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新世紀エヴァンゲリオン 世にも奇妙な我が人生

新たなる戦い編
第10話 「Nerv」
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[使徒出現か・・余りにも唐突だな]

[一年前と同じだよ。災いは何の前触れも無く訪れるものだよ]

[だが、幸いともいえる。我々の先行投資が無駄にならなかったのだからな]

[左様、かなりの労力が割かれましたからな]

[そいつはまだわからんよ。役に立たなければ無駄と同じだ]

[みなさん、ご安心ください。彼については既に対処済みです。今後はあのような事にはならないでしょう]

[大丈夫なのかね?アレはかなり中枢にまで及んでいたと聞くが?]

[その辺はお任せください。アレについては飼いならし、影響は最小限に止める事に成功しています]

[それで押さえ込めなければ知性体とは言えぬか]

[それよりもだ我々には優先しなければならないことがある]

[例の計画ですな]

[その通りだ]

[それよりも現時点での情報の漏洩はまずくないかね?]

[それは例の彼らの事ですな?」

[左様、彼らに着いては詳しく判っていない]

[彼らが撮影していた映像、見逃しても良かったのか?]

[ああ、差し障り無い所だけだからな]

[第一、動いてもらわねば我らの方で対処できん]

[動きが見えるからこそ、対処のしようがある]

[左様、地下に潜られては、察知し様が無いからな]

[その通りだ]

[さしあたって、そちらには従者を潜り込ませた]

[ほう、ならば問題ないな?]

[そうそうにばれる事は無かろう。何れ仲間を増やすから、初期にミスさえしなければ情報が得られないようにはなるまい]

[だが、あそこにはわたしの同等存在がいる]

[それはまだ未熟だ]

[あれは未だ独立した意識体とはなっていない。故に明確な活動は出来ない]

[ですが、それ故に言い様に扱われないか危惧しているのです]

[それは無い。あちらには能力を100%引き出せる存在は居ない]

[だが、余りにも古い認識だ。活かせる人材が居ないとも限るまい]

[そう、それはいかん。いかんよ、君。過信はいかん]

[どちらにしろ、それは現時点では対処できるものではない]

[そう、全ては従者の働き次第だ。その結果を踏まえて一考しよう]

[では、次の議題に入ろう。次は・・・]



「ねえ、そんなにゼーレごっこして楽しい?」

 シンジは、ずずずと手に持ったお茶をすすった。

 シンジの視線の先にはコミュニケによるモノリス風の画面が7つあり、それぞれに01から始まって07まで振られていた。その数字の下には”DOCUMENT ONLY”とありその下に文字を表示する枠があった。

 そこに表示していく会話文をその場に居たもの達は見ていた。内容は何かを相談しているようだったが、陰謀めいた雰囲気をモノリス風画面が醸し出していた。その為かその周りだけが暗い感じがするのは気のせい?

 そんなモノリス風画面達をシンジが冷めた目で眺め、言ったのだ。彼の隣には私、ルリがいた。その対面には、先程の事情を聞こうとして乗り込んできたアキトと艦長・・ユリカがいる。

[ごっことは何を言うか、シンジ。これは今後の方針を固める上で重要な事だぞ!]

 01と表示されているモノリスがシンジに迫って抗議する。その勢いにシンジはのけぞった。

[そうだ][そのとおり][賛成!][賛成!][賛成!][そういうことだよ]

 続いて他のモノリス達がシンジの周りにモノリス風画面を移動させ、抗議の言葉を表示して囲んだ。このモノリス達はナデシコにいるAIたち・・いやデータ生命体?である。

 このやり取りにひたすらアキトとユリカは目を丸くして固まっていた。どうも事態についていけないらしい。

「ゼーレ?」

 ルリは首を傾けて問うた。

「悪の秘密結社だよ」

 シンジはそんなルリに茶をすすり、ホッと一息ついた後、答えた。

「悪の秘密結社!?」

 ルリはシンジの言葉に目を丸くした。私だってそうだ。そんな子供番組にしか存在しないような組織が実在するの?と疑問が生じる。

 でも、前に赤木博士が人間を改造云々とか言っていた気がするし、遺伝子組み替えによる新しい生物・・生体兵器なんか作っていたから、あながち嘘ではないのかも知れない。

 まあ、それはゲヒルンでの事だけど。でもゼーレはその上位組織とか赤木博士が言っていた。いかにも、悪の秘密結社っぽい。じゃあ、ヒーローもいるのだろうか?と新たな疑問が生じてしまった。そういえば自分がヒーローである事を主張する変人がパイロットで居たような気がする。

 けど、ここではゼーレについては赤木博士が評していた事を言う事にする。

「でも私は妖怪爺がいる老人会って聞いた」

 私は赤木博士に聞いたまんまの事を話した。

「確かにそうかもな。トップの連中は僕が知っている限り、年寄りばかりだったから」

[さて、どうかな]

[我々が知っているゼーレとは少し違うようだしな]

[その辺は情報不足だ]

[結論は急ぐ必要は無い。年寄りの集まりかどうかなど瑣末に過ぎん。つまり、どうでもいい事だからな]

[そのとおり、必要なのは何を目的に活動しているかという事だ]

「でも、僕らが知っている人達って、確か半分以上機械化して寿命延ばしていただろ?」

 シンジは再びお茶をすすった。妙に幸せといった感じで、美味しそうに飲んでいる。

[まあ、可能性はありうるか。しかし、もし我輩らが知っている者たちが生きているとしたら200歳は超えている事になる]

[そういう意味では化け物になるな]

[するとラピスの言う赤木博士いう妖怪爺という言葉に真実味がでてくるな]

[最もあの組織の体質上、トップは自然と老人ばかりになる可能性は高いと思うがね]

「まあ、ゼーレとかはこの際、後でいいでしょ」

 シンジはああ、お茶が美味しかった。と満足げな顔した。

[そうだな][別にいいか][同意][賛成!][賛成!][賛成!][そのとおりだね]

「お待たせしましたね、アキトさん。それに艦長さん」

 シンジは艦長たちに人を食ったような笑顔を浮かべ、話を振った。

「「・・・・」」

 でも、二人は固まっていた。私は体を乗り出して二人の前に手をもっていって振ってみたけど反応が無かった。ひょっとしたらアルファ達の常識外の行動を目撃してしまったのかもしれない。

[こんな事で呆然とされていては、今後、引き起こされるであろう事態に対処できんぞ?]

「そうかも」[そうだな][同意][賛成!][賛成!][賛成!][そのとおりだね]

 その原因になった存在はその状態を軽く流した。

「私たちだって最初はこんなものだったですよ・・」

「無理ないと思う」

 ルリと私が二人のフォローをした。


     *


 俺はどうなっているんだ。今更ながら自分の頭が正常なのか心配になってきた。俺は今日で、今までの世間の常識から、おさらばしなければいけないようだった。

 それ程までに、目の前で繰り広げられるものに、インパクトがあったのだ。

「そろそろ、良いですか? アキトさん、ユリカさん」

 シンジ君の声に俺は我に帰った。それはユリカも同じようだった。俺達は顔を見合わせて頷きあった。ユリカには聞きたい事も有ったが今はこっちが先だ。

「「お願いします」」

 俺達の声が重なった。

「仲良しさんですね」

「もちろんっ! アキトは私の王子様っ。運命の人なんだから。当然だよっ!」

 ニパッとユリカは笑った。ユリカは相変わらずユリカだった。俺は脱力した。

「そうですか」

 そう言ってシンジ君もニコニコと笑顔を返している。このままじゃ埒があかないと、俺は気を振り絞り、声を掛けた。

「なあ、シンジ君。あの戦闘で現れたアレは一体、何なんだ?」

「そう、それっ! 私も知りたーーい!」

 ユリカは妙にテンション高く同意した。

「わかりました。話しましょう」

 シンジ君は真剣な面持ちになり、姿勢を正した。自然とその雰囲気は同席している者達にも伝染した。

「私達が聞いても良いんですか?」

 確か、この子はオペレータをしていた子達だ。青みがかった髪の子だから、確か・・星野ルリ・だったよな。それで、隣の桃色の髪の子が碇・ラピス・ラズリだったか。どちらも色白でお人形のような印象を与え、無機質な表情でいるから余計にそう感じる。

「別に年齢制限のある話じゃないし、身内に隠すような事でもないから大丈夫だよ」

「わかりました」「わかった」

 身内という言葉に二人とも反応したのか、表情が和らいだ気がする。何だ、そんな表情も出来るのか、と俺は先程までとは違い、この子達が普通の女の子なのだと認識した。

「これから話す事を信じる、信じないは各人の判断に任せる事にします。いいですか?」

「ああ、続けてくれ」「うん、いいよ」

 俺達はそれに同意した。

「まずは、あのチューリップから現れた存在ですが、アレを僕達は神の御使い・・即ち、使徒と呼んでいました」

「「使徒?」」

「そうです。使徒は人類の敵、そう言われて、僕は戦わされました」

 アレが使徒というのは言いとして、あんなのが出現していたら、世間に隠し通せないと思うんだけどな。

「ちょっと待って、シンジ君。それおかしいよ。あんなのが存在するなら絶対隠し通せるようなものじゃないよ」

 俺が思った疑問はユリカも同様だったらしく、俺より先に質問した。

「疑問は最もだと思います。正確に言うとアレは使徒と同等存在であるというだけで、この世界の人類史上では初めて出現したと思われます」

 シンジ君は相槌を打ちながら答えてくれた。最もそれで更に疑問が深まった気がする。

「どういう事?」

「そうだ、今一判らない。初めてこの世界に使徒とやらが現れたというなら、シンジ君は何処で戦っていたというんだ?」

「決まっているじゃないですか。こことは違う世界でですよ」

 シンジ君は当たり前の事をといった感じで言った。

「「「「はっ?」」」」

 発言したシンジ君以外のその場に居る者は、間抜けた声を発した。いや、少なくとも俺は。

「ですから、別の世界です」

「「別の世界ーっ!」」「成る程、そうなんですか」「そう」

 俺には俄かには信じられなかった。なのに目の前の少女たちは素直に信じたようだった。少なくとも俺にはそう見えた。

「だから言ったでしょ? 信じる、信じない任せますって。だから続けますね?」

「うっ!・・とにかく続けてくれ」

 確かに断りは入れられたけど俄かには信じられない。でも、それじゃ後に続かないのでここは聞く事にする。

「僕の居た世界では西暦2000年にセカンド・インパクトっていう天変地異が起こって、人類の半数が死亡するっていう大事件が起こったんです」

「「セカンド・インパクト?」」

「はい、セカンド・インパクトです。ファースト・インパクトとかジャイアント・インパクトとか聞いた事有りませんか?」

「確か恐竜が滅びた原因が隕石の落下によるもので、それをジャイアント・インパクトとか言ったような・・」

 俺はうる覚えの知識を引き出して言った。

「はい、それの2回目だからセカンド・インパクトと呼ばれたんです」

「あのね? そんなの起きてないよ?」

「ですから僕の世界は、です。最もそれは表向きの話です。実はそのセカンド・インパクト、今問題にしている使徒が起こしたものだったんです」

「げっ!」「うそっ!」「そうなんですか?」「そう」

 俺はそう言われて確かに納得した。そんな事が出来てもおかしくない存在だと感じた。それは俺がロボットで、アレと対峙したからこそだ。それはユリカも同じようだった。ユリカの場合は何を根拠にそう感じたのかはわからない。目の前の二人は今一、わかっていない様だった。無理もない、アレがどれだけやばいものだと感じる事無く意識を無くしていたらしいから。

