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GS美神 リターン?

 Report File.0066 「幽霊潜水艦ピ−13 未だ戦争は終らず その3」
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 私としてはもうどうでもいいような気がするのだが、老人の話はまだ終わらない。年寄りの話が長いのは普遍ともいえるのか。そういえば、うちの爺さんも、昔に小遣い欲しさに話に付き合ったのだが、延々と話されて気がつけば夜中まで話されて貴重な夏休みが丸一日つぶれたことがあった事を思い出した。

「そして霊となった今も海の亡霊どもを配下に非道を繰り返す」

 老人の弁に段々と熱意が込められていく。だが私にしてみればどうでもいいことなのでそれに反比例して冷めた目で見ていた。どうも美神さんも同じようで目を細めている。ただ、おキヌちゃんはすごいですね〜と感心していた。

「何と残忍で冷酷で非常識で愚かしい奴じゃろう!!」

 ぐぐぐ、と決意を込めて拳を握り締めて掲げた。

 老人は意気込んでいるが結局の所、あの幽霊潜水艦はこの老人によって誕生したともいえなくも無い。はた迷惑なことである。

ゾクッ!!

 気分が白けきっていた私に突然、強烈なプレッシャーが足元、いやもっと下のほうから感じた。それは美神さんも同じようで私と同じく身構え警戒した。

「世界平和のためにも奴は我が手で…」

 そんな私達に気づかず老人は一人盛り上がっていた。私の背中に悪寒が走る。こいつは多分あの幽霊潜水艦のものだろう。それはぐんぐんと近づいてきていた。まいった、予想以上に強力な霊気を感じた。それだけで自分ではどうこう出来るようなレベルのものではないと痛感する。ちらりと師匠たる美神さんを見ると唇をにやりと歪め、おキヌちゃんから道具を受け取り、どうしてくれようかと嬉々と準備をし始めていた。やる気満々……私は嘆息すると先程、おキヌちゃんから受け取った愛用(といってもまだそれ程使い込んでいない)の神木刀を握り締めた。

ザバッ!!

 来ると思った瞬間、船のそばの海面が盛り上がり、幽霊潜水艦が姿を現した。

”「「「!」」」”

 幽霊潜水艦はこちらが乗っている船と接舷できるほどの距離に浮かび上がってきており、それを間近で見るのは迫力があった。そして何よりも霊的存在であるだけに兵器としての禍々しさも醸し出していた。

 その雰囲気に私は鳥肌が立ち、呑まれそうになってしまった。そんな臆病な私とは違い、美神さんは幽霊潜水艦が放つプレッシャーにも臆する事無く警戒していた。

ガシャッ!

”勝手な事ばっかぬかすなぁぁーー!! このくそ爺!! 黙って聞いてりゃ勝手放題いい並びやがって”

 おそらく幽霊潜水艦の艦長で老人が説明していた貝枝という男が現れるなり、老人に怒鳴った。確かに老人の言う通り、陰湿で執念深そうな感じがした。

「ムッ! 貝枝かぁ!!」

 ここで逢ったが百年目とばかりに老人は気炎を吐いた。

”大体、てめーの方こそモノホンの爆雷落として俺の艦を沈めたじゃねーか!! 俺が死んだのは誰のせーだと思ってやがる!!”

 貝枝という亡霊は今にも老人に殴りかかりそうな勢いで老人の今までの言葉を否定し、かつ弾劾した。

「フン! おめーが先に撃ったから、わしはやむなく応戦したまでじゃ!! 逆恨みとは大概にせいっ!!」

”いーや、先に撃ったのはてめーだろうが!!”

「何をほざくか。おめーの方だ!!」

”いーや! 貴様が先に撃った!!”

「おまえじゃ!!」

”この嘘つき野郎!! だいたいてめーは子供の頃から気に食わなかったんだ!!”

「こっちの台詞だ! バカヤロー!!」

 両者は共に己が正しいと主張しあい、罵り合っていった。流石にこの状況には私達もげんなりとした。温厚なおキヌちゃんも唖然として老人達の口争いを眺めていた。

「……あの二人。小さい頃からあんなだったのかもね」

 私は美神さんの言葉にうなずいた。確かに顔を会わせれば口汚くののしりたくなる関係というのはあるものだ。私にも覚えがある。あの長髪似非紳士、今度会ったら絶対ギャフンと言わせてやる! って…あれ? 長髪似非紳士って誰のことだ? うーむ、長髪野郎な人物に覚えは無いな…何でそう思ったんだろうか?

