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GS美神 リターン?

 Report File.0073 「お嬢様危険注意報!! その2」
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「な、な、なんですってぇーーっ!! きょ、協同作戦!?

 いきなりな依頼主からの令子は取分がへるじゃないと内心で怒気を膨らませどなった。

「は、はあ、そ、その通りです…」

 ただならぬプレッシャーに依頼主は思わず背を仰け反らしてしまった。

「どういうこと!?  そんな話、き、聞いていないわ…(げっ!? め、め、冥子っ!?)」

 まさに怒髪天を衝く勢いであったが依頼主の後方から現れた者の姿を見た瞬間、その怒気も拡散した。それもそうだろう。なんと言っても目にした人物、六道冥子とは彼女の人生の中でもトップランクの疫病神なのだ。彼女に関わったことで碌な目にあったことがなかった。彼女に関わったおかげで折角の大口の仕事が何度も潰れて大概が収支が0若しくは赤字になってしまうのだ。赤字…金儲けの好きな令子にとり、悪魔よりも性質の悪いものだった。

「わ〜い。れいこちゃん」

 そんな令子の心理状態を知ってか知らずか極めて能天気で嬉しそうに手を振って令子の元に駆け寄ってきた。

「……、ごめんなさい。急に体調が悪くなったわ。この話は無かったということで…」

 依頼主に素っ気無く告げて、冥子にくるりと背を向け立ち去ろうとした。無駄な努力ではあったが。

ぎゅっ!

「んげっ!」

 無造作に自慢の赤い髪をむんずと掴まれてしまった為、とても花の乙女?とは言いがたい奇声をあげて令子は立ち止まらざるをえなかった。

 そんな珍しい態度に出る令子に横島とキヌは目を丸くして見つめ、とりあえず様子を見るのが吉と感じておとなしくしていた。

「私は令子ちゃんと一緒にお仕事できるのを、楽しみにしていたのよ〜〜。そんな言い方ないじゃないの〜〜〜。」

 目を潤ませて自分を見る冥子に令子はさっと青褪めた。

(ま、まずい…この状況を何とかしなければ…)

 令子は今の状況が火薬庫の中で松明を灯している愚者であることに気が付いた。六道冥子と接するに当たっての不文律が存在する。これは令子とGSでのライバルと敵視されてるというか、仇敵というかといった存在である小笠原エミとの間でも成立すること…つまりは六道冥子を泣かせてはいけないという事だった。

「…なんとか納得していただけたようで…」

(別に納得したわけじゃない!!)

 依頼主が勝手に納得し話を進めようとしているがここで怒鳴ってしまってはまずいので押し黙るしかなかった。

「このマンションは新築なんですが建物の相が悪かったらしく、周辺から霊が集まってきて人が住めんのです。なんせ事前調査してもらった段階で霊が千体以上おるというのです。こちらと早急に作業を進めていただく為にも、お二人で協力していただきたいと思いまして」

 依頼主にとり、既に分譲し満員御礼…つまり完売している物件なのに買っていただいたお客に鍵を渡せない状態が長く続くのはよろしくないのだ。後へと続く信用に関わることなので是が非でも六道冥子と組んで無事に依頼を果たせる(可能性がある)のは令子だけなのだ。その為だけに利益の半分以上をGSへの報酬として用意したのだ。

 そもそも六道冥子を雇うことになったのは込み入った事情がある。依頼主にとり大口顧客であり、取引先としても勿論の事、融資を受けている金融機関へも絶大な影響を与えることの出来る六道家から、冥子を使ってくれないかと提案されれば、依頼主にとり首を縦に振る以外になかった。

 そして頭を悩ませることになる。何故なら六道冥子については不動産を取り扱う以上GSと関わらずには入られないことも有り、色々と噂を聞いていた。その際たるものは達成率の低さである。その辺は六道家により隠蔽されているのだがそれでも人の口に戸口は立てられないとばかりに情報を得ることが出来た。

 その情報は依頼主にとり、非常にありがたくないものであった。何と言っても今回のようなケースの依頼の達成率が1割に満たないのだ。その内容も燦々たるもので良くて半壊、最悪建物が崩壊し更地にあるというのである。依頼主は泣きたくなった。幾ら失敗したときの補償はされるとあっても、扱っているものは物であり、それを作り上げるには時間が必要なのだ。時間の損失だけは補償で取り戻すことは不可能なのだ。

 困り果てた依頼主は以前に同じように困っていた同業者に相談し希望を見出した。それが美神令子であった。彼女のフォローがあれば成功率が5割にまで持っていけるというのである。美神令子を雇わなければほぼ確実に失敗が目にめいるのである。だが,雇うには高額の報酬が必要。依頼主は悩みに悩んで結論を下した。お金では信頼は勝ち取れないと。住みたいと思って購入されたお客様に笑顔で満足してもらうために依頼主は利益の大半をGSへの報酬ととしてつぎ込むことになった。本来ならば次の事業につぎ込むべき資金なのであるが致し方ないと断腸の思いであった。

 ただ、こんな不幸の中、少しだけ幸運だったのはどうやって共同作業として美神令子の話を切り出そうかと悩んでいたのを六道冥子自身から切り出されたことであった。それも報酬は美神令子と折半でいいと言うことであった。もっとも最初に用意されていた報酬の半分では噂に聞く美神令子をこの件で雇うには少なすぎたのではあるが少しでも経費を削減できると依頼主は喜んだ。