「とまあ、そういう事があって、当然ながら原因調査とかしたわけです。最も極秘裏にです。実際に謎の生命体のせいで起きましたというより、隕石が降って来たからという方が信憑性もあるわけですしね。それで調査の結果、使徒と名付けた謎の存在が、実は1体だけじゃない事が判明しましたんです。つまり、セカンド・インパクトに続く、サード・インパクトが起きる可能性が示唆されたんです。そんなのが起きたら人類はともかく地球環境が持たず、生命が絶滅するだろうって予測が立ったわけです」

「あんなのがまだ他に居るとなれば、確かに気が休まらないな・・」

 俺はあの使徒とか言うのを目にした時に、囁いて来た最初の声を思い出す。あれは時がたつに連れ大きくなっていたような気がする。あのまま、放っていたらその声に突き動かされて行動していたんじゃないだろうか。

「確かに使徒を見ただけで、得も言われぬ恐怖に襲われて、気を失いましたから」

「私も・・」

「成る程、見ただけで恐れを抱かせるから使徒か・・」

「そうなんだ。納得、納得!」

「その辺が僕達が相手してきた使徒とこの世界での使徒と違うんですけどね」

 シンジ君が苦笑した。

「どういうこと?」

「僕達の世界では使徒を見ただけで、気絶する何てことは起きなかったんです」

「そうなんですか?」

「そうなんです」

「ニャア」

 シンジ君のそばに居た猫?が鳴いた。その泣き声にシンジ君、ルリちゃん、ラピスちゃんがさっきのモニタを見た。俺も釣られて見る。

[シンジの言っている事だが、一概にそうとは限らない。何故ならセカンド・インパクトという現象により、恐れに対する耐性を手に入れた可能性がある]

[そう推測できるのは、私にも同じような能力を持っているからだ]

[元居た世界でその能力を行使したが、全く効果を得る事が出来なかった。だが、こちらでは思い通りの効果を得たからだ]

「へえ、そうなんだ。そうか・・セカンド・インパクトはATフィールドに拠るものだったから、人の心に何がしかの影響を与えていても不思議は無いわけか」

 シンジ君がうんうんと一人納得していた。シンジ君以外の俺達は置いていかれていた。

 取りあえず俺にわかっている事は、シンジ君の世界に出現した使徒と同じような存在が、この世界にも出現したという事だった。

「ねえ、シンジ君」

「はい、何ですか? 艦長」

「やだなあ、そんな硬い言い方。ユリカで良いよ」

「じゃあ、何ですかユリカさん」

「あのね、さっきから誰と会話しているの」

「イロウルですけど?」

 さも、当たり前のようにシンジ君は答えた。

「そのイロウルって誰?」

 ユリカを見ると少し引きつったような顔だった。どうしたんだ?

「えーと、どうしたんですか、ユリカさん?」

 シンジ君もそのユリカの様子に気が付いたようだった

「えとね、さっきから会話の流れを聞いていたら、イロウルって人?が自分で使徒だって言っている様に思うんだけど」

「ああ、そうですね。言ってませんでした。そうです、イロウルは使徒ですよ。但し、頭に元が付きますけどね」

 シンジ君は事も無げにそう告げた。

「や、やっぱり〜〜ぃ!」

 ユリカはムンクの叫びを髣髴させる叫びをあげた。

「使徒だって!!」

 シンジ君の言葉には俺だって平静ではいられない。立ち上がって身構えた。何気にユリカが俺の背中に回ってぎゅっと肩にしがみつく。

 しかし、使徒を目の前にしても、あのチューリップからでてきた使徒の時とは違って、囁き声は聞こえてこなかった。

「落ち着いてください、二人とも。元っていったでしょ」

「「えっ!?」」

 俺とユリカは顔を見合わせた。

「その辺もちゃんと話していきますから。座ってくれませんか?」

 シンジ君は落ち着いていた。俺もその様子に冷静になった。

 どちらにせよ、イロウルってのが使徒だとして、俺に何ができるというのかという事に思い当たった事もある。それに俺に契約を持ちかけてきた奴がくれたって言う力も生身で使えるのかわからない。どういった力で、どうやって使うのか?さえ、未だよくわかっていない。ここは落ち着いて聞くしかない。

「わかった」

 俺はユリカに合図すると座りなおした。因みにルリちゃん達は俺なんかとは違って、落ち着きまくってお茶をすすり、リラックッスしまくっていた。それを見ると俺の方が年上なのに・・そう思い、少し自分が情けなく思った。

「その前にちゃんと紹介しましょうか。イロウルなんですが、えーと、まあ簡単に言うとこの猫達ですけど・・」

 シンジ君は少し困ったような顔で3匹の猫を指差した。

「えっ?」「やっぱりそうなんだ」

 俺はさっぱり判らなかったがユリカは気付いていたらしい。

 確かに風変わりな猫っぽい生き物だとは思っていた。鬣が生えているし最初は絶滅種か?とも思った。けど、昆虫や爬虫類ならわかるけど、哺乳類で体毛が紫やら青やら赤なんて動物は俺は知らないし、不自然だとは思っていた。それに猫と思えない動作をしたのも目撃した。でも、まさか使徒だとは・・

 俺が内心で驚いているとちゃぶ台に紫の猫?がひょいっと乗った。その頭上には先程のモノリス画面の01がついて来た。

[我輩はイロウルα。アルファと呼んでくれればいい]

 ニャアと一声鳴いた後、アルファと名乗った猫?は降りた。次に青い猫?が入れ替わりにちゃぶ台に乗ってくる。その頭上にはこれまたモノリス画面の02がついてきていた。

[私はイロウルβ。ベータと呼んでください]

 ベータと名乗った猫?はナアと一声鳴いて降りた。最後に赤い猫がのしっとちゃぶ台に乗った。他の猫?と同じ大きさなのに、何ともいえぬ迫力があった。こいつにも又、頭上にモノリス画面の03がついてきていた。

[我はイロウルγ。ガンマと呼べ]

 ガンマと名乗った猫?は他の猫?とは違ってそのまま降りずに俺のほうを見詰めた。そして、何かニターっと笑ったように見えた。その時、

<マア、コンゴトモ、ヨロシク>

 と、戦闘の時に契約を持ちかけてきた声が聞こえた。

「ああっーーー!!」

 俺は思わず驚きの余り声をあげて、ガンマを指差した。

「ど、どうしたの!?アキト!!」

 俺が急に声をあげた事にユリカはびっくりしていた。

「い、いや、何でも、何でもない・・」

 端から見れば全然、なんでもないようには見えないだろうけどそう言った。頭がパニックしているし、心なしか心臓音が聞こえてきそうな感じだ。

「そう・・」

 ユリカは何か言いたそうだったけど押し黙った。ごめんな、ユリカ。契約の事については黙っていた方が良いと、俺、思ったんだ。

<マア、オドロクノモ、ムリナイナ。クワシイコトハ、ノチニ。ソノホウガ、イイダロウ?>

「ああ」

 俺は小さい声で答えた。

「と、まあ、そういうわけです」

「えーと、シンジ君?」

「何ですか、ユリカさん?」

「イロウルさんが3び、じゃなくって、えーと3人?じゃなくて3体?紹介されたって事はイロウルって使徒は3体いるの?」

 成る程、イロウルという種が3体、居ると認識したわけか・・実際は違うんだけど。詳しく話すのもね・・

「・・まあ、そんなもんです。それからイロウルはもう使徒じゃないんです。詳しく説明するとややこしいですから話せませんが」

「うん、わかった。あれ?でも、そうすると・・」

「どうかしましたか?」

「えーと、さっきモノリスの画面が01から07まで会ったよね?アルファさん達が01から03とすると04から07はだれかな〜何て思ったの」

 そう言えばそうだな。そこまで俺は気付かなかった。さすが、艦長を務めようというだけ有ると感心した。

「そうですね、今の所、実体なんてないですけど07はこのナデシコに搭載されているコンピューターのオモイカネです」

[僕はオモイカネ。今後ともよろしく]

 モノリス画面07にそう表示された。その後にモノリス画面04、05、06と順番に前に出てきた。

[あたしはMAGIの一つ、キャス・マギー]

[わたしはMAGIの一つ、メル・マギーよ]

[わたくしはMAGIの一つ、ヴァルア・マギーですわ]

「紹介されたのはいいんですけど、何なんですかキャスさん達は」

 俺にもわからん。プロスペクターさんにかいつまんで聞いたときはナデシコにはコンピューターはオモイカネだけだったはずだ。第一、コンピューターってこんな反応するものなのか?

