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GS美神 リターン?

 Report File.0067 「幽霊潜水艦ピ−13 未だ戦争は終らず その4」
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”急速潜航!! 急速離脱!! 急げ!!”

”メインタンク注水開始!!”

 私は何だか分からないうちに幽霊潜水艦の中に連れ込まれていた。あまりの事態の流れにどう行動をとっていいか分からなかった。とりあえず、すぐに命がやばくなるというほど危険というわけではなかった。

 だいたい私はこの潜水艦に連れてこられた後、拘束されることも無く放っておかれ、乗員?(というにはまともそうなのは一人というか一匹というかとにかく人型でなさそうなものまで居る)達は作業に入っていた。よって一応自由の身ではあった。だが、幽霊潜水艦は既に水中にある為、脱出は不可能。幽霊潜水艦を私ではどうこうできるものではないので大人しくする以外できることはなかった。

 やる事が限定されている為、私は艦内の様子を見てみることにした。ざっと今居る場所を見渡して乗員は6人ぐらい。みな真っ当な存在ではない。幽霊だけではなく、多分妖怪と思われるものまで居た。それに映画でしか見たことが無いが狭っ苦しいし、所々は幽霊船の一種である事を示すかのようにさび付いていたり、照明もあるものの必要以上に薄暗い気がする。それでもまともに動いているように見えるのはやっぱり超常的存在ってことなのだろう。

 しかし、幽霊潜水艦内にいるからか、陰気を感じて段々と憂鬱さや閉塞感を感じる。特に男ばかり…というかそれに分類することも出来ないようなものもいるがその感覚に拍車をかけていた。長時間こんな所に居ればノイローゼになりそうだ。この幽霊潜水艦の艦長だと言う貝枝が陰気で根暗野郎だと感じたのはこの雰囲気に染まったからかもしれない。

”ひとまず安全圏へと離脱成功!”

”よし、やったぞ!!”

 私が鬱に入りかけている間に幽霊潜水艦は美神さん達を振り返ったらしい。…ってま、拙いじゃないか!?

”被害は?”

”ダメージコントロールにより、最小限に留まっているが、魚雷発射管が1番から3番まで使用不能…残りも点検作業をしてから出ないと2次被害につながる可能性が”

 何だか場にそぐわない言葉出ている…って思っている場合じゃない。この場を切り抜けるにはどうすればいいのか…

”点検の方は急がせるように。被害の復旧は?”

”自然復旧はかなりの年数がかかるかと”

”でも、おそらく鱶町老人は直ぐに追ってくるべ”

”ひしゃく〜くれ””けけ”

”となれば直ぐに応戦体勢を整える必要があるか…だとすれば方法はただ一つ”

”キュイ!””ひしゃく〜””くけけけ”

 悩んでいる間にも乗員達の話し合いが進んでいたようで、会話が途切れたのに気が付いた私は顔を上げた。その途端、仰け反ってしまった。

 な、なんで、みなさん私をじっと見つめているのでしょうか? その視線だけを見ると何だかやばい感じ…。私の背に戦慄が駆け巡った。幸いにも私の武器である神木刀は取り上げられる事無く手の内にある。キ、キミタチ、ワタシニナンノヨウダネ…?

”””””………”””””

 みな何か言いたげな目つきで私を見つめている。知らず知らずごくりと固唾を飲んでいた。先程から代表格の海賊風の片目アイパッチ骸骨がこちらに寄ってきた。や、やる気か?

”オヤブン”

 はっ? 私は片目アイパッチ骸骨に何を言われたのか理解できなかった。オヤブンって親分? …はあっ!? 思わず私は素っ頓狂な声をあげてしまった。

”どうしたんすか? オヤブン”

”何だかオヤブン、変””へへっ””ひしゃ”

”さっきの攻撃で頭打ってしもうたんだべか!?”

