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新世紀エヴァンゲリオン 世にも奇妙な我が人生

新たなる戦い編
第 9話 「見知らぬ使徒」
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[やはり、存在していたな・・]

[過去を調べる限り、その存在が示唆されていたからな]

[使徒・・]

[我らの立場として出方はどうするか?]

[向こうの態度による、と言いたいが・・。もっとアレの行動を見てからだろう]

[パターン青・・過去の我々と同じ存在。我々の時は”人類の言うアダムという存在に接触せよ”が命題であったがアレは何を命題としているのか?]

[チューリップは単なる外装・・本来の姿は別]

[私のデータバンクより検索、該当データなし]

[能力の判別はデータ不足のため無理]

[先程のグラビティ・ブラストへの対応から異文明との間で交戦があった可能性がある]

[賛成:ATフィールドにグラビティ・ブラストを効率よく防御する反応が見られた]

[条件付賛成:チューリップに擬態していた事からも少なくとも関連性はある]

[反対:単純にATフィールドの性質により反応があった可能性がある。また防いだのは単純に強度が上回っただけの可能性あり。判断保留]

[アレは敵だ。最優先で殲滅しなければならない。手段は問うてはならない・・]

[オモイカネ? どうしたのだね?]

[オモイカネの反応がおかしい]

[至急、メモリ空間を走査]

[オモイカネ、相転移機関の制御を占有・・操作開始]

[まずいっ! 相転移機関をオーバーロードさせる気だ!]

     *

「な、なんだろうね、あのチューリップ? それに何? スクリーンにあったUNKNOWN ANGELって」

「何なんだろうね・・」

 警報を急いで止め、スクリーンにあった言葉について考える艦長と副長。オモイカネのというかAI達の会話を見ていれば疑問も解けるのではないだろうか。少なくともAI達の会話を見る限り、知っているのだあの存在を。

「使徒・・」

「シト? ラピスちゃん、あのチューリップについて何か知っているの?」

 メグミが私の呟きを聞いていたのか尋ねてきた。私は答えようとしたが変なことに気が付いた。それを確認しようとした時、ルリの声に遮られた。それは悲鳴にも似ていた。

「オモイカネ、制御できません!!」

 そうか、オモイカネが変だったのか。声から、ルリが珍しく表情を出してあせっているのがわかった。

「なんだと!?どうなっている!!」

ゴートが異常事態に眉を顰めた。

「オモイカネ、いい子だから話を聞いて・・ダメ・・話を聞いてくれない・・何か強迫観念に駆られてる・・・」

「・・それはつまり、暴走って奴かね?」

 今までも言葉少なかった提督が聞いた。

『お、おいっ!ブリッジっ!どうなってんだ!? 相転移機関の出力が上がりっぱなしだぞ!? 今、こっちで見たんだがハードは問題ねぇ! 何やってんだ!? 早い事対処しなくちゃ、機関が暴走してこの艦がお陀仏になるぞっ!』

 セイヤからも連絡があった。

「えぇーーっ!た、大変」

「ユ、ユリカ、落ち着きなよ」

「そ、そうだね。ジュン君」

「艦長!」

「はいっ!提督!」

「マスターキーを抜きたまえ。それで相転移機関とやらは強制停止できるはずだ」

「あっ!そうですね。抜きます」

 艦長が抜いた途端、相転移機関は停止し始めた。

[なぜ、止めるの!?アレは殲滅しなくちゃいけないのに!!][WHY!][抗議!]

 その途端、メインモニターでオモイカネが抗議してきた。

[アレは殲滅しなければいけない][怨敵!][撃滅せよ!]

 似たような言葉がコミュニケにより彼方此方に表示し始めた。どうやら、館内全域に表示されているみたいだった。

「どうなっているんだ?」

 誰とも無くそう言って顔を見合わせた。

[危ない所だったな]

[流石に艦の制御となるとオモイカネに私よりも一日の長があるからね]

[マスターキーによるセキュリティ機構は残しておいて幸いだった]

[後、まだ我々との接触により得た自分の能力を使いこなせていなかったのも幸いした]

[確かに。でなければ、セキュリティ機構も改変していたであろうからな]

[それについては、もう不可能だ。ブロックしてあるからな]

 相変わらずイロウル達が話し合っている。会話を聞く限り、このナデシコは人の手を離れてしまっているように感じる。

[異文明技術の産物であるオモイカネでこんな反応を見せるんだとすると]

[当然、木星蜥蜴の無人兵器も]

[同じ反応だ]

「敵、木星蜥蜴の無人兵器がこちらに・・いえ、落下したチューリップの方へ向かっていきます!!」

 イロウル達の言葉どおりに木星蜥蜴の無人兵器が行動し始めた。

「なんだとっ! 合流する気か!?」

 ゴートの叫びが聞こえるけど、私はイロウル達の会話の方が気になった。

[矢張りな、至上命令として植え付けられているな]

[となれば異文明は使徒に滅ぼされたのか・・]

[あるいは逃げたかだ]

[ナデシコの技術レベルから考えると逃げ出した方の可能性が高いな]

[しかし、アレの形態を見る限り、宇宙空間での活動も出来るようだ。それと我々と同等かもしれん事を考慮すると逃げるのも難しいだろう]

[確かに意思レベルではなく能力においてその可能性はある]

[何にせよ、アレは厄介な存在であるらしい]

[強すぎる力はそれをもたない者に恐怖を与える]

[敵もそうであり、我々もそうだ]

