箱の中の星






     
アキラがマンションに帰宅するとそれを待っていたように電話が鳴った。
相手は和谷だった。


「塔矢 進藤に会えたか?」

「すまない。思っていた所にはいなかった。」

「お前のせいじゃねえよ。あいつが悪いんだ。」

そういいながらも和谷が落胆したのがわかって僕は唇を噛む。

「和谷くん もしどんな些細な事でも何かわかったら僕に教えてくれないか。」

「ああ。それは塔矢もな。俺も伊角さんも
楊海さんもすげえ心配してる。」

「楊海さん?」

「進藤が引退したって聞いて伊角さん所に電話があったんだ。
楊海さんだけじゃない。海外の棋士たちもだ。事情を説明して欲しいって
棋院に問い合わせが殺到してる。あいつ一体何考えてんだか。」

受話器を握り閉める手に力が入る。

「わかった。僕も何かわかれば必ず連絡しよう。」





そうはいったもののアキラに思い当たる所はなくそれから何の
情報も得られず2週間ほどが過ぎた。






対局がすんだあと棋院の入り口で和谷が待っていた。
アキラの対局がすむのを待っていたのだ。

「塔矢 お前どんな些細な事でもいいって言ったよな。」

進藤の事だと飲み込み僕はその先を即す。

「何かわかったのか!!」

「いや 何かって言われると困るんだけど。
俺この間 進藤の家いったんだよな。
もちろん進藤はいなかったんだけど。なんか違和感みてえなの感じて・・」

「違和感を進藤の自宅に?」

「家っつうかおばさんの態度つうか。なんだかそわそわしてるって
いうのか。そりゃ急に息子が出て行ってしかもこれだけ世間
騒がせたんだからおばさんの様子がおかしいのもわかる気も
するんだけどな。ごめん。こんなことだけで。」

謝る和谷に僕は「いいや」と返す。

ただ何も得られずじっとしているよりはずっとましだと思う。
それがただの和谷の気のせいであったとしても。

「今から進藤の家に行ってみるよ。」





インターホンを鳴らすとすぐに進藤のお母さんが対応してくれた。

「確か 塔矢 アキラくん?だったかしら。」

僕は進藤の両親と会うのは初めてだったが僕を彼女が知って
いた事に少しほっとした。

「すみません。突然お邪魔して。」

「いえ いいのよ。この間は和谷くんや伊角くん
が来てくれてね。ごめんなさいね。あの子ったら皆さんにご迷惑
をかけて。」

彼女に勧められるまま家に上がった。
家の中には進藤の気配はかんじられなかった。


お茶を受け取りながらアキラは尋ねた。

「ヒカルくんからは全く連絡がないんですか。」

「ええ しばらく家を空けると行って出て行ったきり連絡は
なくて。」

「そうですか。」

「ごめんんさいね。塔矢くん。」


申し訳なさそうに謝る彼女に和谷が言ったような違和感を
僕は感じなかった。

「いえ、ですがもしヒカルくんから何か連絡がありましたら
僕に連絡をいただけないでしょうか。」




アキラは名刺を置いて家を後にした。



やはり和谷くんの気のせいだったのかもしれない。
ふとそう思い立ち止まって進藤の家を振り返った時僕は
あることに気がついた。



ベランダに干された洗濯物の中に進藤のスェットが
なびいている事に・・。




     
      


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箱の中の星4