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新世紀エヴァンゲリオン 世にも奇妙な我が人生

新たなる戦い編
第 2話 「私はラピス、ラピス・ラズリ」
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「・・・だよ。2人とも・・て。」

 私に呼びかける声に私は意識を覚醒させた。

「ここ・・どこ?」

 私は朦朧とした意識の中、見慣れない部屋に戸惑いを覚え問いかけていた。

「ラピス、まだ寝ぼけているの?ここは昨日から乗り込んだナデシコだよ。それより、隣で寝ているルリちゃんを起こして顔を洗っておいでよ。朝食の用意ができているからさ」

 私の問いに笑顔で答えたのは実質上、私の保護者をしている碇シンジだった。

「はい、シンジ。あ、おはようございます、シンジ」

「ん、おはよう。じゃ、待ってるね」

 そういって、簡易キッチンの方へシンジは戻っていった。私は言われたとおり隣で寝ている星野ルリを起こすことにした。星野ルリ・・私と同じ存在。同じ石の名をもつ妙に気になり惹かれる存在。

「ルリ、起きて」

 声をかけたが起きない。

「ルリ、起きて」

ユサユサ、ユサユサ。

 声だけではだめと判断してゆすってみた。でも、起きない。どうしようと困った。思案に暮れていたらガンマが近寄ってきて私に一声かけた。

「ニャア、ニャーニャ」

 そう鳴いて、ガンマは前足でルリの額をべしべしと叩いた。これにはたまらなかったのかルリは反応を示し目覚めた。そうか、こういう時は軽く叩けばいいんだ。私は時折、ガンマを始めとしたアルファ、ベータ達は猫とは思えない行動をする事に感心する。彼等の行動を観察しているとどう見ても私達、人間の言葉を理解しているとしか見えない。今も困っていたのを助けてくれた。以前にシンジに聞いたら、「彼等はすごく頭がいいよ。嫌になるくらいね」って苦笑交じりに答えてくれた。

「ううーん。ここは?」

 私と同じようなことを問いかけてきたルリに私は少しおかしくなった。最近までは何も感じなかった私。今は色んなことを感じる。私は朝の挨拶をした。

「おはようございます、ルリ」

「え、おはよう・・そうか、昨日はラピスの部屋にお泊りしたんでした。」

 眠気眼ながら、ルリは一人納得していた。

「顔、洗いに行きましょう、ルリ」

「そうですね。行きましょう」

 私達が顔を洗い洗面所を出てきた頃には部屋にあったちゃぶ台に朝食がおかれおいしそうな匂いが漂ってきた。研究所にいた頃はずっと味気ないものばかりしかなく、食べ物とはそういうものだと思っていた。でも、シンジに出会ってからは様々な料理が出され、それがそれぞれ違った味を持っていたことに驚きを禁じえなかった。私は電子の世界で様々な情報を知りえたが、こと料理については知らないのも同然だった。こればかりは食べてみないと分からない。それからは食べると言う行為が楽しみになった。それ以来自分で感じることがいかに大事かと言うことを知った。

「おいしそうな匂い」

 私は思わずつぶやいた。

「そうですか?」

 ルリはあまりそういうことに頓着は無いようだった。もったいない。

「2人とも、そんな所に突っ立てないで座ったら?」

 そういってキッチンから味噌汁を持ってきたシンジが声をかけてきた。

「え、碇さん?」

「やあ、おはよう」

 ニッコリと笑顔で挨拶するシンジ。

「お、おはようございます」

 なんだか、ルリは動揺している。

「さあ、食べよう、冷めないうちに。それと僕のことはシンジでいいよ?碇だとラピスも同じだしね?」

「わかりました。」

「それと、君の事はルリちゃんて呼ぶけどいいかな?」

「はい、それでいいです」

「じゃあ、いただきます。」

「「いただきます」」

 私達はちゃぶ台について食事をする時のお約束と言うものをして朝食に取り掛かった。今日のメニューはごはんに漬物、メインに野菜の卵とじ、それに大根おろしとさつまいものお味噌汁だった。基本的にシンジは和食党なので朝食は自然とごはんものが多くなる。私は別にこだわりはないのでどうでもいい。

「どうかな?」

 シンジは今日の出来を恐る恐る聞いてきた。

「おいしい・・特にお味噌汁が」

「そうですね」

 私達はそれぞれ、言葉を返した。

「よかった。さつまいものお味噌汁は今日始めて作ったから、うまく作れたかわからなかったんだ」

 そういって、シンジは破顔した。その視界の隅でアルファ達が食事をしているのが見えたのだがその光景を見て固まった。そこにはアルファ達が用意された焼き魚を食べようとしているのだが普通にはありえないことをしていた。なんとアルファは塩、ベータは醤油、ガンマはレモンを器用に自分でかけて食べようとしていた。

