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GS美神 リターン?

 Report File.0004 「未来から その4」
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(…しかし、信じられん。だが、あの美神くんならありえる)

 唐巣は目の前の少年横島がとても信じられないような報酬で、GSという過酷で時には死という事もありえる仕事の助手をやっていたとは信じられなかった。

 どうみても、目の前の少年は確固たる信念も無さそうだし、体力もなさそうだし、それに頭も、それほど良さそうには見えない。それなのに続ける事ができたのだろうかと。

「悪かったすね!」

 横島の叫びに思考の海に沈んでいた唐巣は浮かび上がった。はっとするとそこには不貞腐れた横島がいた。

「先生……口に出ていましたよ…」

「はは…そうかい?」

 唐巣は笑ってごまかすしかなかった。初歩的なミスであったが、それだけ横島の言葉にショックを受けていたのかもしれないと唐巣は反省した。

「俺だって、俺だってなー! 何回止めようと思ったか! だが、その都度その都度、ちらつく美神さんのあの超絶な色気が無けりゃーっ!! うぉーー、チチシリ、フトモモ!!」

 もう、血の涙を流さんばかりの勢いで横島は絶叫した。聞いていればそんな境遇に甘んじているのは横島の完全な自業自得なのだがそれにしたって哀れすぎた。

「これかっ!」

 唐巣は横島の様子を見て納得した。欲望…煩悩と言い換えてもいい。人間と言うのは欲に目が眩むと得てしてとんでもない事を成し遂げてしまう事がある。天才と馬鹿は紙一重などと言われる事があるが、それと同じく信念と欲望も又紙一重といえるからである。どちらも事を成し遂げる為の原動力としては大きくなりえるものなのだ。内容はアレだが非常に納得できるものだと唐巣は得心しウムウムと頷いた。

「たとえ無理目の女でも、いつかは! いつかはーーーっ!!」

 因みに誰も止めなかったので横島は未だ叫び続けていた。

「だめだこりゃ」

 ピートはその様子を見てため息をつくと肩を竦めどこぞのコント集団のリーダーのように言った。


     *


 錯乱したかのように騒ぎ、暫くしてようやく落ち着きを取り戻した横島は話を続けた。

「…まあ、色々とあって俺は単なる助手だったんスけど、霊能力に目覚めてGSの資格を得る事になったんです」

 いやああん時は苦労したよな…と一瞬だけ横島は遠い目をした後、これが証拠ですと唐巣やピートの目の前でサイキック・ソーサーやハンズ・オブ・グローリーまたそのバリエーションとして霊波刀を作って見せた。

「す、すごい」

「うーむ」

 ピートはその具現化した霊波刀の見事さに驚嘆し、唐巣はメガネの縁を掴んで掛け直しながら唸り声をあげた。発現させた霊能を見ただけで唐巣は横島の力が一級品である事を洞察した。

「極め付けがこれです」

 そう言って横島にとって切り札と言っていい文珠を作り出す。横島が手を握った瞬間、その指の間から霊光が漏れた。その後に横島が彼等の前で掌を開くとそこにはピンポン玉よりやや小さめのビー玉に良く似た玉が手に乗っていた。

「これは?」

「こ、これはっ!」

 ピートは自分の約700年にも及ぶ長い人生の中でも、目の前に差し出されたものに見覚えは無く首を傾げた。

 しかし、唐巣は違った。それを見て心当たりがあったのか驚きの声を上げた。

「分かりますか?」

 横島は内心、ホッとした。唐巣も分からなければどう説明すべきか迷ってしまう所だった。

「ああ、ひょっとしてこれは文珠ではないかね?」

 唐巣は目の前にあるものが信じられなかった。

 文珠…それは、霊能者にとってある意味、究極の力といっても過言ではなかった。なぜなら、念により文字を込める事でその文字の意味する現象を引き起こすという極めて応用力のあるものだ。

 それにGSにとって切り札的なアイテムともいえる精霊石と同じような扱い方をしても、かなり強力な効果があり、その文珠の効果に匹敵する事ができるのは精霊石の中でも超一級品質のものだけだという。

