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      【first love 】から【絆】

        〜そして未来へ02



     
アキラは資料室によく顔を出していた。
このご時勢(このお話はヒカゴの世界より100年後)なので、ネットや
色々な端末機器で囲碁のデータなどすぐに探し当てることが出来た。
なのにアキラはわざわざ資料室に出向いて棋譜を探すというのだ。

ヒカルが初めて棋院の資料室に訪れたのもアキラと一緒の時だった。

国宝級の古めかしい書物を開けると紙の匂いがした。
直接かかれた棋譜の後を辿るとまるでその時代へとタイム
スリップしたようなそんな気持ちにさえなった。

いつか自分とアキラの打った碁もここに保管される日がくるだろうか?
そんな会話をしていた時アキラが一つの棋譜を見つけた。
ヒカルの曾祖父とアキラの曾祖父が打ったという棋譜だった。

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資料室には電気がついていた。
軽く息を切らしたヒカルが部屋を開けると奥に人の気配がした。
あまり人の来ることもない資料室だ。
ひょっとするとアキラかもしれない。

期待なのか、不安なのかヒカルの心臓の音がトクンと大きくなった。

「失礼します。」

先に声をかけて資料室に踏み入れると長身の影が動いた。
ヒカルは心臓が止まりそうなほどドキっとした。

「お前は・・・?」

長身の男はヒカルが期待したアキラではなく、塔矢門下の緒方十段
だった。
緒方はただそこに立っているだけだというのにヒカルは威圧感を
感じた。

ヒカルは小さく会釈をした。本当はそのまま立ち去りたい気分だったが、
仕方なく資料をさがすふりをしていると背後から緒方が話しかけてきた。

「進藤ヒカル?だったな。」

ヒカルは振り返らず「はい」と答える。

「父親には勝ったのか?」

ヒカルはそれには返事をしなかった。
おそらく緒方は対局の結果をしっていてわざと聞いているの
だろうと思ったからだ。


「やはり父親は越せないか?」

ヒカルは資料から顔を上げると今度はしっかりと緒方を見据えた。

「オレは親父を追い越します。必ず、絶対に、
本因坊のタイトルもこのオレが親父から奪います。」

緒方は今期本因坊戦の挑戦者だった。今まで親父が本因坊になってから
3度そのタイトルを失ったことがあったが、その1度はヒカルの目の前の相手
だった。
そして緒方は次のヒカルの対局相手でもある。

緒方は口元だけ綻ばせて笑った。

「そうか、お前とは直接対局があったな。楽しみにしてる。」

緒方はそういうと自分の持っていた蔵書の一つをヒカルに差し出した。
それはヒカルが探していたもので、内心ヒカルは焦ったがそれは顔には
出さなかった。

緒方はもう用もないとばかりに資料室から出ようとして一端足を止めた。


「そうだ。お前に忠告があった。悪いがもうアキラくんにちょっかいを出すのは
やめてもらいたいんだがな。」

「ちょっかいって別にオレあいつとは何も・・。」

何もないとは流石にヒカルは言い切れなかった。
それを見越したように緒方は笑った。

「喧嘩中なんだろ?だったら別れるにはいい機会じゃないか。
お前らが一緒にいるのは世間体だけじゃなく不都合だ。
お前にもわかるだろう?
そこの2人のようにな。」

緒方はヒカルとアキラの関係を知っている?!
ヒカルはぞっと背筋が寒くなったような気がした。

「じゃあ、またな。」

緒方が去ったあと、さほど重くもないはずの蔵書がヒカルに重くのしかかって
いた。



     

編集の都合で2話は短め。緒方さん相変わらず絡んできます。
でもあんまりこのお話では活躍がなくて、設定不足でした(苦)




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