--------------------------------------------------------------------------------
GS美神 リターン?

 Report File.0075 「お嬢様危険注意報!! その4」
--------------------------------------------------------------------------------

「ああ、私は何ていうことを…横島ク」

「あ〜、死ぬかと思った」

 先程まで焼け焦げた死体となっていた横島が、がばっと起き上がった。その瞬間、焼け焦げた所など何処にもなく、それどころかボロボロになっていたはずの服さえも元に戻っていた。

「よかった!(や、やばかった。横島クンが死んでいたら色んな経費がかかっていたから)」

 横島の心配というよりも金の心配をしていた事をおくびにも出さずに安心したと横島に笑顔を向けた。

「み、美神さん。俺のことを心配…そ、それは愛の告白ですねーーっ!!」

 魅力的な笑顔に魅せられた横島は脊髄反射の如く飛びかかった。だが、そこはお約束どおり、やめんか!と空中で撃墜された。撃墜にキヌが加わっていたのは秘密だ。

「みんな〜、だめよ。気に入ったからってあんなことしちゃ〜」

 めっ!と自分の周りに集まった式神達を叱っていた。本人は真剣なのだろうが全然、そうは見えないのだが。


     *

「さて、気分を入れ替えたところで仕事に戻るわよ」

「へい」「はーい」”はい”

「(なんか、保母さんか何かになった気分ね)いい? 今回、問題になっているマンションは採光を考えて上に行くほど面積が狭くなっているわ。それに加えてユニークなデザインにしようと複雑な多層構造にしたらしいの。そうですよね?」

「はい、美神さんのおっしゃるとおりで」

「で、これを見て」

 マンションの見取り図を広げ、注目すべき場所を指した。

「?」”?”

 横島とキヌは何を意味しているのかわからなかった。流石にGSを名乗るだけに冥子はわかっているのかにっこりと笑っていた。

「このマンションの最上階のこの部分が鬼門となり、霊を呼び込むアンテナみたいになっているの」

「なるほど、ゴキブリホイホイ見たいになっていると」

”美神さんのいうとおり、確かに惹きつけられるものを感じますね”

「だからっていっちゃだめだからね。おキヌちゃんのような娘がいっちゃったら酷い事になるわ」

”は「何!? ひどいこととは、あんな事やこんな事かっ!? ダメじゃっ! おキヌちゃんは俺んだーっ!!」

「うるさい、だまれっ!!」

「ぐはっ!」

 倒れ伏す横島をこのバカがと令子は見下した。原因を作ったのも治めたのも令子なので何ともいい難いものがあるが気にしない。

”横島さん、そんな…いつでもいいですよ”

 先程の横島の言葉にキヌは轟沈している横島のそばでいやんいやんと頬を赤らめ、ぼそっと何気に危ない発言をしていたが呟き声だったためか誰も聞いては居なかった。

「とにかくこのままじゃ、誰が祓ってもまた霊が集まって事を繰り返すことになるわ。どうする?」

「もう! 令子ちゃんの意地悪〜。わかっているくせに〜」

 冥子自体は無邪気に答えるが令子にはその裏で動いている冥子の両親の思惑が見えている為、そうっとため息をついた。

「(まったく…誰がやっても共同作業でなければならないものを用意してくるなんて、さすがその道の名家、六道ね。嫌んなるわ)さて横島クン、この仕事は単独ではできないわ。なぜだと思う?」

 解らなかったら叩き潰すと殺気を込めて横島を見た。

「はっ! 折角祓ったとしても鬼門より霊が引き寄せれれて無駄になるからであります。マム!」

 気の乗らない仕事をしているという意識のもと、普段よりも2割増しで視られた横島は隙を見せれば死ぬとピシッと軍隊口調になった。ある意味、美神令子の教育の賜物というやつかもしれない。

「よろしい。ではどうやればいいのかしら?」

 教師口調で問いかけるのだがこれは令子の作為からであった。何故ならこうすれば横島はパブロフの犬の如く必死になって答えを見出そうとすることが分かりきっていたからだ。

(こ、これは!? …うまくすればご褒美が!? しかし、その前の殺気からすると…下手すれば死! ぬおおおぉ! 考えろ!)

