第三十六話(S) 思わぬ電話

ピリリリリ、ピリリリリ──
二月十九日日曜日の午後二時少し前。
家の電話が鳴る。
先日育人君に電話番号を教えたばかりだから私はすっかり育人君からかかってきたものだと思っていた。
でも……。
「もしもし、岸原です」
「あっ皐月ちゃん?」
「えっ、仁志君?」
「ああ。今から行っていいか?」
「えっ、私はいいけど……育人君と美樹ちゃんが怒らない?」
「それは大丈夫だからよ。行っていいだろ?」
「う、うん」
「じゃあ二時半くらいにな」
「うん……」
──ガシャン
仁志君は遊びに来るんだろうと思うけど、一応育人君にも電話しておこうと思い再び電話をとる。
ピリリリリ、ピリリリリ──
「はい、もしもし三野木です」
「岸原ですが、育人君いますか?」
「あら、皐月ちゃん?育人ならさっき買い物行くって出かけたんだけど」
「そうですか……」
「なんなら何か伝えましょうか?」
「いえ結構です……」
「そう?」
「ええ。ではそろそろ」
「はい」
──ガシャン
買い物ってことはプレゼントでも買いに行っているのだろうか。
なら素直に喜ぶべきなんだけど、育人君に言わずに仁志君を呼ぶのは気が引ける。
でもいないのだからしょうがない。
とりあえず仁志君が来るのを待つか……。
──そして二時半過ぎ──
ピンポーン……。
「よぉ」
「うん……、まあ入って」
「ああ」
それから二人で私の部屋へと入りテーブルの傍のクッションに座る。
「それにしてもなんで突然電話なんか?」
「最初は美樹のとこへ行こうと思ったんだけど買い物へ行ったらしくてよ」
「それで?」
「それで今度は育人のところへかけたんだけどよ。でも育人も買い物にいったらしくて」
それは知ってるけど……。
「だからここに……」
「じゃあ何、二人ともいないからここに来たってこと?」
「ごめん……」
まあ二人ともいないのだから仕方ないけど、最後っていうのもちょっとな……。
「で、実はここに来るときに駅で育人に会ったんだけどよ」
「へぇ。ホームで?」
「いや駅前なんだけどよ。俺が電車の来る時間になったから駅へ向かって歩いてるときにふと振り返ると美樹と話していてよ」
「ええっ!?美樹ちゃんと!?」
「ああ」
この間美樹ちゃんは『私が代わりに』なんて言ってたけど、まさかね……。
でも万一、二人が買い物でなくてデートだったら……。
いやここは育人君を固く信じておくべきだろう。
美樹ちゃんも『とり返さなきゃ気が済まない』なんて言ってたし。
まあ、その美樹ちゃんと一緒にいるそうだけど。
しかし私がいるのに美樹ちゃんと一緒にいるっていうのはどうかと思う。
まあ私だってこうして仁志君と部屋にいるのだから人のこと言えないけど。
なら御相子か……。
でも私と仁志君は育人君や美樹ちゃんがいてこそ、どういう関係かと説明できるような仲だと思うんだけど。
「う〜ん……。この間俺と美樹って喧嘩してただろ?」
「えっ、うん」
考えごとをしているのにいきなり話し掛けられるものだから思わず驚いてしまう。
「あれは月末だったと思うんだけど、その最後の日曜日に美樹から電話があってよ」
「うん」
「それでその日の午後に二人で大久駅の近くのデパートに買い物に行ってよ」
「へぇ」
「まあ俺は別に買うもの無かったんだけど。しばらく二人でぶらぶらとしていて……」
まあ美樹ちゃんは喧嘩してるつもりはなかったらしいけど、仁志君からしてみれば居心地が悪かったのでは……。
「その間美樹は普通に話しかけてくるものだからすっかり解(ほぐ)れてしまってよ」
「へぇ。それはよかったんじゃない?」
「ああ。でも喧嘩なんてもうしたくないな、ほんとに。皐月ちゃんも気を付けなよ?」
「う、うん……」
育人君と喧嘩ねぇ……。
今するとしたらその原因を作っているのは仁志君と美樹ちゃんの二人でしょ……。

←35   (S)   37→

タイトル
小説
トップ