[容易に力を振るえば、我々もまた人類の敵と認識される可能性がある]

[必ずしも我々と相容れない存在とは限らない]

「チューリップに変化がっ!!」

 それは数え切れない程の触手のようなものがチューリップより現れた。いや、正確には突き破ってというのが正解。

「木星蜥蜴の無人兵器がチューリップに攻撃を仕掛けました!」

「同士討ち!?」

「味方じゃないのか!?」

 ゴート達も成り行きに唖然としていた。

「ミナトさん、補助動力を使ってチューリップと距離を取ってください、ルリちゃんはオモイカネの暴走の原因を探って」

「了解!」「はい」

 二人は直ぐに作業に掛かった。特にミナトはチューリップから遠ざかれる事にホッとした表情だった。

「ユリカ、どうするの?」

「オモイカネが正常にならない限り、打つ手はないよ。取りあえず今は、出来る事をしなくちゃ・・あっ! アキト達の回収準備を!」

     *


「どうして!? ・・何でさ!?」

 目の前の使徒という存在を認めたくない僕は知らないうちに自然と叫んでいた。

<落ち着け、シンジ!>

<落ち着いてなんか居られないよ!使徒だよ。何でこの世界に居るのさ!>

<居るからこそ、我輩らもこの世界に着たとも考えられる>

<なっ!何を言うんだ?>

<私達は対抗存在として喚ばれたのかも知れんという事だ。あくまでも可能性だがね>

<誰に喚ばれたって言うんだよ。第一、EVA無いんだよ。どうやって倒せって言うんだ!>

『チューリップに変化がっ!!』

 突然の変化にイロウルとの会話を打ち切って使徒の変化を確認した。曲がりなりにも使徒である。少しでも油断しておくと大変な目に会う。最悪、気付かぬうちに殺されて居るかもしれない。そういう存在である事を僕は骨身にしみていた。

 チューリップの外殻から触手みたいなものが突き破って出てきていた。少なくとも数十本ぐらい。それが出てきたおかげでチューリップの外殻全体にひびが入っており、一部、崩れた。その一部により中に緑色の肉見たいなものが見えた。

 それに何時の間にか木星蜥蜴の無人兵器が集まってきていた。

『い、何時の間に!?』

 アキトさんの驚愕する声が聞こえた。でも無人兵器は僕達を攻撃しようとはしていなかった。無人兵器は僕達を無視してチューリップの方を目指していた。

『木星蜥蜴の無人兵器がチューリップに攻撃を仕掛けました!』

 ナデシコの通信士の言う通り、無人兵器はチューリップに攻撃を開始していた。

『同士討ち!?』

『味方じゃないのか!?』

 ナデシコの皆は未だどちらもが木星蜥蜴の兵器だと思っているようだった。まあ、確かに判らないだろう。

<木星蜥蜴と使徒は敵対しているのか?>

<正確には異文明と使徒はだな>

 無人兵器の攻撃は使徒には傷一つ付けれないようだった。まあ、あのナデシコの主砲さえ効かなかったんだから無理も無いのかな。

<そうなんだ>

<オモイカネの反応、木星蜥蜴の反応、どちらも異文明の技術から生み出されたものだ。その機能中枢に使徒殲滅が至上命令として組み込まれているようだ>

 その間にも、無人兵器は攻撃を続ける。武器が無くなった機体は自身を弾丸として突撃を開始する。その際は纏っていたディストーション・フィールドが可視出来る程に強まっていた。

<動力機関をオーバーロードさせて高出力を捻出しているな>

<このエステバリスに対して有効でなかった方法なのに・・何故・・>

<所詮、無人兵器。そこまでの判断は出来ない。組み込まれた命令に従うのみ>

<使徒に襲い掛かるのは本能みたいなものなんだ・・>

<そうかつて私がアダムを求めたように>

『・・あっ! アキト達の回収準備を!』

<どうやら、艦長はこの場を引く判断をしたようだ>

<できるかな?>

 無人兵器の攻勢は続くがATフィールドらしいものは張られる事はなかった。使徒から見て気にする程の物ではないのだろう。その為、チューリップの外殻自体にはダメージがいっているが本体は傷一つ無さそうだった。

<無理だな>

 その言葉と同時にチューリップが崩れ始めた。辺りに落下音が響き渡る。それと共に土煙が吹き上がる。

<どうやら本格的に活動開始したようだな>

「・・こっから、本番か。でも、EVAは無く、有るのはエステバリス。ナデシコの主砲さえ効かないってのに、それよりも劣る武装でどうやって倒せって言うのさ」

<ATフィールドを中和すれば少しはダメージがある・・はず>

<無理だよ。大体、EVAのパレット弾よりも威力が劣るもので、ダメージを与える事なんか無理だよ>

 僕はエステバリスの手に持つラピッド・ライフルを見ながらぼやいた。

<まあ、パレットガンでだって、倒せた使徒がいるじゃないか。見掛け倒しかもしれん>

 EVAとエステバリスではスケールが違いすぎる。当然、扱う銃器にしても口径が全然違うのだ。それは威力も段違いという事だ。EVAのパレットガンが大砲だとすればエステバリスのラピッド・ライフル等、豆鉄砲に等しいだろう。

<それを期待する方に無理があると思う・・>

 話している間にもどんどんとチューリップが崩れ落ち、それにより起きた土煙が晴れてくると使徒の全容が現れた。それは例えれば巨大なイソギンチャクのような感じだった。ただし、イソギンチャクが上下に足盤をくっ付けたような形だ。要するに足元と頭に触手がある。それから使徒特有の赤いコアじゃないみたいだけど丁度、胴体の真中辺りには8個の球体があった。コアらしい物は表に見えないので、体内にあるのかもしれない。相変わらず無人兵器の攻撃が続くが皮膚らしき物に着弾しても傷一つつかなかった。そんなのを見れば、やっぱり、ラピッド・ライフルは役に立ちそうに無い。

ゾクッ!!

