そこに現れたのは楊海公でした。
「話は彼らから聞いたよ。実はここ一月で
私の周りにもいろいろな事件があってね・・。」
楊海の話では館の端に火が投げ込まれ、
強盗が館に押し入ったという事でした。
他にも国務中にいきなり襲われそうになったと・・・
話を聞くうちにつれアキラの表情は険しくなりました。
「それってひょっとすると・・・?」
ヒカルの問いに楊海は頷きました。
「君たちが察してるとおりだろう。賊の狙いはオレの持ってるゴ石。間違いないと思ってる。
ところがここ数日そういった輩が現れない。
しかもここに君たちが目指してるのを知ってて
むざむざ今まで見過ごすはずがない。」
「確かにおっしゃるとおりですね。」
「ああ。おそらくは君たちがゴ石を手に入れた所を
狙うって寸法だろう。」
その場にいた皆が険しい顔をしました。
来た時以上に帰りは厳しい旅になるのです。
アキラは重苦しい空気に更に重い事実を話さなけらばなりませんでした。
「実はここに来る途中で・・・」
アキラは鋒山の祠に監禁されていた囚人の話をしました。
一番にあかりの表情が変りました。
「アキラ様、ひょっとしてその囚人というのは?」
アキラは首を振りました。
「わからない。仮面をつけておられたから。でも・・・」
あの声は確かにあの方のものだったとアキラは確信を
持って言いました。
「つまり今緋国にいる王は替え玉ってことか。」
「組織ぐるみで何かが動いてると考えた方がいいって事だな。」
伊角と和谷の言葉に皆が頷き楊海が言いました。
「ここは慎重にいこう。俺もやれる事は協力する。彼女が心配だし本当は緋国までいきたいぐらいだが、俺が行くとますます彼女に迷惑がかっちまずいからな・・・。」
そういうと楊海はおもむろに碁笥と言われる丸い木の箱を2対取り出しました。
そこには見たこともない美しい緑の石とうす白く輝く石が
山のように連なっていました。
「楊海さん、これは・・?」
「ゴ石だよ。」
その数に皆が驚きました。
「ゴ石って。だってゴ石は二つで一対だって。」
「そうなんだ。この中に本物は一つ。しかも対のもう一つはここにはないんだ。」
ヒカルはポケットから対の片割れのを取り出しました。
「楊海さん、もう一つはこれじゃねえ?」
一同は目を丸くしました。
「実はこの石はオチくんが持っていたんです。」
アキラは昨日のことをかい摘んで話しました。
「そうか。もうオチくんに会ったのか。
実はゴ石が狙われていると知って一つをオチくんに預けたんだ。
彼はああ見えて信頼の置ける人間だ。
しかも 彼は一国を動かすほどの富と人脈があるから
座間も手がだせない。だから君たちが訪ねてきたらゴ石を渡してほしいと預けたんだ。」
そういうことだったのかとヒカルとアキラは合点がいきました
「それでこのゴ石の山はどうなされるんです?」
アキラの質問によくぞ聞いてくれたとばかりに楊海はいいました。
「ようするにダミーだ。どれが本物か見分けられないくらいに精巧につくらせたからな。」
「ってことはこれを俺らみんなが持ちあわせるって事?」
和谷は石を一つつまむと透かすように持ち上げました。
「そういうことだ。実際にゴ石を見たものは数少ない。しかも
見分け方などわかるものはないに等しいからな。」
仮に本物が間に合わなくてもその場をしのげればいいだろう。という楊海の言い分にサイだけが表情を落としました。
なぜなら本物と偽者を見分けるのは王ならばわけはないのです。
しかし・・今緋国にいる王が偽者ならばあるいわ・・・?
サイはこの危惧を誰にもいいませんでした。
とにかくやってみるしかないのです。
楊海はたくさんあるご石の中から一つを摘むとアキラに手渡しました。
そしてその場にいたものにも一対づつ石を配りました。
一際緊張した面持ちの伊角と和谷に言いました。
彼らはもともとこのこととは関係のない者だったと楊海はあかりから聞いていました。
「伊角くん、和谷くん。君たちはストリートパフォーマーだっていってたね。
大きな舞台で自分たちの演技をしてみたいとは思わないのか?」
突然の楊海の言葉に二人は顔を見合わせました。
「そりゃ確かに出来ればいいけど、オレたちは誰にも気兼ねしたくねえんだ。」
和谷の言い分に楊海は笑っていいました。
「オレにも気兼ねするか?もし良かったらオレが二人のパトロンになってやろう。」
伊角は苦笑しました。
パトロンというのはスポンサーの事でしたが
別の意味の方で取られる事が多いのです。
「いや、あの楊海公申し出はありがたいのですが・・。」
伊角が返事に四苦八苦すると楊海は笑いました。
「何も伊角くんや和谷くんを取って食いやしないよ。」
伊角と和谷が考えた事をずばりと言い当てられ二人は苦笑
するしかありませんでした。
「まあこの任務が完了したら、是非考えて欲しい。」
ウインクつきで楊海にいわれると余計伊角と和谷は身の危険を感じたのでした。
一向はまた別のルートで緋国に戻ることになりましたが目指す目標はただ一つ。
旅はようやく折り返し地点に来た所なのです。
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