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新世紀エヴァンゲリオン 世にも奇妙な我が人生

新たなる戦い編
第 3話 「ゲヒルンでの日々」
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「さて、今日は歴史について勉強しようか」

「「「「「「はーい」」」」」」

 赤木博士との出会いから私の周りでは色々な変化が起きた。

 まず、今までは別々に行動していた私と同じ存在Cナンバーで呼ばれる子供達が皆赤木博士の管轄になったこと。その子供たちにも名前が贈られた事、私と同じく宝石からつけられた、宝石のようにキラキラと輝く人になれと言って。

 それから、Cナンバーで呼ばれていた子はみな血のつながった兄弟、姉妹だから仲良くするようにと言われた。つまり、兄、姉、弟、妹・・家族なのだと。その時、誰かが父、母はいるのかと赤木博士に質問して赤木博士は困った顔をした。しばらくして、残念だけどいないと言った。その代わり、俺がお前たちの父親代わりだと宣言した。それからは皆、赤木博士を父親として慕っていた。もちろん私もだ。

 そして、つい最近、一番上の姉アクアマリンが居なくなった事。これに関しては、みんな結構ショックを受けたみたいだ。というのもCナンバーで呼ばれていた子供は体が弱いとされていた。最年長のアクアマリンがC48と呼ばれていた。つまり、それより前のCナンバーはもういない。その意味するところは私たちの寿命は異様に短いということだ。

 一番したの子がC96・・今はアイボリーが言うにはC99までいたのだと聞いた。ナンバーで考えるならDナンバー、Gナンバー共に00から始まっていることを考えるとCナンバーも00から始まっていると考えられる。だとしたらCナンバーは今までに全部で100人いたことになる。

 でも今この場に居るのは15人・・2割弱しか生きていない。最年長のアクアマリンでも14歳、最年少がアイボリーの9歳だ。これほどまでに数を減らしていると私は大人になれるのだろうかと不安になってしまう。

「じゃあ、みんな手元のPC(パーソナルコンピュータ)を立ち上げて。いつもの操作で今日の課題がデータ転送されるのでそれをやってくれ」

「「「「「「はーい」」」」」」

「それから、ラピス、ちょっと話があるんで研究室の方へ行ってくれ」

「はい」

 私は不意に赤木博士に呼ばれた。呼ばれるようなことは思い当たらない・・はず、はっ!前にデータライブラリをこっそり覗いた事がばれた!?・・いえ、あれは完璧だったと自負できる。この研究所、結構重要な事やっていそうな割にセキュリティが甘い。じゃ、MAGIでデータ処理訓練をしていた時にミスって施設を停電させたこと?ううん、あれはもう既に怒られたし、後は・・・・アクアマリン姉さんの事かな。

 赤木博士の背中を見ながら、考えを巡らしていた。

「あら、こんにちは、久しぶりね。ダイスケ君」

 不意に赤木博士に声を掛けた人物がいた。その声にはっと現実に帰り確認する。そこに居たのは赤木博士と同じぐらいの年齢で流れるような長い黒髪が印象的で知的そうな風貌をした美人。若いながらこの研究所の所長をやっていて赤木博士の奥さんの姉。その人の後ろに居る一寸怖い風貌ののっぽな男は知らない。

「お久しぶりです。六分儀所長」

「ふふ、他人行儀ね。別にお義姉さんと呼んでもいいのに」

「そういう訳にはいけませんよ。所でそちらの方は?」

 赤木博士も知らない所を見ると部外者の可能性が高い。

「ああ、こちらは従弟の六分儀ゲンドウよ。一応、あなたにとっても従弟になるわね。ここへは上関係でね」

 紹介された六分儀ゲンドウという男はギラリとした目で私達を見た。思わず私は赤木博士の影に隠れてしまった。

「ああ、そうですか」

 ちょっと赤木博士もその視線に引いたみたい。

「六分儀ゲンドウだ。ここには暫く世話になる」

 そう言って無骨な手で赤木博士に握手を求めた。

「よろしく」

 赤木博士は戸惑いながら握手に応じた。

「機会があれば久しぶりに食事でもしましょ。もちろん3人でよ。」

「ええ」

「じゃ、私達はこれで。じゃあね、ラピスちゃん」

 六分儀所長に突然名前を言われて私はびっくりした。そんなことも気にせず2人は立ち去っていった。

「あの男・・どこかで・・まあ、いいか。私たちも行こうか」

 赤木博士は何か思い巡らせていたがあきらめて目的の場所に向かった。私もついていく。

「失礼します」

「まあ、かたくならなくていいよ。楽にね、座りな」

「はい」

 目的の部屋に着いて互いに気を抜いて椅子に座った。それから、赤木博士は話を切り出した。

「話というのはなアクアマリンについてだ」

 予想通りだった。

「はい」

「これから話す事は口外無用だぞ?」

「わかりました」

「この前の事件の後、アクアマリンはよっぽどショックだった見たいでな所謂、男性恐怖症って奴になってしまった。だんだん酷くなって俺にさえ怯えるようになっていてなとても困った状態になっていた。」

