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新世紀エヴァンゲリオン 世にも奇妙な我が人生

新たなる戦い編
第 5話 「エステバリス」
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「よし!」

 顔を洗い、新しい一日を始めるべく気合を入れた。僕の一日はこうして顔を洗う事から始まる。それから朝食の準備だ。これはあの色んな意味で思い出深い街で暮らす事になってからの僕の習慣となっている。ちょっと、虚しいけど。ここナデシコに来てから早一週間が過ぎ去った。ここでの生活はというかこの世界での生活は最初こそ生きるのに必死だったけどホウメイ師匠に拾われてからは充実した日々を過ごせるようになっていた。僕の短い人生においても最も充実していると実感できる。それは非常に嬉しい事だ。

<<<おはよう、シンジ>>>

 アルファ達が僕に朝の挨拶をしてきた。イロウルって眠っているんだろうか?僕が目を覚ましている時に眠っているところを見た事もないや。ささやかな疑問を抱きつつ挨拶を返した。

「おはよう、イロウル。もう少ししたら、二人を起こして」

 アルファ達をまとめて呼ぶ時は僕はイロウルと呼んでいる。元々一固体ながら三つの意識に分けて活動しているので一つの意識に言えばその中で最適な意識が行動を起こす。僕はそのまま、朝食の準備に取り掛かる。続いて待っている時間がもったいないので洗濯をする洗濯も最初だけで後は待つだけなのでその間に掃除をする。だいたい、終わる頃には朝食の最後の仕上げになる。その頃に、ラピス達は起きてくる。

「おはようございます、シンジ」

「おはようございます、シンジさん」

 ほらね。挨拶をした後二人ともあくびをして目をごしごしこすっていた。同じ様なタイミングで同じような仕種をするのが少し笑えてしまった。

「おはよう、ラピス、ルリちゃん。早く顔を洗っておいですぐにご飯だから」

「「はい」」

 ルリちゃんもラピスとの出会いから随分と仲良くなった。もっとも最初はラピスのほうが一方的に懐いていたような気がするけど。僕がラピスを知っている限り珍しい行動だったのは確かだ。ルリちゃんもなんだかんだ言いつつも仲良くなって今は殆ど一緒に行動している。最近じゃ寝るときはも僕達の部屋かルリちゃんの部屋で一緒に寝ている。

 朝食は本来、ナデシコ食堂で取れば事足りるんだけどそれはせずに部屋で作りとっている。ホウメイ師匠が言う所、お客の為に作る食事と家族の為に作るのとでは違うからと言っていた。その違いは今の僕には分からないけどホウメイ師匠の配慮には感謝している。日がな一日、厨房に篭る事になる僕にしてみればこの朝の時間は僕が家族と思っているラピス達とコミュニケーションをとる貴重な時間でも有った。

 そういう事ができる余裕が有るのもナデシコ食堂のスタッフにサトウ・ミカコさん、ウエムラ・エリさん、タナカ・ハルミさん、ミズハラ・ジュンコさん、テラサキ・サユリさんと5人のスタッフが増えたからでもある。みんな女性でその事を整備班班長のセイヤさん(この2、3日の間に仲良くなって名前で呼び合うようになった)に話したら、

「くそっ!なんて羨ましいんだ!見ろ!この整備班をっ!女っ気が全然無いんだぞ!それを」

 セイヤさんが叫び、それに肯く整備班の人達。でも整備班の人達がいきなりちりじりになったんだ。何でってそっちの方に僕は注意が要ったんだ。見なきゃ良かったって思った。

「ほーう?じゃ、あたいは女じゃないってんだね。班長」

 そこ、セイヤさんお背後に整備班の紅一点、村井コトリさんが立っていた。身長190cmもありプロレスラーじゃないのかと思わせる程、筋骨隆々とした体躯を持ち、赤い髪に太い眉が気の強さを表わしているように思える程、覇気に満ちた印象を与える女の人が立っていた。ちなみに顔立ち自体は結構、整っていて十分に美人だと思うんだけど、何分にも他の印象に押しつぶされている。ついでに年は24歳だそうな。僕も始めてこの人を見た時は整備班の人達と同じように口をあんぐりと開けて見入ってしまった。

「い、いや、そんな事はな・い・ぞぉー!」

 セイヤさんは冷や汗をダラダラと流していた。下手な事を言えば命が無いそう思わせるには十分な重圧感を放っていた。端的に言うと腹をすかせた虎が目の前にいると言う表現がぴったりだった。セイヤさんもこの重圧感を無理やりに跳ね除けようとしたのか最後の台詞は語尾が上がっていた。僕もセイヤさんも膝は笑っていた。

