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GS美神 リターン?

 Report File.0074 「お嬢様危険注意報!! その3」
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「…ふう。いい? この娘は六道冥子。私と同じ同業者で、式神使いよ」

 落ち着きを取り戻した令子は横島達に冥子を紹介し、それと共に今回の事態をどう回避するか計算し始めた。最優先事項はいかに冥子を泣かしたり怖がらせたりさせないことだ。それができねばGSの一流所と自負する自分の手にも余る事態を引き起こし今回の件は失敗に終わる。

「はじめまして〜〜。六道冥子です〜〜」

 ぺこりと冥子はぎこちない笑みと共にお辞儀した。初見である横島達にはわからないだろうが、付き合いが長くなってしまった令子にはその表情にわずかながら恐れが含まれていることに気が付いた。

(まあ、無理もないか…)

 今まで自業自得とはいえ式神使いとして他人に恐れられたりしてきていたわけで、紹介されても今回も…でも、令子の所の人だからといった淡い期待感があるといったところかと推測した。

 だが、そんなのは杞憂であろう。キヌは問題ないだろし、だいたい、横島であれば見てくれが美人であればどのような行動をするのかは自明の理。逆に積極的に行くであろうからその押さえをする必要があるのだ。

 予測どおり、冥子が顔を上げた瞬間、横島は冥子の目の前に移動し、いつもの閉まらない顔ではなく、引き締まった顔ですっと冥子の手を握ろうと…しなかった。

「…私は横島、横島忠夫です。美神さんの元で修行している弟子です」

 その様子に令子は目を剥いた。途中までは予測どおりだったが途中でその行動を止め、ごく真っ当な応対をした。ただし、普通に挨拶はしていても、下半身は何時だって動けるような体制をとってだ。

(へえ…意外。横島クン、やるじゃない。冥子の影に潜む式神を感知したようね)

 令子は横島が欲望よりも霊感を信じての行動したことに感心した。

(…な、何だったんだ!? さっきの強烈な嫌な予感は!?)

 横島の方はといえばいつもながらの条件反射行動により、飛び掛かるなり、詰め寄るなりして口説かんとするほどの美女であるはずなのに、猛烈な予感により、理屈ではなく本能がその行動にストップをかけたのだ。

「まあ、令子ちゃんが弟子を取っていたなんて〜初耳〜」

 頬に手をあてて微笑み、その頬が心なしか赤く染まっているような気がする冥子はめちゃくちゃ可愛かった。本来であれば即座に飛び掛っていたであろう。実際、横島は一歩踏み出してはいたが反射ともいうべき行動が出来なかった。

(何だか地雷原に踏み込んでしまった兵士の気分になるのはなぜにっ!?)

 そう、一歩踏み出したとたんあるはずがないのにカチッと地雷が作動してしまった音を聞いて固まってしまったのだ。

「今のところは不肖の弟子といったところね。まあ、目に見えるところは有るんだけど…」

 横島の様子を見て令子はこれは今回の件は横島に押し付けてしまうのが一番よさそうだと結論をつけた。横島なら冥子が暴走したとしても何とか生き残れるだろう。何より自分には被害が来ないのだ。なんとすばらしい考えか!と自画自賛し、どうやって今回の仕事を冥子と横島だけで遂行すようにするか思案し始めた。