 目覚めろ!俺の小宇宙!とばかりに思考の内圧を高めていく。切羽詰った中、横島はこんな事なら一休さん技能でも身につけておくんだった!と本筋とは違う思考にそれ頭を振った。

「さて、どうかしら? そろそろ時間ね…」

「うぉーーー! そうっす! 役割としては二つ必要っす。まずはこれ以上霊が増えないように結界を張る役」

「それで?」

「あとは閉じ込めた霊を祓い、今回問題となっている起点を何とかする役で最低二人必要であります」

「まあ、いいでしょう大筋はあってるものね。具体案を出していれば満点だったんだけど」

 令子の言葉に緊張しながらしゃべっていた横島はほっと一息ついた。

「その辺は後でみっちりと教えてあげましょう。体で」

ピシッ!

 令子の言葉に横島は自分の体にひびが入った音を聞いた。端から聞いていれば誤解を受けそうな甘い響きを感じ取れるかもしれないが横島は違った。

「い、いやだ〜〜っ! もう、逆さ張り付けとか、電気椅子とか、妖しげな薬品を飲むのは勘弁っすよーーっ!」

「くすっ。そう思うのなら実地での働きで挽回しなさい」

「イエッサー! マム」

「よろしい、まあ、そういうわけで大筋は横島クンの言ったとおり、そのつもりだったんでしょ? 冥子も」

「ん〜、そうなんだけど。でもでも、本当に令子ちゃんは着いて来てくれないの〜?」

 先ほど一気に畳み込んで強引に納得させたのだが、やはり少し間を空けてしまったがために冥子に考えるというか感じさせる間を与えてしまったことで不安がぶり返してしまったらしい。

「そうよ。このマンションを閉鎖するための結界は大規模になるから維持も大変になるわ。まあ、専念できるから他にも結界内の霊達を非活性化するように働きかけたりもするから、随分、除霊も楽になる(はず)。だから、多少頼りなさそうな横島クンと同行しても冥子なら大丈夫(なはず)。いける(はず)わ」

 ついつい、はずなどと推測になってしまうような言葉を令子は何とか飲み込んで言い切った。

「そうかな〜」

「そうよ。それで、未熟な横島クンにGSの…如いては式神使いの何たるかを教え…それは生ぬるいわね、叩き込んであげて」

 なんのフォローもなければ文字通りの意味で横島は知ることになるだろう事を所詮は他人事と無責任に言った。

「わかったわ〜。やってみる」

 もともと孤独なところがあって、今回のような人に教えるといった立場に立つことが少なかった冥子は不安を覚えるが、令子の言葉に励まされやる気になった。

ぞくっ!!

(!? な、なんだ!? この強烈な悪寒は!?)

 横島は未だ冥子の実態を知らないため、目の前で自分の死刑執行書にサインが入れられたこと気づかなかったが身に危険が迫っていることは霊感によって捉えていた。

”やだ…だめですってば…”

 いやな予感に戦慄していた横島のそばでは未だ現実に復帰しないキヌが頬を染めてもじもじしていた。

「さて、私はこれから結界を張る準備をするけど横島クンは何をすればいいか、わかっているわね?」

「道具の選定ですね」

「その通りよ。必要な道具は持ってきた中に一通りそろっているわ。その中から必要なものを選んで装備しなさい。注意すべきことは自分にあった道具を選択することよ。私の下準備に30分程度かかるからその間に選びなさい」

「わかりました」

 横島はこれでへますると大変だと態度を引き締めた。

「おキヌちゃんは私についてきてサポートしてちょうだい。冥子は悪いけど横島クンや私の準備が終わるまで待機しててね」

”はい”「へーい」「は〜い」

 それぞれの返事を聞くと令子は大規模な結界を張る為の道具を持って立ち去った。

「さて、始めますかね」

 横島は令子を見送った後、道具を物色し始めた。次々と並べていく道具を冥子は物珍しそうに眺めた。

「あの、何か?」

 流石に横島も好奇の視線に耐えられなかったのか冥子に話しかけた。もちろん、美人さんとお近づきになれるならばという下心も満載である。

「ん〜、攻撃系の道具がほとんどそろっているのね」

「そうっすね。携帯可能なものはほとんどありますね」

「いつもこんなに持ち歩いているの?」

「そうですね。美神さんはどんな状況でも対応できるようにと…それでも、なんぼなんでも今回はこれは使わんのでは?」

 ぶつぶつと横島は寝袋や鍋といった明らかに野外で活動するのに使われるような道具を脇にどけた。

 通常の霊能者であれば除霊現場へは何度も足を運んで下調べをし、念入りに事を運んでいく。それ故に時間がかかるのだ。そのように慎重にやっても場合によっては命を落とすことになるのがGSという職業なのだ。

