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GS美神 リターン?
Report File.0005 「未来から その5」
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「落ち着いたかね?」
「いやーすんません。ある事を想像したら止まらなくなってしまいまして」
先程の様子から立ち直った横島は頭を掻き爽やかに笑いながら謝った。
((あれが想像かね(ですか)))
だが、そんな横島の誤魔化しにも、先程の横島の様子が頭から離れる事はなく、師と弟子の思いは一緒であった。
「さて、これからどうするかね?」
「そうなんですよね。判らないから相談に来たんすよ」
「再現は無理だよ。あの美神君だよ? キスだって難しいのに・・今回はそれ以上なんだから」
美神については弟子であっただけに、知りすぎるほど知っている唐巣は沈黙した。それは横島も同じである。その為か重い雰囲気がかもし出された。
(うっ! …な、何なんです。この思い空気は!? そこまでの人物なんですか!? その美神令子って方は!?)
この場で美神を唯一知らないピートは戦慄を禁じえなかった。この時のピートへの影響が後々、ある出来事に大きな変化を与える事になるが、現時点でそんなもの誰も知りえなかった。
「(このままでは拙いです)あ、あの別のことなんですが、僕と横島さんとはどういう付き合いなんですか?」
押し寄せる不安を振り払い、重い雰囲気を払拭すべくピートは話を替える為に尋ねた。
「まあ、友達かな? クラスメートだしな」
「「ク、クラスメート!?」」
唐巣やピートは意外な答えが返ってきて驚いた。ピートは学校なんかには通う必要がないので通っていないのだ。
「ピート君が学生を?」
「ええ、確かICPOだったかオカルトGメンだったかに入りたいけど、それには高卒資格が最低でも必要な事が判ったからだとか言ってたっけな」
横島は額に人差し指を当てうーんとうなった後、言った。煩悩に関することなら大概覚えていても、男の事など覚えても得にもならないと思っているが故に、彼にしては珍しいことであった。将来の夢を語っていたが故に印象に残っていたのかもしれない。
「こ、高卒資格ですか? ちょ、一寸待って下さい、確かめてきます」
ピートはオカルトGメンに関する資料を取りに行った。
(横島さんの言う事は半信半疑だったけど、先程の事が本当なら信じても良いかもしれない)
ピートは自分が進みたい道のことを言ったのは、故郷の島にいる仲間でも極親しい者だけであった。その者は口が堅く知る事は難しい。大体、故郷の島の存在は世間には余り知られていない。大規模な結界によってその存在は隠蔽されているからだ。
それ故に外部との交流は無いに等しく閉鎖的な形に今はなってしまっていた。島に出入りできるのはそのお陰でごく一部の者達だけだ。そんな島に旅人が来たともなれば、珍しいと大騒ぎになり、噂として必ずと言っていいほどピートの耳に入る筈だ。だというのにそんな話はここ最近無かったのである。そんな訳でピートは最初は半信半疑であったが横島が未来から来た事を信じ始めていた。
一方、それを見送った唐巣父と横島は話を続けた。
「ついでに唐巣神父や美神美智恵、公彦さんしか知らない事だと思います」
横島は聞いた時の話し振りから、唐巣達、当事者しかわからない話だろうと思って口にした。
「え!」
唐巣はまさか横島から美智恵、公彦の名があがるとは思っていなかったので驚いた。確かに二人は美神令子の両親であるから、令子の弟子である横島が知っていてもおかしくはない。それでも美智恵は故人になっているが故に話題に出るとは思っていなかった。
横島の方はというと、美智恵がしっかり生きている事を知っているが故に、話題にだすことにわだかまりはなかったのだ。
「ええ、あなた達の馴れ初めみたいなものの話です。これは俺が未来であなたから聞いた話です。唐巣神父が…」