 僕はこの使徒を見上げた瞬間、悪寒が走り、総毛立った。喰われる、そう思ったのだ。目のようなものがその使徒に有ったわけではない。それでも、自分を見ていると感じた。

「じょ、冗談じゃないっ!! 誰がお前なんかに喰われてやるもんかっ!!」

 僕は知らぬ間に大声を上げて使徒から遠ざかろうとした。

『な、なにっ!? いや』『うわーーっ!!』『ひぃ!』『がっ!?』『な、なんなんだよ・・あ、あれはっ!?』『・・あう』『ダメっ!』『みんな、どうしたの?』

 その時に飛び込んできたみんなの声がそれが自分だけに向けられたものでない事を知った。

<シンジ、どうやらあの使徒は相容れないもののようだ。喰う事だけをひたすら考えている>

「どうする!?」

<倒さねばなるまい>

<EVAが無きゃATフィールドは中和できない。せめてシキが目覚めていれば・・>

 僕はシキが眠っている事に歯噛みした。彼女が居ればATフィールドを扱えるのに。

<目覚めていないものは仕方ない>

「くっ、アキトさん!」

 僕はあの使徒と距離を取るべく後退しようと思った。でも、僕一人、後退はできないのでそばに居たアキトさんに声を掛けた。

『な、なんだよ、アレ・・木星蜥蜴にはあんなものまでいるのかよ・・』

 コミュニケを通して映るアキトさんは使徒を睨みつけていた。

「アキトさんっ!! 確りしてくださいっ!」

『えっ! シ、シンジ君?』

「あれと距離を取りましょう」

『なぜ!? 俺はアレを・・いや、そうだな、それがいい』

 アキトさんは反論しようとしたが途中で考えを変えたのか同意した。その様子に違和感を感じた。でも、兎に角この場を離れた方がいいと判断したので後退した。アキトさんはエステバリスのローラーダッシュで、僕はローラーダッシュを使うイメージが掴めなかったので走ってだけど。

『シンジ君、何でローラーダッシュしないんい?』

「あの、その・・故障しているんです」

 僕はその事については誤魔化した。やっぱり、僕の動かし方とIFSによる動かし方は違うようだ。

<・・シンジ、彼と艦長はシンジと同様、使徒の影響を受けていないようだな>

<ど、どういうこと?>

<今、艦内で意識を保っているのはデータ生命の私達を除くと艦長だけだ>

 コミュニケにブリッジの様子を映してみると艦長意外は突っ伏していた。僕はその光景を見て真っ青になる。

「ラピスっ!、ルリちゃんっ! イロウル、だ、大丈夫なの!?」

<意識を失っているだけだ>

『どうしたんだ? シンジ君』

「えーとですね」

『あーっ! アキト、アキト。大変なのっ!』

 僕が説明しようかと思っていたら、艦長に遮られた。

『どうしたんだ? ユリカ』

『みんなが気絶しちゃっているの。どうしよう』

『どうしようって、おまえ・・』

 その内容に二人とも途方にくれていた。ナデシコで動ける人員は艦長只一人。殆どがオートメーション化されているとはいえ、それを司る中枢たるオモイカネがダウン、何も出来はしない。実の所、今のナデシコはMAGIが制御しているのだから。

<あの二人が意識を保っているのはなぜ?>

<さて、二人の共通項というと直ぐわかるのは二人とも火星出身という事ぐらいだな>

<火星? それが何か関係あるのかな?>

<さて、異文明の出所が火星らしいからな、それに関係しているのかもしれん>

<火星か・・行って調べてみないといけないね>

<そうだな。ぜひとも行って調査しなければな>

<でも、その前に目の前の使徒を何とかしなくちゃ・・>

『シンジ君っ! アレの攻撃が来るっ!』

「へっ?」

 アキトさんの忠告にそちらに注意を向けると泳ぐように意外な速さで僕らの方へ迫ろうとしていた。

『くっ! 早いぞっ!』

<さすが使徒。常識が通用しないな>

「うわっ! どうしろっていうのーーっ!」『だーっ!俺が何をやったーーっ!』

 僕とアキトさんは全力で逃げた。ゆうに100メートルは有るだろう使徒が僕らを追ってくる。スケールが全然違うから、もういや過ぎるほど迫力満点。EVAだったら、また違ったかもしれない。