「どうしたの?2人とも?」

 シンジは不思議そうに私とルリに問いかけていた。ということはルリもアルファ達を見て固まっているということか。シンジも私達が返事をしないでいるのに不振に思ったのか私達の視線の先を追った。

「・・!あっ、だ、駄目じゃないかイロウル。人前でそんな事をしちゃ!」

 私達が見た光景をシンジは見て慌てていた。シンジはアルファ達が取った行動について咎めていた。少なくともシンジはアルファ達がそうすることができる事については疑問には思っていないようだ。それにイロウルって何?

「あ、あの、シンジさん。どういうことですか?」

 私よりも早くルリは立ち直り質問を浴びせていた。

「えっ?いや、その。やっぱり駄目?」

「駄目です。説明を求めます」

「ハハハ」

「笑ってもごまかせません。変です。絶対に変です。どこに、自分で塩かけたりする猫がいますか!!」

 普段とは違いルリは感情を露わに叫んでいました。

「え、いや、ここにいるし、第一、アルファ達は猫じゃないよ?似てるけど」

「どういうことです?普通じゃないですよ。あの子達」

 ルリはアルファ達を指差している。

「それは私も思います」

 アルファ達はニャアと鳴いた。何故か気にするなと言っているように思えた。

「普通じゃないのは認めるよ。まあ大体、外見自体が普通じゃないからね。彼等は遺伝子操作によりかなり高い知能を持っているんだよ。信じられないかもしれないけど、アルファ達は僕達の言っていることは理解している。必要な機器さえあれば会話だってできる、本当だよ」

 そういったシンジは真剣な目をしていてとても冗談を言っているようには見えなかった。それに、いままでにも変に思うことがあった。だから、シンジは嘘をついていないと思った。

「そんなの、信じられません」

「でも、事実だよ」

 そんな問答が行われている時、インターホンが鳴った。

「はーい、どなたですか?」

 シンジが応対に出た。

「おはようございます、シンジさん、プロスペクターです。少々お話があるのですが」

「はあ、分かりました、どうぞ中へ。」

 そういって、ドアのロックを解除し、プロスペクターを招き入れた。

「いやあ、朝っぱらから申し訳ありません。おや、食事中でしたか、それにルリさんも」

 私もルリもプロスペクターにぺこりと挨拶をした。

「いえ、もう直ぐ終わる所でしたから、すいませんが少しだけお待ちいただけますか?」

「いえいえ、こちらのほうがご迷惑おかけしているわけですし、構いませんよ」

「みんな、とりあえず残り食べよう」

 そういって、シンジは残りを食べ始めた。私達も食べ始める。

「「「ごちそうさま」」」

 食事が終わりちゃぶ台にある食器を片付けた。

「じゃあ、私はこれで・・」

 そういって、ルリが部屋から出ようとした。このまま、別れてはいけないと思い引きとめようとした時、プロスペクターがルリを引き止めた。

「いえ、星野ルリさん。あなたにも関係があることでして、できればいていただけると嬉しいのですが」

「はあ」

 ルリはとりあえず座りなおした。キッチンから人数分の湯飲みを持ってシンジが来た。それぞれの前にお茶を置きシンジも座った。

「で、ご用件はなんですか?」

「ええ、単刀直入に言います。ラピスさんの事です」

「ラピスの?」

 そう聞いた瞬間、シンジが身構えたような気がした。

「ああ、いえ、別にその難癖つけようとかそういうんじゃないんです。ラピスさんにこのナデシコのサブオペレータをやってもらえないかと思いまして。」

「オペレーターを?なぜ、ラピスがオペレーターができると知っているんです?」

「それはですね。一応、このナデシコはわが社ネルガルの企業秘密の塊でもあるわけでして乗られる方についてはそれなりに調べさせていただいています」

 その言葉に私は緊張した。

「ああ、それでですか」

 でも、シンジは軽く流した。

「ええ、それに昨日ルリさんと一緒にこの艦のメインコンピュータ”オモイカネ”を操作していましたから」

「そうなんですか」

 そういって、シンジは私を見つめた。なんだか責められているような気がする。

「ええ、そうです。見事なものでしたよ。そうでしょ、ルリさん」

「そうですね」

「オモイカネをオペレートできるのは今はルリさん唯一人、これではかなり負担をかけてしまいます。そこで同じような才能をお持ちであるラピスさんをスカウトすることで少しでも負担を減らせないかと思いまして。いかがなもんでしょう?」

