「海ルートは今回はT国の船で送ってくれるというから安心だな。」 「ああ。でも、問題は、港についてからだよ。 僕たちの方は、いつも油断はできないね。」
T国の国境まで、問題がなかったのは、分からないように、警備が敷かれていたからかも知れませんでした。
ふたりは、前と反対のルートを辿りながら、オチのいる村までやってきました。 再び、館を訪ねてみましたが、オチは、もういませんでした。 年に一度のステージの祭りに出かけたのでした。
「あいつ、早速、出かけたな。 あんなに熱心に芝居をやってるんだものな。」 「ヒカルは熱心にやらないの? 僕、あの時の芝居はすごく感心したよ。 あの仮面の囚人の心が見事に映し出されてさ。 あれを見て、ますます君と是非に芝居をして見たいと思ったよ。」
ヒカルはそれを聞いて少し嬉しそうに笑顔を見せました。
『ヒカル。 無事、ステージの街に戻れたら、私にアイデアがあるのです。 あの囚人が国王であるかどうかは、ゴ石で確かめられます。 もし助け出したとしても、その後どうするのか、それも今から考えておかなくては、日がありませんから。 祭りの日まで。』
サイのその声にヒカルは頷きました。
『どうやるの?』
『芝居の脚本を考えてあります。 私の妖精の力とゴ石の力をあわせれば、一気に文字に表わすことができます。 それを皆で演じるのです。 街を混乱に陥れることなく、悪事を企てたものだけを懲らしめることができる方法です。 芝居を見れば、分かる者には分かる、そういうものです。』
ヒカルがその話をしようとした時、アキラが言いました。
「僕は緒方さんが危ない気がするんだ。 あの人は一匹狼だけれど、今は限りなく座間派に近い。 何とか僕たちの方へ引き寄せられればいいんだけど。」
ヒカルは、その時、ぴんと来るものがありました。 サイの芝居に緒方っていう人を入れたい…。 サイの芝居の中身は分からないけれど、キャスティングが必要だろ?
「緒方って人、芝居はやらないのか?」 「いや。 とんでも。 上手いんだよ。 現代の名優。 10傑の一人にはいると思うよ、きっと。」 「10傑って誰だ?」 「ああ。そうだな。 僕の父も。 楊海公も。 残念だけど、座間とかも入るんだ。」
ヒカルは国王や、あの楊海公までもが芝居をやるということに感心しました。
話をしながら帰路は、なぜか、邪魔が入らず、思いのほか早く例の洞窟の辺まで戻れました。
「不思議だな。 邪魔が入らなかった。」
「多分…。」
「多分?」
ためらいがちに、アキラは言いました。 「多分、海路に目を集中させているんだ。」
「誰が?」 ヒカルは、あかりたちの危険を思って、険しい声で言いました。
「一人はT国公認の船を用立ててくれた楊海公さ。 多分、あの人は考え深いから、港に着いた後のことも考えてくれているとは思う。 ダミーを使うとか、あるいは偽のゴ石を奪い取らせるとか。 だって、敵の目的は、あかりさんたちではなく、ゴ石だからね。」
「他にもいるのか?俺たちを無事にここまで導いているのが。」
「おそらく、緒方さんだ。」
「じゃあ。味方に?」
「いや。僕たちが仮面の囚人を助けたその後、緒方さんは自分の望みを果たすだろう。 僕たちに危険なことをさせて、そのあと、結果を受け取ろうと思ってる気がする。」
そう話しながら、洞窟の前に着きました。
二人は顔を見合わせ、頷きあい、そっと、洞窟の中に足を進めました。
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