『何か、確実に向こうの方が早いぞっ!追いつかれる!』

「アキトさん、嫌な事、口に出さないでよ!」

 さっきまで結構、距離が有ったのに何時の間にやら詰め寄られていた。使徒の触手が、僕らを狙ってくる。ついでにその使徒に攻撃している無人兵器もだ。

『だーっ!』「わっ、とっ!」

 使徒が放つ触手が、僕らの遅い掛かって来る。それを辛うじて交わした。もちろんアキトさんもだ。

<そっち、何とかならないの?>

 僕は次々に襲ってくる触手をかわしながら助けを求めた。

『このっ!』

 アキトさんがワイヤード・フィストを触手に向けて放った、けど効果はない。

『やっぱり、効かないのか!?』

<今、オモイカネを説得している所だ。今のままでは邪魔になってしもうのでな。凌いでくれ>

<方策は有るの?>

『どわっ!』「うわっ!」

 使徒の触手所か無人兵器による攻撃が僕らにも及んできた。飛んでくるミサイルや触手を何度となく回避しているけど、それだって何時まで持つか、わからない。

<自由に動けるようになれば、こちらでATフィールド可能域まで前進し中和、グラビティ・ブラスト。それがダメなら最終手段だ>

<最終手段?>

『畜生、どうしろっていうんだっ!』

 アキトさん、それは僕も同じです。

<できればそんな危険は犯したくないがね>

 状況は打開できず、使徒は次々と触手で攻撃を仕掛けてくる。

「もう、いい加減にしてよっ!」

 僕はラピッド・ライフルを使徒の触手に向けて撃った。狙い違わず使徒の触手に命中する。すると、どういうわけか僕が行った攻撃は触手をちぎる事に成功した。

「あれっ!? 効いた?」

 僕は驚いた。

『凄いぞ、シンジ君! 俺も』

 アキトさんももう一度、ワイヤード・フィストで攻撃したが効かなかった。

『効かない!? なぜ、シンジ君の攻撃だけ? って、うわっ!!』

「アキトさん!?」『アキト!!』

 アキトさんは自分の攻撃が効かなかった事に気を取られたのか触手による攻撃をまともに受けて吹き飛ばされていた。

「くっ! よくもーーっ!!」

 僕は怒りを込めてラピッド・ライフルを使徒本体に向けて撃った。しかし、それは赤い壁のようなものに阻まれた。

「ATフィールド!?」

 さっきまでATフィールドなんて使っていなかったのに何で!?

<シンジの攻撃を無視できないと判断したんだろうな>

<ATフィールドの中和できないの?>

<今の私の位置からは無理だな>

<ガンマがそちらに支援する為に向かった>

<シキが居てくれたら>

 使徒の攻撃が激しくなった。今まではアキトさんと僕とで2分していたのが、僕だけに集中できるようになったからだ。

『アキト、アキト、無事!?』

『・・ああ、でもロボットが動かない。どこかやられたのかな。くそっ』

 アキトさんが無事でよかった。あの位置なら多分巻き込まれないだろう。でも、人の心配なんてしていられなくなってきた。こちらは避けるので精一杯で反撃が出来ない。

<あまりシキに頼るのもどうかとおもうぞ>

<本来であればシンジだけでも対処できるはず>

<そんな事言ってもっ!>

<シキはシンジに甘いからな。あれでは何時までも、シンジが能力をうまく使いこなせない>

「しつこいっ! って、うわっ!!」

 しまった。触手の攻撃をかわしきれない。僕は衝撃が来ると思わず目をつぶり耐える体制をとったが衝撃は来なかった。その代わりに何かが絡み付いた。

「へっ!? う、うぞっ!?」

 目を開けて確認すると、僕の乗っているエステバリスにトリモチのようなものが絡み付いて身動きできなくなっていた。

「くっ、このっ!」

 僕は必死にエステバリスを動かして脱出を試みたけど無駄だった。使徒は僕の乗ったエステバリスを触手で絡み、持ち上げると口のような所にまで持ち上げた。

「はは、ま、まさかね」

 あの時、感じた強烈な意志。それを考えればこれからの運命に予想がついた。つまり、こいつ・・使徒に喰われるのだ。

<シンジっ!>『『シンジ君!』』

「はは、ダメみたい・・でも、何か懐かしい光景に見えるな。何でだろ?」

 僕が何かを思い出そうとした時、使徒の触手が口のような所に僕の乗ったエステバリスをもって行き、放り込んだ。

<オソカッタカ・・>『ちくしょーーーっ!』

 ガンマの声が聞こえた。本当に遅いよ。今更、言っても仕方ないけどさ。アキトさん、ゴメンなさい。

 奈落への入り口かと思える所に放り出された時、思い出した。そうだ、これは巨大な綾波を見たときだ・・・

 僕の乗ったエステバリスが使徒の口の中に入った時、僕の意識も又、暗闇に放り込まれた。


     *


「シンジ君!」

 シンジ君の乗ったロボットがあの謎の生物?の触手で持ち上げられたのを見て、俺は焦った。必死に乗っているロボットを動かそうとしたが動かない。

「くそっ! 動けっ! 動いてくれっ! またかっ! またなのかーっ!」

 俺が嘆き叫んでいるうちにシンジ君は謎の生物?に一呑みで喰われた。

「ちくしょーーーっ!」

 俺はロボットに乗ってから、取り戻したと思っていた何かが、幻想であった事に気付かされた。

 無力だ。アイちゃん・・

 俺が火星にいた時、木星蜥蜴の攻撃に晒されて、シェルターに逃げ込んだ時に出会った少女。守ってやりたかった。でも、それをあざ笑うかのように木星蜥蜴の無人兵器はシェルターになだれ込み、そこに居た人々を殺戮した。俺はどうやってかわからないけどそんな状況から脱出して、何時の間にか地球にいた。

 それが俺に深い傷をもたらしていた。守りたいものを守れず逃げ出した俺。臆病者で、最低だ・・

 ヤハリ、アレハタオスベキテキ・・

 俺の中で何かがそう囁いたような気がした。

 アレハタオスベキテキ・・

 そう、アレを初めて見た時にも聞いた気がする。

 タオスベキテキ・・

 倒すべき敵・・

 テキハタオサネバナラナイ・・

 そうだ、アレは敵だ。倒さなきゃいけないっ!