 私はシンジをずっと見つめていた。シンジが返事をするのを。

「ラピス、君はどうしたい?」

 シンジはそう私に問いかけてきた。

「こればかりは、ラピスの問題だから、ラピスが良く考えて答えを出して。難しいかもしれないけど」

 今の私には何もない。何をしていいのか分からない。でも、プロスペクターが言うには私が承知すればルリの負担が軽くなると言うことだ。ルリは多分、シンジが前に言っていた友達と言うものに当たるのだと思う。なら、答えも決まっている。

「わかりました。やります。」

「ありがとうございます。では、早速契約のほうを」

 そういっていつの間にか私の目の前に契約書が出されていた。何時の間に出したんですか、プロスペクター。私は契約書にサインをしようとしたらシンジから待ったがかかった。

「なんですか、シンジさん。今更、反対ですか」

「いえ、やはり契約内容はよく読まないといけないと思いまして。内容読まずに契約してとんでもない目に遭った人を知っておりますので、一応、保護者として契約内容を確認させていただきます」

 そういって、私の手から契約書をとり、シンジは確認し始めた。何点かシンジはプロスペクターに質問していた。私はとりあえずぼうっとしていた。この辺はシンジに任せておけば大丈夫・・多分。

「良いんですか?オペレーター引き受けて」

「はい、私にもお仕事ができますから」

「そうですか」

「それにルリは始めての友達。そのほうがルリの助けにもなるから」

「私が友達・・」

 ルリは私の言葉を聞いて黙ってしまった。

「・・・というわけで、ラピスさんのお給料はルリさんと同じ扱いになります」

 まだ、シンジとプロスペクターの話が続いていた。

「げっ、こんなにもらえるんですか?」

 シンジはプロスペクターに差し出された電卓を見てショックを受けているみたいだった。私も何気に見てみる。 シンジの時の3倍くらいある。

「ええ、オペレーターは負担かかりますから」

「わかりました。でも、そのお給料についてはラピスに自由に使えないようにしてください。ラピスぐらいの年齢からこんなお金自由に使えるようにするとロクでもないことになりますから」

「はあ、わかりました。では、毎月の使用限度額を定めると言うことでよろしいですかな?」

「ええ、それでお願いします。限度額は3千円で設定して下さい」

 私は研究所暮らしで世間から隔離されていたおかげで金銭感覚がないに等しい。外にでることもなかったし、お金と言うものを使うこともなかった。でも、シンジと出会ってからはお金を使う機会とかができた。でも、金銭感覚が分からないのでとんでもない失敗をしてシンジを驚愕させたことが何度かあってシンジは私がお金を扱うことについては信用されていない。だから、当然の処置かもしれない。でもこの艦にいる間に使うことってあるの?そういえば、似たような境遇のルリはどうなのだろう?

「ルリはお金どうしてるの?」

 疑問を私はルリに投げた。

「私ですか?シンジさんみたいな保護者がいるわけじゃないので全額使えますよ。でも、食べ物を買う時意外使ったことがありませんね」

 ルリは少し考え込んで答えてくれた。

「そう」

「それ以外に使うことって今の所ないですから」

「ああ、そういえばプロスさん」

「なんですかな、シンジさん」

「物を購入したい時はどうすればいいんですか?」

 先程の私達の会話で気になったことがあったのだろうかシンジはプロスに質問した。

「ああそれは、ご用意していますカタログからコミュニケを通じて購買部へメールを出していただければ用意いたします。物によっては少々時間がかかりますが。今でしたら私に直接言っていただければ購入してまいりますよ。それとできれば、直ぐに欲しいものがあるようでしたら今日中にメールをいただければ大概のものは2日以内には取り寄せできます」

「ああ、今すぐって事はないと思うんですが、しばらくこの艦からは降りれないでしょ?それで、気になったんです。お気遣いありがとうございます」

「では、この契約書で契約ということで」

 そういって、プロスペクターはもう一度、私に契約書を渡した。

「ラピス、一応僕で確認しておいたけどラピスも一度呼んでいた方がいいよ」

「わかりました」

 私はシンジの言に従い、契約書を読んでいった。何項目か読んでいくと疑問に思うことがでてきた。些細なことだが。

「プロスペクター・・さん、どうして、この項目だけ他の項目より極端に字が小さいの?」

「え、いやそれはですな・・この艦の風紀に関することでして」

 内容は男女交際とやらについてのことであった。プロスペクターの言に疑問をもったので更に質問してみる。

「風紀に関するなら重要事項・・なら、逆に大きくするべきではないの?」

「いや、まいりましたな。はは・・」

 私の疑問にプロスペクターは困ったような顔をした。そんなに難しい質問だったのだろうか?

