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GS美神 リターン?

 Report File.0076 「お嬢様危険注意報!! その5」
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「す、すいません…」

 横島は冷や汗をダラダラと流しながら、額を地面に擦りつけるように土下座した。我が身の安全…生き残ることを考えれば、プライドなんぞ糞喰らえであった。

 なぜ、平謝りする状況になったかというと、高性能水鉄砲を調子に乗って一瓶丸々、試射で使用してしまったのだ。たかが高性能の水鉄砲といっても、除霊道具なのだ。その道具に使用される水はただの水ではない。除霊道具にはピンからキリまであるとはいえ、大概は高価なのだ。平均価格は横島の給料の数ヵ月分はあるのだ。それを無駄に消費してしまったのである。お金大好きな令子がそんな事を許すはずがなかった。

「まあ、今回はまったくの無駄ってわけじゃないから勘弁してあげる…」

 令子は怒鳴り散らしたい衝動を必死に押え、言葉を選んだ。なぜなら、彼女を見つめる爆弾…目をうるうると潤ませている冥子が居たから下手に怒るわけにはいかなかったのだ。折角ここまで、爆発しないように回避してきたのに激情に駆られてしまっては元の木阿弥となってしまう。

「あ、ありがとうございます!!」

 自分の言葉に横島が感涙し、挙句の果てに冥子と抱き合って嬉し泣きしている様子に令子はそんなに自分は酷いのだろうかと自問してしまった。

「今度から気をつけるのよ? これの取扱説明書にも試射をするにあたっての注意事項が載っているんだから」

「「ははーーーーぁ」」

 令子の言葉にお代官様、ありがとうございますだ〜。と平伏するのだがなぜか横島だけではなく冥子までやっていたのには流石の令子も堪えた。

「(うっ!)とにかく、準備できたみたいだし、始めましょうか!」

 天然の冥子をさえそうさせてしまった自分のありように一瞬、立ちくらみを感じ、気分を切り替えるために大声で宣言した。

「へーい」「は〜い」”はいっ!”

 気合が入っているのか入ないのか、いまいちわからない返事で令子に返した。

「でも、令子ちゃんのほうは大丈夫〜? 結界はかなりの規模になるから維持するだけでも大変よ〜」

「まあ、一時間ぐらいは十分維持できるわよ」

「でも〜」

「大丈夫よ。おキヌちゃんの補助もあるから二時間はいけるわ。それに冥子なら二時間も掛からないでしょ」

「うん、がんばるわ〜」

 令子の言葉に自分への信頼を感じた冥子はぱぁーと顔を輝かせた。

「やっぱ、怪しいなぁ。あの二人」

”ですねぇー”

 傍から見ると何とはなしに甘〜い雰囲気を漂わせる二人に横島たちの間に再び百合説が浮上していた。

「ところで横島!」

「は、はいっ!」

 キヌとの会話を聞かれたのか!? と内心びくっとさせ、背筋をピシッと伸ばして応えた。そんな横島に不審を抱いたが令子は気にしないことにし、横島の耳を引っ張った。急に引っ張られて横島は悲鳴を上げるが令子は知ったこっちゃない。

「横島クン…わかっているわね?」

「いたた…はっ? 何をです?」

「横島クンがやることよ」

「えーと、まずこのマンションにはエレベータが4箇所、階段が8箇所あって最短で各階のそれらの箇所を回り、その入り口にお札を貼って封印し、各階への霊の移動を封じていく…」

「そうよ、まずは霊を呼び寄せる根源を目指して封じるのよ。霊達はその後ゆっくり除霊すればいいんだから。でも、それよりももっと最優先でしなければならない事があるわ」

「はっ?」

「冥子に霊を近づけないことよ。でないとあなたは地獄を見るわよ」

「は、はひっ〜!(が、がんばって冥子さんを守らなければ美神さんに殺される!?)」

「い・い・わ・ねっ?」

「はひっ!(念を押すってことは確定か〜〜っ!! もったいなさすぎる〜〜〜!!)」

 令子は純粋に身代わりとなった横島へ冥子の暴走に巻き込まれないようにする為の忠告なのだが、先ほどまでの冥子との雰囲気に別の意味で受け取った。いつもなら墓穴を掘るかのように思っていることを口走るのだが今回は無かった。それはどちらにとって運がよかったのか。