「ふっ、そうか」

 そう言った途端、さっきまでの重圧感が嘘の様に消え去った。僕達は一息ついた。

「すまないねえ。さっき、つまんない事を言った奴が居たんでね気が立ってんだ」

 その人の運命がどうなったのかは僕はあまり知りたくない。セイヤさんも同様みたいだった。コトリさん僕達を見てニッコリと笑った後、悠然と立ち去っていった。

「相変わらず、すげープレッシャーだぜ。生きた心地がしねえ」

 そう言って掻いていた汗をぬぐった。

「凄いですよね。近づいてきていたのがぜんぜん判りませんでした」

「おう、あいつだけは怒らせちゃなんねえ。クワバラ、クワバラ。兎に角だ、シンジ、整備班には職場の華がな・・じゃない少ない。それに比べればお前のナデシコ食堂を見ろ!男はお前だけで後は皆、女だ。羨ましい、羨ましいぞっ!」

 セイヤさんは拳を握り締めて力説した。

「でも、かえって僕の肩身が狭いんですけど」

 そうなんだ、男は僕だけなんでかえって疎外感を感じちゃったりするんだよね。まあ、Nervに居た時にも比較的に周りには女性が多かったので言うほどには苦痛は感じないんだけどね。たまに男の前では絶対話さないであろう内容なんかも喋っていたりするのをたまに耳にして、僕って男として見られてないんだとブルー入ったりするけど。

「俺達から見ればそんなもん些細なもんだ。スタッフの娘は皆、綺麗所じゃないか。それにお前にはルリちゃんやラピスちゃんまでそばに居たりするんだからな」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ!!」

 と言ったやり取りがあったんだった。

「さてと、できたできた」

 いつもならシキの突っ込みなんかがある筈だけど今はない。ある事情からシキは活動期と休眠期の2つのサイクルを繰り返し行う状態になっている。でシキは今、休眠期に入り眠りに入っている。それを繰り返してエネルギーを確保できたらその内に僕から独立して行動できるようになるだろう。

 できた朝食を部屋に運ぶとそこには朝食を摂る為にテーブルを囲むように座っているラピス達がいた。顔を洗ってさっぱりしてる筈なのに未だに二人とも目がトロンとしていて眠そうだ。アルファ達も何故か欠伸をしている。

「みんな、朝ご飯の用意ができたよ」

 僕はそんな様子のみんなに声を掛けながらお膳に料理を置いた。

「「「いただきます」」」

 こうして、平凡だが平和な朝を迎えた。こんな日が何時までも続けば良いんだけど・・・多分無理だ。絶対何か有る。今のこの平和はいわば嵐の前の静けさだ。他の人から見れば異常に思えるだろう。確かに強迫観念に近いものがある。でも、振り返ってみるだけでも僕の人生は波瀾万丈、特にここ2、3年は加速度をつけてきている。僕だけじゃなくイロウルだっているんだから何も起きないわけが無い。第一、良く考えたらここナデシコって戦艦なんだしね。

「シンジ、食べないならもらうよ?」

「えっ?」

 僕が取り止めも無い思考にとらわれて箸を進めていなかったのが悪かったのか、僕が食欲が無いように見えたらしくラピスは好物のだし巻き卵をひょいと取っていった。

「食べないんでしたら私も」

「えっ?」

 ぼやぼやしているうちにルリちゃんまでもがだし巻き卵をとっていった。

「えーと、おかずならまだ有るよ?持ってこようか?」

 僕はだし巻き卵をほおばる二人に言った。

「別に良いです。こういう時には他人のおかずをとって食べるのが一番おいしいのだそうです。アルファがそう言ってました」

 ほおばっていただし巻き卵を食べ終えたルリちゃんが言った。

「そう、家族での食事の時の作法・・」

 同じく食べ終えたラピスが言った。違う、それは違うと思う。

「イロウル!」

<なんだい?シンジ>

 焼いたアジをぺろりと平らげたアルファがさらりと返事をした。

「駄目じゃないか、そんなこと教えちゃ!」

<何を言うかと思えば、本当の事ではないか。シンジにも覚えが有る筈だがね?>

「えっ?!」

<例えば葛城家での食事とかね>

「あっ!あれは・・・(たしかにあの時は、アスカやミサトさん自分の好きなのならよく僕のおかずを隙をみて獲られたっけ、だからそういう時は多く割り当てても獲るんだよな・・どうしてって聞いたら他人のを獲って食べるのが余計においしく感じられるからとか言ったけな、やり返そうとしても二人ともガードが固かったから結局成功しなかった・・けど、そういったやり取りが何か暖かく感じたんだよな)」

<だろ?>

 アルファはそう言って伸びをした。何か騙されたというか、誤魔化されたような気もするけど納得できるような所も合ったので黙った。ちょっとため息を吐いた後、食事を再開しようとして皿を見るとおかずがみんな無くなっていた。