「ラピス、別に良いじゃないか。あまり気にすることでもないと思うよ。ラピスの年齢なら」

 確かにそれほど気にするものでもない。

「そうですか」

「大人の事情ってやつですよ、ラピス」

 ルリがこの件に対してコメントした後、出されたお茶を飲んだ。

「はは・・まあ、そういうわけでして、良ければサインを」

 私は残りの項目を読んで、これでいいと思いサインすることにした。私の名前はラピス、ラピス・ラズリ。名がラピス、姓がラズリだと思う。前に戸籍・・身分証明のようなものを持たない私にシンジの義理妹ということにしたと聞いた。その時、「名前はラピス・碇か、碇ラピスになったのか」と聞いたら「戸籍上は碇・ラピス・ラズリになっている」と言った。少し変だとシンジに言ったら、「知合いに”惣流・アスカ・ラングレー”という名前の子がいたから別に変じゃないと思うけど」って答えられた。そういうものかと納得した。シンジにはサインとかの場合は戸籍上の名前を書くようにといっていたからそう書いた。

「はい、ありがとうございます。これで、ラピスさんは正式なナデシコのオペレーターさんということで。業務、いえ、やる事については、先任、いえ(コホン)、先にオペレータをやっていただいているルリさんより説明を受けてください。今日からでお願いできますかな」

 プロスペクターは私の年齢を考えて極力、難しい言葉を避けたようだ。

「わかった」

 プロスペクターは満足そうにうなずき、契約書の控えを私にくれた。

「それは、大切に保管してください。後、すいませんがルリさん、ラピスさんのことお願いしますよ。」

 そういって、プロスさんは立ち去ろうとした。

「わかりました、プロスさん」

「おお、忘れる所でした、シンジさん、昨日言っていました猫さんたち用のコミュニケです。首輪型になっておりますので」

 プロスペクターは何時の間に出したのか手にコミュニケが3つ握られておりそれをシンジに差し出した。まるで手品だ。

「ありがとうございます。じゃ、早速使わせていただきます」

「では、私はこれで」

 一礼してプロスペクターは出て行った。シンジは早速貰ったコミュニケをアルファ達につけていた。

「ルリちゃん、さっきの続きだけど、百聞は一見にしかずだよね」

「どういうことですか」

 ルリがシンジの言葉に疑問を返すと同時にルリの前に三つのウィンドウが開いた。

〔やあ、私はベータ。ルリ君から見ると青いのが私だ〕

〔我輩はアルファ。一応、始めましてと言っておこう。君から見ると紫のが我輩だな〕

〔我はガンマ。赤いのだ〕

 それぞれのウィンドウには上記のような文字が出ていた。ウィンドウの背景色は彼等の体毛と同じ色になっていて区別できるようにしているみたいだ。これには私も目を丸くした。

「な、何の冗談ですか!シンジさん」

「僕は別に何もしてないよ?それはルリちゃんにも分かるだろ?」

〔冗談とは、失敬な〕

〔それは失礼ではないかね〕

「そんな、信じられません」

〔現実を直視したほうがいいぞ〕

「シンジ、本当なの?」

「そうだよ」

〔今まではシンジとしか会話したことがないから非常にうれしい〕

〔よろしく、ラピス〕

〔今日からオペレーターをやるんだね。がんばってね〕

 私の前にも三つのウィンドウが現れる。

〔未だ信じられない?〕

〔昨日、おやつをわけあった仲じゃないか〕

〔今日、かわりにルリを起こした〕

 昨日のことはシンジに話していない。そんな時間もなかった。と言うことはにわかに信じられないけどアルファ達だと結論に達した。ちらりとアルファ達のほうをみるとニヤリっと笑ったような気がする。

「ルリちゃん、大丈夫?」

 呆然としていたルリにシンジが心配そうに声を掛けた。

「はい、大丈夫です。にわかには信じられませんが。そう信じるしかないです。これは」

 ルリも私達しか知らない事を記述されてようやく本当のようだと無理やり納得させようとしていた。私はそれなりにすんなりと受け入れられた。というのも私がいた研究所でも知能の高い動物を生み出せないかと研究されていたから。もちろん、目的は軍事利用のため。動物ならたやすく建物に侵入でき、警戒もされないから、偵察用ということで。だから、ありえる、成功したとは聞いていなかったけど。ああ、一つだけ例外があった。B1−36・・イサムって言っていたような気がする。犬の改造型、外見はドーベルマン、でもその能力は虎を一撃でかみ殺し、知能も10歳児ぐらいあったらしい。でも、知能が高いことが逆に災いして研究所に閉じ込められていることに不満を抱き暴れに暴れて行方をくらました。未だに消息不明になっている。