「じゃあ、やりましょうか」

 令子の一言で作戦は開始された。


          *


「うう、緊張するな…」

 さっきまでは令子と一緒にいたためか以外にしっかりとしていたのだが、いざ、現場へとはいる玄関ホールを前にすると、すっかり及び腰になっていた。

「大丈夫〜。せんぱいの私がついているんだから〜、横島君は大船に乗った気でいればいいの〜」

 それとは反対に気楽に言ってのけているのは冥子である。

「本当っすか? 頼りにしますよ!?」

 横島は一見ではぽわっとした頼りげの無い冥子がこの時ほど一人前のGSとして頼もしい存在と感じた。こういう時、普通は男が女を護ると奮起するのではないかと思うのだが横島にはそんなプライドなど一欠けらも無かった。自分のできることをよく知っているからこそ出来ない事は外部に頼るのであった。ただ、横島の場合、己に出来る事をかなり過小評価する傾向にあるのだが。

「せんぱいにまかせて〜。バサラちゃん〜、たのむわよ〜」

 冥子の呼び声に答えるかのように黒い大きな毛玉がぬぅっと現れた。その黒い大きな毛玉はゆうに2メートルを超え、左右に一対の牛のような角が生え申し訳程度に小さい目が一対あった。

「おおっ! これが冥子さんの式神か! すごそうだ」

 横島は頼もしそうにバサラと冥子を見た。もっとも知る人が見れば「君、正気? その娘、大船じゃなくて泥舟だよ」と言っただろう。だいたい自分が冥子の式神によって酷い目にあったことを覚えていないのだろうか?

ズズズズッ!

 横島の言葉に気を良くしたのかバサラは前進を開始し、マンションの入り口に突入するとがばっと横島を人のみ出来そうなほど大きな口を開け、吸い込み始めた。

『ンモーーーッ』

 牛のような鳴声とともに大型掃除機のように激しい吸気は起こり、入り口付近に漂っていた悪霊たちがたちまちバサラの口に吸い込まれ消えていった。

「ねっ? たよりになるでしょう?」

 にっこりとお日様印の笑顔に横島は魅入られた。

「そ、そうっすね。でも、これだけ凄いんなら協同作業でなくてもよかったんじゃ…」

「そんなことないわ〜。私は霊能者って言っても何にもできないよ〜。できるのはバサラちゃん達が活動できるように霊力の供給を維持することだけだもの〜」

「そうなんですか」

「それに今回のケースでは次から次に霊が集まってくるから、そのままだといくらバサラちゃん達が強いといっても限界はあるもの〜」

「数は力って事ッすね」

「そうよ〜。だから霊たちが集まってくるのを防ぐ結界が必要だったの〜。大概はバサラちゃん達の助けのおかげで解決できるんだけど〜流石に結界を張るって事は苦手だから」

「なるほど、冥子さんは式神専門だからか」

「ん〜、でも、これくらいの規模だったら、普通はGSでも複数人であたるわよ〜」

「でも美神さんは最初、この件を一人でやる気、満々でしたけど?」

 自分の事はカウントしないで横島は言った。こうのんびりと話していながらも実際は彼らは順調に作業を進めていた。バサラが悪霊を吸い込み、ちょっと抵抗するのには横島が試し打ちした高性能水鉄砲により祓い、当初の目的である各ポイントに到達すればお札を貼るといった具合である。

 今の調子であれば横島が冥子の護衛を勤めていれば十分なのかもしれないが念の為にインダラ、サンチラ、ハイラという式神を出していた。インダラは木彫りの馬っぽいもの形でユニコーン(一角獣)のよな一本の角を生やし左右2対の細長い目があった。サンチラは蛇の形をしており、ハイラはバサラとは正反対に横島の腰ぐらいの大きさの白い毛玉で同じように左右に角を生やし、パッチリとした一対の目、その目に覆い被さるか被さらないかといった毛の房、眉毛といってもいいようなものがあり、それが年老いたじいさんっぽい印象を持たせていた。