「えっ?」

 僕は驚いて顔を見上げるとラピスとルリちゃんが口をもごもごとしていた。

「家族での食事は隙を作ってはいけないそうです」

「隙あらば、獲るべし・・・ガンマの教え・・」

 僕は唖然としてしまった。

「「ごちそうさま」」

 二人して手を合わせてそういった後、すたすたと膳をあげる為に流しの方へ行った。さすがにこれは違うだろ、そう思った。

「ガンマっ!」

 僕は叫んでイロウルのほうを振り向いた。だけどそこにはアルファ達がいなかった。

「アルファ、ベータ!どこ行ったのっ?!」

 僕はキョロキョロと部屋を見渡した。がどこにもいない。何時の間にか逃亡したみたいだった。

「いってきます」

「いってくる」

 ルリちゃんとラピスが業務に入る為か挨拶をして出て行こうとしていた。僕は反射的に挨拶をした。

「あ・・いってらっしゃい」

 でもその時、僕は見てしまった。ルリちゃんとラピスの口元がクスリと笑っているのを。その瞬間悟った。や、やられたーーー。僕はみんなにからかわれたのだ。何かどうしようもない敗北感に打ちひしがれてしまった。


「ははーん、それで不機嫌だったのかい?」

 ホウメイ師匠が僕が不機嫌な顔で厨房に入ってきた原因が分かって得心した。

「でも、酷くありません?みんなして」

 僕はさっきのを思い出してちょっと不機嫌になってしまった。

「まあ、良い傾向じゃないか。前はお人形さんみたいな感じだったんだから」

「そりゃ、そうなんですけどね」

 僕も確かにそう思うけど、それでも一方的にやられっぱなしっていうのは面白くなかった。

「まあ、あの子達も今までが普通じゃなかったんだ。子供らしい事でもあるんだから良い事さね」

「でも、あのまま間違った形で成長されたらと思うと」

 そうこのままだとイロウルに間違った常識を刷り込まれそうで恐い。

「大丈夫だよ。あの子達は頭が良いしやさしい子達だから。それにそんな事言うシンジはなんだか”お兄ちゃん”というよりは”お父さん”みたいだねぇ」

「な、何を言ってるんですか、もう」

 ホウメイ師匠にまでからかわれてしまった。僕ってからかわれやすいのだろうか。

「でもシンジ君てなんか”僕にかまって”みたいな所があるっていうか」

「そう、何かいじちゃいたくなるのよね」

「「そうそう」」

「えっ!」

 ミカコさんをはじめとする女性スタッフの人達(何でも彼女たちを一まとめで言う時はホウメイ・ガールズと言うらしい)にそう言われて僕はぎくりとした。確かに僕には今までちょっと愛情に飢えた幼少時代が有ったからそういう所が有るかもしれないと思った。

「だから、寂しい時はオネエサンに言・う・の・よ?」

 エリさんが僕のあごに人差し指を当ててそう言った。

「「「きゃーー、エリちゃん。だいたーん」」」

「そりゃそうよ、シンジ君てかわいいんだもん」

 そう言ってそのまま今度は抱き着かれて頭まで撫でられる始末だった。

「うわーっ!(ちょっ、ちょっと胸、胸がー)」

 僕は気持ちよさと羞恥心の狭間で苦しむ事になった。

「もう、嬉しいくせに」

「シンジ君て弟みたいに感じるから、かまいたくなるのは確かね」

 などとホウメイ・ガールズの皆さんは話していました。

「はいはい、シンジをからかうのもいい加減におして、そろそろ準備に入んな。お昼が近いんだからね」

 ホウメイ師匠がタイミングを見計らってか止めてくれた。

「「「は〜い」」」

 そう言ってホウメイ・ガールズの皆さんはそれぞれ自分の作業に戻っていった。今日の僕はからかわれっぱなしなのかもしれない。


 昼が過ぎ、僕はホウメイ師匠の今日はあがって良いという言葉に甘えて仕事を切り上げ、先日の約束を果たすから来いとセイヤさんに呼ばれたので格納庫に行く事にした。でも、約束って有っただろうか?

 僕は格納庫に来て一番に目に入ったのはエステバリスと呼ばれるロボットが完成した形で一機ハンガーにあった。昨日来た時にはまだ組立て途中だったけど今やそれは完成された形でそこに佇んでいた。そしてその足元ではセイヤさんが整備班の若手、モリマツさんと何か打合せをしていた。僕がぽかんと口を開けてエステバリスを見ていたのに気付いたセイヤさんが声を掛けてきた。

「よう、シンジ、どうだいコイツは?」

 セイヤさんが嬉しそうにエステバリスの足に触りながら行った。

「完成した姿を始めてみましたけどすごいですね」

 確かに今までにもデモンストレーション用に作成された映像を見たけど、実際に目にするその勇姿は映像なんかで見るより圧倒的だった。この辺はEVAも同じだけど。もっともEVAの方が圧倒的迫力が有ったけどそれも当たり前だ。だいたいスケールが違うんだから。ふと、セイヤさんがEVAを見たらどう思うんだろうなんて事を思い付いたが見せる事なんてできないんだから考えても仕方ない。