 やっぱり空耳ではなく私のことを親分といった。どういう事か理解できなかった。


     *


「もう! 見失ったじゃない」

 ぷりぷりと文句を令子を言い放ち、船の操舵を握った。

「い…いや…それは…わしらの…せいじゃ…」

 甲板には呪縛ロープでぐるぐる巻きにされ、お札を貼られて身動きできない貝枝とその貝枝への制裁に巻き込まれ死に体となっている老人、鱶町が令子の台詞に抗議の声をあげた。

「う、うるさいわね! あんた、今や絶滅種の日本男児でしょうがっ!! それくらい軽く流しなさいよ! よし! これね!」

 鱶町の抗議の声も理不尽が服を着ているかのような令子の態度の前には掻き消えた。令子は鱶町の持ち船「あわもり」の運転操作に必要なものに当たりをつけ、船を幽霊船の消えた方角へと向かわせた。

「おキヌちゃん、そこにあるレーダーを覗いて!」

”はい? あっ! すごい、これ霊体れーだーだ”

 キヌは素直に令子に言われたレーダーを覗き込んで驚いた。先程乗っていた海上保安庁に属していた船に装備されていた最新設備と同じものだったのだ。

「ふふ、当然だ。50年という長き戦いの中、各種装備をつぎ込んできたのだ!!」

 未だダメージから回復できず甲板に転がったままの鱶町は自慢下に言った。

”何を言うか、鱶町っ!! 我が艦がてめーの貧弱な装備に敗れるわけが無かろうが!! 見たであろうがそこな霊媒が使った強力な符にも耐えた強靭な装甲を!!”

 先程までほとんど消えかけしかけていた貝枝が復活し反論し始めた。どこまでも反発しあう二人である。

「ふん、そんな事は無い!! 手はちゃんと打っているぞい。見ろ! あそこには呪符を仕込んだ爆雷がたんまりと用意しておる」

 やっぱり転がったままの鱶町はバシッと指を指した。その方向には高さ50センチくらいのドラム缶が幾つも並んでおり、「呪符爆雷 DANGER」とかかれていた。

”ははん! たかが呪符ごときで我が艦は傷つかんわ!!”

 だがその鱶町の言葉を貝枝は頭から否定した。何と言ってもこの50年間、毎年毎年同じ事を言われながらも沈めらられることなく、何時も痛み訳になっていたのだから。

「言っているがいい!! 大体そんな事はこの50年間でよくわかっとるわ!!」

 くわっと目を開き貝枝に自信満々に告げた。

”負け惜しみを!! 今まで通用しなかったくせに何をいう!”

「ふははっ、確かに今までは攻撃力を挙げることに主眼を置いてきた。しかし、あの呪符は別に攻撃用のものではないっ! いわゆる発想の転換という奴よ!!」

”何だとっ!?”

「聞いて驚くがいい! あれは目標に張り付けば強制的に浮き上がらせるのだ!!」

”ななっ!?”

「さすれば後は…嬢ちゃん、そこにあるレバーを」

 突然の指名に令子は文句を言いたいところだったが鱶町が起き上がれずにいる原因は自分にもある為か素直にレバーを動かした。

がちょんっ!

”おおっ!?”

 勢いよく船の前甲板から勢いよくせり出された物に貝枝は驚きの声をあげた。そこに現れたのは鯨でも取るつもりか言わんばかりに大きな打ち出し式モリ、しかも銀製であった。銀のモリは自己を主張し、何者をも貫かんと威嚇するかのように太陽の光に照らされ先端をチカっと光らせた。

「こいつを食らえばおめー自慢の幽霊潜水艦も堪るまい!!」

”ぬぬーーっ!”

「さあ、あの悪魔を沈めてやるぞ。お前の目の前でな。そして涙に暮れながら果てるがいい! 行くぞ! たとえ根の暗い海底に身を沈めていようとも逃しはせぬ!! 我が一撃を叩き込んでくれるわ!!」

”ぐぬぬ…”

「あのー盛り上がっているとこ悪いんだけど寝転がったまんまだと様にならないわよ?」

”「誰のせいだと思っている!?」”

 結局のところ似たもの同士なのか鱶町と貝枝の息は合っていた。指摘すれば全力否定するだろうが。

「あはは…」

 令子は心の中で悪いと思っていたのか笑ってごまかした。

”ふふん、例え装備が充実していたとしても我が艦には優秀な部下が…部下が…”

”美神さん、貝枝さんはどうしたんでしょうか?”

