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ツインズ



10





     
らんと祭が寮から出たところで夜が腕を組んで立っていた。

「夜もナオを探してくれるの?」

「いいや、オレは探さねえぜ。」

夜はそういうとふっとため息を漏らした。
祭はつかつかと夜の前に出ると夜を睨みつけた。

「僕は夜を見損なったよ。らんくんと同室になるために
こんなことまでするなんて。」

「待ってよ。祭、夜はそんなつもりじゃなかったんだよ。
そうでしょ?よるぅ?」

らんは表情をこわばらせ瞳を潤ませていた。
夜はそんならんと目線を合わせないように視線を逸らした。

「ナオを探しにいくのはやめとけ。」

「夜、どうしてそんなこというの。」

らんは今にも泣き出しそうに夜に縋ろうとしたが祭はらんの腕を
引いた。

「らんくん夜はほっといて僕らだけで直くんを探しに行こう。」

「でも・・。」

祭がしぶるらんの手を強引に引っ張ると夜が言った。

「祭、お前はうすうす気づいてるんだろ。あいつらの本当の気持ちをよ。」

歩き始めた祭が足を止めた。

「何のこと?」

「あいつらがホントは好きあってるってことだ。」

「それは・・。」

途端に祭の語気が弱まった。夜はふっと長いため息を漏らした。

「いつまでもあいつらがあの状態ってのはこっちとしても困るんだよ。
頑固な直と空じゃあ一生かかってもお互いの気持ちなんて
気づかねえかもしれねえしな。」

飲み込みの早い祭はそれで大抵のことは察したようだった。

「それで今回の部屋の件を思い立ったってこと?」

「まあそういうこった。それにオレもらんと一緒のほうがいいしな。」

不貞腐れたように夜はそう言ったがそれが照れ隠しだって事は
らんにもわかった。

「よるぅ、僕も夜と一緒がいいよ。」

祭はコホンと咳払いを一つした。
全くこの二人はどこでも人目もはばかろうともしないのだ。

「だからって性急すぎるとナオくんだって気持ちの整理がつかないだろう。」

「まあそうかもな。けどここからはオレたちの出る幕じゃねえだろ?
あいつらがちゃんと向きあって同部屋がいやだっつうんならオレも
諦めるさ。
それに・・オレの読みだと間違いなく直は学園だろうぜ。
空がそこに向かったつうんなら大丈夫だ。
あいつらの事はあいつらでケリつけさせなきゃな。」

祭はしばらく夜の言ったことを考えていたがやがて小さくため息をつくと
くるりと向きを変えた。

「わかったよ。もし何かあったら空が僕のところに電話をくれるだろう
それまで待つよ。」

そう言って立ち去ろうとした祭をらんは呼び止めた。

「祭、わかってくれてありがとね。それとナオの親友になってくれてありがとう。
僕・・・・。」



らんが口ごもると祭は振り返ることなく小さく手をあげた。
らんにはそれが祭の優しさだと思った。






学園に向かった空は校門を見上げた。
普段は感じねえのに今日に限ってこの門がすげえ高いような気がした。

「待ってろよ。藤守、今そっちに行ってやるからな。」

自分をふるい立たせるようにそういうと空は思いっきりジャンプしていた。

迷うことなく空が向かったのは図書室だった。
図書室は他の校舎と違って一つだけ別の棟になってる。
見晴らしのいい高台に作られたこの校舎は図書室だけでなく
学生の憩いの場所としても利用されていた。

静かで落ち着けるこの場所が藤守は好きだったからたぶんここじゃねえ
かってオレは思ったんだ。



「やっぱ鍵がかかってるよな。」

図書室のドアは勿論施錠されていて、オレは
カーテンの閉まった図書室の窓を一つ一つ確かるように叩いた。

内側からの反応は見られない。藤守いねえのか?

オレは今度は窓に上るとようやく届いた高窓に手をかけた。
しめた!!鍵のかかっていない窓がある。
オレは何とかそれによじ登ると図書室に飛び降りた。

オレが着地した瞬間、「ドン!!」という派手な音が図書室に響いた。
机の上に落ちてすっころんだんだ。

「痛てててっ。」

オレはすっころんだまま周りを見回したがシーンと静まり返ってる。
やっぱり誰もいねえのか?そう思った時そう遠くない場所から
人の気配がした。

「誰かいるの?」

震えるその声は紛れもなく藤守の声だった。

「藤守いるのか。」

「くぅちゃんなの?」

くぅちゃんと呼ばれてオレは自分の中にあるいろんな感情が
溢れ出すのを感じた。
オレのことをくぅちゃんと呼ぶのは藤守だけだった。けど最近は
そう呼ばれることもなくなってた。
いつ以来だろう。藤守にそう呼ばれるのは。

オレは声のする方を辿りながら持ってきていた懐中電灯を照らした。
光の行き着いた先に丸まるように毛布に包まってる藤守がいた。

「藤守!!」」

「なんで、ホントにくぅちゃん?」

オレはこの時藤守がオレの事を待ってくれてたんじゃねえかって
思った。
だって藤守のオレを呼ぶ声は不安気で表情は今にも泣き出しそうで・・。

オレは胸が苦しいほど痛くなって
懐中電灯も投げ出して毛布ごと藤守を抱きしめた。

     
                                   
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