 それだけではない。実際に噂だけで目にした事が無いので眉唾かもしれないが、霊能とは違う事象さえも起こせるのだ。ここまでくればキリスト教圏であれば一種の神の奇跡として扱われてもおかしくない。

 何より、この文珠を精製できる霊能者は現存しない。古い文献にその存在が記されているだけだった。博識な唐巣であるからこそわかったと言えるだろう。大体、このような強力なものを使う事ができる者がいればそれはどんな形であろうが噂として流れるものである。そして、そんな噂を唐巣は聞いた事が無かった。唐巣が知っている限り、現存する文珠は教会の宝具として厳重に保管されているというぐらいであった。

 そういった事もあって目の前の横島が言っている事に信憑性が出てきた。だいたい自分を担いでも横島に得するような事はないのだ。

「そう文珠です」

 横島にはこの文珠が唐巣にどれだけの衝撃を与えたのか気付かなかった。大体において横島が文珠を使えるようになっても周囲の者は文珠で特殊な効果を発揮した事に驚いても文珠自体に驚いた事はあまり無かったと認識していたからである。

 横島の知る未来においては色々と大変な事が起きており、なし崩し的に認知されていたからであるのだが。

「先生、文珠って何なんですか?」

 ピートは唐巣が知っていると分かり質問した。唐巣はピートに文珠とはどういうものかを説明すると、ピートは横島の認識を怪しい奴から凄い奴に格上げした。

「な、ナンだよ?」

 横島はピートの自分を見る目つきが変わったのを感じて落ち着かなくなった。

「くっくっくっ、横島君。ピート君は君が実は凄い人なのだと分かって驚いたんだよ。それに君の霊能力がどう見ても世界でもトップレベルにあると分かったからね」

「えっ!?」

 横島は彼等の反応に戸惑いを覚えた。今まではっきりと自分の能力が凄いものである、と言われた事が無かったからだ。大体において、彼の周りはGSの中でも一線級の者達ばかりであり、その能力が当たり前の状況であったので、横島にとって普通と認識しているGSの能力レベルと、実際のGS平均能力レベルとには大きい格差があったのである。

 考えても見よう彼の所属する美神除霊事務所のメンバーからして普通ではありえない者達ばかりであった。GSにおいてトップと言われる美神令子を始め、世界でも数えるほどしか居ないぐらい希少なネクロマンサーである氷室キヌ、未熟ではあるがそれでも肉体、精神共に人よりもポテンシャルの高い人狼族の少女シロ、復活して間もないものの傾国の美女と言われた強力な妖怪九尾の狐タマモ。

 また、周りのGSにしても世界トップレベルの呪術師である小笠原エミ、12体の強力な式神を使役する六道冥子、ヨーロッパの魔王と呼ばれる錬金術師ドクター・カオス、バトルマニアな伊達雪之丞や精神感応能力においておそらくトップであろうタイガー寅吉。

 そして目の前にいる周りのメンバーが個性的かつ派出すぎて地味な印象があるが間違いなく世界でもトップレベルの唐巣、それに本来なら魔に属するハーフヴァンパイアでありながら聖と魔の力を行使する事ができるピート。オカルトGメンのトップエリートである西条、その上司にして美神令子の母親である美神美智恵。その実力は美神令子の上を行く。

 そして極めつけは美神美智恵の次女であり、美神令子の妹である赤ん坊の美神ひのめ。彼女は赤ん坊でありながら、極めて強力な発火能力を有しており、その能力から姉や母をも超える能力を持っているだろうと予想される。

 以上のように人格はともかく能力は一級な奴等ばかりが知り合いなのである。GSになる事を目指していたのであれば能力基準を正しく認識できていたであろうが、横島がGSになったのだって流されてだったからであるからして、そういった連中の能力が普通なのだと誤認したのは当然の事なのかもしれない。