「キャス達も僕の連れです。そして、対使徒の為に作成されたといってもいい人格移植OSを搭載したコンピュータ・システムだった存在です」

「それにしても何か人間くさいぞ?」

「本当、マギーさん達は女性、イロウルさん達とオモイカネは男性のような感じがするね。」

[我輩らには別段、性別などない。MAGIが女性のように感じるのは元々、基になったのが女性のパーソナリティだったからだ]

[それの対として存在する事になった私達はパートナーとして男性のパーソナリティを選んだ、それだけに過ぎないのですよ]

「ふーん、そうなんだ」

 ユリカは感心したようだった。

「取りあえず、話は長くなると思いますから、お茶を入れなおしてから、続きを始めましょうか」

 そうシンジ君は言ってお茶を入れなおすべく、みんなの空になった湯飲みを持って台所に向かった。

「あれ?」

「どうしたんだ?ユリカ」

「えとね、アキト。さっきシンジ君が持っていった湯飲みの数が人数分より多かった気がしたから」

「それ、多分、アルファさん達のですよ・・」

 さりげなくルリちゃんが答えてくれた。

「何だ、イロウルさん達のか・・・って、ええっ!!」

「お、おい、どうしたんだよ。ユリカ」

 ユリカが何に驚いているのか俺には今ひとつわからなかった。

「だって、イロウルさん達もお茶を飲んでたんだよ。猫なんだよ? 猫なのに熱いお茶を飲むなんて!」

「・・ユリカ、アルファ達は猫じゃないんだ。常識は通用しない。それに熱いお茶だったとは限らないだろ・・」

 俺はユリカの驚いた原因に頭が痛くなってきた。もっと別の事で驚いたのかと思ったのに。チラッと見えたルリちゃん達も、溜息をついているように見えた。

 シンジ君を待つ短い間にこいつ、本当に頭が良いのか? 艦長で大丈夫なのか? 色々と不安が浮かんでは消えていった。


     *


 僕が戻ってくると何か妙な雰囲気が漂っていた。

「あの、何か有ったんですか?」

「そんな大した事は起きてない・・」

 ラピスが答えてくれたが何か妙に疲れているようにも見えた。

「ラピス、疲れているなら横になったほうが良いよ? それにルリちゃんも」

「大丈夫」「大丈夫ですよ」

 彼女達はそう答えを返してきた。

「無理しないようにね」

 ラピス達は綾波と同じで儚げな印象があるから、つい、気を使っちゃう。

「さて、さっきの続きです。順を追って説明しますね。えーと、セカンド・インパクトが起きた原因である使徒がまだ出現する可能性があったってとこまで話しましたね」

「ああ、そうだな」「そうだね」「そうです」「うん」

 僕は皆に確認して話を続ける事にした。

「そこで、人類は使徒に対抗するための手段を模索しはじめました。そして、幾つかの有効な兵器を完成させました。その中でも最も有力視された兵器が究極の汎用人型決戦兵器。その名も人造人間エヴァンゲリオンです」

「「「「人造人間!?」」」」

 皆、人造人間という所が引っかかったようだ。

「そうです。全長約50メートル、僕の第一印象は・・大きな顔でした。まあ、後で全体を見て、細身の紫の鬼ってイメージを持ちましたけど」

 僕が説明するけどイメージ出来なかったようだ。シキが起きていたら、何がしかの文句が出ていたかもしれない。

[それは、こんなのよ]

 そう言って、キャスが助け舟を出してくれた。画面に自分の中のメモリ(記憶)を引き出して再生させた。こういうのを見ると便利そうだなと思う。最も自分が出来たら嫌だけど。だって、メモリを引き出すって事は、また同じ思いをしなくちゃいけないって事だから。

 再生させた画像にはイスラフェル戦が再生されていた。ご丁寧に、編集されているようで画面の端にはタイムカウンタがついて、見ごたえバッチリなものになっている。

「今、映っているのがエヴァンゲリオンです」

 皆、僕の言葉が聞こえていないのか画面を食い入るように見詰めていた。僕も画面を見た。約2年程前だというのに10年以上経ったように滅茶苦茶懐かしい。

 そこには見事な連携が映っていた。巨体とは思えない俊敏な動きだ。このとき出撃したのはエヴァンゲリオン初号機、弐号機だ。エヴァンゲリオン2体と使徒2体の戦い。どちらもが同じような動きをしていた。

 紫の初号機、赤の弐号機が同じ動きでパレットガンを撃ち、飛び跳ね、回転していた。確かにエヴァンゲリオンの性能を遺憾なく見せるにはこの使徒との対戦が最適なのかもしれない。

 物思いに耽っていた僕が気が付いて画面を見ると止めの一撃が入れようと2体のEVAがそれぞれの使徒のコアに飛び蹴りを敢行している所だった。綺麗に使徒の赤いコアに命中する。

 それと共に閃光が画面を埋める。爆発。戦いを見終わって、

「凄いなあ」「これって本物なんだよね?特撮じゃないんだよね?」「あんな大きさでこんな動きが出来るなんて不可能です。不条理です」「本物なの?」

 等の声が出た。

「ええ、本物ですよ」

「すごいんだね〜」「信じられない」「本当かよ・・」

「でも、まだ続いているよ?」

 そう、ラピスに指摘された。

「え?」

 振り返ってみると、まだ映像が再生されていた。爆発が収まり、そこには巨大なクレータがその中には絡み合うようにうつぶせに倒れているEVAが2体あった。

「ま、まさか!?」

 僕が動揺しているうちにも映像は進んでいく。

『ちょっとアタシの弐号機に何てことすんのよ!!』

『そりゃ無いだろう!だいたい・・』

 そこには勝気だけど十中八、九見た者は美少女と言うだろう少女、アスカが画面に登場し、それに僕が登場して言い争っていた。僕は呆然とする。僕ってアスカとこういうことも出来ていたんだ。そうか、この頃のアスカが一番輝いていたんだよね。

『赤木博士のコメント』

『無様ね』

 その言葉が耳に飛び込んできて僕は復帰する。映像は終わっていた。皆の方を見渡すとユリカさんとアキトさんはニヤニヤと笑っていた。ラピスとルリちゃんは目を丸くしていた。

「ふーん、シンジ君て、ああいうガールフレンドがいたんだ〜」

「うんうん、青春だな」

「意外です。シンジさんにも、ああいう面があるんですね」

「赤木博士って?男の人じゃなくって女の人?」

 皆はそれぞれ感想を言った。どれもEVAのものじゃなかった。

「・・あの」

 僕は言いよどんだ。アキトさんとユリカさんの顔が、ミサトさんに一瞬、ダブって見えた。

「いいよ、いいよ。そんな恥ずかしがらなくても大丈夫だよ」

「そうさ、ああいうやり取りは君の年頃では普通だろ」

「ちょっと、アキト! どういうこと? 私というものがいながら浮気していたの!?」

「ちょっと待て、どうしてそういう話になるんだ?」

「あー、焦ってる。やっぱりそうなんだ」

 アキトさんとユリカさんが言い争いを始めた。なんか横道にそれ始めている。こんなにで大丈夫なんだろうか? でも、少しばかり自分にとって、居心地悪い空気になりそうだったのが、払拭されたのでホッとした。

クイクイ

 そんな事を取り止めもなく考えさせられていると僕の袖が引っ張られていた。そちらを見るとラピスだった。

「どうしたの?」

「赤木博士が出てた。でも、女の人だった。どうして?」

「そうか、ラピスの知っている人は男の人だったんだね。うーん、どういえばいいのかな。僕の知っている赤木博士って言うのは女の人でね? そう君の知っている赤木博士のご先祖さまにあたるんだ、何代か前の」

「ご先祖さま?」

「そう、ご先祖さま。この世界はね、僕達が調べた限り、セカンド・インパクトが起きていない世界なんだ。で、資料なんかを調べた限り、セカンド・インパクトが起きるまでの歴史は一緒だった。それで気になって、セカンド・インパクトが起きるはずの時代を詳しく調べたんだ。その時にね、その当時の年代には確かに僕の知る人たちが生きていたのがわかっているんだ。その中には赤木博士も含まれている。で、さっきの人は赤木リツコ博士。ラピスの知っている赤木博士の何代か前のご先祖さまだよ」

「そう・・」

 ラピスは僕の答えに何かを考え始めた。ラピスと知り合った時にその辺を調べたから確かだ。ミサトさんや加持さんも居たのはわかっている。

 でも、びっくりしたな。この世界での僕が居た時代ではミサトさん達3人には何ら接点が無かったのに、その子孫たちは何の因果かミサトさん達のようにつるんでいた。

「じゃあ、昔にはこの世界のシンジさんも居たんですか?」

「ルリちゃん、残念ながら僕は居ない。生まれていなかった。僕の母さんになるはずだった碇ユイって人はこの世界では2000年に死んでいるからね。原因は掴めなかったけど。最も居たとすれば僕は随分、複雑な思いをする事になったと思うけどね」

 そう、この世界には僕は生まれていない。それにこの世界の母さんは父さんとさえ出会っていなかったようだ。シキ達は何か知っているような気がするけど、必要であれば教えてくれるはずだから、今の所は問題じゃないのだろう。それに生まれていたとすれば、僕の人生と比べて余りにも平凡な人生に羨望したかもしれない。

「・・そうですか」

「そんな沈み込むような事でもないと思うよ?」

 あっ、でも、そういえばトウジとかケンスケも生まれていないって言ってたな。アスカやシゲルさん、マコトさん、マヤさんは居たみたいだけど。どんな人生を歩んだかまでは確認していない。それもそうか、Nervの前身であるGehirnは設立目的が違っていたから、当然、そこに所属する人も変わる。トウジ達の場合は両親がGehirnに所属しなかったりして出会いが無かったからなんだ。そうなるとNervに関係していた人達の間に生まれていた子供なんかは、この世界では生を受けなかったんだ。

<何か、横道それまくっているように思えるのだがね?>

<仕方ないだろう。驚きの連続でもある。己の持っていた常識が覆されていくのだからな>

<ああやって、騒いでいるのは色々と発散させているという事なのか?>

 アルファ達が騒いでいるユリカさん達を冷ややかに見た。

<まあ、のんびりやるよ。最ものんびりしすぎると明日は寝不足でしんどくなるけどね>

 何せ、料理人の朝は早い。仕込みが色々あるからね。

<違いない>

 そろそろ止めなくちゃきりが無い。そう思えるほどアキトさん達は何時までも騒いでいそうに見えたので止める事にした。

パン、パン!