「落ち着いた?ルリちゃん」

「そりゃ、ショックです。世の中の常識がひっくり返ったんですから」

「まあ、無理もないよ。僕だって初めてのときは頭が狂ってしまったのかと思った」

「あれ?シンジさんはどうやって、アルファさんと意思の疎通できたんです」

「えっ!それは、その」

 シンジはルリの質問にそう答えればいいのか困っていた。

〔それはだね、ルリ君、シンジと私達は脳波の波長が合うのかテレパシーのようなもので意思疎通できるのだよ〕

「テ、テレパシー!?」

「まあ、そうだよ。不思議なんだけどね。ところで2人ともアルファ達のことについては黙っていて欲しいんだ」

 シンジは困り顔で私たちにお願いしてきた。

「どうしてですか」

「まあ、色々と問題が起きそうだからね。考えてもみなよ、一見、猫のようなものなのに人並み以上の知性を持っているんだよ?騒ぎが起きないはずがない。最悪、研究材料にしようなんていうバカもでるかもしれないしね」

〔そうそう、ばれれば我輩を捕まえて解剖や猫体実験されてはたまらないのでな〕

〔おとなしく捕まるつもりはさらさらないが、やはりそういう事態は起きないに越したことはない〕

〔そうなったらこちらは身を護るために全力で戦う〕

「というわけでお願いできるかな。ふたりとも?3人だけの秘密と言うことで」

「わかりました、シンジ」

「ありがとう、ラピス」

 そう言ってシンジは破顔した。それを見ると私は心が温かくなった。私が大好きな人の笑顔を思い出す。同じ暖かさだ。

「ルリちゃんは?」

「どうせ、言ったとしても信じてもらえないでしょう。私がそうでしたから。ですから、黙っています」

 ルリは少し考え込んでいたけど考えがまとまったのかそう返事をした。

「そう、ありがとう、ルリちゃん」

 こころなしかルリの頬が赤くなっているような気がする。ひょっとして照れているの?

「いいえ」

「アルファ達は本当に頭がいいからね。困ったことがあれば相談してみるといいよ。僕も相談に乗ってもらっているから」

「シンジ、そういえば時間いいの?」

 私はシンジがのんびりしているので聞いてみた。いつもなら仕事をしにホウメイの所へ行っている時間だから。

「へ、時間?う、うわっ、もう30分も過ぎてる。た、大変だ!」

 シンジは慌てて出て行く。

〔まあ、仕方ないね、契約の話しがあったし〕

〔プロスペクターがホウメイに連絡入れていたのを言ってやるべきだったか?〕

〔眠い・・〕

 アルファ達がシンジの行動にコメントしていた。そうしていたらドアが開き息を荒げながらシンジが戻ってきた。

「(ぜぇ、ぜぇ)ラピス。悪いけど食器洗って片付けておいてくれる?お願いだよ、それから、今日のおやつはキッチンのところにある冷蔵庫に入っているから、ルリちゃんと食べるといいよ」

「わかりました」

「・・わかっているよ。アルファ達の分もちゃんとあるから。じゃ、行ってくる」

〔〔〔「「行ってらっしゃい」」〕〕〕

 シンジは再び慌てて出て行った。

「なんか、変な気分です」

「私も」

〔まあ、その内なれるさ〕

〔それより、頼まれた片付けやらないとラピス達も勤務時間になるんじゃないか?〕

〔早くしたほうがいい〕

「そうする。ルリ待ってて」

「わかりました」

 私はシンジに頼まれた朝食の片づけをしにキッチンに向かった。背後ではルリが独り言を言っている。

「そんなことありません」

「どうしてです?」

「それは・・なんです」

 いや、そういう風に聞こえる。ああ、そうか、時折シンジが独り言を言っていたように見えたのはアルファ達と会話していたからですか。変な癖かと思っていた。やっと、納得できました。あれ、でもアルファ達が居ない時でも同じような事をしていた気がする。何か変・・、シンジまだ何か隠してる?