「私が令子ちゃんも呼んだ方がいいって言ったの〜〜。お願い〜〜いいでしょ〜?」

すりすりすりと寄って来る冥子に令子は心中でひぃーとあげるも何とか表に出さない事に成功していた。

「あ、あのね、同業者なら私以外にもいるでしょ?(何で私を指名するかな、この娘は!)他をあたって、ほかを!」

 冥子に対しては危険な行為であったが、髪を掴まないでと少々、力をいれて振りほどいた。通常であれば、こんな行為は冥子が危険な状態になってしまうのだが、令子がこの仕事に乗り気じゃない事を悟ってか必死に説得する事で頭が一杯であった。

「令子ちゃんがいいの〜〜!! 令子ちゃんじゃなきゃイヤ〜〜!!」

 とはいってもどうすればいいのか判らない冥子は感情のままに行動した。つまり、いやいやと頭をぶんぶん振り叫んだのであった。その様はお母さんと買い物に行ったときに欲しくなったお菓子を要求してダメといわれて諦めきれないお子様状態であった。

(やばっ! な、何とかしなくっちゃ…)

 一気にレッドゾーンにメータが振り切れそうになり、令子は青ざめた。

”あ、あの〜、美神さん。この人はお友達ですか?”

 やばめな雰囲気が漂い始めた中、令子にキヌが尋ねた。ぽけ〜っと訪ねた。

「そうっす。お取り込み中のところですが、その可愛い方を紹介してくださいよっ!」

 でへへ、と揉み手に令子に近寄ってきた。

(ナイスよっ! おキヌちゃん、ついでに横島君!)

 話し掛けてきた二人に拍手喝采し、紹介する事にした。冥子の方も、二人に気付いたのかぴたっと今までの行為をやめて二人をみた。

「まあ、友達というか、知合いよ!」

 少々、苦笑いを浮かべて令子は言った。本心ではあまり関わりたくない類いであるので友達というのは認めたくなく知合いであると強調した。

「ひどお〜い。お友達じゃないの〜〜」

 令子の言い草に冥子はうるうるとし、令子に詰め寄った。

「そ、それは…」

 そんな様子の冥子に令子は困ったような顔をし言葉に詰まった。下手な言葉はこの場を一気に危険地帯にする。一瞬、緊迫した状態が形成されたがそれを崩すバカがいた。

「や、やっぱり、あの噂は本当やったんかーーーーっ!!」

”う、嘘ですよね。美神さん”

「な、何っ!? 噂って何よっ!」

 突然、OY! My God!! と叫ぶ横島と、美神から遠ざかり、叫ぶ横島の背後に回るキヌに令子は困惑した。

「み、美神さんがレズ(同性愛者)だったなんてーーーー!! もったいなさ過ぎるーー!!!」

 そんな令子を気にせず、横島は忠夫、ショック!と絶叫し、私も餌食になるんですか!?と横島の肩に憑いてガタガタ、ブルブルと振るえるキヌ。

「!!」

 そんな二人に絶句し、令子は頭が空白になった。その瞬間…

「アホかーーーーーっ!!!!」

 脊髄反射するかのように絶叫し、叫ぶ横島に拳骨を振り下ろした。

「うげっ!」

 殴られた横島は悲鳴を上げ、地面と熱烈なキスをした。だがそれだけでは終わらない。

「道の往来で悪質なデマを流すなーーーっ!!!」

 令子は怒りに燃えて倒れる横島にストンピングの嵐をお見舞した。

「レズ? 干し葡萄の事かしら〜?」

 そんな脇で横島の発言でわからない部分に首をかしげる。

”レズですか? 私もわからなくて横島さんに聞いた時に、確か女どうしで好きあう事だって言ってました”

 令子の怒気に巻き込まれないように避難してきたキヌが律儀に答えた。そんなキヌの言葉に冥子は少しだけ考え込んだ。

「ふーん、じゃあ〜、私も令子ちゃんもレズね〜〜」

”ええっ!?”

 うそっ!?本当なんですか?とキヌは驚き目を見開いた。

「な、なにを危険な発言をしてんのよ! 冥子っ!!」

 冥子の言動に横島への制裁は中断し、いつの間にか接近して冥子の頭をぐりぐりしながら叫んだ。

「やん、令子ちゃん、怒っちゃいや〜」

 令子の態度になんだか冥子は嬉しそうなだった。

(…み、美神さん、レズだけではなくてサド、マゾの関係だったなんて…)

 ボロボロになり地面にはいつくばっている横島は二人の様子を見て思ったが声に出すことはなかった。出していたらどうなっていたかは想像に難くない。

「誰がレズかっ!!」

「え〜、だって私、令子ちゃんが好きだし、令子ちゃんも私が好きでしょ〜〜?」

「えーい、違う! レズっていうのは絶対あんたが考えているのとは違うから!!」

「でも〜〜」

「でもじゃない。違うの! おキヌちゃん、どこでそんな噂を!!」

”ひっ! …え、ええとですね…この前、み、美神さんのおつかいで厄珍さんのところへ言ったときですぅ”

「ほーう…厄珍ね…厄珍、コロス!!」

 射殺さんばかりの視線にさらされキヌはすくみ上がりつつも、何とか答え令子の視線が自分からそれた事にほっと息をついた。その代わりに誰かの運命が定まったようであるが気のせいに違いない。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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