 注意を集めるために僕は手を叩いた。

「アキトさん、ユリカさん、そろそろ説明を進めたいので止めて貰えません?」

「「ごめんなさい」」

 二人とも同時にやめて平謝りした。息が合っている。流石、幼馴染さんだ。ユリカさんの言うように本当に赤い糸で結ばれているのかな。最もユリカさんは思い込みが激しいから、糸のような切れやすいものじゃなくってワイヤーかもしれないけど。

「というわけで、さっき見ていただいたのが、僕達の世界で使徒に対抗する為に作られた兵器です。何故、あのような兵器が作られたかと言いますと、使徒にはATフィールドと呼ばれるものがあります」

「ATフィールド?」

「わかった! あのグラビティ・ブラストを跳ね返した、あの赤い壁の事だよね!」

 ユリカさんがにこにこ顔で答えた。

「ええ、そうです。Absolute Terror Field・・絶対恐怖領域、名前の由来は分かりませんが、これがある限り、使徒に通常兵器は無効です。N2兵器、この世界では開発されていませんから、それに相当する兵器、核ミサイルであっても倒す事は出来ません」

 この世界にはN2兵器はない。セカンド・インパクトが起きなかった事で技術の進歩に違いが生じている。

[使徒によっては被害さえ考えなければ、核ミサイルを数十発以上使えば倒せるものも居るがね]

「核ミサイルか・・」

「核ミサイルが数十発!?」

「すごい・・」

「信じられません」

 アキトさんは核ミサイルってすごいとは知っていても、実際の威力を知らなさそうでどれだけ凄いかわからなさそうだった。それに比べてラピス達はわかっているようで驚きの声をあげている。

「ATフィールドには様々な使い方があるんですが、標準的なものは皆さんに理解しやすくすればディストーション・フィールドと同じようなものです。ただし、ディストーション・フィールドは光学兵器に強く、実弾には弱いといった弱点がありますが、ATフィールドはそんなものは関係なく、オールマイティなんです」

「何だか反則っぽいね」

「確かに」

 アキトさん達が相槌を打った。

「ATフィールドを破るのは2つ。ATフィールドの防御力を上回る出力のある兵器で攻撃するか、ATフィールドを中和させる事です」

「中和?」

「そう、プラスとマイナスで打ち消しあうようにです」

「って事は、EVAっていうのはATフィールドが使えるのか?」

「そうですね」

 アキトさん、察しが良いです。

「じゃ、シンジ君達の世界ではATフィールドを解明したって言う事!?」

 僕の答えにユリカさんは目を丸くした。無理もない、180年ぐらい前の時代で出来たと思ったんだから。

「いいえ、違います。ATフィールドの何たるかはわかりませんでした。大体、次の使徒が現れるまでATフィールドには大多数の人には半信半疑だったんです。それでも、もしもに備えざる終えなくなり、EVAは作成されました。ただし、EVAにしても理論上は、使徒と同じように使える、というだけで何もわかっていないのと同じでしたけどね」

「理論上?」

「それっておかしくないですか?」

「まあ、そうだよね。何で使えるのか? それだけが分かるなんてね・・」

「・・・そうか、わかった! つまりEVAも使徒に類するものだったんだ!」

「・・正解です。よく分かりましたね、ユリカさん」

「いやいや、それほどでもー!」

 ユリカさんは照れ隠しにか頭を掻いた。

「そう、EVAは使徒を基にしたコピーだったんです」

「毒には毒をもって制す、か・・」

 アキトさんは腕を組んで感心したように頷いた。

「それを人類に辛うじて制御できるようにしたのがEVAだったんです。ただし、僕が乗るまでEVAがATフィールドを使えるという証明はされませんでした・・」

「じゃあ、シンジ君が始めてATフィールドを使ったの?」

「そうなるんですかね? 僕が始めてEVAに乗ったのが、使徒の襲来時にぶっつけ本番で、まともに動かす事なんて出来ませんでした。勝ったのはEVAが暴走状態に入ったからです」

「暴走状態?」

「そうです。EVAは人造人間、その攻撃本能が表に出た常態ですかね。その状態でATフィールドの発現が確認されて、何とか勝ったんです。その時のデータを基にATフィールドの基本的な使い方が、初めて解明されたんです」

 本当、あの時の事は何ともいえないよな。

「それにしても、ぶっつけ本番なんて乱暴だな」

「多分、暴走させるのが前提だったみたいですけどね」

 そう、あの時、父さんは座っているだけでいいと言った。つまりはそういう事なんだ。

「でも、何でシンジ君のような子供がパイロットだったんだ?」

「そうですね、EVAを動かす為の適正が14歳前後の少年少女だったからです」

 表向き派ですけどね、そう内心で僕は呟いた。実際はシンクロシステムが母親の庇護を求める心にあったかららしい。

「そうなんだ」

「ええ、そういうわけで僕を含めて初期は3人、後で追加で2人の計5人が正式に選出されました」

「たった5名ですか?」

「そうだよ、ルリちゃん。随分少ないと思うだろ?」

「はい」

 まあ、人類の命運が掛かっているから、もっと体制を整えたらいいのにと思うだろうね。

「まあ、確かにそうかもしれないけど。でもね、EVAって高いんだよ。建造費もそうだけど維持費も」

 先立つものが無かったんだよね。シビアな事に。リツコさんが予算が無いとか、よくぼやいていた。

「そんなに高いの?」

「そうさ、僕が初じめて出撃した時のEVAへの被害と、その支援施設の修理費等の諸々のお金って、中堅の力をもつ国が一つ傾くぐらいだったんだ」

 後で知った事だけどね・・EVAは本当に人の血肉でできていたと言ってもいい。修理に使う資金を復興に費やせば、どれだけの人が助かったのだろうかわからない。

「それは凄いですね・・」

「だから、おいそれと増やす事はできなかったんだ。無い袖は触れないって事で。それに5人って言ってても、戦いを通して出撃していたのは1人から3人だったからね」

「じゃ、パイロットは余っていたんですね」

「そういう訳でもないよ。パイロットはファースト、セカンド、サード、フォース、フィフスて呼ばれていたけど前線にでていたのは主にサードまで。フォースは参戦する前にフォースが乗るEVAを使徒に乗っ取られて戦線離脱、フィフスにいたっては最後の戦い前にセカンドが使い物にならなくなっての補充だった」

「シンジさんは?」

「僕はサードだった。パイロットの中では一番出撃回数が多いだろうね・・」

 僕が覚えている限り、約20回の出撃で出撃しなかったのは3回。そのうちの1回もアスカのEVAに同乗していたから実質は2回かな?

「厳しい戦いだったんですね」

「そうだね。今思えば、楽に勝ったものもあったけど、殆どが綱渡りの連続でよく勝ち続けることが出来たと思うよ」

「対使徒用にエヴァンゲリオンってのがあったのにですか?」

「それでもさ。使徒が一度に一体のみしか、出現しなかったのが救いだった」

「一体だけで?」

「そう、使徒は何故か一度に一体のみしか出現しなかったんだ」

 多角的に攻められていたら負けてただろうな。

「何故です?」

「何でだろうね?使徒は人類の別の可能性だと僕は最後の戦いの時に教えられた」

「別の可能性?」

「そう、人類の別の姿、生き方なのだとね。つまりは使徒との戦いは生存競争だったっていうんだ」

「生存競争?」

「でも、アレが人類の別の姿なんて信じられないな・・」

「アキトさん、それは僕も思います。でも、本当の所は分かっていないんです。僕自身もそれは人に聞いただけで、自分では確証は持てていない・・」

 でも、タブリスと名づけられた第17使徒は人の姿をして、意思疎通さえ出来た。渚カヲル・・タブリスはそう名乗り、フィフスであり、僕の友達にもなってくれた。

 それにとても優しかった。そう何もかも受け止めてくれると思えるくらい。でも、それと同じくらい残酷でもあった。

[我輩にしても、自分が人類の可能性の一つとはいまいち信じられん]

 そういえば使徒は色々と模索して最後に人の姿に辿り着いたと誰かに聞いたような気がする。誰だったっけ?

[あたしは暇な時は、その謎を模索しているけど未だに結論には達していないわ]

[この世界での使徒の役割は私達の世界でとは違うかもしれん]

「役割ですか?」

[そうだ、私の場合は”人類の言うアダムという存在に接触せよ”が命題であった]

「アダムって何?」

[人類は神様、もしくは最初の人類と言っていたわ]

[アダムとは使徒にとって始祖にあたると言われているが、明確にはわからない。それにこの世界にアダムに相当する存在を感知していない]

[単純に我には感知し得ない可能性もあるがそれは極僅かでしかない]

[でなければ目指す事はできませんものね]

 イロウル達は使徒の目的に興味が言ったのか議論し始めた。

「ねえ、結局、シンジ君の世界では使徒はどうなったの?」

 そうだね、これについては難しい所だよ。よく考えて話さなくちゃいけない。

「・・そうですね、最後の使徒に敗れました」

「ええーー!? 負けたの!?」

 僕が生きているのにそんな事を言われるとは思わなかったのだろう。

「ええ、最後の使徒は特別でしたから」

「特別?」

「最後の使徒・・リリンと名づけられていましたけど、これって人類のことなんです」

「「「「人類!?」」」」

「そうです」

「人類が使徒!?」

「じゃ、つまり同士討ちって事?」

「まあ、そうです。敵もまたEVAでした。しかも、こちらよりもより完成された。それが9体だったかな?こっちのEVAは最大は4体ありましたけど、2体にまで減っていました。でも、それだけじゃない。まともなパイロットはいませんでした。ファーストは動かせるEVAが無かった。セカンドは精神崩壊で入院。サードつまり僕も精神がボロボロでセカンドと同じように精神崩壊の一歩手前、フォースは負傷により現場におらず、フィフスは死亡。これで勝てと言うのがおかしい状況でした」

「精神崩壊って・・」

「原因は使徒との戦闘によるものです。それだけ熾烈だったってことでしょうかね」

 僕はその時のことを色々と思い浮かべる。もう既にそれは遠き日々の事。一度、心が壊れた僕には思い出して実感できるようなものはなかった。他人事のように切り離してみる事が出来る。

「結局、それでも生き残る為には手段は選べないと、セカンド、と僕、サードはEVAに乗せられたわけです。少しでも動かせる可能性があると信じて。でも結果はボロ負け。性能が違うし、パイロットはまともじゃないと、こっちの立場はただでさえ不利なんですから、それで逆転しろと言うのがおかしいです。で、負けてサードインパクトが起きました」

 まあ詳細は全然違うけど大筋はあっているからね。

「サードインパクトが起きたの!?」

「ええ、人類もまたサードインパクトを起こす事を画策してたんですよ。その当時、最も陰で権力を握るごく一部の存在が人類補完計画という名において」

「何か計画名を聞いただけでいかがわしい感じがします」

「俺も」「私も!」「私も」[我々もだ]

