熟させたものと定義づけられています。しかし、一般的には家畜糞尿等が含まれていない物を堆肥、含まれている物をきゅう肥として分け、定義づけの「堆肥」の呼び名ではなく「堆きゅう肥」と呼んでいるのが多いようです。

<堆きゅう肥の特性>

ここでは、堆きゅう肥の種類によって効果が異なるので種類毎に施用効果についてどのようになるかを列挙しました。

◆各種堆きゅう肥の特性◆(栃木県発行の農作物施肥基準から引用)
堆きゅう肥の種類 畜種 施用効果 施用上の注意
肥料的 化学性改善 物理性改善
家畜糞堆肥
(副資材なし)
牛糞 養分の肥料的効果を考えて施肥量を決定
豚糞
鶏糞
おがくず混合堆肥 牛糞 未熟木質は虫害、モンパ病の発生原因
豚糞
鶏糞
もみがら混合堆肥 牛糞
豚糞
稲わら混合堆肥 牛糞
稲わら堆肥 最も安心して施用
バーク堆肥 未熟木質は虫害、モンパ病の発生原因。物理性の改善効果が中心
もみがら堆肥 物理性の改善効果が中心

表中:
肥料的効果については、窒素供給源
化学性改善効果については、塩基類、リン酸の効果
物理性改善効果については、孔隙、保水力の点についてあらわしている。

肥料的効果や化学性改良の高い物は豚・鶏糞が相当するが窒素、リン酸、カリの成分が多いので後の肥料の施用量に考慮が必要。
木質の多い有機物、もみがら堆肥は物理性改良に良い。
堆きゅう肥を使う場合、未熟な物や木質に含まれるフェノール、樹脂などは生育障害を起こす場合があるので注意を要する。この場合の対策としては、さらに熟成させるか施用直後の作付けを避ける方法を取ります。

<有機物資材の連用>

土づくりのためと思い、単一資材の連用は長期及び施用量が多いほど、土壌に特定の無機元素の集積を生じ養分のアンバランスとなって現れますので特性の異なる有機資材を組み合わせた混合施用や作物の種類を変えてアンバランスな養分吸収を行い、回避する必要があります。

◆土壌の養分変化から見た有機質資材の類別◆(和歌山県発行の土壌肥料対策指針から引用)
区分 有機質資材名 pH リン酸 カリ 石灰 苦土 亜鉛
カリ集積 リン酸集積 牛糞オガクズ堆肥
鶏糞オガクズ堆肥

バーク入り鶏糞堆肥


乾燥牛糞


馬糞堆肥



乾燥豚糞


リン酸非集積 稲わら堆肥





稲わら





小麦かん





青刈りソルゴー





スイートコーン残さ





非集積 バーク(尿素)堆肥






ピートモス







表中:◎増加(上昇)大、○増加(上昇)中、空白は変化の程度は小を示す。

<有機物の堆肥化>

肥料は作物が育つのに必要な養分を供給する役割があり、堆肥は作物が育つ土壌に作用して土壌環境を改善する役割を持ちます。なかには堆肥にも肥料効果の高い物もあり、両方の役割を持っている場合もあります。このような肥料効果がある場合は使用に際し、有効成分量を考慮する必要があるかと思います。
堆肥は上述のように、わら、もみがら、樹皮、動物の排泄物その他動植物の有機物質を堆積または撹拌し腐熟したものと定義づけられています。ここでは堆肥化を目的としているので堆きゅう肥として分ける必要もないのではないかと思います。また堆肥は、毎年施用する事によって土壌の改善効果をもたらすと共に有機物として土壌にあるため、微生物の分解により養分量が蓄積される点が肥料と異なります。

有機物の堆肥化の目的は、上記のような利点があっても生のままで土壌に投入したときは有機物の長期的な分解によるガスの発生、チッ素飢餓などによる障害、生育に有害な物質の混入などがあるため、あらかじめ分解しておく事が肝要だからです。この有機物の分解速度はC/N比(炭素Cとチッ素Nの比率)すなわち炭素率の高低で評価されます。
メモ:炭素の含有量は主にセルロース(繊維質)、チッ素はタンパク質に由来するものです。