横島は話を続けた。もっとも彼はこの話を未来の唐巣から聞いた訳だが途中までしか覚えていなかった。確かに最初は興味も手伝って前半部分ははっきりと覚えていたが、段々と教会の窓からこぼれる光に眠気を刺激され、最後は完全に寝入ってしまったのだ。それでも何とか後半も一応、うっすらと覚えている範囲を話した。
「成る程、確かにそれは私達以外には知るものではないだろうね…」
「はは…すいません。後半は眠気に負けまして聞いてません…」
頭を掻いて横島は中途半端にしか覚えていないことを誤ったが、唐巣としては中途半端でも、当人にしかわからない出来事を横島は話していたし、よく覚えていない訳がこの少年らしいと、かえって横島を信じるに足るものだと思わせるものとなった。
ガチャ
「先生! 横島さんが言っていた事は本当のようです」
勢いよく扉が開き、募集要項を確認したピートが戻ってくるなりそう言った。
「ああ、そのようだね」
「唐巣神父、ピート、俺が未来から来たことを信じてくれますか?」
恐る恐る横島は二人に確認した。
「ああ(ええ)」
横島が自分達を騙しても何の益も無いこともあり、二人は頷き信じたことを示した。
「さて、信じたとはいえどうしたものか…再現は難しいものがある。大体、限られた時間内となれば不可能と言っていいだろう」
唐巣は困り果てた。美神令子を相手にしてあの再現条件は不可能どころか試みただけで殺されるかもしれない。いや、殺されるだろう。
「はは、そうなんすよね。・・あの美神さんですから・・・」
横島もまた、雇用主の性格を把握しているが故に、その試みの行き着く先は否が応でも想像がつく為、途方にくれ力なく頭を垂れた。
「で、この時代に居れそうなのは後どれくらいなんだい?」
「それが、さっぱりなんです。前回だったら段々短くなっていたはずなんですけど。今回は戻る都度に時間は長くなっている見たいなんです。この一歩前ならとうに次に移って……えっ! うっ! は、始まった!?」
横島は突然自分がぶるっと震えるような感覚に陥った。おなかの辺りが熱くなった。
「いや、違う! 何だこれ?」
今までとは違う体の反応に横島は戸惑った。
「何!? 横島君の体から魔力を感じるぞ! ピート君!」
「はい! 先生。僕も感じます」
二人は突然、横島から溢れ出した魔力に警戒態勢をとった。その魔力は横島を包み込むように漂い始めた。
「くっ、何だ! 頭が割れるようだ。う、うわっーーーーー!」
横島は頭を抱え突然叫んだかと思うと崩れ落ちた。それと同時に溢れ出ていた魔力が霧散した。
「よ、横島君!」
倒れた横島に唐巣は慌てて駆け寄った。
「魔力が消えた?」
ピートは魔力が突然消えた事に戸惑った。自分の経験からも先程の魔力はかなり強力なものであったのだが、今では人並み以上に優れた感覚を持つ自分でも、そんなものがあったのかと思えるほど残滓を捕らえる事はでき無かった。
「大丈夫かね!? 横島君!」
唐巣は倒れた横島を介抱していた。
「うーん」
倒れた横島がパチリと目を開けた。
「気づいたかね? 横島君?」
唐巣は倒れていた横島が目をパチクリと開け、気づいた事に一安心し、一息ついた。が、次の言葉に愕然とした。
「えーと、あんたら誰? って、ここは何処だ?」
その言葉に唐巣とピートは顔を見合わせた。余りにもお約束な展開ともいえる、この状況に困惑した。
「先生・・彼は次の過去へ?」
「いや、それは考えられない。もしそうだったなら、彼の存在そのものが私達の目の前から消えているからね。彼の存在自体が消えていくのだから、目の前に居ない所か私達は彼が居たことすら覚えていないはずだ」
「では?」
「ああ、さっきの魔力が原因だろう。彼の様子から見てね」
ここまで魔力の残滓がない以上、とても厄介で強力な術によるものだろう。
「やっぱり、そうですよね…」
ピート自身もそうとしか思えなかった。出自が出自なだけに魔に関しては分野によっては師である唐巣よりもかなり詳しい。
「あんたらなー、何を納得し合っとんのか知らんけど、早いとこ説明せいやー!」