「そうとも、この大きさで機動力は現存の兵器とは比べもんにならない位、発揮するってんだからな。くーこのエステちゃんを思う様に改造してみたいぜ。でも予算がなー」

 そういえばセイヤさんはナデシコ乗船前はジャンク屋を経営する傍ら、違法改造を趣味でやっていた人だって整備班の誰かが言ってたっけ。EVAの装備開発に携わっていたリツコさん達もよく装備の予算が足りないとか言ってたりしたなあ。

「映像では機体色がグリーンでしたけどこれはピンクなんですね」

 僕もエステバリスの足に触りながら言った。

「おうよ、一応ナデシコに搭載するエステバリスについてはパーソナルカラーとしてパイロットが自由に決めて良い事になってんだよ」

「じゃあ、この色はパイロットの人が?」

「おうよ、まあ色々と忙しかったからどんな奴が乗るのかまでは確認してないけどな」

「でも、派手な色とか同じ色とか希望した場合はどうするんです」

 僕はささやかな疑問を口にした。

「金色だろうがなんだろうが希望すればやる。だいたい敵は木星蜥蜴の無人兵器だからな、あんまり色は関係ないんだ。同じ色でも例えば同じ赤という色でも何十種類も有るからな大丈夫さ。最も色の識別感覚が鋭くなきゃ同じに見えるだろうがな」

「そうなんですか・・」

 でもピンクか何でこの色を希望したんだろう?

「そうとも」

「で、約束なんですけど」

「おう、そうだったな。前に言ったようにコクピットに乗せてやるよ」

 セイヤさんはそう言ってニカッと笑った。よっぽどエステバリスが形になったのが嬉しいらしい子供みたいに無邪気な笑顔だった。

「(そういえばそんな事言われたっけ)本当ですか?」

 すっかりそんな事を忘れていたが興味があったので話に合わせた。

「おう、と言ってもコクピットに座るだけだがな。細かい調整が終わってないし、第一にシンジはIFS持ってないしな」

「このエステバリスってロボット、IFS対応でしたね」

 シンジはエステバリスを見上げながら言った。

「そうともIFS対応の物は意思伝達による操作ができるとあって習熟するのが速い。本来なら兵器を扱うには打ってつけのシステムなんだがな・・・地球じゃIFSはナノマシンを使うってんで偏見があって普及できてないんだ。それさえ無くなれば少なくともパイロット不足だとか言われなくなると思うんだがな・・・」

 セイヤさんはそう言ってエステバリスを見上げた。

「そうですね。でも、その偏見も分かる気もします。訳の分からないものを体に入れなくちゃならないなんてやっぱり抵抗ある僕でも思いますから」

「まあ、ナノマシン技術自体がまだ一般に馴染みのあるモノではないからな。気持ち悪いとか言うのが先行しちまうんだろうな」

 確かナノマシンが補助脳を形成して云々とかシキやイロウルが言ってたな。その説明を聞いた時は使ってみたいとは思えなかったな。でもラピスやルリちゃんは付けていたんだっけIFS。

「でしょうね。いくら便利と頭で分かっていても生理的嫌悪ってそう払拭できませんから」

「そうだな、使うぐらいなら死んだ方がましだ!と言う奴が結構いそうだからな・・まあ、他にも色々事情があるから即効で状況が変わるなんて事はないんだろうけどよ。それでもいい流れに変わると思うんだがな」

 セイヤは曇った顔で答えた。今の地球の戦況は芳しくないのは確かだ。ことヨーロッパ方面はかなりの被害が出ているという。軍事拠点を潰せば都市レベルを潰すように行動している。つまり、民間に矛先が向くのである。それは民間の軍や政治への不信不満につながりかなり追い込まれている。今ではヨーロッパ方面は民間企業による自衛軍とも言うべきものが設立され、政府よりも企業の方が信用される有様になってきている。極東方面は何とか凌いでいるのが実情であるがそれが崩れるのも時間の問題とまで言われている。

 そんな中このナデシコやエステバリスはネルガル重工の最新鋭の兵器として登場する事になった。最も木星蜥蜴と交戦状態に入ってからも同業他社の新兵器が発表され戦線に投入されたが無人兵器に対して有効な手段とは成り得ておらずこのナデシコとエステバリスについても実績が無いので余り軍からは期待されてはいない。

 しかし、ナデシコ等に投入されている技術がどういうものかを知っていればその評価もおのずと変わっていくだろう。ナデシコにはグラビティブラストにディスト−ション・フィールドという木星蜥蜴が使用しているものと同じものがいやそれよりも強力なものが実装されている。

 またエステバリスにしてもディスト−ション・フィールドを使用できる事により現存する兵器とは一線を画している。設計段階において動力源を外部より取り込むという大胆な事を行ったお陰で小型で高機動、またパーツを変えることによる汎用性、かつ低コストを実現し同じディスト−ション・フィールドを使用できる木星蜥蜴の無人兵器に対しても十分以上の効果を得る様に設計されていた。