「俺が世界でもトップレベル!?」

 それ故に出た言葉であった。横島は自分でも最近は力がついてきたもんだと思っていたが、まさかいきなり高評価されるとは思ってもいなかった。からかわれているのかとも思ったが、唐巣は人格者であり、そういった事はしないと認識していたがゆえに、横島は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした。そんな横島の反応に唐巣とピートはお互いの顔を見合わせ、横島が己の能力がいかに素晴らしいものであるかを認識していない事を知った。

「そうだとも」

 唐巣は横島の言葉に自信を持って頷き肯定した。

「…こんな横島さんを時給255円で雇っている美神令子さんっていったい…」

 ピートはこの目の前の少年を平気で時給255円で雇っている美神令子に戦慄を覚えた。彼の長い人生でもそこまで酷い扱いができる人物は知らなかった。できればお近づきになりたくない人物と印象付けられてしまった。

「み、美神くん…神よ! やはり、私は間違っていたのか? あの時…」

 唐巣はピートの呟きを聞き、弟子であった美神令子のとんでもない性格に成長した姿に懺悔した。ピートも自分を襲った冷たい感覚を振り払うべく神に祈りを捧げた。

「美神さん、やっぱりあんたは鬼や!!」

 横島は二人の様子に再度、自分がいかに不遇な扱いを受けているか悟った。こうなれば是が非でも今のこの状況を打開し、元の時空に戻り賃上げ交渉をせねば! とメラメラと燃え盛る炎をバックに背負い決意した。

「唐巣神父、聞いてください。俺が未来から来た原因は多分、時空消滅内服液にあるんではないかと思うんです」

「時空消滅内服液!?」

 唐巣はまたしても驚きの声を上げた。その効果は眉唾物ではあるが、内容から考えても危険なものとして現代では使用厳禁とされていた。そんな薬品の名が出てくるとは思いもしなかった。