有機物の分解は微生物に任せているわけですが、微生物自体の体はタンパク質からなるため炭素率は6〜10程度です。微生物は餌となる有機物が入るとせっせと働きだし、増殖を始めます。有機物の炭素率が微生物の炭素率に近いほど餌になりやすく、分解は早くなりますが、逆に炭素の割合が多いと微生物はチッ素を餌としているため、それに見合う量のチッ素が必要となってきます。そのため、そのような有機物が入るとチッ素が不足して作物にチッ素飢餓なる障害が起こる事になります。未熟堆肥でC/N比が高い場合は注意が必要です。一般に堆肥のC/N比は15〜20程度が最適とされていますが、堆肥設計では大体30〜40位で設計されているように思えます。有機物によってはC/N比がメチャメチャ高い物もあり、それらが堆肥化するにはかなり年月を要するよう です。話しが脱線しましたが・・・普通、C/N比を下げる為には人為的に石灰窒素や硫安などのチッ素源を加えたりして調整しているようです。

第1表は、主な有機物の炭素率等の分析事例です。(島根県発行の土壌肥料対策指導指針から引用)


(計算例)
まだ作ったことはありませんが、実際どの程度になるのか?
漠然としているのでちょっと机上計算してみます。
材料は、稲わら100kgで目標とする炭素率は30とします。

添加するチッ素の割合Xは、次式で示されます。

X=C/A−N

X:材料のチッ素添加量
C:材料の炭素量
N:材料のチッ素量
A:目標とする炭素率

表から稲わらはC/N比が57で
炭素:40%、チッ素:0.69%であるから
X=40/30−0.69=0.64%となる。

これは100kgの稲わらに対して0.64kgのチッ素量が必要と言う計算になります。
仮に石灰窒素(チッ素成分21%)を使うとすると、

必要な石灰窒素の量=0.64/0.21=3.04kgとなる。

実際に作業する場合は、一度に行うと脱窒素や流出もあるし、材料の状態変化もあるので様子を見ながら進めた方が良さそうですね。


<堆きゅう肥の肥効率と代替率>

堆きゅう肥の効果と言うのは今まで出てきたように土づくりとしての物理性改良や化学性、生物性などの総合的な地力維持効果があります。また堆きゅう肥にはチッ素、リン酸、カリなどの肥料成分も持っていますので、化学肥料などの代替え肥料として利用する事も可能なようです。(一般的にはワラ、籾殻等の堆肥より家畜ふん堆肥(きゅう肥)の方が肥料的効果があります)。ただ、原料の種類や処理方法などが異なるとその養分量も異なるので注意が必要です。そのため、あらかじめ施用する堆肥の特性を知っておく事も大事なようです。さて、堆きゅう肥などを代替え肥料として用いる場合には次の事柄を考えておく必要があるようなので記述しました。またこれらの実施については施用基準や指針もありますので詳しくは各地方の農作物施肥基準等を参照願います。

1.肥効率について

堆きゅう肥の中には色々な成分があります。また作物には各地方の施肥基準があり、作物の吸収量に基づいて施肥量が算出されています。この施肥量の多くは化学肥料を基に算出されているようです。そのため緩効性である堆きゅう肥を使う場合、施肥量に注意する必要があります。そのため施肥設計をするには堆きゅう肥などの成分含有量に肥効率と言った指標を乗じて計算します。

肥効率(%)=(有効性の成分量/全成分量)*100で示され、
堆肥中の有効成分量(化学肥料相当の量)=堆肥の施用量*成分含有量*肥効率となります。


下表は肥効率の一例を示したものですが、処理方式・副資材・腐熟度・水分量・土壌条件等によって変化しますので、あくまでも参考とします。

表3は、有機物中の養分肥効率の目安を表したものです。(長野県農政部発行の「有機物施用の手引き」より引用)


(計算例)
現物1tの堆肥中の有効成分量は、鶏糞堆肥を例に取ると、堆肥の施用量*成分含有量*肥効率から求められるので

窒素は、
1000*(1.4/100)*(30/100)=4.2kg
リン酸は、
1000*(3.8/100)*(60/100)=22.8kg
カリは、
1000*(2.8/100)*(90/100)=25.2kg