 だがその反面、運用には大きな制限がある。動力源を外部より得るようにした事により長時間の単独運用ができないという事だ。はっきり言ってこのままではエステバリスは拠点防衛にしか使えない。こと地球においては拠点だけを守っていれば良いというものではない。エステバリス最大の欠点といえるかもしれない。それ以外は画期的といっていいだろう。最も運用すれば今まで見えていない問題点もでてくるだろうが、これはどんな兵器にも言えることだ。

 このようにナデシコ及びエステバリスは木星蜥蜴に対して有効性を持っているが、その性能を活かすにしてもこの地球は広い。一隻ではこの広い地球を守備できないのだ。アニメの様にたった一隻で戦局は大きく変わらない。数を揃えないければならない。ナデシコ級は製造過程がデリケートなので大量生産には向いていない等の問題を抱えている。

 それでもネルガルはこのナデシコとエステバリスを軍に対するデモンストレーション用に運用し売り込もうとしている。何らかの方策があるのだろう。

「ここだから未だのんきに構える事ができているんですよね・・・」

 僕は今までいた地域を思い出して言った。そこでは何度と無く木星蜥蜴に襲撃を受けたのだ。よく無傷で助かっていたものだ。

「まあな。この辺も木星蜥蜴に好き勝手されるようなら俺だって悠長に女房、子供を置いてなんか来れん」

 セイヤさんはそう言ってかぶっていた帽子のつばを直した。そういえば、セイヤさんて結婚してたんだっけ。聞いた時は驚いた。それにまだ年齢は20代だって言っていた。悪いけどミサトさんよりも若いとは思えなかった。

 そう言っている間にハンガーに備え付けてあるリフトでコクピット前まで移動していた。

「狭いですね」

 僕はEVAのコクピットというかエントリープラグを思い出してしまいつい言ってしまった。

「シンジ、兵器に居住性を求めてどうするってんだ?そんな余裕があるならそこに更なる機能を詰め込むに決まってるじゃないか」

 そうセイヤさんは言った。でもそれってある意味正しいけど自分の趣味も入ってるんじゃと思ったがでた言葉は違った。

「そうですよね・・座ってみてもいいですか?」

 僕は興味引かれてセイヤさんに言った。EVAとは操縦系が違うけど制御の概念は思考による伝達で同じだ。

「ああ、いいぞ。どうせ今は動かせないしな」

 セイヤさんは二つ返事で了承した。

「そうなんですか?」

 僕はコクピットに乗り込みながら聞いた。

「まあな、ナデシコに配備されたエステバリスは最新のバージョンだからなマニュアルコントロールを取っ払ってIFSオンリーなんだよ。まあ、整備用の簡易制御はできるけどな」

「えっ! マニュアルでも動かせたんですか?」

 僕は驚いて聞いた。それは知らなかったから。

「ああ、さっき言ったように地球じゃIFSて忌避されているだろ?それの代替案としてあげたんだがこれが思わしくない。単純な制御装置じゃ人型にした意味がないし、それを活かせるようにすると制御装置が多くなって操縦が難しくなる。ついでにマニュアルじゃ反応速度は遅くなるし、装置類が増えて重くなるから機動性が落ちると踏んだりけったりさ。まあ、当然だよなこのエステバリスはIFSを使うことを前提にしそれを100%活かせるように設計してるんだからよ」

 セイヤさんはやっぱり自分の好きな分野でもあるから熱く語った。僕は相槌を打つぐらいしかなかった。

「・・それにマニュアルだとある程度は動きをパターン化してやらないと兵器としてものにならないからな。その点、IFSの場合は意思伝達がダイレクトでスムーズにされるから複雑な動きもできるし、時間のロスも最小限に抑えられるからな。第一、操縦がシンプルになる」

「本当ですね」

 僕はその言葉に確かにと思った。座ってコクピットを見渡すとロボットを操縦するとは思えないほどシンプルにまとめられていた。とはいってもEVAのほうがもっとシンプルだったけど。あれはスティックが2本それも補助用でほとんど体の固定用じゃないかとも思ったときがあった。