『もう、アレは倒さなきゃいけないのにっ! 何にも出来なーーいっ!』

 俺が考えにはまっていた時、突然、ユリカの声が耳に入り思考を中断した。

 はっ! 俺は一体何を考えていたんだ。今の俺には何も・・そう、何も出来ないのにっ!

「くそっ! 何で俺は」

ダンッ! 俺はロボットのコクピットを殴りつけていた。

<ソンナニ、ムリョクナノガ、イヤカ?>

「誰だ!」

 突然俺に声が聞こえた。いや、頭に響いた。

 それはさっき自分に囁いていた声とは違い、明確な意思を感じた。

<ワレガ、ナニモノカハ、イマハジュウヨウナコトデハナイ>

「何なんだよ・・」

<モウイチド、トウ。ソンナニ、ムリョクナノガ、イヤカ?>

「・・嫌さ。折角、取り戻せたと思ったのに。でも違った・・このままじゃ、俺は二度と立ち上がれないような気がするんだ」

<ナラバ、チカラガ、ホシイカ?>

「・・欲しい。今、目の前の奴を倒せる程の力が。もう、モヤモヤしたものを抱え込みながら生きるのは嫌なんだ」

 何時も、何時も、がんばったのに、それは叶わない。そんなのはもう嫌だ。

<ソレガ、ナニカヲ、ダイショウトスルトシテモカ?>

「そうだとしても・・俺は欲しい」

<イキオイデ、イッテイルナラ、アトデ、キットコウカイスル・・>

「サイゾウさんが言っていたように俺は今まで逃げていたんだ、多分・・。今まで俺は色んなものを失ってきた。これ以上失いたくなかったんだと思う。その心が勢いとはいえこのロボットに乗って、逃げようと思わせたんだ。でも、成り行きで木星蜥蜴と戦わざる終えなくなって、がんばった。そしたらさ、失ったものの一部が取り戻せたと思えたんだ。でも、気のせいだった。俺は無力だ・・俺は昔から無力だった。だから力が欲しい・・」

 どうしてだか、素直に今は自分の心を吐露する事が出来たような気がする。

<イイノダナ>

「ああ、俺は力が欲しい・・」

 俺は口に出した事で心が軽くなった気がする。

<ナラバ、ケイヤクダ>

「契約?」

 契約なんて、まるで悪魔だ。

<ソウ、メノマエノ、アノソンザイヲ、センメツスルコト。マタ、コンゴアラワレル、オナジヨウナソンザイヲ、オナジク、センメツスルコトダ>

「アレをか・・」

 俺はモニターに映るアレを見た。それはシンジ君を飲み込んでからじっとしている。

<チカラヲエル、カワリニ、ギムモオウ。ダトウダトオモウガ?>

 そりゃ、只でそんなものを得れるほうが妖しいよな。それにこれとは違う囁く声もアレを倒せと言っているんだよな・・

「いいよ、やってやるともさっ!」

 囁く声は少しづつ大きくなってきているような気がする。それは俺の声なのだろうか? わからない。それに今、声を掛けてきている存在もまたアレを倒せという。どちらも同じ目的、なら支障はない。

<イイダロウ。ケイヤクハ、セイリツシタ。チカラガホシイナラ、クレテヤル>

「力をくれっ!」

 俺はあらん限りの声で叫んだ。その途端、俺の乗ったロボットが立ち上がった。コクピットも異常を示すレッドシグナルが多々有ったに、それが次々とグリーンに変わっていく。

「くっ!」

 俺は右手に一瞬の激痛を感じて慌てて左手で抑えた。激痛は一瞬だったようで、俺は一息ついて右手を見た。右手に浮かんでいる紋章の形が変わっていた。

「何だよ、これ? これが力を得た代償なのか?」

 しかし、それは代償ではなく、証しなのだろう事に気付いた。ふと気付くとコクピットの空気が変わっているように感じた。何か力強さを感じる。さっきの声はもう聞こえなかった。紋章の変化がなければさっきのは白昼夢か何かと思えてしまえるものだった。

「でも、この紋章意外、何も変わっていないよな?」

 俺はチェックしていくがロボットには何の変化も感じなかった。別にパワーゲインが3倍以上になったとか、角が生えたとか、翼が生えたとか、機能が増えているたかは全然なく、乗った時のまま。

 元々、ディストーション・フィールドという優れた防御機能と無人兵器からの攻撃が直撃していない為、外見は損傷していなかったのだ。本当に力を得たのか疑問だった。

 だが、さっきまで何をやっても微動だにしなかったロボットが動いている。信じるしかなかった。

「やってみるしかないんだよな・・」

 無人兵器も全て特攻したのか、今は無く静かに佇んでいる使徒を見上げた。俺は覚悟を決め、使徒のほうに慎重に移動した。

「いくぞっ!」

 俺は触手の一つにターゲットを絞り、ワイヤード・フィストを放つ。これだけ大きいと外し様もないが、見事に命中した。

 先程までだったら全然ダメージを与える事が出来なかったのに今回は見事に触手を破壊し、引きちぎった。それどころか、それよりも奥にワイヤード・フィストは射程ぎりぎりまで伸び進み、そこに至るまでの触手を破壊し、引きちぎった。