となります。

2.代替率について

代替率とは、必要チッ素施用量の何%を堆きゅう肥中のチッ素で置き換えるかを表す指標です。そのため堆きゅう肥の量の上限を決める要素として代替率が定められています。算出のやり方としては、まず最初にチッ素について算出します。その算出結果でリン酸・カリが過剰になったときは施用量を減らし、化学肥料で補います。(堆きゅう肥は基肥を代替する資材として位置づけられており、チッ素代替率は30%を限度、リン酸・カリ・石灰・苦土の代替率の上限はチッ素に比べて影響が少ないので100%までにしているようです。チッ素の代替率が低いのは、堆きゅう肥の量や肥効特性が温度により左右されて不安定になり易い事や、施肥基準や指針で方向づけがなされているように見えますので確認が必要です。またC/N比の高い材料はチッ素飢餓になる可能性がありますので代替率に注意が必要です。)

家畜ふん堆肥施用量(kg/10a)
=必要チッ素施用量(kg/10a)*〔代替率(%)/100〕*〔100/堆肥のチッ素含有量(%)〕*〔100/チッ素肥効率(%)〕

式中:
必要チッ素施用量:化学肥料だけで農作物を栽培した場合のチッ素施用量
代替率:必要チッ素施用量の何%を堆きゅう肥中のチッ素で置き換えるかの指標
チッ素肥効率:化学肥料チッ素の肥効を100とした場合の、堆きゅう肥中のチッ素の肥料的効果の指標


式だけでは良く分からないので以下にどのようになるのか?計算例を上げてみます。
(千葉県発行の「千葉県家畜ふん尿処理利用の手引き」を参考に計算しています)

(計算例)
作物の化学肥料基肥施用量(kg/10a)が
チッ素:15kg
リン酸:20kg
カリ:15kgとします。

また、牛ふん堆肥の成分含有量及び肥効率が
チッ素:1.2%、肥効率:30%
リン酸:1.3%、肥効率:80%
カリ:1.6%、肥効率:90%
であったとします。
肥料分を考慮せずに
2000(kg/10a)の牛ふん堆肥を施したすると、

牛ふん堆肥の有効成分量は
チッ素の有効成分量=2000*(1.2/100)*(30/100)=7.2kg
リン酸の有効成分量=2000*(1.3/100)*(80/100)=20.8kg
カリの有効成分量=2000*(1.6/100)*(90/100)=28.8kg
となります。

結果的として、この作物の基肥にはトータルとして
チッ素として15+7.2=22.2kg
リン酸として20+20.8=40.8kg
カリとして15+28.8=43.8kg
なる成分量が入ったことになり、基肥施用量を上回る事になる。

(代替率での設計例)
1)チッ素成分を考慮した設計
上式より牛ふん堆肥施用量(kg/10a)は、代替率を30%とすると
15(kg/10a)*〔30(%)/100〕*〔100/1.2(%)〕*〔100/30(%)〕=1250kgとなる。

左記と同様に有効成分量の計算を行うと、
チッ素の有効成分量=1250*(1.2/100)*(30/100)=4.5kg
リン酸の有効成分量=13kg
カリの有効成分量=18kgとなり、
カリ15kgに対して、120%となってしまう。

2)カリ成分を考慮した設計
上式のチッ素をカリに置き換え、カリを化学肥料にするので代替率を100%とします。
そうすると、牛ふん堆肥施用量(kg/10a)は、
15(kg/10a)*〔100(%)/100〕*〔100/1.6(%)〕*〔100/90(%)〕=1041.666=1042kgとなる。

同様な計算を行うと、
チッ素の有効成分量=1042*(1.2/100)*(30/100)=3.75kg
リン酸の有効成分量=10.83kg
カリの有効成分量=15kgとなり、
牛ふん堆肥を使っても基肥施用量を上回らなくなる。ただし、チッ素(11.25kg)やリン酸(9.17kg)の不足分は化学肥料で補う必要が出てきます。


*これらは指針や基準・基準案、各種取締り法等がありますので実施・施用にあたってはそれらを一読される事をお勧め致します。

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