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GS美神 リターン?

 Report File.0007 「初仕事! 洋館に住む悪霊を除霊せよ!! その1」
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ぜぇーっ、ぜぇーっ、ぜぇーっ

(く、苦しい。キツイ、きつすぎるぞ!)

 言葉に出す気力もなくただ喘いでいる少年、名を横島忠夫と言う。GパンにGジャンと活動しやすい格好であり、トレードマークとしているのかバンダナを着けている。見てくれははっきり言って平凡であり、貧乏くさい雰囲気をまとっていた。そんな彼がこれ程苦しんでいる原因はズバリいうと自分の体重よりも重いリュック(しかも後ろから見れば横島がぜんぜん見えないくらい大きく詰め込まれている)を背負いかつ手にはトランクをそれぞれ片手に一つずつ持っていた。総重量は、彼の体重の2倍はあるのではなかろうか。

 それに追い討ちを掛けるように悪天候であり雨が降っていた。両手が塞がっている為、傘をさせるわけがなく、まだ雨合羽があればぬれる事もないが、それを用意できるほど彼に金の余裕は無かった。もちろん、雇い主が雨合羽を用意するほど親切なわけでも無く、結果、横島は雨でずぶ濡れになりながら荷物を目的地に運んでいた。

 ある意味それを持ち歩ける時点でこの横島という少年が例え見た目に冴えない平凡な人間に見えても常人よりも身体能力がずば抜けていると推察できる。が、彼の雰囲気がそれがとても凄い事だと意識させなかった。

(何で俺はこんなきっつい事をやってるんだっ! くそっ!)

 横島は心の中でおおいに悪態をついていた。

「大丈夫ー!? 横島くーん。重くない?」

 そんな彼に一寸甘い声で気遣いを見せる女性が居た。この女性こそ横島の雇い主でありGSを目指す為の師匠でもあった。名を美神令子と言う。彼女はGSとしても若手でありながら早くも業界No.1と呼ばれるぐらいの能力を持っていた。それに加えて十中八、九の人は振り返るのではないかと思えるぐらいの美貌を誇っていた。天は二物を与えずと良く言われるが彼女だけは例外のごとく何物も持っている才媛だった。そんな彼女は全ての荷物をGS助手であり弟子でもある横島忠夫に押し付け一人傘をさして優雅に現場へ向かっていた。そう彼女はこれから除霊作業をするのだ。

「大丈夫っス! うわははははははーーーっ!!(ちくしょー! そんな声で言われたら大丈夫としか言えんやんけーっ!)」

 さすがに限界近く、また雨に打たれて気力が萎えかけていた所にこのてこ入れである。横島の本能が奮い立ち再び足を運び始めた。

「さすがよね、横島クン。元気でいいわー(本当、使いであるわこの子。最初はどうかと思ったけどあれだけの荷物を一人で持ち歩けるとは思わなかったし)。給料少なくてごめんねー」

 そういいながら令子は髪を掻き上げて横島にウィンクを一つ送った。

「うははは、いっやー、このくらい当然っすよー。末永くおそばで使ってください。おねーさま!!」

 横島は打算的な言葉を吐きながら必死に令子に着いていった。

「ついたわ。ここよ!」

 そう言って令子は古びた屋敷の門の前で立ち止まった。横島も立ち止まり屋敷を見上げた。

「都心にもこんな所があったんですねえ・・(うわー、いかにも出そうな雰囲気じゃないか−−−本当なら平凡で善良な若者が関わらないって言いたい所だが俺、GSを目指すことになったからなー。これが初仕事、初現場なんだよな)」