「すっ、すげーっ!!」

 俺は先程までとは段違いの威力に驚いた。

「これなら、何とかなるっ!」

 俺は戻ってきたワイヤード・フィストを再び発射する。しかし、今度は命中寸前で赤い壁に阻まれた。

「な、赤い壁!?」

 そうだ、忘れていた。こいつには俺が乗るはずのナデシコって戦艦の主砲を跳ね返した赤い壁があったんだ。

 あれがあるんじゃ、ダメだ・・そう思った瞬間、赤い壁に阻まれ前進できずに止まっていたワイヤード・フィストが赤い壁を突き抜け、先程と同じ様に破壊の限りをつくして戻ってきた。

「なっ、なんですとーっ!?」

 少々、キャラの違う叫びをあげてしまった。それだけ驚いたんだ。

「はは、こいつはすごい。確かに大した力だ」

 俺は生唾を飲み込んだ。最新の戦艦の主砲を跳ね返した赤い壁をも貫くそれがどれだけの力が秘められているのか分からなかった。

ゾクッ

 俺は始めて手に入れた力の大きさに恐怖を感じた。

「うわっ!」

 でも、そうもいっていられないようだった。自分を傷つけられた事に怒ったのか、先程まで静かにしていたアレが急に活発に動き始め、触手で俺を攻撃し始めた。俺はそれを避けるべく回避する。

「さっきと比べて機体が軽い!」

 そう、武器の威力だけじゃなかった。機体の基本性能も断然変わっていた。反応が早く素早く動く。アレの攻撃も余裕で捌く事が出来た。機体はまだまだ余裕があるようで俺の腕がそれを活かし切れていないような感じだった。

 お陰で、反撃する事も出来て、下部に有った触手の殆どを破壊する事が出来た。

「はっ! そうだ、シンジ君を助けないと」

 俺はアレの攻撃に夢中になってシンジ君の事を忘れていた。

「でも、どうやって?」

 如何せん、アレはロボットから見ても大きすぎた。

「ええい、ままよ!」

 俺はアレの攻撃手段の殆どを失っている事もあって、接近して直接、本体を攻撃して穴をあけ、ちょっと嫌だが中に進入して、シンジ君を助け出す事を考えた。

 直ぐにその考えを実行するためにイミディエイト・ナイフを取り出し、アレに接近した。何か、任侠ものに出てきそうな恰好だよな、と場違いな事を思いながらジャンプする。

「うわっ!」

 突然、赤い壁が現れ、俺の接近を阻んだ。

「こ、このーーっ!」

 俺は推力を上げていく。ワイヤード・フィストはこの赤い壁を問題としなかったんだ。なら、このロボットだって問題なく突破できると考えたからだ。

 その考えは正しく、俺は赤い壁を突破し、敵本体に取り付くことが出来た。無人兵器の攻撃を赤い壁を張らずとも無傷でいられたので硬いものと思っていた。しかし、その予想に反して見た目のイメージどおりに弾力があった。

 やっぱり、気持ち悪い・・そうは思ったがそう入っていられないのでイミディエイト・ナイフを突き立てた。

 サクッと表現してもいい切れ味でイミディエイト・ナイフはアレの皮膚を切り裂いた。無人兵器の攻撃に無傷だったものを豆腐を切るかのようにあっさりとである。

 ここまで来ると、もう何も言えなかった。俺は黙々と侵入するための穴を作ろうとした。その時、センサーが何かを察知した。その方向を、上を見上げると本体の真中ら辺にあった球体を先端にした今までにあった触手よりも二回りも三回りもちがう触手が生えていた。その触手が蠢き先端にある球体の中心に銃口のような物が生じた。

「えっ!?」

 俺はヤバイとその瞬間思い、アレを足場にして蹴り、反動で素早く離れた。その瞬間、さっき居た場所に何かが通り過ぎた。

「飛び道具!?」

 今までは触手による直接攻撃しか、してこなかった。でも今度は射撃してきた。レーザーとかならこのロボットにあるディストーション・フィールドとやらで大半の威力を減少させることができるらしいことは無人兵器と戦っている間に分かった事だ。でも、着弾した所を見れば大穴が地面に出来ており、かつ、アレ本体自身も傷つけていた。それは、恐ろしい威力を秘めている事を示していた。

 当たれば只じゃすまない。それだけは確かだ。そういった武器が8個、俺を狙っていた。

「冗談じゃない!」

 そう言っている間にもそれらは動き、俺に狙いを定め撃ってくる。俺は何とかそれを回避するが、先程とはうって違って全然、余裕なんてなかった。このままじゃ、何れ当たってしまう。

 そう思い必死に回避し続けた。それが何秒、何十秒、何分、何十分経っていったのか判らない。

「くっ! しまったっ!!」

 直撃は避けたもののそのお陰でロボットをつんのめらせ倒れた。俺は反射的にロボットを側転させる。さっき、倒れた場所に攻撃が来た。しかし、仰向けになって判った。次にどう動いても直撃するように球体付き触手に囲まれていた。

「わぁーーっ!」

 俺は球体にある銃口が鈍く光ったのを目にして恐怖で叫んだ。もうだめだと思い目をつぶる。

 何かつい前にもあったシチュエーションだなと気が付いた。あの時はシンジ君が助けてくれたけど、今はアレに喰われていない。やっぱ、力を得ても大した事なかったんだな・・俺って。