「まあ、いいわ。折角の隙だし、活用させてもらいましょうか…」

 私が自分の思考に少々疑問が生じ、首を傾げていたら、美神さんは先程受けた屈辱をはらすべく動いた。今回の仕事で持ってきていた手持ちの道具の中で一番強力なお札を取り出した。そのお札には「対艦超強力」と書かれていた。おそらく、幽霊船…しかも戦艦等への強力なもの用に用意された特別製だろう。滅多に使うものではないから多分、オーダメイド。幾らするんだろうあのお札…私の給料の千倍は下らないに違いない。

「これでもくらえっ!!」

 美神さんは怖い笑みを浮かべて言い放った。

”!! しまった!! 霊媒か!?”

 老人との言い争いに夢中になっていた貝枝はお札が発動する直前になってやっと気づいた。だがもう遅い。美神さんの持っていたお札が薄っすらと霊光を放ち、封じられていた力が美神さんの霊力で増幅され解放された。

カッ!!!

 貝枝の助っ人とはヒキョーなっ!! という絶叫と共に辺りを光が覆い尽くし、続いて爆音が辺りに響いた。その爆音はかなり大きく私の耳にもダメージを与えていた。

「「なっ!?」」”はい?”

 眩しさから瞑っていた目を開いて見ると、そこには多少所々、傷ついてはいるものの未だ健在な幽霊潜水艦があった。あれ程の強力な霊撃であれば大破して海の藻屑と化していてもおかしくは無い。少なくともそんじょそこらの霊どころか一般に悪魔とか呼ばれている下級魔族ぐらいなら問答無用で消滅するぐらいの威力だったはずだ。

ひゅーーん、べしょっ! パサッ!

 驚愕している私達のそばに何かが落下してきた。そちらの方を見ると貝枝だった。霊だというのに半分物質化していたせいか、死に体になっていた。足がぴくぴくと動いている様はどこぞの黒い物体の死に際みたいで嫌だった。その呟きがおキヌちゃんに聞こえたのか無常にもでも横島さんもよくそうなってますよ? などと言われてしまった。

「なっ! なんでよ! 幽霊潜水艦が健在だったのはまだ納得できるわ! それなのになんでこいつが無事なのよ!!」

 美神さんは無事と言っているが見てくれは帽子はなくなり、髪は黒焦げてチリチリに制服もボロボロであり、とても無事には見えない。そんな怒りを貝枝にぶつけ、ゲシゲシと蹴り始めた。

「こら! そいつに止めを刺すのはわしじゃ!」

”うわっ! 貴様ら…や…めいっ!”

 老人もまた追い討ちをかけるように一緒になって蹴り始めた。流石に私自身は参加する気にはなれなかった。それはおキヌちゃんも同じようで蹴られている貝枝を気の毒そうに見ていた。そんな時私はふと自分の足元に落ちている軍帽が落ちていた。

 その軍帽をおもむろに拾い上げ、見てみるとこれは確か貝枝が被っていたものだった。あの爆発に巻き込まれたはずで貝枝と同じくボロボロになっていてもおかしくないのだが、この軍帽は無傷だった。

 ふむと少し私は考えて被ってみた。私も男であるからにしてこういった類の軍帽には少し憧れを持っていた。軍帽のサイズは幸い私にはぴったりだった。

 やっぱりこういうのは私には似合わないかと思っていたら、いきなり冷たい何かが私の右腕に絡みついた。

「へっ?」

 何なんだとそちらを向くと私はひっと短く悲鳴をあげてしまった。それはそうだろう。ほとんど度アップで海賊姿に片目をアイパッチで覆った骸骨に掴まれていたのだから。驚きで硬直している間に左手も何かに掴まれ、足も右左と次々に掴まれ体を持ち上げられた。何が何だかわからないが私はどうやら捕まってしまったようだった。って、滅茶苦茶やばいじゃないか!?

”オヤブン、確保!!””ひゃひゃ〜””ひしゃく〜””横島さん!?”

 私を捕まえた霊達は一声叫ぶと持ち上げた私を瞬く間に幽霊潜水艦へと連れ込まれてしまった。私が去る方向からおキヌちゃんが私を呼ぶ声が聞こえた。

 一体私はこれからどうなるんだろうか?


     *


”オヤブン、確保!!””ひゃひゃ〜””ひしゃく〜””横島さん!?”

 夢中になって貝枝をしばいていた令子の耳に嬉々とした霊の、キヌの悲鳴が耳に入った。

「えっ? 何?」「何じゃ?」

 令子達は声のしたほうを見ると横島が霊たちに担ぎ上げられて幽霊潜水艦の方へ拉致されようとしているのが目に入った。

”で、でかした………ぐひゃ!”