 この前の事件というとアクアマリン姉さんがここ研究所の研究員達に乱暴されたというものだ。その時、たまたま、何かが暴れていた物音を聞いた私が警備員を呼んで発覚した。その時にはアクアマリン姉さんがどういう事をされたのか理解できませんでしたが好奇心から調べてちょっと後悔した。

「まあ、それでこの前の騒ぎが起きたんだ。」

「この前の騒ぎ?」

「ああ、ラピス達には全て伝わってなかったんだっけな。昨日の夜中、避難訓練をやっただろ?」

 こくんと私はうなずいた。非難した時、リアルに施設の一部が爆発したりしていた。説明では改築予定で壊す予定だったので有効利用することにしたといっていた。こういう場所だから何時こういうことが起きるか分からないからと。

「その時にな事件が起きていたんだ。ラピス達がこの研究所でCナンバーと呼ばれているのは知っているな?」

 こくんと私はうなずいた。

「それと同じようにBナンバーがついたものがいる」

「アクアマリン姉さんが関わっていた研究の一つ」

「そう、その通り、Bナンバーは生体兵器に対して付けられるコードだ、アクアマリンはその内の一体B1−36・・誰が言ったのかイサムと呼ばれていたドーベルマンというイヌの種だ」

「一度だけアクアマリン姉さんに連れられた所を見た」

なんとなく、話の筋が見えて来た。

「そのイサムってのはかなり優秀だった。ほとんど完成品と言っていいできだったんだ。知能も人間の10歳児ぐらいあったし、何より、野生の虎を一撃で屠るだけの戦闘力を持っていた。何より知能が高いので曲がりなりにも道具を使うこともできた。そして、そのイサムに対して正確に指示ができるようにアクアマリンと意思の疎通ができるようにある特殊なナノマシンを使用することでリンクしていた」

「リンク?」

「どういうものかは説明できない。これについては機密だからな」

「わかった」

「まあ、そのリンクによってアクアマリンがどういう目にあったかイサムには分かったのさ。で、イサムには一応、定義づけされていてな優先順位が一番高いのが任務達成、次に指示者を護ること。で、指示者たるアクアマリンが危険な時イサムは檻に閉じ込められていた。つまり護ることができなかった訳だ。で、そういう状況に追い込んだ者、アクアマリンを襲った者は敵と認識してしまったんだ。で、昨日の騒ぎが起こった。どうも、イサムの奴、綿密に敵を殲滅すべく計画したみたいでな。確実に関わっていたものを全て屠れる時期に実行し、見事に成功させた。で、こんな所に居られるかとアクアマリンを連れてここを脱出したのさ。」

「それで、どうして私にこの話を?」

「それはな、や・・」

 赤木博士が話し途中の時にドアが開いた。赤木博士は咄嗟に私を後ろに身構えた。

「よっ!ダイスケ」

「ダイスケじゃないだろが、ケイイチ。入ってくる時はインターフォン鳴らせといっているだろ!何時も一々ロックをはずして入ってくるな!」

 入ってきたのは葛城ケイイチ。赤木博士の親友で同じ時期にここの警備部に配属されてきた。一寸変わり者だけど何時も私達にあったらお菓子をくれるのでみんなそれなりになついている。赤木博士が「ケイイチ」と言っているので皆もそう呼んでいる。赤木博士は緊張を解いた。赤木博士も私達もだがこの研究所で気が許せる人間2人のうちの1人だ。