「令子ちゃんは器用で色んな道具を使えるから、多分、色々準備さえすれば充分に対応可能なんじゃないかしら〜?」

 ぱっか、ぱっかとインダラの背に横座りで乗った冥子が令子ちゃんはすごいと賞賛した。それは今までの経緯から色眼鏡を掛けてしまっている横島には憧れ以上の想いと熱を感じた。

(やっぱり、真性か!?)

 横島は横道にそれそうな思考にいかん、いかんと首を振って思いを振り払い、到着したポイントにお札を貼りつけつた。
それから、冥子の言葉を吟味し納得した。

「…確かにそうかも」

 今、令子がやっている結界の維持にしても精霊石や霊力電池、地脈等、もしくは横島の知らない方法でやってのけ(もしくは自分にやらせて)、自分達が今やっている作業を令子自身がやるのだろう。

「うらやましいわ〜。令子ちゃんが短期間でGSでもトップレベルになった理由にどんな事例にも対処できる汎用性があったっていうの大きな理由だもの」

 そう言った冥子自身も別の意味でGSのトップレベルに入るのだが言わぬが華というやつである。

「美神さん、器用だもんなぁ。初めての道具でもほとんどすんなり使えるんだから」

 厄珍が除霊用高性能水鉄砲を売り込んできた時の事を横島は思い出した。厄珍は他にも掘り出し物とか、新製品とかを持ってきていたが試しにと碌に説明を聞かずに使用しうまく使いこなしていた。その上、長所短所まで指摘してのけたのである。それを聞いた厄珍はそれを販売に役立てようとメモっていた。いや、今から考えると目的は令子への売り込みではなく、その評価だったのではないかと思えた。

 横島の手にある高性能水鉄砲など、巻き上げたも同然の値で厄珍から買ったのだ。令子は最新の道具を安価に手に入れ、厄珍は持ち込んだ道具の使用上の利点欠点を知る事ができるのである。双方に利益があるから良い商売といえる。

「へえ〜、凄いわね〜流石、令子ちゃん」

「定番の道具何かにしても俺とは違うし」

「たとえば〜?」

「そうっすね。見鬼君ってあるじゃないですか、あれなんか美神さんと俺とじゃ有効範囲も、その精度も全然違うんですよ。ピートなんかは俺と同じようなものだったし」

 まだまだ未熟だからかなぁと横島は思うのだが、それでも700年を生きるバンパイア・ハーフのピートも同じなので、本当にそうなのか確信はできないでいた。

「ふ〜ん、やっぱりそうなのね〜」

「えっ!? ど、どういう事っすかっ?」

 うんうんと一人、納得する冥子に横島は説明を求めた。

「令子ちゃんは天性の道具使いだと思うわ〜。だから私に勝てたのね〜」

「美神さんと冥子さんが戦った?」

 意外な事を聞いたと横島は呆然とした。GS同士が争いあうことがあるなど考えていなかったからだ。ましてやこの温厚そうな冥子があの令子と争うなど想像の埒外であった。

「ええ、そうなの〜。GS試験の時よ〜。懐かしいわ〜」

「GS試験すか?」

「そうよ〜。資格を得るにはそれ相応の能力を認められなくちゃいけないわ。その試験に悪霊を用意するなんて出来ないから霊能者同士で戦って、能力を極めるのよ〜」

「戦うんっすか?」

「そう、たま〜に死人が出ちゃうんだけど〜。そういえば横島君も〜その内、受けるのよね〜?」

 さらっとGSへの道のりは結構、厳しいのよ〜と冥子はにっこりと笑っていった。

「…死? 試験で死んでしまう? …い、嫌だーーーーっ!!」

 横島は絶叫した。それは自分自身に自身を持てない横島には死の宣告といってもよかった。なぜなら、令子に数ヵ月後にGS試験を受けるように告げられていたからだった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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