 横島は武者震いなのか震えを感じた。

「(ふーん、一応気付いていないようだけどこの場に発する霊力には反応しているんだ・・)取り壊そうとすると関係者が次々と謎の死を遂げるので30年前からこのままよ」

 横島の反応に少し感心しつつ今回の仕事の背景について語った。

「やっぱ悪霊の仕業ですか」

「何人もの霊能者が除霊に失敗して不動産屋も頭を抱えているわ。で、美神令子の除霊事務所の出番てわけ! じゃ、悪いけど傘もってくれる? この門の鍵開けるから」

 そう言って令子は持っていた傘を横島に渡して門の鍵を取り出しあけ始めた。横島は令子が雨でぬれないように傘をさした。横島自身は雨に濡れたままであったが気にしなかった。それよりも煩悩を優先していた。

(しかし、ええケツやー。何れこのケツを自分の物にでけたらええのー」

 一寸、令子が前屈みになり自然とお尻が突き出される事になる。それを横島は見つめつつ妄想に耽った。本来ならそこまで無粋な視線を受ければ感付く筈なのだが如何せん令子は今までそう言った視線を浴びてしまう事が多かったしそれを逆に武器としていたんでその辺は鈍くなっており気付かれなかった。ついでに声に出していたのだが小声だったためか令子には届いていなかった。聞こえていたらただではすまなかったであろう。運が良かったと言える。横島自身は声に出していた事には気付いていなかった。

じゅる

「いけね」

 横島は妄想のし過ぎか涎を垂らしてしまい慌ててぬぐった。

ガチャ

「さあ仕事よ」

 そう言って横島より傘を受け取った令子は門を開いた。

ゴクッ

 横島は初仕事に生唾を飲み込んだ。

「よっしゃ、ここが俺の栄光への道の第一歩なんや」

 そう言って一歩を踏み出した。

ズルッ

 しかし、そこは泥濘になっており見事に滑った。

「うわっ!」

べちょ

 横島はバランスを崩し見事に泥まみれになっていた。前途多難な第一歩となった。

「何やってんのよ? 先が思いやられるわね・・とっとと立ちなさい。いくわよ!」

 令子は物音に振り返り、泥まみれになった横島にため息を吐いた。

「へい」

 横島は立ち上がり令子の後を追った。

 玄関前まで来るとそこには屋根があったので濡れずにすんだ。そこで横島は濡れた服などをタオルで拭いた。

「横島クン、開けて」

 令子はポケットから屋敷の鍵を取り出し横島に渡した。

「判りました」

 横島は受け取った鍵を使い扉を開こうとする。が、鍵を鍵穴に入れて回そうとしてもビクともしなかった。

「どうしたの?」

 何時までたっても開けない横島に不審さを感じたのか令子が尋ねた。

「ド、ドアが・・・錆付いてんのかな?」

その時、二人に突風が吹いてきた。

”・・・・・・ち・・・・・・さ・・・・・・・”

「「!!」」

 その風にのって誰かの声が聞こえた。その瞬間、横島はゾクッと悪寒が走った。嫌な気配が目の前のドアからした。横島がその嫌な気配の方に眼を向けた瞬間、そこが急に盛り上がり巨大な顔が現れた。その顔は怒りに満ち溢れていた。

”立ち去れ・・・・・!!”

「あ゛わ゛え゛お゛ーーー!?(これが悪霊かーーーっ!)」

 横島は驚きの余りに日本語を話していなかった。

”死にたくなければ失せろ・・・!! ここはワシの家じゃああーーっ!! 近づく奴はブチ殺したる!!”

 ラップ音と共に唸りを上げた。

 余りの迫力に横島はのけぞってしまう。

「ば、ばかっ」

 それを見た令子は悪霊に飛び掛かった。

”今すぐ・・ぶっ!””

ゴキッ!!