 片付けが終わった後、私はルリ達と一緒にブリッジへ向かった。ブリッジからは昨日と違って騒がしい音がした。

「おかしいですね。ブリッジ要員が乗り込むのはもう少し先のはずです」

〔少し待て、様子を見て来る〕

 そう言ってアルファがブリッジの様子を見に行った。

〔なにやら工事しているみたいだね〕

 ベータがウィンドウを表示させてコメントした。

「そんな予定は入ってないはずですが、オモイカネ」

〔ルリ、ラピスがオペレーターになったんで急遽、サブオペレータ席を設置することになった〕

「だそうです」

「じゃ、どうするの?」

 その時、ルリの前に一つのウィンドウが開いた。

『いやいや、ルリさん申し訳ありません。オペレーター席は増設工事の為に午前中使えないことを伝えるのを失念しておりました』

 プロスペクターだった。

「じゃ、午後からは使えるんですね」

『はい、午前中はオモイカネの調整作業ができないのが少し痛いですな。それにラピスさんが加わりますから。午後からはお二人に合わせた作業ができると思います。ルリさん、ラピスさんお願いしますよ』

「はい」

『では、失礼しますよ』

 その後、直ぐにウィンドウが閉じられた。

「どうしましょうか?」

「どうしましょう」

 突然の暇な時間に私達はどう時間を潰すか途方にくれました。

〔とりあえず、部屋に戻るか、シンジのところへ行くかしないか〕

「そうですね」

「私の部屋に戻ろう。おやつがあるといっていたからお茶にしよう」

 私は提案してみんなが同意し部屋に戻った。

    *

「おいしそう」

「でも、何時の間に用意したんでしょうか?」

〔シンジめ、回が重なるごとにこってきているな〕

〔どうやら、昨日厨房で作っていたようだな。オモイカネのデータによると〕

〔うまそう〕

 用意されていたおやつ・・ちゃぶ台に置かれたイチゴがたっぷり使われたケーキを前にみんなそれぞれの感想を述べていた。私が切り分ける役を仰せつかりみんなに分配した。何時の間にか紅茶が用意されていた。

〔やはり、ケーキには紅茶だな〕

「・・・・」

 ルリが固まっていた。

「どうしたの?ルリ」

 ルリの目の前で手を振ってみるが反応がない。

〔多分、ガンマが紅茶を入れて持ってきたところを目撃して固まったんだろ〕

「えっ」

〔だから、あの非常識な光景を見て固まっているんだろ〕

 アルファの指摘とその前足が指すほうを見て私も固まった。ガンマが紅茶を入れた後の始末を行っていた。

〔いけないな、若いうちから思考が硬くなるのは。普通、子供なら素直に現実というものを受け入れるものだぞ、ん、美味〕

 アルファはそんな私達を気にせずシンジの作ったケーキを食べていた。

〔そのとおり、ここに来る前のご近所の公園で一緒に遊んだミリーとビリーは素直に受け入れていた〕

〔一緒に砂場で城を作ったな〕

〔懲りすぎて細部まで再現したからな〕

〔あれは見事だった。できたのをミリー達の親に見せたらびっくりしてたな〕

 アルファ達の知られざる思い出話をお茶請けに猫舌?なにそれと言わんばかりに熱い紅茶を器用に飲んでいた。突然、私は我に帰り、頭を振った。これぐらいの事でびっくりしていては今後も付き合えないと思ったから気合を入れなおした。

〔・・・それは、城を見てじゃないんでは・・〕

 何時の間にかオモイカネのウィンドウが現れ、アルファ達の会話に突っ込んでいた。なんだか、オモイカネは昨日のように硬い感じじゃなく人間ぽくなっているのは気のせい?