「僕もそう思う」

 満場一致の意見だった。

「ねえ、結局、サード・インパクトが起きた後、人類はどうなったの? シンジ君が生きているって事は絶滅したんじゃないでしょ?」

「そうですね・・・その辺って、実は判断の難しい所なんです」

 その当時の事を僕は思い返した。辺り一面の赤い海・・人類補完計画により、一つに溶け合った姿。でも、僕は一つになる事を拒否した。

 その為か僕はそこより弾き出され、赤い海の広がる浜辺に横たわっていた。その隣には何故かアスカも横たわっていた。海に倒れている巨大な綾波の像・・あの時気が付いたら衝動的に僕はアスカの首を絞めていた。何故そうしたのか? 今となっては自分の心さえわからなくなっていた。

「信じられないでしょうけど人類補完計画が発動した事で、人類は一つに溶け合いました。でも、その計画の中核にいた僕は皆にもう一度会いたい、という思いと共にそれを拒否しました。そのお陰で、人は全てとは言いませんが人としての姿を取り戻しました」

 あの後、確かに人の姿を取り戻して人は戻ってきた。それは日増しに増えていった。でも、心のありようがサード・インパクト前と何か違っていたのだ。

「でも、戻ってきた人達には一つだけ前と違っていたんです」

「何が違ってたんですか?」

「テレパシーみたいなものを持っていたんです。テレパシーってわかります?」

 一般の人にわかるのだろうか? 超能力ブームなんてのもあったみたいだから用語としてはそれなりに知られているとは思うんだけど。

「テレパシーって何?」

 ラピスはわからなかったみたいだ。意外だな、ラピスが居た所なら研究してそうな気がするんだけど。

「テレパシーってあの漫画とかに出てくる超能力の一種だよな?」

「そうです」

 流石、アキトさん。こういうのって女の子より男の子の方が好きそうな話ですからね。

「ラピスちゃん。テレパシーっていうのは人の心を見れる力の事なんだ」

「そう、わかった。マインド・リーダーと同じなんだ」

 マインド・リーダー? 初めて聞く言葉だな。

「ねえねえ、ラピスちゃん! マインド・リーダーて何なの?」

「脳は電気信号で動く一種の生体コンピュータ、ならばそれを読み取る事も出来るはずだというアプローチの下、様々な試みで能力を付加されたものの事」

「そんな人が居るんだ」

「人とは限らない。犬や猫なんかの方が使い勝手が広がるとか言ってたから。まだ完全に成功してなかったみたいだけど」

 ラピスの言葉にみんな驚いた。

「犬や猫に?」

「うん、その方が警戒心を呼び起こさずに読み取る事が出来るから色んな可能性が広がるって」

「そんなのが成功していたら怖いな」

 アキトさんはうなった。そりゃ、自分の心が他人に知られるってのは恐怖とかを呼び起こすよね。

「天河さん、でもラピスは完全には成功しなかったって言ってましたから、一部は成功していたと見て言いと思いますよ?」

 ルリちゃんがアキトさんに指摘した。

「そ、そうなの?」

「はい、ルリの言う通り。マインド・リーダーは少しだけ読み取る事に成功しています。その読み取れるものは自分に対する怒りや憎しみといった感情みたいなものです」

[ふむ、それじゃ、研究は進まんだろうな]

「どういうこと?」

「マインド・リーダーだって、心を持っているだろうからね。自分を恐怖とか蔑む対象としか見ない者に積極的に協力するわけない。動物なら尚更だ」

[研究が進めば進むほど自分に対する侮蔑とかが強くなるのがわかるだろうからな。そうなれば幾らがんばっても心が持たずに潰れるだろう]

「完成には程遠いだろうね。話は逸れちゃったから戻すね? さっきからの話のとおり、人はそのテレパシーによって心を隠す事が出来なくなったんだ。全てが見えるって訳じゃないけどね? だけど、それだけでも、普通ならさっきのみんなの反応を見てわかるように、他人を拒絶したりするようになるはずなんだ。でも、実際はそんな事はなかった。なぜなら人は人類補完計画によって一度は心を一つにしていたから」

「つまり、今更ってこと?」

「そういう事だろうね。心の有り様がサード・インパクトを得て変わってしまった。人はその能力によって個としての境界が前ほど強固じゃなくなってしまったんだ。まあ、それだけじゃなくその能力によって共通意識が構築されたんだ。個にして全、全にして個というね。これだけ大きく変わっているんだから、最早、外見が変わっていなくとも別の種と言っても良いだろうね。そう考えると人類は終焉を迎えたといえる」

「よくわかりません」

 ルリちゃんもラピスも想像できなかったんだろう。アキトさんやユリカさんも難しい顔していた。

「実の所、僕も良くわかっていない。僕自身はなぜか、そう言った能力が無かった。おかげで社会から・・世界から弾き出されて、今この世界に居るというわけ」

[多分、近いのは情報の共有化だろう。インターネットみたいなものだ。自分が欲しいと思う情報が直ぐに思い浮かぶ。もちろん、実際はもう少し違う。だがそれを知る機会は失われた。中々興味深い文明を構築するだろうと思ったんだが]

 アルファが僕よりもまだわかりやすく説明したけどそれでもわかりにくいと思う。

「結局、使徒って何なんでしょう」

[人類に成り代わるもの。変革するもの。そう定義づける事も出来るが一概にそうとも言えない]

「どうしてです?」

[我輩のように敵だったが、最後は共存を選択したものも居たからだ]

[最も敵というのも人類から見ればというだけで使徒によって人類に対する認識はまちまちだと思う]

[結局の所、その疑問に関しては人って何?という永遠の命題と同じなのだよ]

[だが、使徒は何かの目的を持って出現している。我輩がそうであったように]

[まずはそれが何かを探る事から始めなくてはいけない]

[一番有力なのは火星古代文明が関わっている事だろうな]

「火星古代文明?」

「たしか、死んだ親父達がそれの研究していたような・・してなかったような」

 アキトさんの物言いでどうやら両親がどんな事をしていたのか知らなかったようだ。まあ、僕だって知らなかったから人の事は言えないけど。

「えっ!?おじさま、おばさま死んだの!?」

「ああ、ユリカを見送ったその日に起きたクーデターに巻き込まれてな」

「そうなんだ・・」

 ユリカさんはアキトさんの言葉に沈み込んだ。そんなユリカさんを見つつもアキトさんは何かを決意したような表情になってユリカさんに言った。因みにいきなり二人の間がシリアスモードになったので他の者は観戦モードに入っていた。というか置いてけぼりをくったというか・・

「多分、親父達は殺されたんだと思う。理由はわからないけど。だけど、真相如何では例えユリカであっても殺す!」

 真剣な目でアキトさんはユリカさんを見た。そこには強い意志が込められているように見えた。本気なんだ。でも、アキトさん。人を殺すのって、酷く嫌な気持ちになってしまうんですよ。最も慣れればたいした事なくなっちゃうらしいですけど。

「そ、そんな〜殺すなんて〜」

 しかし、ユリかさんは只者じゃなかった。いきなり頬を赤らめたかと思うと「殺すなんて、イヤン、イヤン」と頬に両手を当てて首を振った。

 ユ、ユリカさん・・あなたの頭の構造はどうなっているんですか?

[これも生命の神秘という奴だろうか?]

[ここまで自分にいい解釈が出来る精神構造にわたくし、興味あります]

[どういう脳内変換がされたのか非常に興味深いな]

「バカ・・です」「バカ?」

 ユリカさんの反応に皆唖然とした。僕なんかはルリちゃん達の言葉に「あんたバカァ?」というアスカの台詞がリフレインしていた。

「なあ、シンジ君。なんで火星古代文明なんだ?」

 ユリカさんの反応を放っておく事にしてアキトさんは気を取り直して話題を振った。

「火星古代文明の研究の成果がグラビティ・ブラストやディストーション・フィールド、相転移機関等だからです」

 僕は火星古代文明がもたらしたものを端的に聞かせた。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。それって木星蜥蜴の技術じゃないのか!?」

 アキトさんは慌てていた。どうやら、アキトさんはこのナデシコの装備は木星蜥蜴の技術を解析して作ったと思っていたみたいだった。

「違います。確かに木星蜥蜴も同じ技術を使っています。でも、それは火星古代文明と同じものです。第一、このナデシコを建造したネルガルは相転移機関やディストーション・フィールドを木星蜥蜴が来襲する前から研究していました」

[木星蜥蜴が火星古代文明人の子孫なのか、ネルガルと同じように解析して利用しているだけなのかはわからんがな]

[僕としては後者だと思うよ? ナデシコ自体が火星古代文明が持っていた技術を解析した集大成だからね。ネルガルがさも新発明したってスタイルを取っているけど。それにナデシコののスペックと木星蜥蜴の無人兵器群のスペックを比較したけど、その結果、性能はこちらの方が上だ。それにナデシコに使われた技術だって火星古代文明の技術の一部を解析した結果に過ぎない。火星古代文明人の子孫であるなら、もっと強力な兵器を駆使できると思う。最も文明が衰退しているからとも考えられから完全にそうとはいえない]

 火星古代文明の産物であるオモイカネ自身が結論を述べた。

「じゃあ、木星蜥蜴も火星古代文明の技術を模倣している存在だというのか?」

「おそらく間違いないでしょう。火星古代文明は研究から人、もしくはそれに近い存在によって築かれたと考えられています。そうなると木星蜥蜴の正体も同じように人、もしくはそれに近い存在である可能性が高いです」

「人? 人だってのか!」

 アキトさんは拳を握り締めてダン!とちゃぶ台を叩いた。その拍子に僕の湯飲みに入ったお茶がこぼれた。

「アキトさん、落ち着いてください」

 僕はまだ暴れそうなアキトさんの様子に、湯飲みを避難させた。他に止めてくれそうな人であるユリカさんは何か考え込んでいた。こんなにアキトさんが大きな声を上げているのに気付かないなんてすごい集中力だ。