「だろ? そこのがメインコントロールだ。そこに手を置けばいい」

「これですか?」

 僕はセイヤさんに言われた所に手を置いた。

「そうだ。それで殆どのことができる。後は機体の・・」

 セイヤさんが途中で言葉を止めた。僕も口をあけて固まった。

 コクピット周りのモニタが所々転倒し、心なしか動力の起動音がし始めていた。

 そう、何だか分かんないけどこのエステバリスが起動し始めている。

「お、おい、シンジ!何をやった!?」

 セイヤさんが少し動揺しながら言った。

「な、何を言ってるんです、セイヤさんも見てたでしょ!僕は単に触っただけです!」

 僕は弁明の為、手を離して言った。

「シンジ、IFSつけてないよな?」

「つけてませんよ、ほら」

そう言って僕は手を表裏、セイヤさんに見せた。IFSをつけると特殊な文様が手の甲にできるからだ。

「あっ!」

「おっ!」

 僕もセイヤさんも驚きの声を上げた。だって、僕の両の手の平と甲に丸い痣みたいな物が浮かんでいたから。

「何だ?これ」

 僕は驚いてまじまじと見た。

「シンジ、お前、そんな痣なかったよな?」

 セイヤさんも前から僕の手を何度か見ていたからそう言って来た。

「ありませんよ。何だよこれ」

 僕がもう一度、自分の手を見ていたらその痣がすぅーっと薄れていく。

「「き、消えたっ!?」」

 セイヤさん見ていたのか同時に言った。気付けばエステバリスも停止していた。

「・・・何だったんだ?」

「さあ・・・」

 僕もセイヤさんもあまりの事にしばらく押し黙ってしまった。あの痣は何?あんなのができる覚えなんて・・・

「ああっ!?」

 僕は痣について思い当たる節を思い出した。

「どうしたんだ?シンジ!?」

 僕が考え込んでいる間にエステバリスをチェックする為コクピットを覗き込んで作業していたセイヤさんが驚いて顔をあげた。

「そうだ、あの時の、あの時にやられた槍の傷かっ!」

 僕は声に出して叫んでいた。

「何? 槍がどうしたんだ?」

 セイヤさんは怪訝そうに聞いてきた。

「えっ? セ、セイヤさん!?」

 僕は声に出して叫んでいたのを思い出してどうしようと慌ててしまった。大体がして槍なんて普通お目にかかるようなもんじゃないし。

「いやシンジ、突然、槍の傷とか言われれば気になるだろ?」

 僕はセイヤさんの意見を聞いて確かにそうだと思った。どう説明しよう・・

「・・少し前に未開の地で戦いというか争いというかとにかくトラブルに巻き込まれた事がありましてその時に何かの儀式の生贄にする為に槍で手を縫いつけられて磔にされたことがあるんです」

 真実を交えた嘘を言った。大筋を本当のことだ、と思う。何せその時の記憶ってあやふやだったし、ただ、両手が何かに刺されて痛かった事だけは覚えている。

「本当か?・・なら、よく生きていたな・・・」

 セイヤさんはあまりにも突拍子な話に半信半疑で言った。

「・・実際、何で僕が生きていたのか覚えていないんです。気付けば僕は知らない海岸に寝かされていましたから・・」

 そう、僕のEVA・・初号機に乗って外に出てアスカの弐号機が白いEVA達に食い散らかされていた所までしか覚えていない。次に気付いたら海岸で寝いていたんだ・・あの赤い海の。

「そうか・・・」

 セイヤさんはどうやらこの突拍子もない話を信じてくれたようだった。何故かはわからないけど。

「すいません。何か暗い話しちゃって」

 重い空気を払拭すべく努めて明るく僕は言った。

「いや、シンジも結構、大変な経験してんだな」

 確かに振り返ってみれば色んな経験しているな・・・普通の人には味わえないモノを・・異世界に来たり・・イロウルによると厳密には平行世界らしいけど。

「ええ、でもさっきの何だったんでしょう?」

「さあな。機器を簡単にだがチェックしたが異常はないようだしな」

「やっぱり、さっきの痣が原因なんでしょうか?」

 確かに自分が普通でない事を自覚はしている。自由には扱えないが不可思議な能力を持っているから。でも、あんな現象は初めてだっただから僕は少し不安になった。

「・・よっしゃ、もう一度やって見ようや。それではっきりする!」

 セイヤさんはそう言ってニカッと笑った。

「良いんですか?」

 僕は不安なので確認した。

「大丈夫だろ。ただ、エステバリスが勝手に起動し始めたってだけだったし。離せばそれも納まったようだしな。気楽に言ってみよう」

 セイヤさんはそういってにやっと笑った。

「まぁ、何かあってもメカのことだ。俺が何とかするぜ。丁度、休憩時間だからなここに残っている整備員も少ない」

 そう言ってセイヤさんは残っていた整備員に一寸したエステバリスの試験をすると言って離れているように指示した。その後、ちょっと狭くなるがとセイヤさんが無理矢理コクピットに乗り込んできた。

「じゃ、始めようぜ」

 セイヤさんは僕に声をかけた。そこには好奇心を丸出しにした顔があった。

「・・いきます」

 僕は緊張の面持ちで恐る恐るコントロールに触った。しばらくすると先ほどと同じような現象が起こりエステバリスが起動し始めた。

「「おお!!」」

 セイヤさんも僕も驚きの声を上げた。

「すげえ、ちぇんと起動シーケンスをクリアしていっているぜ」

 セイヤさんが確認している声が聞こえるが僕はそれ所じゃなかった。懐かしい感覚を感じていた。それはEVAとシンクロした時に似たモノだった。ただし、暖かい感じはぜずかといって冷たいわけでもない。ただ、自分が大きくなったような感じがする。そうEVAとの高シンクロの状態、エステバリスとの一体感を感じた。何時の間にかエステバリスが捕らえる映像が僕が見ている物と感じ、音が僕が聞いているように感じ始めた。