〔反応が良くなってきているな〕

〔キミのデータを受け取って分析していたからね。随分、自分というものを構築するのに役に立ったよ〕

〔それは良かった。こういう所はデータ生命体は楽だな〕

〔だな、データさえ得れればそれを経験した事として取り込めるからな〕

〔お茶、冷めないうちに飲もう〕

〔ルリを現実に戻すか。ラピス、ルリの肩をゆすれ〕

 アルファのいうとおりにルリの肩をゆすった。

「はっ、私は何を?」

「紅茶、冷めないうちに飲もう」

「そ、そうですね」

 私達は食べているケーキに舌鼓を打ちつつお茶を飲んだ。

「おいしいです」

「おいしい」

〔また腕を上げたようだな。やはり、”対綾波”用に腕を磨いているのか〕

〔その意見に賛成〕

〔条件付賛成〕

〔どういう感覚かいまいち僕には分からない。うらやましいな〕

「ラピスが羨ましいです。毎日、こんなおいしいものを食べれるなんて」

〔ほう、何日か前までは食事は単なる栄養補給。何を食べても変わりないみたいな事を言って固形食糧を食べていた人とは思えん発言だな〕

「な、なんでそのことを!」

〔オモイカネのデータにあった〕

「オモイカネ!」

 普段物静かな感じのルリが声を荒げている。

〔まあ、それについてはナデシコ内のことは全て僕に記録されるからね。事実上、ナデシコ内で僕が知らない事はないといえる。イロウルにはそのデータ見放題だから〕

〔別に恥ずかしいことではないだろう?同じ食べるなら美味しいほうが言いに決まっているんだし〕

「イロウル?そういえば、シンジもさっきイロウルって言っていた。イロウルって何?」

 私は聞きなれない呼称に問いかけた。

〔ああ、ルリやラピスから見ればアルファ、ベータ、ガンマと呼んでいるもの達の根本的な存在のことだよ。僕から見るのとルリやラピス達、人間から見たのとでは認識の仕方が違うんだ〕

〔まあ、その辺は気にしないほうがいい〕

〔余計、混乱するから〕

〔慣れないうちはな〕

 そういえば、シンジもイロウルと口にした事がある。ということはシンジは理解しているという事なんだろうか?

「教えて」

「そうです。毒を食らわば皿までです。教えてください」

〔それ、ちょっと違うよ。ルリ、やっぱり混乱してない?〕

〔まあ、ようするにだラピス達からはアルファ、ベータ、ガンマと3固体に見えるがね、オモイカネから見ればイロウルという1個体にしか見えないという事さ。分かりやすく言うと、イロウルというOSにアルファ、ベータ、ガンマというプログラムが動いているといった所だな。本当はちょっと違うが〕

〔我輩らは別々に見えても同一個体なのだ〕

〔だからバラバラに行動しても我輩からはどんな時でもベータ、ガンマの状態を知ることができる〕

「あ、だから、先程のブリッジにアルファさんが見に行きましたがベータさんが中の様子を答えたんですね」

〔よく気がついたね、えらいえらい〕

〔しかし、何時までもウィンドウで会話というのもあれだな。音声変換プログラムでも作るか?〕

〔そうだね、幸いコミュニケには音声を出力する機能があるし〕

〔いいね、僕も声で会話してみたいね〕

〔声のサンプリングはどうする?〕

〔その辺はネットで好みの声を探してその音質を分析、合成すればいいだろう〕

〔ついでだから、オモイカネの立体映像でも作るか?〕

〔私を構成しているもので作るという手もあるが?〕

〔多分、それ無理、僕には維持するパワーがない〕

〔では、今は無難に立体映像にするか〕

 何だか勝手にアルファ達は最初の目的である説明を抜きにして話を進め始めた。

〔ルリは僕の姿どういう風にしたらいいと思う?〕

「えーと」

 ルリも話の流れに着いていけないみたい。

〔こんな感じか?〕

 そうウィンドウに表示されてから別のウィンドウが開いてサンプル画像が表示された。私達と同年代のちょっと気弱そうで中性的な雰囲気の美少年が映っていた。外見を変えればシンジそのものの。

「な、なんでシンジさんの姿なんです」

〔じゃ、こっちか〕

 そういって、今度は長身の若者タイプを表示した。今度は先程とは違って、表情がキリリと凛々しくやさしげな顔ながらしなやかな強さと安心を感じる姿だ。なんとなくシンジにも見えるけど。私が見てもカッコいいと思う。

「っ!」

 ルリを見ると頬が赤い。

〔ふむ、やはりルリは年上・・お兄さんタイプが好みのようだな〕

〔僕の分析によるルリの嗜好からもそうなるかな?〕

「な、何を言ってるんですか」

〔普段、大人びているだけに甘えさせてくれる人には弱いようだね〕

〔ルリ、この姿気に入った?〕

 ルリの顔が更に真っ赤になっていた。

〔一応、この姿、シンジの姿の未来予想図だ〕

「「うそっ」」

 思わず私も口に出していた。

「信じられません」

〔いや、かなり信じられるデータだぞ?少なくとも遺伝子上はこうなる事は確定している。まあ、雰囲気とかで印象なんかも大分変わるからこうなるとははっきり言えないがね。本人の心の在りよう次第だがそれでも昨日時点でのシンジの心理を分析し、大体1、2年後ぐらいの姿をシュミレートするとこうなる〕

「一年後ですか?今と全然違いますよ」

〔シンジはこれから急激な成長期に入るからな〕

「なんでそんなことが分かるんです?」

〔シンジのジーンマップではそうなっている〕

「そんな話聞いたことありません」

〔まだ人間は解明していないようだがジーンマップにはどの時期にどう成長していくのかと言う情報があるのだよ〕

〔なかなか、お買い得商品だと思うよ。今なら悪い虫は・・ついてないしな、うん。どう?〕

 悪い虫って何?と私は少し疑問に思った。

「どうって・・」

〔まあ、お兄さんタイプで結構反応が出るということは、今そういうタイプが現れたらクラッといってしまうかな〕

〔残念だけど、搭乗員リストには該当しそうなのないね〕

〔整備員に若干名いるけど、ルリの好みじゃないね〕

「もう、知りません」

 どうやら、みんなルリをからかっていたようだ。でも、シンジがああなるとは信じられないとルリはいうけど私にはそんな事はないと思う。それは多分出会った時の印象からだろうか?




