第三十七話(S) Birthday

二月二十四日。
それは私の誕生日。
そして、育人君から初めてプレゼントをもらう日でもある。
そのプレゼントをまた美樹ちゃんと一緒に買いにいったというのは驚きだけど……。
まあ私だって仁志君と一緒にいたわけだしお相子だろう。
差し詰め、育人君のことだし何選べば良いのか迷って、そこで美樹ちゃんに助け船を出してもらったというところだろうし。
それほど大して深い意味でもなさそうだ。
今日もまた朝早くから、育人君の家を訪れて、おばさんに挨拶して、育人君が呼ばれて、出てきて、一緒に行って、の同じリズムを繰り返す。
ただ違ったのは育人君の第一声がおはようでなかったと言うことくらい。
「部活終わったら家に来てくれない?」
昼休みに早速、育人君から声がかかる。
「でも何時終わるかわからないよ?」
「それは大丈夫。お母さんに託(ことづけ)してあるから。もし先に終わったら入って待ってて」
「じゃあそうするね」
とは言ったもののそうするとまたおばさんと雑談?
「あれ、待っててくれたわけ?」
部活も終わって、日が沈む頃。
しばらく昇降口の軒で時間を潰していたけどそれほどかからなかったみたい。
「出てくるときに終わったのが見えたから」
本当は見えてなんてなかったけど……。
「そう。じゃ帰ろう」
「うん」
「でさ、何買ってくれたの?」
やはりこれは気になる。
「それは開けてからのお楽しみ」
なんか美樹ちゃんみたい……それも口調まで。
「なんか美樹ちゃんも同じこと言いそう」
「たしかに……」
「そういや、その誕生日プレゼントって美樹ちゃんと一緒に買いに行ったんでしょ?」
「えっ、なんで知ってるわけ?」
「それは仁志君が教えてくれて」
「そうか、あの時に……」
それは勿論育人君が美樹ちゃんと待ち合わせをしていたあの時だろう。
「ごめん。実は私もあの日、仁志君と一緒で」
「えっ、そう……」
「まあ、お相子ってことで」
「でも仁志と何を?」
「えっ、まあその辺をぶらぶらと」
「じゃあ仁志は何しに行ったんだか……」
「暇つぶしなんじゃないかなぁ……。まあ私も暇だったからいいんだけど」
「暇つぶしって……なんだかなぁ」
まあ育人君にしてみればそうだろうね……。
「どうせだから入る?外寒いし」
「うん」
玄関を開けた先、いたのは育人君のお母さん。
「こんにちは〜」
「あら、二人一緒?」
「えっ、はい」
「たまたま一緒に終わったから」
「そう……。まあ、ゆっくりしていって」
なんだか残念そうに聞こえるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいだ、絶対。
「じゃあ上にあがって」
「うん」
「はい、プレゼント」
育人君が机から出してきたものを受け取る。
それは、青と白のストライプ模様で長細い形をしている。
「ありがと。開けていい?」
「勿論。そのためにあるんだから」
包装を取るとでてきたのは黄緑色の箱。
その箱の中には……。
「……ネックレス?」
それは、ひし形の透明な八面体の飾りに銀の鎖がついている。
「うん」
「美樹と行って、選んできたんだけど」
「へぇ〜」
それを首にかけお決まりの一言。
「どう?」
「いいんじゃない?」
「『いいんじゃない』ってなんか曖昧な言い方……」
「そう?じゃあはっきり言ったほうが良いわけ?」
「えっ、それもちょっと……」
はっきり言われると褒めてるならともかく似合わないならショックでしょ……。
「じゃあどういう風に?」
「お世辞にでも似合うとか、そう言うのがいいんだって」
「じゃあ……似合うよ」
「今更遅いって……」
なんだか育人君ってこういうの下手だなぁ。

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