「おおっ!何だ?調整してねえバランサーが補正されていくぞ!それだけじゃねえ!稼動部分の動作速度の微調整も最適化されていっている!?ってことはこいつはシンジに合わせてセッティングされていっているのか」

 僕は僕自身からの情報とエステバリスから得ている情報で変な感覚に陥っていた。多分、情報が処理できなくて混乱しているんだろう。

「・・オールグリーン。それに調整に整備しいらずかよ・・・」

 セイヤさんも事の成り行きに呆然としていた。その気持ちは僕もよくわかる。EVAのパイロットに合わせた調整に技術部の人たちが何度も泣いていたから。僕はそれ程でもなかったけど綾波やアスカは成長期だったからある程度の時期が立つと調整しなおさなければならなかったから。今思えばEVAってすごく手間隙がかかるんだな。僕は懐かしさに捕らえられ動いてみたくなった。

『セイヤさん、動かしてもいいですか?』

 僕がセイヤさんに言おうとして違和感を感じた。そうエステバリスのスピーカーを通して言っていたのだ。僕自身の口を使わずに。多分、今の感覚の混乱からそうなったんだと思う。

「おいおい、わざわざスピーカーで言わなくってもいいんだぞ。まあ、機器を見る限り、バランス調整も何もかも終わっちまってるからいけるけどな・・・よし、わかったいいぞ。固定機を外さなくっちゃな。おい、そこの!固定機を外してくれ」

 そう言ってそばでエステバリスをぽかんと見ていた整備員の一人に命じた。確か、防犯対策とかで勝手に動かせないように外から出ないと外せないようになっているらしいと前に聞いた。多分、その様子から僕がスピーカだけで喋ったのに気付いていない。あれ?そういえばどうやって僕の声質でスピーカーから出たんだろう?

「いいぞ」

「あっ、はい」

 今度はちゃんと僕自身で喋ることができた。段段とこの感覚に慣れてコツがわかってきた。僕は緊張の面持ちで一歩を踏み出した。まるでEVAに始めて乗って一歩を踏み出した時のように・・ちゃんと止まらなかったけど。まあ、今回はEVAの時の慣れと目の前に敵がいないのとで気分的に楽だったけど。

「あ、歩けた」

 僕は未だ少し不安のある感覚で一歩を踏み出す事ができたんでそう言った。でも、当たり前のことだ、自分の体と同じ感覚で動かすんだから。

「当たり前だ。俺たち整備班が心血注いで組み上げたんだ。そうでなくちゃ困る!!しかし、普通はこんなに簡単にはいかねえんだがな」

「どういう事です?」

「本来ならまだこのエステバリスは細かいデータやらプログラムを組み込んだりしなくちゃこうは動けないんだ。最初に言ったろ?」

 そう言えば細かい調整ができてないとか言ってたような・・・

 そう思いながら色んなポーズをとってみた。

「って、おい、あんまり無茶な動きをさせるな。バランサーが追いつ・・って取れているじゃないか・・どういうことだ?それに、片足だけで立てば自重で間接に負担が発生する筈なのに無い」

 僕が片足で立った時にセイヤさんが言った。どうも片足立ちはまずかったらしいはずだが問題が発生して無いらしい。

「あれっ?」

 僕は一寸、機体が変なのに気付いた。

「どうした?シンジ」

 何やら考え込んでいたセイヤさんが僕の声に反応した。

「いえ、大した事無いのか分かりませんけど機体のカラーリングがピンクじゃなく紫になっているように見えるんですけど」

 僕がエステバリスから直接得ている情報からも、コクピットのモニタから見える部分も紫に変わっていた。

「俺にもそう見えるな。他の景色が正常に映っているからモニタのカラー補正が狂っているわけでもないな。わからん」

 そう言ってセイヤさんは帽子を脱いで頭を掻いた。

「とりあえず元の所に戻りますね」

 僕はそう言った後、ハンガーにエステバリスを戻した。何だか一杯謎ができたような気がする。これって何? はっ!ま、まさか、これはイロウルの高度な悪戯?っていくらイロウルでも僕にエステバリスと一体感をもたらして動かすことなんてできないか。後で聞いてみよう。シキが休眠していなければ何か分かったかも知れない。逆に分かったのはどうもこの現象は僕自身が引き起こしているって事だけだ。

     *

「どうでしたか?」

 あの後、僕は降りてセイヤさんはその場にいた整備員と共にエステバリスをチェックした。ついでに言うとエステバリスのカラーはピンクに戻っていた。外から見ていた整備員によると起動し始めた時に変わって停止したと同時に戻ったそうだ。