「うぐぐ、どーせ、俺は使いもんになりませんよ」

 令子の率直な横島の評価に直ぐにいじけが入ってしまい、令子の続く言葉を耳にする事は無かった。

「もう少し性根を入れ替えてくれれば、評価も変えるんだけど。こればっかしはね」

「ふ〜ん、令子ちゃんて評価は辛口だから〜、見込みあるのね〜」

「まあね。あ、そうだ! どう、冥子。今日の除霊、横島クンと二人でやって見ない?」

「ええ〜っ!?」

「(ここは一気に叩き込むべし!)横島クンはまだGSってのは、私しか見た事ないから、他のGSがどんなものかっていうのを体験させてあげたいのよ」

「でも〜」

「私たちはGSとしても後進に道を示すのも先輩として重要な務めよ」

「ううっ〜」

「大丈夫! 冥子ならできるわ!(反面教師としてだけどね)」

「令子ちゃんにそこまで言われたら〜。…やってみるわ〜」

「さすが冥子ね! 横島クン、今回の仕事の方針決まったから」

 今回の生贄たる横島に対しにっこりと笑顔で振り返った。実にいい笑顔だった。本当にいい笑顔だった。

「はっ! 不肖の弟子たるこの横島、粉骨砕身でもって令子さんの期待にこたえましょう!」

 その笑顔に魅せられた横島は先程までの様子など何ですそれ?と脊髄反射よろしく令子の手を取り、キラリと歯を光らせ二枚目面しようとした。

「調子に乗るな! この馬鹿モノッ!」

「うがっ!!」

 別段、横島は令子に対してセクハラをかました訳ではないのだが、習慣というのは恐ろしい。横島に触れられた途端に条件反射的に手が出ていた。

「あっ! (あちゃーー、しまった。ここでこいつを行動不能にしたらまずいじゃない!?)…ごめん、横島クン」

”あっ! じゃないと思うんですけど…”

 先程の横島の扱いに多少行過ぎはあったものの殴られる程のものではないはずと令子をじと目で抗議した。そんなキヌに令子もバツが悪いのかははと笑ってごまかし、謝罪する代わりに横島を優しく起こした。

「令子ちゃん達とっても仲良しさんなのね〜。いいなあ〜。私も欲しいなぁ〜」

 そんな二人の様子に冥子は羨ましさを感じたのか物欲しそうに横島を指を咥えて見た。

「…言っておくけどダメだからね。一応、これでも私の弟子なんだから」

 冥子の態度に令子は釘を刺した。普通なら他人の弟子を欲しがるのは良くない事でもしそんな事をしようものなら横紙破りもはらただしい。それでもやっちゃう雰囲気があるのだ六道家には。

「そんな事しないわ。令子ちゃんはお友達だもの〜」

 心外よ〜と冥子は言うが令子は信用できなかった。正確には冥子ではなくその両親が、ではある。娘の為になると考えたら強引にでも推し進めてしまうのだ。その事については骨身に沁みていた。でなければ何度も冥子と共同作業になんかなっていない。これだけでもえらい迷惑なのだ。GSとは信用第一なのである。仕事の失敗はその信用に直結するのである。冥子との共同作業の成功率を考えれば自ずと答えも出ようというもの。いかに一流どころの令子でも信用を何とか維持するには多大な労力を費やすことになり、その費用に何度目を回したであろう。

(そして、今度もまた…いやいや、まだ赤字とは決まったわけじゃないわ! 不可能を可能にすることこそ私の本領。ならばやることは決まっている。そう、横島クンの働き次第なのだから!!)

 一瞬、目の前が赤で彩られそうなのを頭を振って払い拳を握り締めて気合を入れなおした。同時に横島もまた頭を振り払っていた。横島は横島で冥子の弟子になってしまうという考えが思い浮かんだ途端に背筋に悪寒が走ったのである。

(な、何だ!? 心のそこから彼女にかかわるなと感じているだとっ!? …ふっふっふっ、面白い。登れぬ頂を目指すからこそ、そこにロマンがある!! 漢、横島忠夫、夢(欲望)のためなら死ねる!! いざ往かん、見果てぬ理想郷へ!!)

 師も師なら弟子も弟子であった。同じような思考ロジックを経てバックに炎を背負って気力を倍増させる二人であった。

「いい、横島クン、今回の仕事で冥子をうまくフォローするのよ。うまくいけば、イイコトがあるわよ」

「いい事ですか?」

「そう、イイコトが」

 そういってさりげなく令子は腕を組んだ。そうすると自然と大きな胸がポヨンと浮き上がった。

「(おおっ!?)イイコト、イイコトですとーーっ!!(マジですかぁ!? こ、これはおいしすぎる展開だ。冥子さんの前でいいところを見せてお近づきになれるだけでなく、美神さんともウハウハになれるですとーーっ!!)」