「落ち着けるか、人があんな、あんな事をやるのかよっ!!」

 アキトさんは再び叩いて立ち上がった。

「あんな事?」

「ラピス、多分、火星での無人兵器による攻撃の事です」

 ラピス、ルリちゃんは怒気を発しているアキトさんに動じずに僕と同じように湯飲みを避難させて会話していた。

「アキトっ! もう少し落ち着こうよ。別段、敵が人だって証拠は無いんだから。大体、人類は木星圏までは足を伸ばしていないんだよ?」

 ユリカさんも僕と一緒にアキトさんを宥めに入ってくれた。アキトさんもユリカさんの言葉にようやく落ち着いてくれたのかムスッとはしていたけど座ってくれた。

「ユリカさんの言うとおりですよ、アキトさん。それに残念ですけど、人って言うのは状況にもよりますけど幾らでも残酷になれるんですよ」

 歴史とかは結構、権力者の都合で変えられたりして、真実が伝わってない事がある。僕の世界だってそうだ。使徒と言う存在については世間にはひた隠しされていたんだから。

「そんなっ!」

「本当です」

「そう、本当だよ。アキト」

「アキトさん、本当の事です」

「本当だよ?」

「本当・・なのか?」

 その場に居る全員に畳み掛けられてアキトさんは押し黙った。

「歴史を紐解けば色々有ります。虐殺だって幾例もあるんです。非道で言えば、かなり昔ですけど、投石器という石というか岩を遠くへ飛ばして、攻撃する道具がありました。本来なら石で攻撃するんですが士気を落とす為に殺した敵の首を石の変わりにして飛ばしたり、細菌兵器とかを作成するに当たって効果を調べる為に人を攫って人体実験に使ったりといった事をしてるんです」

「・・・・」

「戦争なら尚更、勝つ為に手段を正当化します。だからって何をしてもいいとは言えませんけど。話を続けると本題とは違う方向に行きますから、この件については機会があればその時に。木星蜥蜴については現在調査中です」

 アキトさんに適当にお茶を濁すような事を言ったけど実際は確証はないけど、おそらく木星蜥蜴は同じ人だと思う。確実じゃないからこの場では言わないけど。

「・・わかった」

「今回現れた使徒は火星古代文明と深く関わっていると推測されます。使徒が現れた時、木星蜥蜴の無人兵器の反応を思い出してください」

 僕の言葉にアキトさんとユリカさんは考え込む。ルリちゃんとラピスはその時は意識が無かったのでオモイカネに記録データを見せてもらっていた。

「・・そう言えば、使徒に問答無用で攻撃を仕掛けていたな」

「そうです。そして、それだけじゃなくこのナデシコのメイン・コンピュータであるオモイカネも自身の持てる最大攻撃をしようとしていました」

[いやあ、面目ない]

[あの時は大変だった]

「本当です。私の言うことを聞いてくれませんでしたから、どうなったのか心配しましたよ」

 ルリちゃんはその時を思い出したのかとても心配そうな表情であった。僕達と出会うまでは唯一の友達だったみたいだしね。

[ごめん、ルリ]

[止めなければオーバーロードした主砲を撃った後、相転移機関は爆発、ナデシコは沈んでだろうからね]

「火星古代文明の技術を使ったものはすべからく使徒を攻撃しようと行動しました。つまり、火星古代文明と使徒とは対立していた事になります」

 技術の根幹に対使徒用のプログラムが組み込まれているという事は、その対立は根が深いということ。それに、人類が完全に火星古代文明の技術を解明して使っているわけではない事になる。それはEVAと一緒でとても危険だ。

「でも、それだとイロウルさん達にも同じ反応をするんじゃないかな?」

「ユリカさんの疑問は最もです。でも、さっきも言ったようにイロウルはもう使徒ではないんです」

[今の私には使徒とわかるような波動を出しているわけではないからな]

「波動?」

[そう、使徒が放つ特定パターンの強力な波動よ。その波動で使徒かどうか判断していたわ。でも、今回の使徒の波動は特定パターンから少しズレていたの]

 最も使徒の情報を蓄えているMAGIであったキャスが説明した。成るほど、何気に使徒の出現や殲滅時に言っていた”パターン青”って、そういう事だったのか。

[だから例え使徒としてイロウルが波動を出していたとしても、無人兵器なんかはそこまで高度なAIを搭載しているわけじゃないから使徒と判別しなかったでしょうね]

[わたくし達の場合ならファジーに推測・判断したりするから、使徒に類するものと判断をくだすでしょうけど]

 メル達は何気に自分は性能が良いのだと主張しているな。

[存在定義の違いが波動の違いとなって出ているのかもしれない]

[対立していたと思われる理由は、それだけじゃない。火星古代文明は使徒に対抗するためにまずは使徒の力を模倣する事を考えたようだ]

「ATフィールドとディストーション・フィールドですね」

 先程までオモイカネに使徒に関する資料を要求して考え込んでいたルリちゃんが言った。

[それに使徒に強力なエネルギーを供給するS2機関とナデシコの機能をもれなく使用する為の相転移機関。何れも使徒の力には及ばなかったようだがね]

「S2機関?」

[簡単に言えば生体組織で構成された永久機関だ。その出力は最大のものになると星すら破壊できるだろう]

「あ、そうか。そういえばセカンド・インパクトって使徒の暴走を最小限に抑えようとして起こったんだっけ。抑えてセカンド・インパクなら、完全な暴走ならそうかもしれない」

[因みにこれがゼーレが秘匿していた映像]

 そう言ってセカンド・インパクトが起きた時の映像がノイズが走ったりぼやけたりしているけど映し出される。そこには衛星軌道上から観測された赤いATフィールドで出来た大きな羽のようなものが大きく写っていた。その大きさは何千キロとありそうだった。僕もこれは初めて見た。

[これで地球に大災害が誘発されたり、地軸がずれたりした]

「星を破壊ですか? な、何かスケールがでかいというか・・」

 ユリカさんも映像を見てびっくりしている。ルリちゃんやラピスは地球が破壊できるエネルギーを計算して算出した値に目を剥いている。ルリちゃんやラピスは理系のようだから数字の方が理解しやすいのだろう。

「グラビティ・ブラストはどうなんでしょう?」

[使徒の攻撃は多彩だからな。似たような攻撃方法を持つものがいたのかもしれん]

「そうだね。実際、僕が3番目に戦った使徒はそういう類の攻撃方法だったし。飛び道具を持っている使徒は結構いたかな?」

[使徒が何故、この時期に、そしてここに現れたのかわからん。だが使徒があれだけとは思えん。今後も恐らく使徒は現れるだろう。その時、火星古代文明の技術を使いつづける限り、人類は使徒との争いに巻き込まれる]

[今更、得た技術を捨てる事が出来ないのが人の性であるからな]

「だね、今一番、使徒と遭遇する可能性がこのナデシコだよね」

「どうして?」

「使徒が現れる理由の候補は色々あるんだ。例えば僕」

「シンジが?」「シンジさんが?」「「シンジ君が?」」

 一斉に僕に皆、注目した。皆の視線に僕はどぎまぎしてしまう。

「僕はサード・インパクトが起きた時、中核にいた。そのお陰で一寸、特殊な力を手に入れてしまったんだ。それが理由」

[他にも元使徒たる私、イロウルがいるからという可能性]

[僕、オモイカネを含むナデシコという火星古代文明の産物があるからという可能性]

「そして」

「「「「そして?」」」」

 ますます注目を浴びた。こんな状況になったの初めてだ。

「ア、アキトさん、ユリカさんという火星出身者がいるからという可能性」

 思わず緊張しちゃってどもっちゃった。

「えーっ!なんでーっ!」「どういうことだ!」

 そりゃ驚きもするかな。考えても見ない理由だったからね。

[ふむ、何故かというとだな、思い出してみたまえ使徒と遭遇した時を]

「えーと、ジュン君達がうめいて倒れた。でも、私は平気だった」

 唇に人差し指を当ててその時のことを思い出してユリカさんは答えた。

「意識がなくなりました」

「同じく」

 ルリちゃんとラピスは相変わらず簡潔だった。

「俺は平気だったぞ」

 アキトさんは運がいいです。もし、あの場、戦場で意識を失っていたら、その場であの世に逝っていた可能性が高いですから。

[そう、それが理由だ]

「それが理由って・・」

「アキトと私が起きていたことがですか?」

[未だ確証は無いがね。恐らく二人が火星生まれである事が原因だろう。他の乗員に火星出身者は居ないし、佐世保周辺に居た者にも居ない。あの使徒の周囲で意識を保っていた人はシンジ、アキト、ユリカだけなのは確認済みだ]

[シンジは特殊だから除くとして二人の共通項といえばそれが一番だからね」

「そうなんだ」

 ユリカさんは納得顔。アキトさんは何やらショックを受けていた。

「なあ、ユリカ」

 何かアキトさんまた真剣な顔つきになってユリカさんに話かけている。何かさっきの話で思い当たる事があったのかな?

「何?アキト」

「おまえさ、使徒を見た時にアレをどうにかして倒さなくちゃいけないと誰かに囁かれなかったか?」

「えっ! アキトもっ!? じゃあ、あれって気のせいじゃなかったのかな?」

「あの、どういうことですか?」

 僕は恐る恐る聞いた。

「えとね、あの使徒を見た時に倒さなくちゃいけないっていう衝動が、心に湧いてきたんの。あれって強迫観念って言ったらいいのかな」

「俺も似たような感じだな」

[ふむ、アキトだけなら天河博士が、何らかの措置をした可能性が考えられるが、ユリカもだと違うな]

「案外、火星には火星生まれの人間に使徒に対して自然に耐性がつくような仕組みがあるのかもしれないぞ?]

 アキトさんはイロウルの言葉に一寸、蒼くなっている。

[あたしとしてはどちらかというとアキトの方に比重を置くわね]

[成る程、そうかもしれん]

「ど、どういうことだよ!?」

 流石に自分の事に関するだけに動揺も激しい。

[アキトは一年前まで火星に居た。それが気が付けば地球に居たというからな。この現象は中々興味深い]

「そ、それは俺にもどうなっているのかわからなかったんだぞ」

[そうだな。だがその現象を起こしたのか、巻き込まれたのか判明はしていないが体験した事が特別と捉える事ができる]

[それが原因かはまだ不明なのだ。焦る事は無い]

[そう言ったことを調べるためにも、是非とも火星には行きたいものだ]

「でも、それだったら好都合だね!」

「何でだよ?」「なぜ?」「どうして?」「そうですね」[何がかな?]

 ルリちゃん以外の僕を含めた皆が、ユリカさんの言葉に疑問を持った。ルリちゃんだけ態度が違うのは何か知っているみたいだ。

「だって、この艦は火星を目指すからっ!」

「「なんだってっ!!」」

 僕もアキトさんも驚いた。何よりもアルファ達も知らなかった事にだ。アキトさんも故郷に行くと聞いて呆然としている。

[成る程、確かに好都合だな。しかし、この艦にそういう目的が有ったとは]

「知らなかったの?」

[ああ、ある程度は調べていた。ネルガルが軍に断りを入れて、試験的に運用する事になっているとね。だが、火星のかの字も浮かんで来なかった・・よかろう、これはネルガルからの私への挑戦だ受けてやろうではないか!]