「いや、ついな?」

「ついじゃないだろ、第一、毎回毎回ロックのセキュリティ改良しているのに開けやがって」

「まあまあ、俺とのお前の仲じゃないか、気にするな」

「で、用はなんだ?」

「ああ、ダイスケがかわいい女の子を連れ込んだと聞いてね。それはさすがにやばいかなと思ってね」

「それしゃれになっていないぞ、特に最近の出来事からすると」

「いやあ、わるいわるい。ラピス嬢、久しぶりだな」

「ケイイチ、昨日避難した時に会った。だから、その表現は不適切」

「手厳しいなあ」

 そう言って、ケイイチは頭を掻いた。

「で、用件は?」

「ああ、ちょっとお前とラピス嬢に話があってな。丁度2人きりらしいから良いと思ってな、それよりお前のほうはもういいのか?」

「ああ、ケイイチだったら、聞いてもかまわないか。さっきの続きだがなラピス、やって貰いたい事があるんだ」

「私に?」

「そう、MAGIのメインオペレーターとしてのラピスにだ」

「何をすればいいの?」

「政府のシステムにハッキングしてアクアマリンの戸籍を作って欲しい。隠密に」

「どうして?」

「アクアマリンを逃がしたのは実は俺達なのさ」

 ケイイチが言った。

「まあ、イサムはあのままじゃ処分されるのは目に見えていたからな。アクアマリンもイサムには気を許していた。そのイサムが消えたらアクアマリンがどうなるか分からなかったからな。リンクのこともあるし。で、イサムと一緒に逃がす事にしたのさ」

「まあ、どっちにしろ殺された連中の中にはこの研究所の実力者の息子がいてな、アクアマリン嬢が最悪処分される可能性があったんだ」

 処分と聞いて私は震えてしまった。Cナンバーの半数以上がこの言葉と共に消えたから。

「脅かしてしまったな、すまない」

 そう言ってケイイチは私の心を安心させようと私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。幾分それで私は落ち着いた。

「今更だが、ラピス達はこの研究所で非公式に作られた存在だ。よって、世間から見れば存在しない人間なんだ。それじゃ、”外”で生きていくには不都合なんだよ。だから、戸籍をまず作る」

「でも、どう作ればいいの?」

「作って欲しいデータは用意してある。大丈夫、ラピスならできるさ。色々MAGIを使って悪戯したみたいだしな?」

 ギクッと私はしてしまった。ひょっとしてバレてる?チラッと赤木博士を窺うとニヤリと笑っていた。

「あう」

「大丈夫だよ。あれが分かるのは代々MAGIの作成に携わってきた赤木だけが分かることだ」

「代々?」

「MAGIってのはなすごく難物だったんだ。基礎理論自体は200年ぐらい前にはできていたんだがそれを実現させる為の技術が無かったのさ。で、MAGIを開発することを赤木の一族は悲願としてやっと俺の代で実現できるたのさ。恐れ入るね、本当、偉大なご先祖様に乾杯だよ。MAGIは200年前の仕様に係わらず既存のコンピュータなど歯牙にもかけない性能を持っている。多分、対抗できるのは最近、開発されたオモイカネというコンピュータぐらいだろうな」

「まあ、あっちは反則技を使って作ったもので、こちらは自力で技術を磨き上げ作り出したものだから、どちらが偉大かというのは一目瞭然だ」

「反則技で作っても同じ性能なら、そんなことに意味は無いよ」

「そんな事は無い、人類が一から積み上げた技術で完成させた事に意義があると思うよ、俺は」

「そうだと嬉しいね。一応、MAGIは人類の技術の延長上で完成させたからな。それに未だ改良の余地は残っているか」

「そうそう、歪んだ科学技術は危険だよ。それを使えるからとただ利用しようとすることは俺は危険だと思ってるからな」

「天河博士の持論だったな。全てを解明してから使用すべきだと。惜しい人を亡くしたよ。でも、さすが天河博士の一番弟子だ」

「よせやい、才能がないと早々にドロップアウトしちまったんだ。今じゃ、しがない警備員だよ」

 そう言ってケイイチは肩を竦めた。

「本当にそうかな」

 この時、私はぼうっと赤木博士達の会話を聞いていたが突然、赤木博士の目がギラリと輝いた気がした。

「まあ、ここの連中はいけ好かないがそれでも異文明技術を利用することなく研究を進めていることには感心するがね」

 その視線をケイイチは軽く流して話を続けた。

「だがナノマシン技術は使用しているぞ?」

「ああ、でもな、ナノマシン技術が世間に流布し始めた時に同レベルの技術が惣流・ノイマン・ツェペリン博士を代表とするゲヒルン・ドイツ支部技術者陣によって確立していたのさ」