 私は物心ついた時にはもう研究所に居た。最初は簡単な知能テスト、英才教育が施された。他にも何人か同じような立場にある子がいた。研究所にいる人は私達をモルモットのような目で見、扱われた。もっともそういった感覚は最近になって分かったことでその当時はその扱いが当たり前だったから何も感じなかった。今思えばそれは怖いことだと感じる。その頃の私は名前は無くただ番号で呼ばれた。そう、あの人、赤木ダイスケが来るまでは。

「おい、C83」

 それがその時の私を認識する呼称だった。後で調べたら83番目の子供(Child)だからそう呼ばれていたみたいだった。

「ハイ」

「今日からお前はこの赤木博士の管轄に入ることになった。挨拶しろ」

「オネガイシマス」

「おいおい、何もそんな命令口調でなくてもいいじゃないか。それに番号で呼ぶなんてあんまり良くないと思うぞ」

「いいんだよ、こいつ等は。作られた存在だからな。ここ、人工進化研究所”ゲヒルン”での流儀だよ」

 そう言い捨てて、研究員は立ち去った。赤木博士はなんとも言えぬ表情を浮かべて研究員を見送った。暫くして私に振り返った。

「・・俺は赤木ダイスケ、よろしくな」

 それから赤木ダイスケと名乗った男は右手を差し出した。私は意味が分からずその手と赤木ダイスケの顔を往復させた。

「参ったな、握手も知らないのか。どういうつもりだ、ここの連中は」

 私はびくりとした。ここの研究員が私達をぶつ時の雰囲気に似ていたから。

「ああ、怯えさせてしまったね、違う違う、これは君に怒ったんじゃなくここの人達に対してだよ。安心していい」

 そう言って、彼は、私の頭にポンと手を載せてなでた。妙にそれが心地よいと感じた。この彼との出会いが私にとって人生の始まりだった。

「じゃ、行こうか。俺のことは赤木博士とでも呼んでくれ。ついて来て」

 連れて行かれたのは彼用の研究室だった。中に入り彼はイスに座り私にも座るように言った。

「さて、先程の様子から見て、お嬢ちゃんには名前もなさそうだよな。困ったな」

「オジョウチャン?ナマエ?」

 彼はため息をついた。

「お嬢ちゃんってのは女の子を指す言葉だなこの場合は君の事だ」

「ワタシハオンナノコ?」

「あいつ等どういう教育してきたんだ?この様子じゃかなり偏った教育していたな、くそっ!」

 また、私をぶつ時の雰囲気になった。

「また、怯えさせてしまったか、すまない」

 そう言って彼は頭を下げた。私は意味が分からなかったのでキョトンとしていた。

「カリキュラムを変更して一般的な事も教えなくちゃな、何も分かっていないなここの連中は・・さて、やっぱり名前無いよな?」

「ナマエッテナニ?ニンシキバンゴウノコト?」

「違うよ、意味的には似ているけど非なるもの。名前は人が生を受けてから始めて受け取る贈り物・・祝福なんだよ」

「シュクフク?」

「そう、生まれてきたことを感謝し、願いを込めてつけるのだよ」

「カンシャ・・ヨロコバレルコト、デモ、ワタシハカンシャサレタコトナイヨ?」

「俺は君との出会いを感謝しているよ。こんな環境にいながら澱むことなく清らかな心を持つ君に」

「・・」

「だから、送ろう君に、君だけの名前を・・・ラピス・ラズリそれが君の名だ」

「ラピス・ラズリ・・ワタシハラピス・ラズリ」

「意味は”青い石”だけど、俺にとっては初めて最も大切な人に大事な思いとともに送った宝石なんだ」

「タイセツナヒト?」

「そう、俺の奥さんだけどね。ラピスはその奥さんと同じぐらい俺にとって大切になったってことさ」

「ソウ、ワタシハ、ラピス、ラピス・ラズリ」

 それが私が私になった瞬間だった。



(つづく)


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注)新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
  機動戦艦ナデシコは(c)XEBECの作品です。






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