 令子の言葉と挙動に横島の妄想エンジンがぐるんぐるんと回転をあげ脳裏にとんでもないビジョンを映し始めた。

「(本当にこいつは…)横島クン…落ち着きなさい」

「イエッサー、マムッ!」

 令子の言葉に横島はやばさを感じたのか反射的に正気に戻り、ビシッと背筋を伸ばして敬礼した。

「ん〜、やっぱり、いいな〜」

 師弟の一体となった様子が冥子にはとても眩しいものに見えた。キラキラと瞳を輝かせて呟く様子にキヌはこの人って本当に美神さんと同じぐらいの年なのかしらと首をかしげた。

”確かに仲がいいです”

 キヌは自分をおいて騒いでる二人を羨ましそうに見つめた。

「あら、あなたは〜?」

 冥子は自分の言葉に相槌を打ったことでキヌの存在に気がついた。

”(がーん、ショ、ショック〜。いくら横島さん達が超個性的だからって、わたしってそんなに今まで気づかれなかったほど影が薄いですか!? この人、本当にGSなんですかっ!?)…ぐすっ、幽霊で美神さんのところで横島さんと一緒に助手をしてますキヌです」

「キヌ…じゃあ、おキヌちゃんでいいのね〜。六道冥子です〜、紹介されたとおりGSで式神使いよ〜。よろしくね〜」

 キヌに与えたショックなどなんのその、全然気がつかずにいた。

”式神使い…ですか?”

「そう、式神使い…、あっ、そうだ〜みんなも紹介しなくちゃ〜」

 良い事を思いついたと、年齢に見合った美女の綺麗なというよりほんわかとした童女の笑みで宣言した。

「ばっ!」

 冥子のやろうとする事に気づき、止めようとしたがその行為自体が自爆することに気がついた。このお嬢様はよっぽど甘やかされて育てられたのか心がやわいのである。その一瞬の躊躇が止める唯一の機会を逸した。だが、何もしないわけにはいかない。このままでは冥子の正面にいる幽霊のキヌが危険であった。これだけ現場の近くで雑多な幽霊の気配が漂う中に、式神を出そうものなら幽霊であるキヌを術者を護るべく問答無用で攻撃するだろう事が長い付き合いから分かってしまったからだ。しかし、できることは限られていた。

「なっ! うごっ!?」

 突然、令子に突き飛ばされた横島は不意を突かれたこともあり派手に吹っ飛び、ズシャッ!!っという嫌な音と共に冥子の目の前に転がった。と同時に冥子の影から勢いよく何かが次々と飛び出してきた。

「おキヌちゃん、逃げて!!」

”ひええ〜!!”

 令子の言葉を受け取るまでもなく身の危険を察知したキヌは退避していた。キヌの代わりに冥子の前面に居ることとなった横島はあっという間に冥子のもとより現れた黒い影に飲まれた。

「ぐあばっ!? ばっ!? ばっ!? ばっ!?」

 黒い影に飲まれた横島はたちまちの内に奇声を発し始めた。このシーンだけを見れば十分にホラー映画になりそうだ。

「あれ〜? みんなが初対面なのにこんなに懐くなんて不思議ぃ〜」

 だが、そんな己の配下が作り出した惨状でさえも誰よりも黒い影…異形の姿をした式神達に親愛の情を持つ冥子にとって横島にじゃれ付いていて微笑ましい光景と感じ、にこにこと笑っていた。

「流石に、これは…む、惨い」

 キヌを助ける為とはいえ、横島を蛇のようなものに絡めとられ電撃を受けたり、大きな毛玉っぽいものにくすぐられたり、のっぺりとした宇宙人ッぽいものにぺしぺし叩かれたり、うまっぽいものの頭頂部にある角でつつかれたり、なんだか男のあれっぽい卑猥なものを連想してしまいそうになるものにかじられたりといった悲惨な状態にしてしまった令子は冷や汗を掻いていた。

”あ”っ、ばばっ!?! よ、よごじまさん…”

 本能的恐怖により冥子のそばより離脱し、令子の背に隠れたキヌもだが横島の惨状に令子の肩をがたがたと振るえた。それとは別に自分の代わりに身を挺してかばってくれたことに横島からの愛を感じていた。まあ、それは錯覚ではあり、好意を抱いている者への欲目であろう。

(ああっ…だ、だれか、助けて…、ああ…と、時が見える…)

 横島はというと様々な感覚を受け、何かに目覚めつつも、その命を燃やし尽くそうとしていた。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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