唐巣とピート等が納得し合ってばかりで自分の問いに答えてくれないのに苛立った横島が怒鳴った。
「いや、すまないね。状況を確認し合っていたんだよ。ところで君は何処まで、いや一番最近覚えている事は何かね?」
「はぁっ? どういうことっすか?」
唐巣の質問の意図がわからず横島は聞き返した。
「そうだね、まず私は唐巣、この教会の神父をしている」
「教会!?」
目の前の唐巣と名乗った男の格好を見れば一応、納得は出来るが宗教になんか縁のない自分が教会に居るのか理解できなかった。
「そうだ。それからこちらがピエトロ、まあ親しいものはピートと呼んでいるがね。それでね、言い難い事なんだが、実は君は数日前から悪霊に取り憑かれていたんだよ。だからその確認さ。ここ最近の事は覚えているかい?」
「あ、悪霊!? ま、まじでっ!?」
「本当だとも」
嘘を吐かねばならないことに心苦しさを感じながらも、唐巣は言い切った。表情には出さないがこの事については後で悔い改めようと心に誓った。ピートも相槌をしながらも心は唐巣と同じであった。
「…ちょ、ちょっと待ってくれ。えーと確か、春先に仕送りがいきなり減って、このままじゃ生活できんと確かバイト先を探さないといかんなと思っていたんだよな…」
横島は腕組みして自分の記憶を探り言った。
「横島君、どうやら君は悪霊に取り憑かれて約一週間分の記憶が抜け落ちてしまったようだね」
唐巣は横島の言葉から日付を確認し言った。
「そ、そうなんすか! うわっ、どないしよ。学校を一週間近くも欠席していただなんて!」
横島は唐巣の言う事実に愕然とした。
<先生、どうするんです? そんなでまかせ言って>
「おかんに知られたらどないしよ。下手したらナルニアに連れて行かれてまう!」
あんまりな自体に横島は頭を抱えた。
<仕方ないだろう。どうも横島君は記憶を失っているようだからね。辻褄を合わせる様にしておかないと。だいたい本人が忘れているのだから、本当のことを話したとしても信じるわけがない>
唐巣とピートは小声で話し合った。ピートは確かに真実を話しても信じられないだろうと思った。自分達でも横島の話す事が最初は信じられなかったのだ。辛うじて信じる事が出来たのは自分ぐらいしか知らないような事柄を言われたからである。
「やばい! やばい! ひじょーにやばいやないかーーっ!!」
横島は動揺しまくっていた。
「横島君、その辺は大丈夫だよ。君が今日までちゃんと学校に行っていたのは確認してあるよ。それから私はGSをしていてね。たまたま君が悪霊に取り憑かれている所に居合わせてね、急いでここに運んで処置したんだ」
嘘に嘘を塗り重ねていく事で唐巣の心労負担は増え始めていた。唐巣は心を落ち着けるためにメガネを掛けなおした。
「そうなんですか! ありがとうございます。で、でもGSですか? 祓ってもらっても、俺、お金無いんすけど」
横島はどうやら自分が助けられたらしいと判断してお礼を言ったが、GSといえば金が掛かると言うことを噂で聞いていたので急に心配になった。今の自分は生活を維持するだけでいっぱいいっぱいだからだ。
「それなんだがね、実際の所は私がやったのは、それ程たいした事じゃなかったんだよ。君に憑いていた悪霊は、殆ど君のお陰で弱っていたからね」
「えっ、あの、それはどういうことっすか?」
「どうも君は無意識のうちに霊能力を使ったらしくってねそれで消滅しかかっていた。私がやったのは止めを刺しただけなんだ」
唐巣はどんどん積み上がっていく偽りに、心の中で神に懺悔した。
「俺が霊能力を!?」
何の取得もないと思っている自分にそんなものがあるのがとても信じられなかった。
「そうなんだ。そこで相談なんだが…君にはGSになる素質がある。どうだい? GSを目指してみないか?」
唐巣は真剣な表情で言った。実際にこの目の前の少年は例え記憶を失っていようとも、文珠が使えるという世界でもトップレベルの霊能力があるのだから。
「俺がGS!」
横島は考え込む。
(GSと言えば危険! しかし、それに見合う高収入……女にモテモテ?)