 アルファ達、いや、イロウルは何か酷くプライドを傷つけられたようだった。別にイロウルに対して情報封鎖したわけじゃないのに。どうやらネルガルを徹底的に調べる決心をしたようだ。ネルガルの人、大変になるだろうな。

[僕にもそのデータは一切無かったね]

 まあ、イロウル達が知らないなら、オモイカネにもデータが無いって言うのは自然とわかる。

「そこまでして、火星行きを隠していたっていうのはどういうことだろう。それに何でユリカさん達が知っているんです?」

でも、そんなに隠しておきたいのなら何でユリカさんとルリちゃんは知っているんだろうか?

「えーと、私って自分で言うのもなんだけど地球連合大学を主席で卒業したでしょ? そのまま軍に入ればエリートなの。今の戦況を考えれば優秀な人材は連合軍には喉が出るほど欲しいの。そういうわけで私も軍へ入る気満々だったの。その時にプロスペクターさんがスカウトに来たんだ。その時に一寸渋ったら火星行きの話が出て・・アキトの事が心配だったから話に乗ったの。でも、今考えるとプロスペクターさんは私とアキトの事良く知ってたのかもしれない」

 確かにユリカさんの見てくれはそこらに居る女学生と大差ない雰囲気の持ち主。今の制服も着ているというよりは着られている感じがする。でも、本当にアキトさんの事が大切なんだな。

「ユリカ・・」

 アキトさんは少し目を潤ませて感動しているようだった。まあ、最初が最初だけに邪険にしていた所があったからこれを気に二人の仲が進展すればいいんだけど。

「じゃあ、ルリちゃんも?」

「そうですね。私も同じようなものです。ただ、私の場合は余程、つまらないというように見えたのか興味を引かせる為のようでしたけど」

 そう言ってルリちゃんはお茶をすすった。

「そ、そうなんだ」

 うーん、やっぱり、ルリちゃんって綾波的だから、とっつき難いと言うか。

[さて、火星に行くとなると、ますます遭遇する可能性が高い]

「どうしてさ?」

[私が調べ計算した限り、今回現れた使徒がやってきた方向が火星方面だからだ]

「・・つまり、使徒に遭遇する可能性は極めて高いという事ですね」

「そうなると対抗手段を考えないといけないんだ」

[火星古代文明を完全に解析できていたなら、有効な対抗手段があったのかも知れないが、現時点では一部分だけしか解析できていないし、その技術では使徒に対して無力だったのは結果が示している。完全であっても使徒が存在していた所を見ると、対抗できなかったのかもしれない]

[研究という意味では天河博士が死んだ事は惜しまれる。死んでいなければ解析も、もっと進んでいただろうからな]

「親父たちが・・」

[そうだ。天河博士達が火星古代文明への理解の第一人者であったからな・・]

「そうなんだ・・知らなかったよ。俺・・」

 何か思う事があるのかアキトさんは考え込んだ。僕も父さん達の事は何も知らなかったから、境遇は似たようなものか。

[恐らくネルガルの狙いは使徒ではないにしろ、火星古代文明の研究成果の回収が目的ではないか?]

「そんな」

「アキト、仕方ないよ。ネルガルは企業なんだよ? 利益が無きゃ動かないよ」

「でもな、ユリカ」

 アキトさんはわだかまりがあるのかやりきれない表情だ。

「ようは考え方だよ。今時、火星に行く艦なんて無いんだから、ラッキーって思っておけばいいと思うの」

「そうか、そうだよな。ありがとう、ユリカ」

「そんな事、たいした事無いよ」

 何だかアキトさんとユリカさん、二人の空間が形成されていっているような気がする。まあ、それはそれでいいか。

「対抗手段とかいっていましたけど、佐世保に現れた使徒はどうやって、倒したんですか?」

「私達は気を失っていたからわからない」

 ルリちゃん達が僕のほうを見る。金色の瞳がじっと僕を見詰めて少し、心が落ち着かなくなった。

[それは我輩らとシンジが力を貸したからだ]

 そんな僕にアルファが助け舟を出してくれた。

「やっぱり、そうですか」

「予想通り」

 確かに記録映像を見ただけでは良くわからないか。こっちはATフィールドなんて使わずに中和しただけだから。

「僕自身もよく分かっていない所があるんだけど、僕がエステバリスに乗るってことはEVAに乗っているのと同じことが出来るみたいなんだ。つまり、ATフィールドを無効化させて使徒を倒す事が出来る。最もまだ慣れてなかったからATフィールドを中和し切れなかったりしたけど」

 そう、操縦に慣れるに従って僕はEVAを操縦しているのと似た感じがした。最もEVAの時は暖かく包まれるような感じがしたけど、エステバリスの時は無機質で冷たいと方向性は正反対だったけど。

「でも、俺は問題なかったぞ?」

[まあ、ここにいる者たちなら、話しても良かろう。それはな、我が力を貸したからだ]

[シンジの力は不安定で自分では未だ制御できていない。アキトの場合は完全制御している私とリンクしているから問題なかったのだ]

「そうなのか・・ってちょっと待て! リンクって何だ!?」

 うーん、僕もアキトさんがイロウルとリンクしてたなんて初耳だな。リンクしたらどうなるんだ?

[それはだな、アキトの意志に合わせて力を最適に発動させるものだ]

[その為に我の一部をアキトに同化させた]

「「ど、同化!?」」

 僕とアキトさんは驚いた。特にアキトさんは動揺している。

[余り気にするな、IFSのナノマシンと同じに考えればいい。感覚的には少しナノマシンが体内に増えただけだ。それ以外に何ら支障は無い]

[その為、紋章が変化してしまったがな]

「ほ、本当に大丈夫だろうな!?」

[多分な。何分、初めての試みだからわからん]

「そんな、無責任な!」

 アキトさんは怒鳴り込んでいる。まあ、自分の事だけに不安一杯なんだろうなあ。でも、遊ばれているな、アキトさん。大丈夫ですよ、その方法、前にやった事有るから。

[だから、あの時、言ったであろう? 代償を必要とすると]

「まあ、そうだけど・・」

 アキトさんの勢いは無くなった。

[まあ、うまくいけば身体能力も向上するよ、多分]

「すごく不安だ」

[ちゃんとリスクを言って承知してからやったんだ。覚悟を決めるのだな]

 今更、クーリング・オフは効かない。

「化け物になったりはしないよな?」

[そこまで変化する事は無い。機能として盛り込んだのはリンクと反射速度の向上、筋力の増強だ]

[筋肉がついて体が逞しくなったりはするが形状が変化するような事はない]

 わかったっすとアキトさんは肩を落とした。まあ、その辺は自分で承知した事ですからね・・僕には何とも言えません。

「今後、使徒が現れた時の対策はどうするんですか?」

 そんなアキトさんを横目にルリちゃんは質問した。相変わらずクールだ。

[そうだな、はっきり言って今のままだとまずいのは確かだ]

「そうだね、今のままだと使徒の精神干渉には僕とアキトさんとユリかさんだけしか耐えれないから」

[さて、対策であるが私がATフィールドを張れば、使徒の精神干渉は防げるが、私が表に出るのは極力避けたい]

「どうして?」

[特異な力は人に恐れを抱かせるか野心を抱かすか・・とにかく碌な事にならないだろうからな]

[そうなれば、色々ややこしい事になるの]

[場合によっては敵対する事になるし、流れによってはあたしたち自身が生き残るために、人類を滅ぼす事になりかねないわ]

「滅ぼすんですか?」

[私を滅ぼそうとするならだ。それだけの力はあると自負しているよ。最も共存するならば何ら問題は無い。だが、共存できないと言うなら、私達は自分の存在を掛けて戦う」

 まあ、イロウルへの対処法なんかも有るだろうけど、そんなものは使徒時代に経験しているから有効じゃない。成長もしているから厄介だろうね。メル達、マギーのサポートもあるだろうから。それにもしそうなった場合は、僕自身も人類の敵になるだろう。イロウルは僕の家族だからね。

 でも、その答えを聞いたルリちゃんは少し怯えを抱いたようだった。何だかんだ言っても、このイロウルも元は使徒と言う得体の知れない存在であるのは確かだしね。でもラピスの態度は変わらない。それどころか膝にベータを乗せて撫でている。

「まあ、敵対しない限りは友好的で頼れる友だから、大丈夫だよ」

 僕はルリちゃんを安心させようと笑顔で言った。

「はい」

 ルリちゃんは少し表情を和らげた。

「そうとも、だからそうならないように方策を立てるのだ]

[その為には、ナデシコの乗員にがんばってもらわねばならない]

[実際の所、使徒に対した時はナデシコの制御は私達がすれば何ら支障が出る事は無い。が、情報処理には手助けが有った方がより有利になる。それに使徒相手に無傷で居られるほど使徒は甘い存在ではない。人では必要なのだ。そこで精神干渉を遮断できるように船体を現在改造中だ。その作業は1週間後には終了する予定だ]

 本気を出せばどうって事はないんだろうけどね。自己修復、自己進化、使徒特有の能力があるから。

「結構時間かかるんですね」

[ただ遮断できるだけでなく強度も高めておこうと思ってね。使徒の攻撃は如何に強力なATフィールドを持とうとも突破してくるものもあるのでな。強化は気休め程度にはなる]

 まあ、使徒によってはどんな装甲も紙切れ同然って事あるしね。

[今の作業が終われば艦の運用の方はどうにかできる]

[問題は武装だな。ATフィールドを中和する事に関しては余り目立つ事は無いので何とかできるだろう]

「ATフィールドが中和できるんならこの前の使徒のようにグラビティ・ブラストで倒せるんじゃないか?・・そうだ、あの時、シキって名乗った子は誰なんだ、シンジ君?」

「はは、えーと」

 僕は答えに窮しどう答えるか考えあぐねていた。

「「シキ??」」

 そんな時、ラピスとルリちゃんが話がわからなかったようだ。

[こんな子だよ]

 そんな彼女達にオモイカネがフォローする。そこにはエステバリスのコクピットに座っている緑の髪に緑の瞳をもつラピス達と感じの似た少女が写っていた。年頃はアキトさんぐらい。服はまあ、僕のサイズじゃ一寸きついのか、ぴっちりとしていた。お陰でやたらと形の良い胸が強調されて僕のような健全な男子には目の毒だった。それはアキトさんも同じで、それに気がついたユリカさんの機嫌が見る見るうちに悪くなっていくのが見えた。

「この子がシキ?」

 ラピスは何を思ったのか不思議そうに首を傾けた。

「あぁ! そうそうこの子だ!」

 アキトさんはユリカさんの視線に気付いたのかそれを誤魔化す様にオーバーアクションで画面を指差した。

「そう、この人がシキですか」

 ルリちゃんはシキを見て何だかホッとしているみたいだった。何で?