「時空消滅内服液って、あの時空消滅内服液ですか?」

 これにはピートも聞き覚えがあったのか尋ね返した。顔が何時もより青ざめている所を見るとその効果も分かっているのだろう。

「そうっす」

「しかし、あれは今や誰も精製できない第一級の危険アイテムだ」

「そうですよ、横島さん。そんな高度な魔法薬を作れるものなんていませんよ。たとえ現存していたとしても、それを手に入れることなんて奇跡が起きるに等しい」

 唐巣、ピートの両名は時空消滅内服液について知っていた為、横島の言葉を否定した。

「そうなんスか? でも居ますよ。作れる奴が」

「何っ!?」「何ですって!?」

 二人は横島が事も無げに告げた事に驚いた。オカルト知識に疎い横島には二人の驚きが振りがわからず腰が引けた。

「ドクター・カオスっス」

 横島は自信満々に答えた。実際にこの身でカオスの作った時空消滅内服液の効果を味わったのであるから。

「「ドクター・カオス!!」」

 唐巣、ピートは驚きの声を上げた。

「そ、そうか、”ヨーロッパの魔王”…か、確かに彼なら作れるね」

 唐巣は驚きのためにずれたメガネを掛けなおした。

「しかし、確かドクター・カオスはここ何十年かは行方不明だったはずですよ」

 ピートは最近、噂を聞いた事が無い。彼が動いたなら、それなりの騒ぎがあってもおかしくないのだ。

「そうなのか? 確かこの時期からすると…多分、秋辺りにこの日本に来るはずっス。目的は分からんけど」

 目的はなんだったかなーと横島は考え込む。横島にとって女絡みではなかった事が原因なのか思いっきり、巻き込まれて大変な目にあったというのに既に記憶が風化していた。

「”ヨーロッパの魔王”が日本に!?」「ドクター・カオスが!?」

「そうっスよ。あのじーさんに関わったらろくな事が無いんすけどね」

「しかし、時空消滅内服液を飲んだって、いやに落ち着いているんだね」

 唐巣が知る限り、時空消滅内服液を飲んだとなれば横島はのんびりなんてしていられない。そういう事もあってこの話についてはいささか疑いを持った。

「あー、それはですね。実の所、俺、時空消滅内服液を飲んでしまったのはこれで2回目なんすよ」

「「なんだって!?」」

 唐巣は驚きの連続についていけなくなりそうになっていた。時空消滅内服液、それを飲んだ者はこの世との縁が切れ、初めから居ない事にされるというとても危険な魔法薬であった。その効果が認識されているのは何故かというと、過去に一例だけ消滅を免れて世に帰ってきた者が居り、その者が詳細な記録を遺していたからである。その者は魔法薬の権威として名を残した者であり、他にも眉唾物と思われた魔法薬が全て正しく効果を表したことが証明され、時空消滅内服液という完全に効果を発揮すれば証明なんぞできない魔法薬のその効果も信じられたのである。なぜ、証明できないか。それは存在を元から居なかった事にするのであるから消滅させようとした事も残らないのである。それを認識できるのは時間にも空間にも囚われない高次の存在だけであろう。居ればの話であるが。(存在は予想されても証明はできていない)

「一回目は確か…カオスのじーさんが美神さんに酷い目にあったから、その仕返しにその薬を盛ったケーキを送りつけてきたんスよ」

「美神くん…君は一体何をやったんだ…」

 何度となくでてくる令子の阿漕さに唐巣は頭が痛くなってきた。

「で、俺がその時空消滅内服液入りケーキを気付かずに食べてしまいまして。まあ、美神さんが直ぐに気が付いて中和剤を飲んだんですけど、当然、効果が薄くなるだけで効くのは効いていたんですよ」

 いやー、あの時はまいったなーと横島は苦笑と共に頭を掻いてその時の事を語った。美神令子が時空消滅内服液に気づいて中和剤を飲ませた事、それにより一気に消滅せずに済んだ事。少しずつ、断続的に過去に戻る事。戻るには24時間以内で一番、印象に残った事を再現するように言われた事。美神令子が唐巣の下で修行していた時代にここに来た事などを順に話した。

「成る程、だから美神君はあの時から神通棍を使い出したのか」

 唐巣はその時の事を思い出した。確かにあの時の自分が除霊に失敗して気絶した件の後、令子は神通棍を使い出したのだ。それまでは自分と同じ方法を教えていたが全然成果が上がらずどうしたものかと考えあぐねていた時で、自分に見合う方法を見出したのは神の導きだと思ったのだ。

「でも、それだと矛盾が生じませんか?」

 ピートは疑問を口に出した。

「どういう事だい? ピート君」

「その話からすると先生は昔に横島さんに会ったって事になりますよ?」

「確かに、私には横島君に会った覚えが無い」

 だが、横島は思う。確かあの時は俺の迫真の演技のお陰で普段の顔つきとは違って見えた。それに美神さんに強く頭殴られていたから記憶が跳んでいる可能性もあった。

(知らない方が幸せって事はあるもんな…)

 唐巣、ピートの二人のやり取りを尻目に横島も考え込んだ。

「それらの事象が何らかの形で修正されたんでしょうか?」

「それは分からないな。ありえる話ではあるが」

「でも俺、その後に赤ん坊にまで戻ってしまったんですけど、そこから何故か元に戻れたんですよ。どうやって元に戻ったのか分からないんすよ」

 ほんと、何でだ? とあごに手を当て考える横島であった。

「ところでその時の再現の条件は?」

「それはですね。除霊中の事故で美神さんの唇が俺の頬に」

「成る程、その再現は難しいな。あの美神くんがそう簡単にキスするわけが無いからな。戻れたという事は再現ができたのか、それとも他に原因があったのか分からないな」

「俺もわかりません。ただ、気になったことがあります。戻れた直後に頬に何か触れた感触があったんすよ」

「それは、つまり再現はされたということかね?」

「相手が美神さんであったのかは分かりませんけど、無事に戻れたという事は再現されたという事なんでしょうけど…」

 真実は闇の中…

「で、今の状況がどうも同じなんですよ。俺が経験した過去に何回か移り変わって今の時代に来たんっす。それは時空消滅内服液を飲んだ時と同じでしたから」

 それで文珠で一応、中和したんでまだ余裕があるとは思うんですけどねと横島は苦笑した。

「「なるほどそれで二回目か!」」

「そうっす。だからが原因だと思ったんス。単なる時間移動なら、過去の俺が別に居るはずっスから」

 さすが師弟、息がさっきからぴったりだなと横島は感心しながら言った。

「はあ…って、待ってくれ! 何で時間移動ならなんていえるんだい!?」

 さも当然のごとく横島は時間移動の事を語ったわけだが、唐巣にしてみればそうはいかない。時間跳躍能力者も文珠を扱える者程に稀有ではないにしろ、そう滅多には居ない。どちらも血による能力の継承はできないものであった。