 そういう訳で即効でするにしろ、慎重にするにしろ命に危険があるならばと前者での方法を選択したのであった。たとえ同じ危険で危険そのものが跳ね上がるとしても。もちろんこの方法を取れたのは令子に優れた分析能力と並外れた霊力により、瞬時にその場で適切な方法を取捨選択し実行できるだけの実力を持っていたからでもある。

 それだけではなく利益を上げるのに最適でもあった。簡単に説明すると美神令子の方法で道具のコストが100かかり人件費が3掛かるとすると解決するのに103のコストが掛かる。で、通常の方法だと道具のコストが80掛かり、人件費が21掛かる。美神令子の時よりも人件費がかかるのは時間を掛けるからである。場合によっては複数でという事もありえる。というわけで通常の方法で総コストは101。全体で見ればコストはほとんどどっこいどっこいなのだ。もちろん、ケースによって全然比率が変わり、例外も存在するが大体同じようなものだ。

 ではこの二つの方法の違いは何か?というと時間である。令子の方法は限度はあれど仕事の回転率が高いのである。通常であれば一週間の所を1日で済ませれば後の6日間、別の仕事をすればその分、通常の方法よりも利益が出る。

 そして若くしてGSでもトップクラスであると言われる要因がそこにあった。通常、GSの仕事とは個人単位であるのだが大口として法人…特に大手の企業の仕事がある。企業にとり霊障により業務が1日つぶれただけでも損害は莫大なものとなる為、即解決してくれる者を常に求めていたのだ。そこに美神令子が登場したのである。

 企業はこぞって美神令子に依頼し、美神令子も依頼された件を薙ぎ倒すかのように解決していった。その結果、個人の依頼では横のつながりがない(少なくとも狭い)為、評判になりにくいが、企業は違う様々な所と取引する為、横へのつながりは広くあっという間に評判は広まった。そこには美神令子の持ち前の美貌とスタイルそれに華麗な除霊も一役買っていた。

 後は押して知るべし。速攻で確実に依頼をこなし着々と信頼を築いた事で高額依頼のスパイラルを起こし、トップへと駆け上がったのであった。

 そんな師を頂く横島はGS自体にあまり興味がなかったこともあり、令子の除霊スタイルがスタンダードなものだと思い込んでいた。なんといってもGSとして知っているのは令子と唐巣神父、それに同じ見習いのピートである。唐巣神父のスタイルもまた、その弟子にして師ありと言えるように下調べは一通りするものの令子と同じで一気に除霊する。その弟子のピートも同じだ。唐巣神父もGSとしてトップクラスの力を持ち、ピートにいたってはバンパイア・ハーフという人外の力を持ち、さらに人よりも強力な霊能をもっている故にそうなるのだ。

 そんなわけで横島は自分の周りの環境が特異であることに気づきはしなかった。ついでに周りが強力な霊能力者であるので自分の能力が特異であることにも。木の葉を隠すには森の中とはよく言ったものである。ちなみに一般的な霊能者であろう度粉園女学院女学生組は目覚めたばかりだからこんなものなのだろうと流されていた。

 今回の事でも一般の霊能者であれば、令子達師弟の行動には目を剥いたであろう。絶対に考えられないだろう選択肢だからだ。

 GS見習いであるはずの横島を雑霊が殆どであろうが千体以上がたむろする危険な現場に師である自分は行かず弟子だけを行かせる令子と、危機感をあんまり持たずに(少なくとも表面上に不安はない)令子の言葉に唯々諾々と従う横島の二人の行動には突込みどころ満載である。

 だが今回の冥子もまたGSとして規格外の存在であり、ある意味箱入り娘といってもいい存在である為、二人の行動に疑問を浮かべることはなかった。

「うーむ、げっ! こいつは低級霊弾じゃないか。前に時給500円で雇っているとかいってなかったっけか? でも、今回は使うわけないわな。下手すりゃ寝返るし、それにあんまりいい印象がない。霊体ボウガンは今回は使えんな。数が多いから連射できんとつらい。できればマシンガンや手榴弾が…ってあった!?」