 貝枝は部下達の行動を誉めた。ただし、令子の注意が逸れたとはいえ半場、無意識にしばきは続行されていたので貝枝は痛い目に遭い続けていた。ただ老人の方はしばきは止まっただけましかも知れないが、貝枝にとって痛いという事だけでいえば令子が8割方占めていたので大して変わらないのかもしれない。

「ま、待ちなさい!」

 流石にこの状況はやばいと感じた令子は追いかけようとし、慌てたのがまずかったのか隙ができてしまった。

”させるか!”

ガシッ!!

 貝枝が隙を逃さず令子の足を抱え込み、妨害した。一気に霊たちの方へ詰め寄ろうとした状態でそんなことをされた令子はたまらない。勢いよく駆け出そうとした折にバランスを崩されたのだ。結果…

ズシャ!

 顔面から前のめりに倒れた…

”み、美神さん!?”

 余りの事にキヌは悲鳴をあげた。令子は倒れ顔を伏せたままヒクヒクと体を震わせていた。

”ははっ! ざまあみろ!”

 自分を痛い目に遭わせていた女に一矢報いる事ができた貝枝は歓喜の念をみせた。

「ああっ!? み、美神さん!! あーーっ!! てめーー、何てうらやましいことしやがる!! そのフトモモは俺んだーーーーっ!!」

 貝枝が令子の太ももにしがみ付いているのを目撃した横島の叫びが聞こえるが、それは途中で幽霊潜水艦の中へと消えた。

”急速潜航!! 急速離脱!! 急げ!!”

”ひゃひゃぁ!!””ひしゃくーー!”

 本来なら聞こえるはずのない幽霊潜水艦からの声が聞こえその言葉どおりに幽霊潜水艦は行動を開始した。

”お、おいっ!! ちょっとまてっ!?”

 部下たちの行動に貝枝は大いに焦った。このままでは置いていかれると急いで令子を放し、幽霊潜水艦に戻ろうとした。が、そうはいかなかった。

ズシャッ!!

今度は貝枝が倒れていた令子に足首を捕まれてこけたのだ。

「………」

 倒れた貝枝と入れ替わるように令子がむくっと無言のままに立ち上がった。冷静に見れば顔を打ってしまった事で赤くなり、涙目になっているのが一寸可愛いと感じるのだろう。

「!」”ひっ!””はうっ!”

 だが、彼女の纏う雰囲気がその場に居るものを戦慄させ、気付かせる余裕を奪い去っていた。風もないのに令子の長い髪がふわりと広がり揺らめいていた。

「………」

 普段の令子であれば貝枝の姑息な手段に嵌まるへまはしなかっただろう。令子は自分の不甲斐なさを一瞬感じたが、それは直ぐに勝手な言い草をした横島やそれを感じさせた貝枝への怒りとして転嫁させた。

”あがが…”

 貝枝は無言の圧力が自分に降りかかっている事で、先ほどまでの気分の高揚は一気に逆転し、今や背筋が凍るほどの恐怖を感じガタガタと体を震わせていた。自分が愚かな行為をした事で死刑執行へのサインをしてしまった事に今更だが気付いてしまったのだ。

「…地獄に落ちろ…」

 よっぽど思う事があったのかいつもの台詞ではなかった。

”ひぃーー!”

 プレッシャーに金縛りにあってしまったかのごとく貝枝は動く事ができず、悲鳴を上げた。

 ドバキャッ!! っと令子の振りかぶっていた拳が渾身の一撃として貝枝に叩き込まれた。

”ぶぎゃっ!”

 貝枝は情けない声をあげた。だがそれで終わりではなかった。2撃、3撃と次々に叩き込まれていったのだ。貝枝の地獄への体感は始まったばかりだった。

”よ、横島さんが、連れていかれちゃった…”

 キヌは背後で恐ろしい展開が始まっているのを気にせず消えた幽霊潜水艦の方向を見ていた。幽霊たる自分には何もできないのが口惜しいとキヌは唇をかんだ。

”ぐああ、や、やめ”

「ぶっ! こ、こら、ぐべっ! 貝枝!! わしを! ぐはっ! 盾にするな!!」

「くっ!! このっ!!!」

 何時の間にやら老人・鱶町も令子の制裁に巻き込まれていた。事態はより深刻となっているはずなのだが終わりそうになかった。

”横島さん…どうか無事で…”

 キヌは祈った。とりあえず横島を救出するには令子に頼るしかないのだがあの状態になっているのでは気が済むまではほうっておくしかなかった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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