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GS美神 リターン?

 Report File.0008 「初仕事! 洋館に住む悪霊を除霊せよ!! その2」
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ピカッ! ゴロゴロゴロ

 外は嵐が来たかのように荒れ雷が鳴っていた。

「こいつは参ったな・・・(くそっここが幽霊屋敷でなければ、美神さんと二人っきりなのに。若い男女が夜に二人っきり・・・くっ、惜しい、実に惜しい」

 横島は窓を見上げ拳を硬く握り締めて涙した。

「横島クン、聞こえてんだけど・・・それにあんたとは絶対にありえないわね」

 令子は横目で横島を見て言った。

「ド畜生!」

「悔しがるのは良いけど早く準備してくれる? でないと給料下げるわよ?」

「・・・はい」

 雇い主の言葉に横島はおとなしく従うしかなかった。

 横島は作業の証拠を取るためビデオカメラを用意し撮影準備に入った(ついでに編集して除霊の教材にしようと令子は目論んでいる)。ビデオカメラを覗くうちに横島の機嫌は直っていった。

(でへへ、良いチチや・・・)

ビデオカメラのファインダー越しに令子の体を観賞できたからである。横島は自然にビデオカメラのズーム機能を使って令子の胸の辺りを映し、眼の保養をしていた。令子は横島のそんな態度に気付かず交霊の準備を進めていた。令子は屋敷に残っていたテーブルと椅子を部屋の真ん中に移動し、交霊術で使用する為の蝋燭を用意する。

「いい? 始めるわよ!」

 令子の言葉に横島は慌てず事前に目星を付けていた位置にビデオカメラをセットしレンズを向けた。

「OK! ばっちしっす」

 横島はビデオカメラを操作し録画し始めたのを確認して言った。

 それを聞いた令子は蝋燭に火をつけ瞑想し心を落ち着けた。部屋に静寂が訪れビデオカメラが回っている音だけが響いた。そんな中、令子は交霊術を行使する。横島も始めて交霊術を目にするので自ずと興味がわき彼にしては珍しく息を飲んで見守っていた。ビデオカメラのファインダー越しだが。

「・・我が名は美神令子。この館に棲む者よ、何故死してなお現をさまようのか? 降り来たりて我に告げよ」

ビクッ

 横島は何かが近づいてくる気配を感じた。

「ん・・・あっ!!」

 その時、令子より色っぽい声が漏れた。心なしか頬が紅潮している様に見える。

「おおっ!!」

 横島は令子のその艶っぽい表情にかぶりつく様に令子に近寄った。

”んぐおーーっ!!”

その途端、ファインダー越しにいきなり、先程の入り口に浮かんだ顔がドアップで写った。

「どあーーーっ!!」

 艶っぽい令子の表情が怨讐漂う顔にいきなり変わり横島は悲鳴をあげた。

”なめとったらあかんどーー!!”

 悪霊の怒声ともいえるものが聞こえると共に部屋に圧迫感が生じる。

”帰ーれっちゅうとんのにズカズカあがりこみゃがって、ドタマかち割ってらっきょの入れもんにしたるど、ボケッ!!”

「ひぇーーーっ!」

 余りの迫力に横島は腰が砕けた。

”このワシに出て来いっちゅって命令さらしたクソガキャおまえかいっ!?”

「ひぃぃーっ。ごめんなさい、ちがいますっ!!」

 更なる押しに横島は泣きが入った。

”おんどれアンダラっとったらかんどコラ!!”

「ああっ、そのとおりです。スンマセン!!」

 迫りくる圧迫感に横島はパニックになりこの危機から抜け出そうとやってもいない事を認める発言をした。

「まったく、日本語で話しなさい、日本語で!」

がっつん

 令子は悪霊を踏みつけた。だがその音はまるで鉄の靴底で踏み鳴らしたように硬い音だった。

「おおっ」

 横島は令子が悪霊を踏みつけにしたのを見て恐慌状態より復帰した。というのも、令子が踏みつけた拍子にチラリと見えたのだ白いのが。

ゲシッ!ゲシッ!