「マジか?それは知らなかったな」

「まあ、ダイスケにはあまり、関係ない分野だったろ?MAGIのインタフェース部分はダイスケの一番弟子の伊吹君がやってたしな」

「で、話がそれてしまったな。本題は?」

「まあ、その前に一寸茶でも入れて一息つこうぜ」

「分かった。淹れるよ。ラピスはコーヒーは駄目だったな。紅茶でいいよな?」

 こくんと私はうなずいた。暫くしてみんなに飲み物が用意された。

「相変わらず良い豆使っているな。」

「この研究所に居る限り、味はこれだけが楽しみさ」

「いい加減、食事のほうにも力入れて欲しいよな」

「まあ、ここの連中、栄養さえ取れれば固形食でもなんでも良いって連中ばかりだ。無理だな」

「げぇ、信じられん」

 心底、そう思っているのがケイイチの表情から窺えた。

「さて、落ち着いた所で本題に言ってみようか」

「ああ、実はな宇宙のほうがきな臭くなった。木星方面がな」

「ほう、上の連中はどうしようってんだ?」

「傍観を決め込むらしい、意図は分からんがな」

「人がたくさん死にそうだな」

「ああ、で、直轄にある組織ゲヒルンは規模を縮小させるんだそうな」

「ほう、するとここも?」

「そうだ、その際、Cナンバーを一部除いて破棄するだと」

「なんだって、どういうことだ?だが、俺としては好都合か・・」

「まあ、端的に言うとドイツ支部ほどには成果を挙げることができなかったからだろうな」

 破棄・・・私達は捨てられるというの?・・イヤ・・・イヤ、イヤダ、嫌だ。私は震えがきだした

「ドイツ支部というとMナンバーかNナンバー」

「ああ、そうだ。」

「だが、MナンバーもNナンバーの研究が始まったのは3年前じゃなかったか?いくらなんでも結果がでるには早すぎるだろう?」

「それはな、人間のジーンマップが解明されてからかなり立つ、その中で成長因子の制御を見つけたようなんだ。まあ、技術的のはまだまだ問題はあるけどな。でれで制御して成人になるのを早めた。」

「成長の制御って、ばかな、それは不老不死への道が開いたということじゃないか!」

・・私はもう震えが止まらず抑えるように両手で肩を抱きかかえた。なんだか、寒い、怖い、私はどうなるの?

「まあ、残念ながら不老不死については夢に終わりそうだよ。不老は可能だが不死は実現できそうに無い。寿命を限りなく延ばすことはできてもな限界がある。人間はそうできているそうだ」

「誰が?」

「こんなこと分かるのは今やゲヒルンいや、人類史上でも上位の頭脳を持つ惣流・ノイマン・ツェペリン博士だよ」

「さぞや、落胆しただろうな?上の連中は」

「ああ、中には絶望して卒中で逝ったのが居るらしい。それで今更ながら200年ぐらい前にぶち上げた計画が失敗したことに憤激してるらしいよ?あの妖怪爺」

「未だ、生きていたのかあの爺。取っとくたばれよ、300年も生きているなら」

「ああ、あの爺は人間やめてると思うぜ」

 話に夢中になっていた2人が私の状態にやっと気付いた。慌てて2人が私に近づいてくる。

「ラピスどうした。どこか悪いのか?」

 そう言って赤木博士は心配そうに私の肩を両手でつかんだ。

「私達は捨てられるの?消えちゃうの?」

 2人は私の言葉に顔を合わせうなずいて再び私を見た。

「それは無い。もし、上がそうするというなら俺がラピスを・・ラピス達を死んでも守り抜く」

「なーに大丈夫さ。その時は俺も命懸けで助けるよ。それに、心配するな。破棄と言葉が悪いが要するに今の状態から外に開放するってさ」

 赤木博士はかがんで私を抱きしめて背中を安心させるように背中をぽんぽんとたたいた。私も反射的に抱き返した。少しずつ暖かくなって震えが止まった。

「それ、本当か?」

「ああ、ダイスケの婆様のお達しだよ」

「あのくそ婆がか?信じられん」

「まあ、なんだダイスケの婆様もこれ以上お前に嫌われたくないんだとさ」

「・・信じられん。あのくそ婆が・・・」

 赤木博士はぶつぶつと何かを呟き続けている。

「本当だって。Cナンバーは穏便な形で研究所から解放するとさ。その方法は俺たちに任せるとね。ただし、ここでの体験等は一切口外無用というのが条件付だ」

「本当なんだな」

「ああ、ちゃんと命令書も頂いているよ」

「まてよ、そういえばCナンバーの一部を除きと言っていたがその一部って誰だ?」

「言い難いが二人。アクアマリンとラピスだ」

「なんだって」

「アクアマリンは生体兵器の制御、ラピスはMAGIのオペレート能力が群を抜いていいからな。こればっかりは向こうでもあまり、成果が無かったようだ。まあ、アクアマリンについては行方不明って事になったが問題はなラピスだ」