 キヌは貝枝がぶつぶつ言い出したのを見て首を傾げた。

「ん? 今更ながら自分を置いていった薄情な部下達に思い当たって自信が揺らいだんじゃない?」

”じんぼー薄そうですもんね”

「まったくじゃ」

 キヌの言葉に鱶町が相槌を打った。

”ほっとけ!! くそ…あいつらーー!! …”

 再びぶつぶつと呟きだし、照りつける太陽光の中そこだけが陰気に包まれて暗く見えた。それを横目で見た令子はこいつもしぶといわね…本体と思しき幽霊潜水艦を退治しなければ極楽へ送れないのかもしれないわねと結論付けた。

「それよりおキヌちゃん、レーダーのほうはどう?」

 あれから結構、時間が経ち、そろそろ追いつける頃だとキヌにレーダーへの注意を促した。やはり移動速度に関しては海中よりも海上のほうが有利なのだ。といっても相手は幽霊潜水艦であり、霊的存在なだけに常識は通用しないかもしれない。

”まだ変化ないです。大丈夫でしょうか? 横島さん…”

「大丈夫じゃない? 横島クンて案外しぶといし」

 令子の声音には何とはなしに投げやりな感じが含まれていたが、全く心配していないわけではない。

(横島クン無事で居なさいよ…あんたが居るのと居ないのとでは経費の掛かり方が違うんだから…)

 心配は横島自信というより、今後の儲けに対してだった…


     *


 はじめは何だか判らなかったが、状況を整理していくうちに判った。彼らは私の事を艦長と誤認しているのだ。そうなる心当たりはある。私がかぶっている軍帽だ。だがこの軍帽を拾った時、私が霊能力で調べてみたがそのような類の霊波とかは出していなかった。これほどの人数の乗員達に艦長であると思わせるものならいかに私が霊能者として未熟ではあるといっても、判らないはずが無い。

”どうしやした? オヤブン”

 私はどう答えていいものか窮してしまった。とりあえず何でもないと返事をすると片目アイパッチ骸骨はそれ以上追求してこなかった。それにしてもなぜ親分なのだろうか。どうせなら艦長と呼んでもらいたい。

”おお、いつものオヤブンだ””よかった。よかった””ひしゃくくれー”

 私の呟きが耳?に届いていたのか、その場の重苦しかった空気が少しだけ軽くなった。しかし、あの貝枝って霊は結構苦労していたのかもしれない。陰気な野郎ではあったがまじめそうではあったし。

”オヤブン、事態は深刻だ。艦は霊媒の攻撃でかなり損耗している。”

 霊媒? …ああ、美神さんのことかと納得し、片目アイパッチ骸骨の話に耳を傾けた。どっちにしろ自分ひとりではこの幽霊潜水艦をどうする事も出来ないから、不信に思われないように相応の対応をしておかなければならない。ただでさえ狭い艦内でこれだけの霊や妖怪に襲われてはたまらない。

”オヤブン…”

 しかし、あの時の美神さんの攻撃は対した有効打にはならなかったと思っていたのだがそうでもなかったらしい。表面上はそうでもなかったが内面でかなりのダメージがあったようで、今攻撃を受けたら一溜まりもないらしい。特にあの鱶町老人とは毎年やりあっているのでどういった手段と装備を持っているか熟知しているというから信用できる話だ。

”オヤブン、てばよ!”

 それに問題は美神さんだ。この艦は私達の、いや美神さんの乗っていた船を攻撃した。つまり美神さんにケンカを売ったということだ。そんな艦をあの美神さんが放って置くはずがない。例え攻撃を命令した首謀者、貝枝が居なくても…って、貝枝はどうなったんだろうか? 多分、私が連れ去られる時にうらや…じゃない、しがみついたりしていたから、もうこの世には居ないのかもしれない。

”オヤブン、聞いてやがるのか!”

 だいたい私が乗っていたからってあの人が攻撃を躊躇するような事は想像がつかない。あの人はやる時はやってしまう人だ。抹殺すると決めたら電話回線で米軍のミサイルを出前したり、どこからか調達してきた核ミサイルを打っちゃったりする人だ…って、あれ? 何でそう思うのだろうか。だいたい核ミサイルなんて美神さんが持っているなんて聞いた事はない。何だかここ最近、知っているはずのない事を知っているって思い込む事が多くないだろうか?

”シカトすると? オヤブン…酷いぞ””オヤブン、酷いでやんす””ひしゃくー”

 はっ! しまったついつい考えにふけてしまっていた。ようやく彼らの嘆きに私は気づき、大慌てで謝った。このやばい状況を打開する方法が一つだけあるという。さりげなくその方法を聞いてみた。

 艦を修復するには大量の霊力が必要で普段なら自然にしていれば残留思念やら自然の霊気を取り込んで自己修復するらしい。その辺は非常に便利だ。だが今回のような場合で急速にとなるとそうもいかないらしい。ではどうするのかというと…

”この艦の船魂にこの艦に乗っている誰かを捧げる”

 …大変ヘビーな方法であった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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