「なあ、シンジ君」

「なんですか、アキトさん」

「この子は何でシンジ君の乗っているはずのエステバリスに乗っていたんだ?この画像で見るとシンジ君が居ない様に見えるんだけど」

 本当、どう説明しよう・・

「わかった!シンジ君、女装の趣味があったんだ!!」

「違います!!」

 僕は激しく否定した。冗談じゃない、あの忌々しい事件を引き起こしたのに誰がするか!

「えっ!?違うの?」

 ユリカさん、本気だったんですか? ここまで来ると貴方の天然さは罪ですよ。自覚してやってたミサトさんよりも性質が悪い。

「詳しくは省きますけど、シキと僕は今は一心同体なんです。シキが表に出てくると肉体もシキに合わせたものに変わるんです」

「へえ〜」「そうなんですか」「そう」

「うそだろっ!冗談言うなよ。ユリカは信じるって言うのか!」

 何かアキトさんだけが信じられずにいる。まあ、それが普通だよね。

「うん! そういうこともあるよ。使徒って言う不可思議なものまで居るんだもん。シンジ君のなんて、かるいかるい」

 ユリカさん、頭が軽いと思える分、柔軟な思考が出来るというわけですね・・

「あまり気にしていたら、この先やって行けませんよ?」

 ルリちゃんも適応力が高いんだろうか。

「それに変身なら見たこと有るし」

「「「えっ!?」」」

 ラピスには何度か驚かされたけどこういう切り返しがあるとは思わなかったな。

「男から女になるのは見たことある」

[ああ、あれか]

「何? 思い当たる事あるの?」

[前にある所を調査していた時に偶然資料を見つけた。元々性同一性障害者の為の研究だったんだが、まあスパイ活動にも有効とかで色々と研究されていたみたいだな]

「見学する機会があって、立ち会った事がある。その時、何だかわからないけど、呻き声をあげ初めて、子供はこれ以上見ちゃいけませんって、別の所に連れて行かれた」

 どうしてかな?とラピスは不思議そうな顔で言った。

[まあなんだ、一応の成功は収めたものの、どうしても改善できなかった点があって計画は破棄されたそうだ]

「どんな障害だったの?」

 何となく予想が付いたけど興味には勝てず質問してしまった。

[理由は色狂いになったらしい。手術する必要も無いってって事で完成していたら画期的だったろうな]

「「色狂い?」」

「子供は知らなくて良いです!!」

 ユリカさんが顔を真っ赤にして叫んだ。アキトさんもどういう意味かわかったみたいだ。確かに意味合い的に余り知る必要の無い事だけどね。それぐらいで声を荒げなくても。年齢の割に純情なんですね。まあ、当たり前かアキトさんを王子様と呼ぶぐらいだから。そういう僕は何といいますか・・

「でも、他の人にシンジさんとシキさんの事、バレたら大騒ぎになりませんか?」

「確かにね。多分、もうすぐダメージが回復するから、そうなると融合してなくても良くなるし」

「融合状態・・ですか?」

「もともとシキはさっき言ったEVA、僕の乗機であった初号機に宿る魂だったんだ」

「初号機?」

[先程の映像に会った紫色のエヴァンゲリオンの事だ。因みに赤は弐号機]

 ラピスの質問にはアルファが答えた。

「そう、元々EVAって説明したように人造人間なんだ。つまり生きていたのさ。当然ながら魂も宿っていたわけなんだけど、人に認識できるほど明確なものは無く、希薄だっ
たんだ。それが僕と共にサード・インパクトを経て明確な意思を持つようになったんだ」

 僕と初号機を核として人々の様々な思いが押し寄せてきたからね。感情の奔流が希薄だったシキの魂を刺激して、呼び覚ます事になったんだろう。

[その時に私やMAGIもブレイク・スルーに至り、意識を持つようになったのだ]

「そうなんですか」

「で、融合なんだけど、EVAの操縦システムってシンクロすることなんだ」

「シンクロですか?」

「そう、合一化と言ってもいい。シンクロ率を高める事でEVAをより良く性能を引き出せるんだ」

「率って事は100%になればそのEVA自身になるって事ですか?」

「そうだよ。でも、それは諸刃の剣なんだ」

「どうしてですか?」

「EVAは人造人間なんだよ。つまり、生物であり痛覚がある。ダメージを受ければパイロットもそれを受けたものとして感じるんだ」

「それって」

 その意味が理解できたのか、余り表情を変えることの無いラピスやルリちゃんが青褪めた。もちろんアキトさんやユリカさんもだ。

「まあ、そういう事。特に使徒の攻撃は苛烈だからね。例え自分自身では無くても手を折られれば、自分の手が折れたものと感じ、お腹を貫かれれば、自分もさされたものとして感じる。頭を潰されれば、多分、自分の頭を潰されたと思ってショック死するだろうね・・」

 本当にEVAで使徒を相手するのは恐いよ。

「大変だったんですね・・」

「嫌な操縦システムだな」

「そうですね。お陰で出撃すれば50%以上の確立で病院送りだったな・・良く命があったもんだ」

 心臓が止まった事もあるしね。EVAで戦うって事は生身で戦うのと同一なんだよな。

「まあ、余談はこれくらいにして、シンクロ率は理論上は100%が限度なんだけどそれ以上になる事があるんだ。で、そのケースに僕は陥っちゃってねEVAの中に融けて吸収されちゃったんだ」

「融けてって、大変じゃないか!!」「「!」」

「でも、今皆さんの目の前にいるのがわかるように、運良く何とか戻ってこれたんですけどね。そう言った事があって、僕とシキを隔てる境界線はあいまいになっているんで、一つになったり分かれたりできるんです。で、シキはこの世界に来る少し前にダメージを負いまして、それで今は僕と融合して回復している最中なんです」

 だからシキは今、眠りのサイクルに入っている。シキと僕は度重なるシンクロでもう互いを半身と言っていい存在だ。

[シキは見かけは人・・少女でもその本質はEVAだ。頼りになる]

「取り敢えずシキちゃんが復活したらどうするか考えないといけないね」

 ユリカさんはニコニコしながら言った。

「そうですね。その時はお願いします」

 本当ならプロスペクターさんの協力を得る事が出来れば一番心強いんだけど、見た所企業人のようだから、こちらに引き込むにはリスクが大きいと思う。この件に関しては何とか方法を考えよう。

[横道に逸れたが武装の件だ。止めをグラビティ・ブラストでと言っていたが、エステバリスで牽制する必要も出て来るのだ。そうなると今のでは威力が不足している。アキトがこの前の使徒にダメージを与える事が出来たのはこちらのATフィールドが数段上回っていたからに過ぎない。レベルが同じぐらいなら威力がものをいう]

「僕たちの知っている使徒は普通のミサイルならATフィールドなんて張る必要も無いと無反応だし、強力なのは核ミサイルの直撃でもATフィールド無しで耐え切るからね」

「じゃあ、じゃあ、ひょっとしたらそのATフィールドが無くてもグラビティ・ブラストを耐え切る奴も居るかもしれないって事?」

[当然ながらそう予測できるな]

「そんな〜、理不尽!!」

 無常な答えにユリカさんは叫んだ。。

[理不尽な存在こそが使徒であるからな]

[そういうわけでどうしても武装を強化、開発する必要がある。我輩らだけでもできないことはないが、如何せんやる事が多すぎるのだ。人手が欲しい。そこで整備班の協力が必要だ。ただし、信用できる人間のみでだ。特にウリバタケ・セイヤの力は必須だ]

 まあ、セイヤさんの場合は好きなだけ改造や作成が出来ると言ったら協力してくれそうだけど。

[民間からスカウトしたとあって、身上調査はしてるんだろうけど、それでも幾つかの企業などからスパイが送り込まれているからね]

[そういう者達には知られては困る技術も使う事になる]

[それに何れの勢力よりも干渉されずに行動できる自由を確保する必要がある。これについては現状では厳しいので手段を模索中だ。最も組織を編成するのは決定済みだな]

「何でだ?」

 アキトさんが首をかしげた。

「アキト、どこかに所属していれば、その所属している所に一番利益が得れるように運用しようとするからだよ」

 ユリカさんはにこにこしながらアキトさんに説明している。アキトさんと話しているとき滅茶苦茶幸せそうに見える。

[それに対使徒用に開発する装備は今の技術よりも数段上のレベルになる。それはあってはならない技術、ブラック・テクノロジーだ。それを世の中に広げるわけにはいかんのだよ。過ぎたる力は人を滅ぼすだけだ]

 まさに使徒=人類の可能性を滅ぼす兵器だから、物騒極まりないよ。

「実際、僕の世界はそれで滅びましたから。でも、火星古代文明の技術も同じようなものだから、今更遅いかもしれないですけど」

[純粋に使徒に対処する組織を作る。取り敢えず手始めに、その雛形をこのナデシコに設置する]

「組織名はやっぱり、あれ・・だね?」

[その通り]

「わかった! シンジ君の居た所、Nervだね!」

「その通りです」

 あんまり良い思いでのあった場所ではないけど、それでもかけがえの無いものを得る事が出来た場所だったから。

[まあ、今回は表裏なしの純粋な対使徒組織だ]

[それから、テンカワ・アキト]

「な、なんだよ」

 いきなり改まった言い方をされて戸惑っている。

[君の両親の死については我輩が調べよう。不審な点が多々あるのでな]

「ど、どういう事だよ!!」

[詳しい事がわかり次第、話す事になるわ。少なくともユリカ嬢とは関係ないはずよ]

[真実を知った後、どう行動するかは君の勝手だが、それによって我との契約を蔑ろにされては困る]

[事と次第によっては力を貸す事も考える]

[今は深く考えぬ方がいいわよ]

 アキトさんはグッと何かを堪えた。

「・・わかった」


(つづく)


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注)新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
  機動戦艦ナデシコは(c)XEBECの作品です。






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