 まるでどこぞの青ダヌキなロボットのポケットのように次から次に出てくる道具に普段からこれらを持ち運んでる自分もあきれ果てた。特に黒光りした物体に。最も今回は初めて持ってくるように言われたセットDというやつで、いつもはセットAと呼ばれるものなので道具の構成内容は違うのだろう。

「こんなもんが入っていたのか…何かいつもの倍とは言わんが5割り増しぐらいに感じてたのは気のせいじゃなかった。しかし、名前なんかはよくわからんが確かサブマシンガンと呼ばれるものに類するものだよな」

 おもむろに黒光りして俺を使えと自己主張する銃器を手に取るとずしりとした重量を感じた。

「や、やっぱり、本物!」

 横島の頭に銃刀法の言葉が思い浮かぶがGSという職業ならこういのを使うのもありかと納得した。その思いは横島のそばで作業を見守る冥子の態度に変わりが無かった事も拍車が掛かった。それによく見ると各所に呪文が書かれている為、除霊道具なのは確かなのだろうと納得した。

「折角見つけたが、弾のセットの仕方がようわからん。よって使えないな。リボルバーとかのハンドガンの類なら昔に親父に撃たせてもらったり分解整備したりしたことがあるんだけどな」

 何気に危ない発言をしつつものを漁っていく。

「(くそ! こんなに多方面に色々あるんなら下着の一つや二つでてこいよ!) おっ! こいつは前に厄珍が売り込んでいたやつだな。美神さん買ったのか? 厄珍がいっていた通りなら今回のには使えそうだな」

 取り出したのは先ほどのサブマシンガンと同じような形状ではあるのだが、先ほどのサブマシンガンのよう重圧感はなくどちらかというとちゃちい安物感を漂わせていた。

「やっぱり、さっきの本物に比べて軽いな。さすが水鉄砲」

 安物感があるのも当たり前で本体は銀色のプラスチックでできていた。しかし、水鉄砲と侮ってはいけない。これでも最先端の技術が使われているらしく有効射程は10m〜18m(設定による)、1分間に60発の速射、発射口の調整により散弾や霧状に発射することも可能とそんじょそこらのおもちゃの水鉄砲とは段違いの性能をもっていた。その分、めちゃくちゃ高い。

「えーと確かこいつの弾丸はこれだよな?」

 弾丸の入ったケースというかどう見てもその辺の自販機で売っているペットボトルとよく似ていたし、中身も透明な液体、水が入っているように見えた。それでも弾丸に使われる水がただの水ではない事はラベルの成分表に示されていた。聖別された水、いわゆる聖水を主成分に霊に有効な成分を幾つか配合したものであると記されていた。が、そのラベルに怪しげで厄珍堂のマークが入っていることで横島は本当にそうなのか信じられなくなってしまった。

「まあ、俺じゃなくて美神さんに対してアピールしてたんだから多分大丈夫だ…だよなぁ?」

 令子をだますには余程の覚悟が無ければならないと認識していたが為、その令子が使ってみるかと購入したのだからそれなりの品だと信じることにした。要するに厄珍ではなく令子を信用することにしたのだ。

「確か、キャップは外さんでもよかったはずだ」

 キャップは特殊な形状となっており、これを銃の後方にある差込口に斜めにセットすれば使用できる。

「電池もちゃんと入っているな。よし、これは使おう」

 ペットボトルをセットしロックした途端、ウィーンと駆動音が聞こえ銃に設けられている電池残量が満タンを示していたことでちゃんと使用できると確認できた。念のためセイフティを外して試射をする。

バシュッ!

「すげっ!」「わ、すご〜い」

 思った以上の勢いで遠くに飛んだ事に横島、冥子の二人は目を丸くした。

「これは思った以上に使えそうだな」

「なんかいいわ〜」

 それぞれ感想を抱きながらおもちゃを手にした子供のようにはしゃぎ、その後、数発を試し撃ちじゃーと色んなモードで撃つ二人であった。


(つづく)

--------------------------------------------------------------------------------
注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






<Before> <戻る> <Next>