「え? あ、その知り合いに時間跳躍できる人が居まして体験したりした事がありますんで」

 横島はさらりと言ってのけた。横島にとっては波乱万丈の人生の一コマの一つでしかなかったから。この男そもそも、常人であれば一生を掛けても会うか会わないかの様なケースに日常茶飯事に会っており、常人であればその都度、死んでてもおかしくない様な状況の中をしぶとく生き残った結果、その辺の常識的なものが磨耗していた。もっとも最初から無かったかもしれないが。

 とりあえず、誰がそうなのかまでは横島にしては珍しく言及を避けた。知られては色々不味くなる可能性を感じたのだ。というか未来においてクドイ程注意されていたからでもある。

「そ、そうなのかい?」

「そうっす。その時は俺じゃ無く知合いがですけど、過去の自分と出会いましたから。俺の場合は精神だけが過去に逆行してきてるんで、そんなのは時空消滅内服液しか考えられないんすよ」

「そうか、わかった。ところで今回の再現の条件はなんだい?」

 唐巣は横島の言うその知合いに心当たりがあったのだが、答えを追求する事を止めた。知るのが怖かったという事もあったから。

「はは、それなんですが……」

 横島はその条件を言う事を躊躇した。

「言い難い事なのかい?」

 そう言われて横島は意を決した。ここで言わなければ何ために相談に乗ってもらったんだか分からなくなるからだ。

「起きたタイミングがですね、俺が晩飯を食っている最中だったんです。その時、突然に美神さんが俺の部屋に転移してきたんです。理由は知りませんけど。でも現れた位置ってのがまずかったというかラッキーだったっていうか…俺の頭上だったんです。転移してきた時に俺の霊感が働いて何かと上を見上げた時に丁度、美神さんの股の間に顔が入ってそのまま…が俺の顔に押し当てられたんすよ」

 それを思い出して横島はまた若さにより暴走しそうになるが、ある事に気づき青ざめた。

(そうだ、やばい。俺が今の状況を打開し戻れた場合、待っているのは美神さんによる制裁! しかも、今回は例え美神さんが悪いとしてもあんな事になったんだから…死ぬ! 絶対死ぬ! 死んでしまう…!!)

 令子の性格を世界で一番知り尽くしていると自負できるだけのものを持った横島だけにそこから令子のとる態度は容易に予測できた。

「それは、ってどうしたんだね? 横島君」

 再現するにはあんまりな条件に驚きつつも唐巣は様子が変な横島に声を掛けた。横島はそれを切っ掛けに叫びだした。

「行くも地獄、帰るも地獄ってかぁー? いやじゃー! 死ぬのはいやじゃー!! …はっ、そうか…そうやったんや。くっ、くっ、くっ、殺やられる前に殺れか…美神さん、ただでは殺られませんよ」

「あ、ああっ!? ……よ、横島さんが壊れていく」

 ピートは横島の目がうつろになった後、くわっと目を見開き、鬼気迫る様子に恐ろしいものを感じた。様々な意味で。そして、横島の暴走(妄想?)は続く。

「ぐはっ!! み、美神さん、そ、それは堪忍や、仕方なかったんや。ぐはっ」

 何故か横島は誰かに殴られたように吹っ飛び、虫の息と化していた。一人芝居にしてはいやにリアルであり、本当にしばかれているように見えた。

「よ、横島君…」

 唐巣には確かにそこに美神令子が横島をしばいているのが見え、弟子であった者の所業に涙した。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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