箱の中の星






     
それから6日後・・・

進藤の家に2度目の訪問をするため最寄の駅を降りた時、アキラは
反対ホームに偶然ヒカルの母を見かけた。

手には大きな紙袋をさげその表情は固くどこか釈然としないものを
感じた。

アキラは無意識近く咄嗟に反対ホームに回っていた。
そうして距離を置いて彼女と同じ電車に乗りこんでいた。



3度の乗り換えで、すでに都内は離れ1時間が過ぎやがて街の喧騒とは
無縁の駅で彼女は降りた。




そこから歩いて5分程・・・
彼女は大きな大学病院の中へと入っていった。





まさか・・・
アキラは震えていた。
ここに進藤がいるとは考えたくなかった。

だが自然と悪い方に思考は流れ出す。



ここにいると決まったわけじゃない。それにもしここに進藤がいた
として、病気のことなどまだわからないではないか・・。

アキラは自分を勇気付けると病院ロビーに足を踏み入れた。   


躊躇したせいで彼女を見失ってしまっていた。

戸惑いながら受付の女性にアキラは尋ねた。


「すみません。あの友人の病室がわからないのですが
ここで伺う事はできるでしょうか。」

心臓がトクンと音をたてた。ただの思い違いであって欲しいと。

「ご友人のお名前は」

「進藤 ヒカルです。」

進藤 ヒカル・・受付嬢が名をPCに入力する。


「南棟 302号室ですね。個室です。」

「病名は病状はわかりますか!!」

気づかぬうちにアキラは身を乗り出していた。

「申し訳ありません。個人的なことはここでは・・・」





その後アキラは受付嬢とのやり取りを覚えていない。


気がつけば病院とキャンパスとをつなぐ緑地の中にいた。
ベンチに腰をかけ時折通り過ぎる学生たちを眺めた。

そこを行きかう学生たちはアキラやヒカルと同じぐらいの年齢だろう。

陽気に冗談を言い合う学生たちはどこか自分とは遠かった。

アキラは悪い方に物事を考えそうになった自分を叱咤した。

まだ僕は何も知ってはいない。
彼のことも彼の病気のことも。

じりじりと苛立つ時間。だが今病室にいけばおそらく進藤のお母さん
がいる。


アキラはただ時間が過ぎるのを待った。

そうやって2時間が過ぎてアキラはようやく立ち上がった。






南棟302号室の前。

『進藤 ヒカル』
と書かれた札があった。

この扉の向こうにアキラが焦がれたヒカルがいる。

先程からアキラの心臓は大きな音を立てていた。





部屋をノックしようとしたらいきなり内側から扉が開いた。

そこから出てきた人物はアキラの予想だにしなかった
人だった。



     
      


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