「じゃ、ラピスは・・」

「多分、MAGIと一緒に本部送りだな」

「じょ、冗談じゃない・・ラピスだけをあんな所に送れるか!」

 私を抱きしめていた赤木博士の体が震えている。何だか怖い雰囲気になっていた。

「おいおい、落ち着けよ」

 赤木博士は深呼吸をして落ち着けるようにした後

「すまない、ラピス」

 そう謝って私の体を離した。暖かさが消えたのが少し残念。

「まあ、直ぐって訳じゃない。最悪、ラピスだけじゃなくお前も一緒って事で何とかしてみるよ」

「ああ、頼む」

「了解。ところで、他の子たちについても外に出る事になるからアクアマリンだけじゃなくって他の子達の戸籍も用意して欲しいのさ」

「そんなのうちの組織ならわざわざ頼まなくてもできるだろ」

ケイイチはニヤリと笑った。

「なーに、内緒でアクアマリンのを作るんだ。なら、他の子達のを作る中でやる方がやりやすいだろ?」

「お前も人が悪いな」

「木を隠すなら森の中ってな。ばれにくいほうがいいだろ?」

 私は一つ疑問が浮かんだ。

「赤木博士、ケイイチはどうしてみんなの戸籍を作るように指示できるの?単なる警備員なのに」

「まあ、大人の事情ってのがあるんだよ。」

「大人の事情?」

「そ、知らないほうが幸せって部類に入るものなのさ」

 そう言って、ケイイチは肩を竦めた。

「じゃ、お願いするよ、できれば早めに、じゃあ」

 ケイイチは手で挨拶して立ち上がり部屋を出ようとする。

「急かすと言うことは何かあるな?」

 声を掛けられて部屋を出ようとしていたケイイチは立ち止まり振り返った。

「鋭いね。どうもさっきの縮小の話で色々きな臭い煙が立ち始めてんだよ。で、できるだけ子供たちを早くここから遠ざけたい」

「カバーストーリーはどうするんだ?結構人数居るから大変だぞ」

「おっと、いけない、いけない。これ、」

 そう言ってケイイチは赤木博士に胸ポケットに入れていた封筒を渡した。

「これは?」

「それが、作って欲しい戸籍の内容だ。じゃ、よろしく。お茶、ごちそうさん」

 ケイイチは手のひらをひらひらさせて出て行った。

「準備いいな?これは急いだほうが良さそうだな」

 そう言って赤木博士は私の頭にポンと手を置いてきた。

「さっそく、午後にやろうか、よろしく頼むよ?」

 私は赤木博士を見上げこくんとうなずいた。

「ラピスだけが開放されない事になるな、でも心配するなよ?何とかするから」

 私はもう一度、赤木博士を見上げこくんとうなずいた。




 例の作業が終わって3日たった。その間はいつもどおり、でもこの日、赤木博士からみんなにこの前話した外で生活するようになることを告げた。それも2日後から。ただし、私以外。みんなは憧れの外で暮らせることに素直に喜んでいた。でも、そのうちの一人が水を注した。

「ねえ、赤木博士。ラピスお姉ちゃんはどうなるの?」

 そう、アイボリーが訊ねた。この質問でみんなが一斉に黙り込んでしまった。

「そうか、ラピスちゃんだけ別なんだ・・何とかならないんですか?赤木博士」

 現在この中で最年長のパール姉さんが言った。

「今の所残念だがな・・すまないラピス。俺の力が足りないばかりに苦労をかける」

「赤木博士は良くしてくれています」

「ありがとう。さて、みんなはここから出る準備をする様に。外に出てからは暫くはケイイチがみんなの面倒を見てくれるから良く聞くように」

「「「「「「はーい」」」」」」

「じゃ、解散。後、ラピスは残ってくれ」

「はい」

 赤木博士に言われて皆は各々の部屋に戻りこの部屋には私だけが残った。

「俺の力不足だな、結局ラピスだけ本部にMAGIと共に5日後行くことになった。まあ、唯一良かったといえば俺もラピスの保護官として一緒に行く事だけだ」

「そうですか」

「俺達も旅立つ準備をしなければならない。先ずは私物の整理」

「整理するほどのものはありません。必要なものはもうまとめています」

「・・そうか。後はMAGIの移設準備だな。一応、本部にもMAGIはあるがここのがオリジナルだからな」

「オリジナルとコピーとでは違うのですか?」

「もちろんだ。MAGIはその構造上、経験を重ねて行く事でより柔軟な推論を組み立てることができる。オリジナルは開発が難航していたとはいえ一応200年分の蓄積データを持っている。最近、建造されたMAGIには無い経験をね」

「経験ですか?」

「そう、MAGIは成長していっている。MAGIにはまったく同一のものは存在しない。というかできない。例えれば同じ資質を持つはずの一卵性双生児みたいなものだね。同じはずなのに経験するものはそれぞれ違うから決して同じような人間にはならないのと同じだ。そして何れは自律思考を行うコンピュータになるだろう。いや、ここのMAGIはなろうとしている。その兆しはラピスが一番感じているんじゃないかな?」