 令子は何かを言おうとした悪霊の言葉に耳を貸さず飛び込んだ勢いのまま膝蹴りを悪霊にお見舞いした。何かがつぶれる音がする。その勢いがそのままドアに及んだ。

バタンっ

 ドアの蝶番が壊れてそのまま家の内側に倒れた。その勢いで降り積もっていたホコリが宙にまった。

「こ、このバカっ!! 悪霊を前に隙作っちゃダメじゃない!」

「ひっ・・・ひええっ!!」

 横島は先ほどの悪霊になのか令子の見せた膝蹴りの威力になのか悲鳴をあげていた。両方かもしれない。

「もう・・・開いたわよ(まあ、最初だから仕方ないか・・・フォローが大変ね。早いとこ足を引っ張らない程度には鍛えないといけないわね)」

 横島の様子にこの先大丈夫かと不安がよぎる。

「い・・・今の顔!?」

「鬼塚畜三郎、死んだこの家の主よ(動揺は見えるけどそれも直ぐ収まりそうね。今までの奴等に比べればましか)」

 令子は今までに雇った助手達と比べて横島を少しだけ見直した。横島は先ほどの恐慌状態から立ち直りつつあった。

「残忍非道、冷酷無比。その凶暴さで10代にして一大勢力を築いた犯罪組織のボス! 32歳の時、この家で部下に殺されたらしいわ」

 そう言って令子は懐より鬼塚畜三郎の写真を出して横島に見せた。その写真にはいかにも強面でボスらしく悠然と構え睨み付けた姿が映っていた。写真とはいえその眼光の鋭さに横島は少々びびってしまう。

「気に入らないものは見境なしに殺しまくり、この家だけでも1日平均1.42人が殺され続けたそうよ。あんまり酷いんで部下もついていけなくなったんでしょうね。あんたの様な奴は真っ先に殺されるかも」

 そんな横島に令子は話を続けた。

「ひええ」

「でもまあ死んだらあの通りかわいいもんよ! パッパッパーと祓っちゃいましょ!」

 令子はニコニコしながら言った。

「・・・かっ・・かっ・・かかか(かわいいって、このおねえさんどんな感性を持っているんや)」

 令子の言葉に横島は令子の感性がまともでないと思った。

「いい、悪霊ってのはね幽体のみで存在するんだから祓おうとするならこちらも霊能力による幽体への攻撃しか有効打にならないわ。だから、一般人は奴等悪霊には手も足も出ないの」

「それなら悪霊も人間には危害が加えられないんじゃ?」

 横島が令子の説明に疑問を抱き質問した。ただし、横島の体は令子から遠ざかっていた。即ちこの屋敷の入り口の方へ。

「人間は・・・って、何処行く気?」

 すっと令子は目を細め横島を睨んだ。

「あ・・・いや・・・アパートのガスの元栓が気になるんで、その・・・」

 横島の顔は青ざめていた。

「・・・・・・(まったく世話の焼ける奴)」

 令子はその横島の様子に着ていたコートを脱いだ。横島の視界に令子の魅惑的な姿を捉えられた。その瞬間、横島の反応は顕著に現れた。逃げ腰だった態度も何処へやら令子の前に詰め寄っていた。

「(単純な子ね)怖いのはわかるわ・・・初仕事ですものね。でも心配しなくてもいいのよ。私がそばに居るでしょ?」

 令子はこの最近出会った横島の操縦術を既に身につけていた。嬉しくもなんとも無いだろうが。

「犬と呼んで下さい。おねーさま」

 令子の女のフェロモンにやられたのか横島は先程感じていた恐怖も消え失せていた。心なしか本人の言うように犬の尻尾を振っているように見えた。

(バカな子ほど可愛いと言うけど、こうも素直に態度に現れるとわね・・・)

 横島の余りの変わり身の速さに令子はあきれた。

「いい? 良く聞きなさい。人間は大きく分けて肉体と幽体に分かれるわ、悪霊は幽体に対して攻撃を掛けてくるの。幽体が傷つけられれば肉体も引きずられるように傷つくの。幽体を守るのは霊能力にしかできないから霊能力を持たない一般人は悪霊に対して無力なの。わかった?」