「人がせっかく話し合いをしてあげよーってのにケンカ腰はやめなさい」

”うぉぉ! それが話し合いの態度かーーっ!!”

「あ、悪霊を足げに・・(しかし、美神さん・・白か、今日はついてるよな・・・)・はっ! そうかこれがさっき言っていた事の応用かっ!」

ぐりぐり

 横島が見てる間にも令子は悪霊をいびりたおしていた。

”おんどれワシを誰やと思うてけつかんどんねん!! 泣く子も殺す鬼塚・・”

 悪霊が令子のいびりから何とか脱出し反撃に出ようと気合をいれて口上をたれようとした時、再び令子に踏みつけられた。

「その残りカスでしょーが。なーにを偉そーに」

ぐりっ、ぐりっ

”あああ、ああっ!”

 その執拗さに悪霊は根をあげ始めていた。

(なんだ、さっきは迫力でビビっちまったけど、こうして見ればてんで弱いじゃねーか)

 そんな様子を見て横島はこの悪霊を自分より格下と見た。

「こらっ、オッサン!! さっきはよーもビビらせてくれたなっ!!」

 横島は令子に教えられたとおりに今度は拳ではなく足の裏に集中し悪霊を踏みつけた。

ぐぁーーーっ!

 悪霊は横島に踏みつけられ悲鳴をあげる。先程の拳から発した霊光ほど強くは無いが霊力を纏った足で悪霊を踏みつける事ができていた。

(へえ、さっきまでは全然ダメだったのに・・・しっかり、コツが掴めた様ね。まあそうでなければ、この美神令子の弟子とはいえないものね)

 令子は横島が繰り出した踏みつけを見て少し見直したのであった。悪霊はかなり弱っていた。

”うーーなんでじゃーーなんでワシがこんな小娘に・・・そればかりかどう見てもボンクラの小僧にまでやられるとは・・・”

 悪霊は青筋をくっきりと表面に浮かび上がらせながらも令子らにどうする事もできずに悔しがっていた。

「私はそこらの霊能者とは格が違うのよ! 格が!」

「ボンクラで悪かったなっ!!」

 横島は追い討ちを掛けようと踏みつけようとした。

スカッ!

「消えた?」

 横島は突然、悪霊が消えて戸惑った。

”く・・・くそっ・・・おぼ・・”

 悪霊は捨て台詞っぽいものをのこして気配ごと消えた。

「倒したんすかね?」

 横島は意外にあっけなかったと安心しつつ言った。

「まだよ。一時的に逃げただけ。多分、何かたくらんでいるわ。伊達に幾人もの霊能者を退けてるんじゃないんだから。ここはあいつのフィールドよ油断できないわ」

 気の抜けた横島に令子は注意を促した。

「そうなんですか・・・簡単には行かないんですね」

 横島はこれで帰れると思っていただけにがっくりした。

「そりゃね、そんじょそこらの悪霊なら私やさっきの横島クンの一撃でも除霊できたと思うけど今回のあの悪霊はモノが違うからね。そう簡単にはいかないわ」

 さりげなく令子は横島のことも褒めた。

「じゃあ、どうするんすか?」

 そんな令子の意図を掴めず横島はスルーした。

「長期戦になりそうね。結界をはって相手の出方を待ちましょう」

「結界ですか? あのマンガとかに出てくる?」

「そうよ、その結界。一定の空間を隔離してその空間に何らかの作用を及ぼすようにする術。代表的なものと言うか一般的にはその場を意図した存在が立ち入れない様にするものね」