「はい、時々ですがMAGIからのアプローチがあったように思います」

 今までに何度か私がオペレートが完了する前に答えを返してきたことがあった。

「・・やっぱりそうか。移設する方法をもう少し考えないとなあ。一応、バックアップもすることになるがMAGIの構造上、できるのはデータだけだからな。ラピス手伝ってくれ」

「はい、わかりました」

 その後、私と赤木博士はMAGIの下へ向かった。




 私と赤木博士はMAGIのあるクリーンルームで作業を行っていた。昨日から始まって延々と作業を始めて早30時間、さすが200年分のデータ、未だバックアップ作業の終了が見えてこない。バックアップを続ける中、赤木博士とデータをチェックしていた私は唖然とした。というのは削除したはずのデータがMAGIの累積メモリとして残っていたからだ。その中には私が見てはいけないものも含まれていた。赤木博士はあせったみたいだがもう遅い。私は見てしまったから。

「ラピス、このデータのことは誰にも言ってはいけないよ。特にこの研究所関係者には、言えば大変な事になるからね。最悪、処分される」

「はい」

 私は震えながら言った。見てしまったデータに私は恐怖を覚えた。この200年間におけるゲヒルンで行われた研究とその実験データ・・その内容に。

「大丈夫とは言えないが、立場的には私も同じだよ。一蓮托生ってやつだな。唯一の救いはバックアップデータも複雑に暗号化してから行っているからその内容が知れるのは俺とラピスだけだ。他に解りそうな人間も今や墓の下だから大丈夫」

 そう言って赤木博士は私を落ち着けようと私の頭をポンポンと叩いた。

「しかし、参ったな。MAGIにこんな特性があったとは」

「何?」

 MAGIの様子が少しおかしい。

「どうしたんだ?」

「誰かがMAGIにアクセスしてる。しかも、外部から」

「何だって?」

「ダメ。ブロックしても直ぐに突破されてしまう。」

「ラピスでも持ちこたえれないのか何者だ?」

「分からない。防ぐなら、もう、物理的切断しかない」

「ちっ、やるしかないか」

「待ってください、赤木博士。このハッカー、MAGIとコンタクトしている」

 私と赤木博士は呆然とディスプレイを見る。勢い良くログが流れていく。赤木博士には終えないほどの長さで。

「どうなっているんだ?」

「やり取りからすると、ここの機密に触れようとはしていません。内容は”碇”について調べていたらここにたどり着いたと。あとはその”碇”についての情報のやり取りです。MAGIの方も何か情報を要求している?」

「”碇”だと。なぜ、今頃になってそんな情報を?」

 ”碇”という言葉にはその様子から赤木博士は心当たりがあるようだった。それにMAGIが自発的に情報をそのハッカーと交換していたのも気になる。

「どこからハッキングしているか分かるかい?」

「ダメです。何箇所もフィルタとかを掛けられていて特定できません」

 厳密には時間をかければできるけどそんな悠長なことを相手はしてくれない。

「ダメか」

「はい。・・あっ、ハッキングが終わりました。」

「念の為、置き土産が無いかチェックしてくれ」

「はい」

 言いようの無い敗北感を感じた

 私達がようやく落ち着いた時、誰かがこの部屋に入ってきた。振り向くとそこには一組の男女がいた男の方は知っている。ケイイチ・・女の方は見覚えが無かった。

「よお、ダイスケ、ラピス嬢、順調か?」

「なんだ、ケイイチか。やあ、久しぶりだな、エミちゃん」

「久しぶりね、ダイちゃん」

 赤木博士は知っているみたいだった。

「ラピスは初めてだったな。このお姉さんは加持エミルだ」

「よろしくね。エミルでいいわよ」

 ニッコリと笑ってエミルは私に手を差し出した。私はそれに応じて握手した。

「それとケイイチの恋人でもある」

「だ、だれがコイツと!ってほんの少し前なら言うんだけど」

「ふーん、やっぱりそうか」

「わかるか?」

「ああ、二人が入ってきた時の雰囲気を見ればな。やっと納まるべきところに納まったといったところか」

「悪いな」

「ラピス、こいつ等はお互い好きあってるくせにずーっと8年間も認めなかったんだ。周りから見れば周知の事実ってやつなのにな。おかげでどれだけ迷惑を掛けられたか。だからな、ラピスは人を好きになったら素直になるんだぞ?」

 私はこくんとうなずいておいた。今の私には恋愛というものはまったくといって未知のものであったから。

「で、どうしたんだ。二人そろって?」

「まあ、ダイスケに結婚の報告かな?」

「もう、確かにそれもだけど、それだけじゃないでしょ!