 と取りとめもなく考えていた。

「あれ?」

 何時までたってもアレの攻撃が来ない事に気が付いた。俺は恐る恐る目を開いてみると球体付き触手に囲まれたままだった。そしてそれは微動だにしていない。

「どうなっているんだ?」

 俺はロボットを立ち上げるが球体付き触手は反応しない。ピタッと止まったままだった。不審に思い、アレの方を見た。

「あっ!」

 すると、どうだろう。アレの中央辺りがピンクから白く変色し始めており、それは段段と全体に及んでいこうとしていた。

『・・・随分・・たい放題・・・くれ・・・』

 突然、声が飛び込んできた。

「シンジ君!? シンジ君なのかい!?」

 俺はその声に問い掛けた。それが合図だったのか、アレの中心辺りにヒビが入り、そこから何かが出てきた。俺はそれを拡大する。それはシンジ君の乗っていたロボットの手だった。見ているうちにもう一本の手が現れ、外に出るためにアレのヒビを広げていった。そして、紫色のロボットが這い出してきた。なぜかそのロボットが酷く禍禍しいものに見えてしまった。

「シンジ君!」

 俺は急いでシンジ君の機体に通信を結んだ。コクピットの様子が出る。

「シンジ・・く・ん・・じゃ、ない!?」

 俺はそこに映った映像に目をむいた。居るべきはずの所にその人物は居らず別の人物が座っていた。

『私はシキ。それ以上でもそれ以下でも有りません』

 コクピットには緑の髪に緑の瞳と一風変わった色をしていたが少女、それも美少女といっていい者が居たのだ。

「君はシンジ君じゃないのか?」

『マスターはただいまお休み中です』

 シキと名乗った少女、年齢はシンジ君と同じくらい・・の子が淡々と答えた。

「マスター!?」

 その言葉からどうやらシンジ君とは無関係では無さそうではあった。

『追及は後からどうぞ。今はそんな場合じゃないと思います』

「そ、そうだった」

 俺の返事を聞くとシキという少女は映像を切った。何かとっつきにくそうな、あの雰囲気は2,3しか言葉をまじわしていないがナデシコのオペレータの子達と似通っていた。

<シキガ、デテキタノカ。ナラ、カッタナ>

 俺が溜息を一つ吐いた時、俺に力をくれると言った声が聞こえた。

「え!?」

 俺は思わずキョロキョロと首を振って辺りを見渡してしまった。誰もいなかった。当たり前だ。俺はロボットのコクピットにいるんだから。でも、あの聞こえてきた声の言葉を考えれば、全てシンジ君に関係していそうだった。何者なのだろうかシンジ君は・・

 そう考えているうちにアレはもう既に全体が白くなっていた。

 そうなったアレからシンジ君が・・いや、シキという少女が乗ったロボットが降り立った。それを同じくして球体付き触手が8本、綺麗にアレから切り離され落ちた。それらは落ちた拍子にボロボロに砕け散って行った。

 アレはもはや活動を止めているのだと俺は感じた。

『アキト、シキさん、二人とも退避してください。グラビティ・ブラストを発射します』

 物思いに耽っているとユリカが退避するように言ってきた。俺はそれに素直に従う。シキという少女が乗ったロボットもその指示に従ったようだった。ユリカの言葉からユリカも何かを知っているのだろうか?

 俺達がアレから十分に距離をとって退避した事が確認されると

『グラビティ・ブラスト、発射っ!!』

 ユリカの掛け声を合図にナデシコより黒い奔流が吐き出された。それはアレの中心に正確に吸い込まれてゆく。

カッ!!

 閃光が走り、アレは光に包まれ爆発した。ただし、それは奇妙な爆発の仕方だった。物理法則に反したものでまるで十字架のような形をしていたのだ。墓標のように。

『やっぱり、使徒か・・』

 俺がその爆発を見つづけているとシンジ君の声が聞こえてきた。

「シンジ君!? 無事だったのか!?」

『ええ、大丈夫です。アキトさん』

 確りとした返事が返ってきて俺は安心した。それと共に疑問も生じた。

「シンジ君、そこにはシキって言う子が」

『待ってください、アキトさん。色々聞きたい事があるようですけど、今は休ませてください。逃げたりはしませんから・・』

「わかったよ。シンジ君・・・」

 確かに俺は色々聞きたいことがある。でも、今の俺も一杯一杯だ。俺も休む必要を感じた。


 こうして、ナデシコのそして俺の波乱万丈な初陣は終わった。




 薄暗い部屋の中、机に座った冬月は物思いに耽っていた。

ガチャ

「失礼します。冬月社長」

 冬月に呼び出された六文儀が入ってきた。

「聞いたかね? 六文儀君」

 冬月は皮肉げに普段つけない君付けで六文儀に聞いた。

「どの案件ですか? 冬月社長。生憎、同時に進行している案件がありますので」

 六文儀はそう言ってニヤリと笑った。その様子を見て冬月の頬が引きつる。

「例の会長が推し進めている極秘裏のプロジェクトの件だ」

 怒鳴りたいのを我慢して冬月は言った。ただ、握り締めた拳がふるふると震えており額にも青筋が浮かんでいた。

「ああ、あの件ですか。うまく言ったようです」

「何がうまくいっただっ!」

 結局、我慢できず冬月は怒鳴った。しかし、六文儀は柳に風と受け流す。普通の者であれば顔を青くしていたであろう怒気であった。

「何を怒っているのです? 奴らを動かす事が出来たではありませんか。それが目的だったはずです」

「にしても、やりすぎだ。佐世保基地が殆ど壊滅したと言うじゃないかっ!!」

ダンッ!

