ラバーズ







     
その日塔矢との下校は胸がずっとドキドキ
したままだった。
まるで空に浮いてるっていうのか俺完全に
浮きだしだってて、塔矢と何を話したのかさえ覚えていない。

一緒に電車に乗りこんだ時それ程混んではなかったけれど
塔矢は俺をかばうように扉に立ってくれてそれがすげえ照れ
くさかった。

もうすぐ駅に着こうと言うとき塔矢が俺に言った。



「進藤今週の金曜日うちへ来ないか?」

「いいの?でもお前塾あるんじゃ。」

「金曜日だけはないんだ。」

「そっか。じゃあ俺行く。」


塔矢が電車を降りると胸がキュウと痛くなった。

明日また会えるし明後日は塔矢の家に行くんだと俺は自分自身に
言い聞かせることでやりすごした。






家に帰ってから俺は塔矢との事をビデオテープを巻き戻すように
思いかえしていた。
塔矢と触れた唇 抱きしめられた感触。
思い出すだけで全身がしびれたような甘い余韻を残していた。

ずっと塔矢とそうしていてもいいと思うほどに・・。


だが俺は手放しで喜んでいられる状況じゃない事もわかっていた。
できるだけ考えないように 気づかないようにしていた事。

それは俺の机に入っているノートの存在だ。



塔矢と俺が急接近したのはたった二日前で。
それ以前は全く普通のクラスメートで、いや、
どちらかといえばほとんど話すことも
ないクラスでも遠い存在だった。


「やっぱこのノートのせい?」


一日目は半ばやけで書いた塔矢への想い・・
二日目はひょっとしたらという気持ちと遊び心があった。


そんなことあるはずないだろ!
自身にそう言い聞かせても否定できない。


それじゃあもう1度試してみようか・・・。

俺の胸がドクンとなった。

新しい真っ白なページ。


もしそうだったら・・・
俺の願いは叶うかもしれねえけどでも塔矢はどうなる。
このまま書き続けたって本当の塔矢と付き合ってるっ
なんていえない・・・・

そう思うと先程まで高揚していた気持ちが消え入りそうになる。


塔矢 俺・・・






「想いが成就したのにずいぶん悩んでいるのですねえ。」


突然掛けられた声に驚き俺は振り返った。
不思議な長い帽子、長くたれた薄紫の衣の人物が俺の部屋の
窓辺に腰掛けていた。



「ど どろぼう!?」

どろぼう!と叫んだ途端相手のからだは
ふわりと浮いた。

「うわああ!!」

俺が驚いて尻餅をつくと相手は俺の眼前に舞い降りた。

驚きのあまり声がでない。


その時部屋の扉が開いた。

「ヒカルどうしたの大きな声をだして?」

顔を覗かせたのは母さんで俺は搾り出すように声をだした。

「ど どろぼう・・」

「どろぼうですって!!・・・どこにヒカル」



言われて俺は気がついた。ひょっとしてこの奇妙な俺の目の前
にいる相手が母さんには見えてないんじゃないかって。

案の定その相手は笑いながら俺に言った。

『私の姿も声もあなたにしか見えませんし 聞こえませんよ。』

ウソだろ!!

『ウソじゃありませんよ。』

黙りこくった俺に母さんが慌てたように聞いてくる。


「ヒカル ヒカルそれでどろぼうは・・・」


『どろぼうならヒカルの大声で窓から逃げ出しましたよ。』

俺はその奇妙な相手の助言で母さんに窓の方向を指差した。


「あそこから逃げた!!」っと。


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