「本題なんだがな、どうも今夜あたりココ襲撃されそうなんだよ」

 サラリとケイイチは重要なことを言った。

「な、なんだって!」

「まあ、落ち着けよ」

「これが落ち着いていられるか!」

「今日はな色々とあって警備陣が薄くなっちゃてるんだ。そのタイミングで襲撃を掛けてこようとしている。どうも、その情報を流したやつがこの研究所にいるみたいなんだ」

「内通者が?」

「ええ、そうよ」

「どこから?」

「2箇所からかな?お偉いさん曰く過去の亡霊供とクリムゾン、どうも握手したみたいなんだよ、これが。参ったよ」

「厳しいな」

「ええ、だから子供たちを早めに脱出させることにしたの」

「それがいい」

「ほんと、とんだ新婚旅行になりそうだよ。とりあえず、俺たちは暫く身を隠すことになる」

「そうか」

「ダイスケはどうする?」

「本来ならラピスを連れてお前たちと一緒に脱出すべきなんだがやることがある。悪いがラピスだけでも連れて行ってくれ」

「言うと思ったよ」

「すまない。ラピス聞いたとおりだケイイチとエミちゃんに着いていくんだ」

「赤木博士・・」

 何故か私はここで別れれば二度と赤木博士に会えないような気がした。

「さっ、決まったんなら早くしましょ。時間は有限だから」

「行こうか、ラピス嬢」

 だから、私は言った。

「私は赤木博士と一緒に残ります」

「何を言っているの?」

「おいおい、冗談はよしてくれ」

「ラピス、みんなと行くんだ」

 口々にみんなは私を止めた。

「赤木博士が残るのはMAGIの為でしょう?」

「・・そうだ。赤木一族の夢をこんな所で潰すわけには行かない」

「私も同じです。私はMAGIと共にココで育ちました。それにMAGIは私にとって体の一部といってもいい。だからMAGIを残してはいけません」

「・・わかった」

「おい、ダイスケ」

「だいちゃん!?」

「ラピスの意思を尊重する。それに、初めてなんだラピスがわがままとも言うべき事を言ったのは」

「・・親ばか」

「ありがとうございます」

 私は素直にお礼を言った。

「・・しょうがないか。わかった。加持悪いけど子供たちを頼む。例のルートを使えば無事脱出できるはずだ。俺の部下も一緒だから何とかなるさ」

「葛城?」

「おい、ケイイチ」

「しょうがないから手伝ってやる。ダイスケ、お前がやろうとしていることは人手が必要だろ。少しでも早く終わらしてここから離れよう」

ケイイチの断固とした決意の目に私達は頷いた。

「葛城、私を早々に未亡人にしないでね」

「そう簡単にくたばらないよ、俺だって新婚気分を満喫したいからな」

「バカ」

 そう言って私と赤木博士の目の前だと言うのに抱き合いケイイチ達は口と口を合わせた。

「赤木博士」

「なんだ?」

「あの2人の何をしているのですか?」

「ラピス・・君にはまだ少し早い。ケイイチ、ムード出しているところ悪いんだが。そろそろ、止めにしてくれないか?ラピスの教育上良くない」

 私のささやかな疑問については回答は得られなかった。赤木博士の言葉に2人は行為を止めた。後で知ったがあれがキスというものらしい。

「良い所だったのに」

「いや、なんかお前等見てるとその場で押し倒しそうな雰囲気だったし」

「押し倒す?」

 また分からなかった私のささやかな疑問を口にした。

「コホン、とりあえず作業にかかろう」

「そうだな、じゃ、頼むぞ、加持。部下には連絡しておく」

「わかったわ。例の場所で待っているわ」

「必ず行く。約束だ」

「ええ」

 でも、その疑問については誰も答えてくれなかった。

「すまないが、子供たちを頼むよ、エミちゃん」

「わかったわ、ダイちゃんも気をつけて。ラピスちゃんも」

 私はこくんと頷いた。

「ああ、ありがとう、ケイイチはすまないがトレーラーの調達を、ラピスは引き続き作業を」

「じゃ、行くわね」

「エミちゃん、すまないが俺の研究室によってから子供たちの所へ行ってくれ。持って行ってもらいたいものがある。研究室はケイイチが知ってるから」

「何を持っていけばいいの?」

「トランクケースが一つ、机の上に置いてある。それを持っていってくれ」

「中は?」

「遺伝子治療用のナノマシンが入っている。不安定な遺伝子を持つ子供たち用のものだ。使用法とかも書いてあるからそれで子供たちを治療してくれ。それで健康体になれる」

「大丈夫なの?」

「アクアマリンの代の子供たちの了承を得て治療したデータを基に作成してある。100%とは言えないが9割がたは治るだろう。研究所で治療できるならほぼ100%と言い切れるがね。だから、治療を受けるか受けないかは子供たちに説明してからやってくれ」