 令子に聞かれてコクコクと横島は頷いた。

「なんかずるいですね。一方的になんて」

「だからこそ、それを防ぐための職業、すなわちゴーストスイーパーが成り立つの。もっとも霊能力を持っていれば誰でもGSになれるわけじゃない。霊能力だって無限にあるわけじゃない。使えば当然消耗するわ。そうなれば悪霊に対する防御手段を失い霊能者でも一般人と変わりなくなるからね。その辺のことを理解できてかつ有効に霊能力を使えるものだけがGSになれるの。良い? 横島クンも霊能力を持っているけど今は使いこなせていない。だからこれからしばらくは横島クンは霊能力を使いこなせるようにするのがとりあえずの目標よ」

「でも、俺は霊能力の出し方も知らないっすよ?」

 令子の言葉に横島は不安を顕わにした。

「そんなの判っているわよ。今から一寸したコツを教えるわ」

「へい」

「先ずは拳を握る」

 令子は説明しながら拳を握る。

「へい」

 横島も令子と同じようにする。

「後は拳に気合を入れるのよ」

「そ、それだけっすか?」

「そう、それだけ。こういう風にね!」

 そう言って令子は拳を突き出す。その拳には薄っすらと霊光が放たれていた。

「うぉっ! 拳が光ってる!」

 それを見た横島は驚いた。

「わかった? やってみて」

「わかったっす! それっ!!」

 横島は令子と同じようにしてみるが拳は光らなかった。

「ダメっす・・」

「違うわ。横島クンは私の拳に纏う霊光が見えた。それは確実に横島クンが無意識に霊能力による霊視を行っている証拠よ。あなたに足りないのは集中力よ」

「集中力っすか・・集中・・・集中・・・」

 横島は集中しようとしていたがその時、ふと令子の胸の谷間が視界に入った。その瞬間、横島の集中力が否応もなく高まっていった。令子は不躾な視線に気がついたがそんな視線は仕事の上で何度も浴びてきたし成功するなら良いかと今回は見逃す事にした。

「集中ぅっ!」

 横島がそう言って拳を突き出すとそこには令子が見せたよりもはっきりと拳に霊光が纏われていた。

(すごい! 予想以上だわ。これだけの強い霊光なら霊能力の無い一般人にも見えるはず・・・先生の言うとおり素質はありそうね)

「できた! できたっすよ!」

 横島は飛び上がって喜んだ。自分がやった事がどれだけ凄い事かは理解していない。大抵の霊能者は霊能力のない一般人に霊光を見せる事ができないのである。それ故に胡散臭げに見られたりする事もしばしばある。

「よくやったわ、横島クン。でも、これはまだほんの一歩よ。それをどんな時でも一瞬で体のどの箇所でもできるようにしないといけないわ」

 令子は喜んでいる横島を褒めるが調子に乗らないように釘を刺した。

「あっ! さっきの膝蹴りですね?」

「そうよ、よく気付いたわね。何処にでも霊力を体に纏わせる事で悪霊相手に格闘を試みる事ができるわ。もっともこの方法はGSにしてみれば最後の手段よ。本来はできるだけ消耗を避けるためにお札や神通棍等の霊能力補助道具を使うの。もっともその道具もある程度の技量が必要だから今の横島クンには使えないけど。とにかくこの方法は攻撃や防御にも使えるから疎かにしちゃダメよ」

「わかったっす」

「まあ、先ずは慌てず今の方法で拳に確実に霊力を纏わす事をマスターしなさい。」

「へい」

「さあ、とっとと片付けるわよ。時価数百億の不動産がらみですもの!! ギャラが入ったら横島クンにも特別支給してあげるからね!!」

 ぐっと拳をあげご機嫌そうに令子は言った。

(・・・できれば特別支給でなくその色っペー体で払って欲しい・・・)

 その様子を見た横島はそう思ったが実現できるはずも無いのだ。特にこの美神令子と言う人物に関しては。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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