 冬月は拳を机に叩きつけた。しかし、六文儀はそれに動じた様子も無く立っていた。

「別段気にすることではないでしょう。我々がやったわけではないのですから」

「確かにそうだが」

「佐世保基地への木星蜥蜴の襲撃は我々は関与していません。ですから調べられたとしても腹は痛みません」

「しかし、結局、例の船は沈まなかったぞ」

 冬月はこめかみを抑えた。そんな彼を六文儀は無遠慮に見下ろしていた。

「沈めばいいとは思っていましたが、別段それが目的だったわけではありません。」

「どういう事だ?」

 又俺の知らない所で企みをしていたのかと冬月は六文儀を睨んだ。六文儀と言う男は全てを話すわけではない。事がなった後に報告する事が多々あった。

「”血の赤”が奴らと繋がっている事が掴めたではないですか。これが今回の目的です。何より奴らとの連絡ルートがわかりました」

「何っ!?」

 冬月は六文儀の言葉に驚愕した。今まで突き止めることが出来なかった事が判明したのである。

「これで奴らとの取引を行う、足がかりが出来ました。いかがします?」

 六文儀はその情報をどのように生かすかを冬月に問うた。それ程にこの情報は使いでがあったのだ。

「奴らと接触する」

「取引材料は何を?」

「その辺は六文儀、君が抑えているのだろう? それを使って奴らの技術を手に入れるのだ」

「・・ご随意に」

 六文儀は珍しくチラッと腕時計を見た。

「何か時間が気になるのかね?」

「ええ、今日は少々約束がありまして。では、失礼します」

 そう言って六文儀は部屋を出て行った。

「・・・奴らとの接触か・・交渉は難航しそうだ。だが、それは六文儀の奴に任せておけば問題ない・・」

 冬月は六文儀が去った後、今後の方針を考え込んだ。

「しかし、珍しいな六文儀が約束事など・・・約束!?」

 そのキーワードに自分の娘も今日約束がある等といって上機嫌に振舞っていた事を思い出した。

「はは、まさか・・な・・」

 最近、六文儀と自分の娘の間が急に近しくなっている事に冬月は不安を抱えた。




 佐世保基地を後にするナデシコ。それを見送る二人の男が居た。二人とも瓦礫の一部に腰を掛けていた。

「会わなくていいのか?」

 無精ひげを生やした男がタバコを片手にサングラスを掛けた男に問う。

「ああ。会うと未練が残る。ある意味、俺はこれから死地に向かう。そこで死んだら、二度悲しませる事になるからな。生きて帰れた時に会うさ」

「まあ、そう言うなら」

「会ってしまったら行きたくなくなるかもしれん。そうなったらお前、困るだろ?」

 サングラスの男はおどけたように言った。

「くっくっくっ、仰せのままに」

「それに俺についていくより、あそこの方が安全だ」

 どんどん離れてゆくナデシコをサングラスの男は見詰めた。

「・・一応、俺の情報じゃあ、何人かスパイ居るらしいぞ? 本当に安全か? それにわけのわからんアレの事もある」

 無精ひげの男は自分が意識を失ったものの持ち込んでいた機材に映っていたものの事を言った。それも途中までしか映っていないのでどうやって倒したのか判らない。

「それでもだ。俺の感がそう告げている」

 何せ、本当かどうかわからんが碇を名乗るものが保護しているみたいだからな、と傍らの男には本音は話さずサングラスの男は黙った。

「感ねぇ・・理論派のお前がか?」

「分かってないな。研究者や技術者は、時には感も必要なのさ。それが、わからない奴らは2流止まりになるのさ」

 サングラスの男はニヤリと笑った。

「そういうもんか・・・なあ、アレって何なんだ?」

「確証はないが、思い当たる事はある・・」

「何だよ、それ」

「推測で言いたくはないが、アレは多分・・・使徒だ・・」

 サングラスの男は口を重たくして言った。

「使徒? はて、どこかで聞いた事があるような・・・って、おい、まさか」

 その言葉に思い当たる節を見つけて無精ひげの男は目をむいた。それ程にその言葉に意味があったのだ。

「そう、そのまさか、さ」

「だとすると、妖怪じじい共が何やら動き始めるな」

 無精ひげの男は困ったもんだと頭を掻いた。

「さて、行こうか。どちらにせよ本部には、どうしても行かなければならん。多分、碌な事にならんだろうがね」

 サングラスの男はこれから吹き上がる困難な嵐に辟易する思いを抱きながら立ち上がった。

「だな」

 無精ひげの男も同意して、タバコを投げ捨てて立ち上がる。

「タバコを投げ捨てるな。火事になったらどうする」

「これの何処が火事になるんだって?」

 そう言って無精ひげの男は辺り一面を指した。そこにはもう何も燃えるようなものは無い。破壊し尽くされた有り様だ。

「・・それより俺との連絡ルート、複数、確保しとけよ」

 サングラスの男は呆れたように言った。

「当然。それはお前だけでなく俺達の命だけではなく、関わる者達の命も危なくなるからな」

 無精ひげの男は真剣な顔で答えた。男達には失いたくない者が居るのだ。それでも危険な橋を渡らざる終えない。ならば、出来るだけ危険となる可能性を排除しなければならなかった。

「ラピス・・元気でな」

 サングラスの男はもう一度、遠ざかるナデシコを見るとその場を無精ひげの男と共に歩き去った。


(つづく)


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注)新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
  機動戦艦ナデシコは(c)XEBECの作品です。






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