「わかったわ」

 その後、私達は各々のやるべきことをするべく別れた。




「あと少し、このカスパーが終われば終了だ」

「はい」

 私達の作業は順調でMAGIを構成する三台のコンピュータの内、2台は作業を終え中枢ユニットの搬出作業も完了している。ココまで来ればほぼ大丈夫。

「赤木博士は何をやっているのですか?」

 私達はMAGI・カスパーが最後の処理が終わるまではもう何もすることが無いはずなのに赤木博士が何かをしているので聞いてみた。

「少し、調べものさ」

「何ですか?手伝えることならやりますが」

「時間が無いからお願いしようか」

「はい」

「じゃあ、すまないがカスパー経由でこの研究所のメインコンピュータ”ORION”にアクセスしてC1ブロックのデータを見つからないように引き出してくれ。後はこちらでやる」

「分かりました」

「あ、知られないようにな」

「はい」

 MAGIはこの研究所内でも一番の性能があったけれども未だ研究用として使用していたため実際のデータ管理はORIONと呼ばれるコンピュータが使われている。赤木博士によればネルガル重工が開発したSVC2027”オモイカネ”やMAGIを除けば現在の最高峰の性能を持っていると言っていた。でも、MAGI自体は三台あるユニットでそれぞれ違ったロジックで計算させて、その結果を統合して結論をだすってことで3台は性能的にはどれも同じ。だからそのうちの一台、カスパーのみとしても十分にORIONからのデータ引き出しは簡単だった。大体、前にも穴を見つけてやった事あるし。

「赤木博士、引き出しました」

「早いな、さすがラピス」

「いえ。所で何を調べているのですか?」

「ん?まあ、この研究所を襲う理由って奴かな。それだけの価値がある何かをしていたのかとね」

「MAGIですか?」

「MAGIは確かに高性能だし、価値はある。だが、人とハードウェアに金をかければ効率が悪くともMAGIに匹敵する処理を行うことも不可能ではない。絶対的価値があるというわけじゃない。最も、MAGIの真の価値を知っていれば別だが」

「真の価値ですか?」

「だが、その可能性は低いと思う。俺だってそれについては極最近気がついたぐらいだからな。その切欠はラピスだよ」

「私?」

「そうだ。ラピスは最近、ついさっきやって見せたようにORIONにハッキングして秘密裏にデータを調べたことがあるはずだ。ORIONのハッキング防御壁は世界でも最高峰ともいえるほど優秀だ。だがそれをたやすく突破しかつ、その事を気付かせないというのはとんでもないことなんだ」

「そんなに難しいことではなかったですが」

「そこなんだな、MAGIを使えばハッキングについてはそこそこの腕の俺でもORIONをハッキングできる。もっとも、人に気付かれずに行えるかは五分五分と思うが。だが、これはすごい脅威なんだよ、今の社会では特に。ハッカーとしては二流ともいえる俺でも、世界でも最高峰のORIONを攻略できるということは、それよりもっと凄い能力を持つ人間が使用すればどうなるか。そうか、そういう意味ではラピス自身にも価値があるな。まさか!?・・だからラピスだけ本部送りになったのか?あっちにはくそ婆が居るし・・十分気付く可能性はあるか」

「どういうことですか?」

「今の社会はほとんどに事をコンピュータによって管理されているおり、MAGIとラピスの組み合わせはどんなコンピュータにでも侵入できる。その時、ウィルスなんかをばら撒いたりすれば社会を混乱させることがたやすくできる。それに使い方によっては世界征服を行う事だって可能かもしれない。これは脅威だ」

「私はどうなるんですか?」

「わからない。上がどのように考えてるかなんて。ただ、明るい未来はないような気がするな」

「予想通りの使い方をするならば、ラピスを人形のように扱う可能性が高い」

「人形・・」

 私は赤木博士に出会うまで人形のように扱われてきた。もう、そんな生活はイヤ。

「そんなのイヤだよな。やっぱり」

 私は赤木博士の言葉にこくんと頷いた。

「となると、今日起こる騒ぎを利用するしかないか。MAGIはケイイチ等に任せよう。ん?これか」

 赤木博士がどうやら目的のデータを見つけたようだった。

「ラピス」

「はい」

「ここに自分の荷物を持ってきておきなさい」

「わかりました」

 その後直ぐに赤木博士は難しそうな顔で何かを考えているようで私は言われたように荷物を取りに行くことにした。



(つづく)


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注)新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
  機動戦艦ナデシコは(c)XEBECの作品です。






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