 つまり、僕が動かした間だけ色が全体的に変化していたらしい。

「・・まあ、異常なしだ。それ所かまったくの新品だったはずが部品がかみ合うように、つまり慣らし運転を終えた状態になっていた。整備要らずって状態だ」

 セイヤさんは複雑そうな表情でエステバリスを見ながら言った。

「そうなんですか・・何なんでしょうね?」

「それは俺が聞きてえ」

 セイヤさんは投げやりに言った。

「あのこの事は・・」

「説明できない事だからな。とりあえず立ち会っていた奴等には緘口令をした。まいったぜ」

 そう言ってセイヤさんはため息を吐いた。

「すいません。僕のせいで・・」

 僕は謝った。どうしたって僕が原因だから。

「いや、別に困った事になった訳じゃない。どっちかって言うと手間が省けたぐらいだ。だが、説明のつかない事だから一寸な。それに俺がやれって言った事だから別段シンジが気にすることじゃねえ」

「でも」

「いいから気にするな。さて、仕事を始めるか。じゃあな、シンジ」

 セイヤさんはそう言って作業に戻っていった。僕は遠ざかりながら「しかし、世の中には説明できん事があるっていうがいざ目の前にすると何とも言えんな・・」というセイヤさんの呟きを耳にした。

 セイヤさん・・そうかもしれません。でも僕にとっては説明できない事は殆ど日常的に起こっているんです。だから、悩むのはもう止めました。疲れるから。

 僕はとりあえずこの現象が理解できそうな存在、イロウルに会う事にした。この時間ならブリッジにいる筈とコミュニケで確認して向かった。

     *

 ブリッジに着くと静かでありながら熱気が篭っていた。ラピスやルリちゃんだけでなくイロウルやオモイカネまでが無言でデータ処理に明け暮れていた。

「・・・何?」

 僕に気付いたラピスが作業を邪魔したのが悪かったのか何時もよりぶっきらぼうな感じで問い掛けてきた。

「え、いや、その・・何をやってるのかなって・・」

 僕はつい雰囲気に飲まれて口どもってしまった。

「・・今はシステムを最適化している。で、あいた所に私の知らない<MAGI>が入るんだってイロウルが言った」

 ラピスはそう答えながらも休まずに作業を続けていた。

「ええっ!?<MAGI>を!?」

 僕は驚いてイロウルやラピスやルリちゃんを見た。みんな夢中になって作業に没頭している。正直凄いと思うけどその姿はあまり好きじゃない。今のラピスはというかルリちゃんもだけど綺麗なお人形さんというかまるで部品みたいな感じがするから。僕は今の状態より、ご飯を食べたり、ゲームをしていたりしている時の方がいいと思う。活き活きとしているから。

<おや?シンジ、どうした?>

 僕にアルファが話し掛けてきた。

<アルファ、MAGIを設置するんだって?できるの?>

<ああ、今やっているシステムの整理ができれば領域が空くからな>

 アルファが楽しげに言った。

<あのさ、この戦艦にMAGIを載せてどうしようって言うのさ>

 僕にはわざわざMAGIを乗せるのか分からなかった。

<どうせなら行ける所まで行ってみようかとね>

 アルファはお気楽そうに言った。・・・しいて言うならオモイカネ級コンピュータがこの戦艦に7台・・はっきり言って無駄に多いように思うんだけど。

<シンジ、違うぞ。7台ではない、8台だ。シキを忘れている>

 そうだった。シキはあれでもアルファ達に劣るとはいえかなりの能力を持っているんだった。

<何で僕が考えていることが分かるんだ?>

 僕はやっぱりこいつってば僕の思考が読めるんじゃないかと思った。

<それはシンジが単純だからさ。考えが顔に出ている>

 ちぇ、何時も同じような事を言うんだ。でも、なんかこのナデシコって戦艦とんでもない事になっているかもしれない。大丈夫なのかな?まあ、僕の物じゃないからどうでも良いか。

<どっちにしろ我々がいる時点で普通には成りえんのだ。寧ろ普通の戦艦に乗るよりは好都合だ。何せディストーション・フィールドというATフィールドに良く似た防御機構を備えているのだからな。非常にごまかしやすい>

 あーそれはつまり、この戦艦がやばくなったらATフィールドで守るつもりなんだね。

<シンジだってこの戦艦が沈むのは嫌だろ?>

 暗に知り合った人たちが死ぬのは嫌だろとイロウルは聞いてきた。

<うん、折角できた僕の居場所なのに無くなるのは嫌だ。エゴかもしれないけど>

 僕は素直にうなずいた。

<そうだろ。だから今、このナデシコは大改造中だ。出航までには終わる予定だがね>

<そ、そう。ほどほどにね・・・>

 僕は何かとんでもない事になる予感がして冷たい汗を掻いた。ひょっとして使徒”ナデシコ”ですか・・・イロウルさん。それは無茶じゃないかい?

 機動戦艦ナデシコ・・・所有者たるネルガルの思惑からも外れ、人類史上最強の戦艦として誕生しようとしていた。


(つづく)


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注)新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
  機動戦艦ナデシコは(c)XEBECの作品です。






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