横島の妄想回路が起動した。その脳裏には自分がかっこよく悪霊たちを退治し、おびえる美女に抱きつかれて顔が緩んでいるところが浮かんでいた。また、金持ってんぞとばかりに酒場の姉ちゃんに囲まれてふんぞり返っている自分を。
「(こ、これは、いける。チャンスだ! 男、横島忠夫はGSになる! そうすれば女にモテモテ…)やるっ! やりますっ!」
横島は煩悩丸出しに短絡的にGSになる事を決定した。いいのだろうかこんな簡単に人生の進路を決めて。
「あ、あの横島さん、そこまで気合を入れる必要はないと…」
ピートは横島の態度に脂汗を掻いていた。目の前の横島の態度から自分の中にある美神令子のイメージとある意味重なり、弟子になるべくしてなったのではないかと考えてしまった。
「ははっ…そ、そうかい。GSを目指すことを決心してくれたんだね(よ、横島君もあの美神君と似たもの同士ということか…)」
横島の反応に唐巣も顔を引きつらせた。
「はいっ! 俺はやります!」
気合だけは十分であり、無意識にとはいえ気合を入れた一瞬だけ霊波を発した。その霊波はかなりのもので唐巣とピートは目を見張った。
「わかったよ。本来なら私が面倒を見るべき…いや見たいんだが、今の私はピート君を指導していて余裕が無いんだ」
「そうなんスか?」
「ああ、そこで君はアルバイトを探していると言う事だし、実はいい提案があるんだがね、聞くかね?」
「聞きます! 俺はGSを目指します!」
横島は握りこぶしをつくり、目に炎がめらめらと燃え盛っていた。
「決意が固いのは何よりだ。私の知り合いに丁度、GSの助手を探している者がいるんだ。その人を紹介してあげよう。うまくいけばその人物に弟子入りできる他に、給料も貰えるだろう」
「えぇっ!? 本当っスか!? ぜひ、お願いします」
横島は唐巣の言葉に一挙両得、自分の抱えている金銭面の問題も解決できる話に額をテーブルに擦り付けるようにして頼み込んだ。
「わかったよ」
うまい話には…というのがあるのだが横島はほぼ即決だった。何れそんな性格が災いになるかもしれないなと唐巣は心配になった。実際、未来から来た横島はそれで酷い目にあっているがそんな事もあったと笑い飛ばすような感じだったのでどうって事は無いのかもしれないけども。
<先生、よく話をまとめる事ができましたね。でも、横島さんをどうするんです?>
横島の軽率な行動に対して忠告しようとしたがタイミング悪くピートが話し掛けてきた。
<とにかく美神君に預ける事にするよ。それ以外に今の状態の彼をどうすることもできんだろ。おそらく記憶を失ったのは状況から考えて魔法の類のものだと思うしね。幾ら魔力が強いとはいっても直接操作してはいないから消去はできないはず。できても精々記憶を封印だろう。だから横島君の話によると美神君に縁があるようだし、兎に角、美神君のそばに置いて、それが何かの切っ掛けで思い出すかもしれないからね>
<しかし、時空消滅内服液についてはどうするんです>
<それはもうこの際、無視するよ。私達にはどうすることもできないだろう。第一、発動すれば我々の記憶に残らないからね>
<それしかないんですね>
<まあ、君には高卒資格を取るのも兼ねて、彼の様子を見てもらうべく同じ学校でクラスも同じになる様に入れるよう手配しておくよ>
<本当ですか! ありがとうございます>
「あのー俺、どうすれば良いんすか?」
唐巣とピートがこそこそと話している間、待っていた横島が二人が一段落つけたのを見てとって声をかけた。
「ああ、そうだね。少し待ってくれないか? 連絡を取るから。あ、それからピート君は悪いけど先程の除霊したものを依頼主に渡してくれ。料金はいつもの口座にお願いしますと言っておいてくれ」
「はい、わかりました。先生」
そう言ってピートは出て行った。
「じゃあ、連絡するからお茶でも飲んでいてくれ」
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。