「じゃあ、それ以外にもあるんですか?」

「有るわよ。例えばそれとは逆にそこから出さないようにする捕縛結界。そのバリエーションとして閉じ込めて敵を殲滅する火角結界とかね」

「へえ、色々あるんすね」

 横島は令子の説明に感心する事しきりである。

「今回はその一般的な方よ。横島クン、荷物から赤いチョークを出して」

「へい、ところでそれでどうするんですか」

 横島は荷物に詰め込んである数々の道具の中から令子に言われたものを出し令子に渡した。

「ばかね。これで結界を構築するのよ」

 令子はそう言って受け取った赤いチョークで円を書き始めた。

「そんなチョークで結界ができるんですか?」

「まあ、本来はこういう簡易結界は術者の血でもって書くのが普通だったんだけど」

「血・・・ですか」

 横島は何を考えたのかぶるっと身震いした。

「まあ、私が治めてる術は結構、西洋魔術から来ているものがあるから血を多用する事もあるのよ。でも最近はこういう血を特殊な製法で固めたオカルトアイテムが出回っているから・・便利になったものよね。それに結界といっても同じ目的のものでも構築する方法は色々有るの」

「そうなんですか?」

「他にはお札によるものとかね。横島クンにはまだ無理だろうけど方法は時と場合によって使い分けるの。お札による結界は手間無くお手軽に結界を構築できるけどコストが掛かるわ、逆に今の方法だと時間は掛かるけどコストが安い」

 令子は横島に説明しながらも結界の構築を進めていく。

「つまり、敵が急に襲ってくる心配が無い時は今やっている方法で除霊中なんかで急に必要な時はお札と言う事ですか」

「まあ、そういうことね。よく気がついたわね、横島クンにしては上出来じゃない?」

「・・すいませんね、頭悪くって」

 横島は不貞腐れた。

「結界を構築する場合その強度はお札はコスト、この赤いチョークでの書き込みによるものは時間と手間によって左右されるのよ。まだ、横島クンには関係ないけど普通は除霊料金に必要経費も含まれているわ。だから、こういう除霊に必要なオカルトアイテムの消費は気をつけておかないと利益がでるどころか赤字になるのその辺も考えながらやらないとGSとしてやっていけないわよ。覚えておきなさい」

 結界を書き上げた令子が立ち上がって伸びをした。

「はい、GSって危険だけどボロ儲けだと思ってましたけどちがうんすね(おおー、いい眺めやー)」

「GSでうまくやっていくには色々な資質が要求されるの。それをどれだけ満たせているかでGSとしてのランクが決まるわ・・・まあ、例外はあるんだけどね」

・・・・令子ちゃ〜ん

 ふと、令子はある人物の声が頭に浮かびこめかみを押さえた。

「どうしたんすか? 美神さん」

「別に何でもないわ。それより寝袋を・・・ひとつだけ出してもらえるかしら」

「え!?(ま、まさか・・・)」

 こんなことを言うなんて恥知らずな女だと思うでしょうけど・・・

 令子は頬を染め、いじらしい姿で俯く。そして何かを決心したのか顔を上げて横島に歩み寄る。

 私のお願い聞いてくれる?

 艶のある声と共に横島の頬に手を添える令子。

(おおっ!!)

 横島は興奮のあまり鼻血を出してしまった。

(は、春だ・・・!! じ、人生の春がーーっ!!」

 横島は嬉し涙を流した。



 それは妄想だった。

「ん、なわけないですね・・・」

 横島は先程、令子が構築した結界に居るように指示された。妄想であったが嬉し涙は本当に出していた横島であった。

「何をとち狂ってるんだか・・・」

 令子は横島の性格が分かってきたらしく何となく想像がついたがそれ以上は言わなかった。

「じゃ、私は隣の部屋で寝るけど、不寝番よろしくね! 結界の中に居れば安全だから」

「そんな・・」

「悪霊は私が相手するんだから体力温存は当然なのよ。じゃ、お休み」

 令子はそう言って隣に

「む、空しい、空しすぎる。期待してしまっただけに余計に・・・」

 横島は先程の嬉し涙が悔し涙に変わった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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