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ツインズ



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オレはふらふらの足を引きずるようにそれでもどうにか学園を飛び出すと
寮に向かってとにかく走った。
ひょっとすると周りのやつには走ると言うより歩いてるって感じだったかも
しんねえけど。オレにはそれがこの時の精一杯だったんだ。

「くそ〜夜のやつ、夜のやつ・・・」

口について出てくるのは夜への恨みごとばっかりだった。



あの後オレは散々夜にもてあそばれてようやく解放された時には
足腰に力が入らないほど脱力してた。
けど少しでも夜と同じ空間にいるのがイヤでオレは自分から
化学室を出てきたんだ。
オレが出て行ことする時、夜がオレに手を貸そうとしたけどオレはそれを
拒んだ。
夜もそんなオレの態度を見越してたみてえでそれ以上何も言わな
かった。
これから寮の部屋に戻ったところで夜と同じ部屋だし逃れるわけには
いかねえんだけど。

今日は少なくとも祭の部屋にいこうかな。

オレは盛大にため息をつくと重大な事に気づいた。
そういやオレ夜に藤守の話ちゃんとしてねえ。
話を切り出そうとしたら夜にうやむやにされたんだ。

『藤守とらんもあんなことをしてるって・・。』

あの時はつい快楽に流されたこともあってちゃんと考えれなかったけど、
ホントのことなのか?今改めて考えてもオレにはわからなかった。
けど夜がそんなウソをオレについたってなんの得にもなんねえしな。

「あ〜くそ〜。」

考えても答えの出ない思考にオレはイライラを募らせた。

とにかく今は夜のいないところへ、煩わしい事から逃げ出してえ〜
そんなかんじだった。






オレが部屋に戻るとオレのベットの上に藤守が腰かけてた。

「藤守!!」

部屋にいたのが夜じゃなかっただけマシだとは思ったけど
今は藤守とも顔を合わせたくなくてオレは目線を彷徨わせた。

「羽柴・・?」

藤守が不思議そうにオレを見てたけど俺は藤守に構ってやれる
余裕なんてなかった。

「なんで藤守がここにいるんだよ。」

「な、今朝タオルをここに忘れて取りにきただけだよ。悪かったね。」

ついオレの売り言葉に買い言葉で藤守の言葉にも棘があった。
藤守は部屋を出て行こうとして一端扉の前で躊躇するように立ち止まった。

「羽柴・・・あ・・の件のことだけね。」

「えっなんだよ。あの件って」

「もういい!!」


藤守はそういうと大げさなほどにバタンと扉を閉めていった。
ようやく顔を上げたオレが見たのは小刻みに震える藤守の背中だった。











「空、僕の部屋に来たのは何かわけがあるんだろう?
ひょっとして部屋の件で夜と喧嘩してきたとか?」

「まあそんなとこ。」

本当のことなんてさすがに祭にもいえるわけがなくオレは曖昧に相槌を
打った。

オレはあのあと結局祭に頼んで寮長室にもなってる祭の部屋に今晩は
泊めてもらうことにした。
夜からいつまでも逃げてるわけにはいかねえけど、とにかく今夜は顔を
合わすのも嫌だったし。

祭はオレが部屋に来た時何もきかなかったけど、夕飯も終わって
部屋に戻ると(たぶんオレが落ち着くのを、待ってくれてたんだろう。)
例の部屋の一件のことを持ち出した。

「実はね。空が来る前にらんくんがここに来たんだ。」

「らんが・・?」

「らんくんも夜と同室にして欲しいって僕に頼みにきたんだ。」

「そうなのか?」

それはある程度予想していたことだった。
らんは夜にべた惚れで、夜の言う事ならなんだって聞いちまう
ところがあるからな。

「うん。でね僕が心配なのはナオくんの事なんだ。」

「藤守のこと?」

「うん。ナオくんにとってらんくんは一番の理解者だと思うんだ。
らんくんにまでそんな事を言われたらナオくん落ち込むんじゃないかって。」

オレはぼんやりとそうかも知れねえなと思った。
藤守とらんはすげえ仲がいいし。それに夜の言うとおりだとすると・・。
オレがまたさっきの事を思い出しそうになった時、突然何の前触れも
なく息を切らしたらんが部屋に飛び込んできた。


「祭!!ナオ来てない!?」

「らんくんどうしたの?」

「ナオがいないんだ。」

「ええ?いないっていつごろから。」

「わからないの。学校から帰ってきたあとすぐ部屋を出て
行っちゃって。
僕、てっきり空の部屋に行ってるとばかり思ってたんだ。
食堂のおばさんがナオ夕食いらないって言ってたけど大丈夫かって
部屋に来てくれてそれで・・。」

らんは今にも泣き出しそうに取り乱してた。

「七海先生や広夢くんの部屋には?」

「ダメ、いないの。」

祭は顔を歪め唇を噛みしめた。

「ナオくんどうして僕のところに相談に来てくれなかったなんだ。」

搾り出すようにつぶやいた祭の言葉にオレはズキリと胸が痛んだ。

ひょっとして藤守のやつオレがここにいる事知ってたんじゃねえかって
思ったんだ。
だからこれなかったんじゃねえかって。
それだけじゃねえ。
藤守がオレの部屋に来たのは・・・
あの時何か言いかけたのは・・・。
オレに相談してえことがあったんじゃねえのかって今更
気づいたんだ。
オレのバカ、何やってんだよ!!


「空、らんくん、とにかく手分けしてナオくんを探そう。」

「わかった。」

「僕は寮の中を探してみるよ。誰かの部屋にいるかもしれないし。」

「じゃあ僕はもう1度ナオが行きそうなところを当たってみる。」

「らんくん頼むよ。」

オレはなぜだかこの時学園が妙に気にかかった。
ただの思い過ごしかもしれねえけど。

「オレは学園に行ってみる。」

「学園?」

祭は予想だにしてなかったみてえだった。確かに夜中の学園に
藤守が一人でいくなんてあまり考えられねえ。
けどこう胸騒ぎがするんだ。

「寮にいなかったら学園って事もあるだろ?」

「わかった。空、もし寮でみつからなかったら僕らも学園に
行くから。」


とにかくオレは一時もじっとして入られなくて学園までの道を
急いだ。




     
                                     10話へ続く〜