第三十四話(S) ケーキ

次の日、日曜日。
今日はあの三人が家に来る。
元々は美樹ちゃんと仁志君を仲直りさせようって魂胆でこれを計画したのだけども、いつの間にか二人は仲直りをしていた。
だから結局これは二人の仲直り記念とでも言うのだろうか。
ともかく元々の目的とは違うものの三人が家に遊びに来ることになった。
来るのは昼過ぎの三時。
俗にいうおやつの時間。
この間、育人君が来たときにはクッキーを作って出した。
そのときには育人君にも好評。
それで自分に自信がついたというのだろうか、今度はケーキを作ることにした。
ケーキはイチゴのケーキで二層仕立て。
生クリームで包まれたスポンジに薄切りの苺が挟まれているごく普通のケーキ。
何か工夫があるとかそういうのではないのだけど。
昼食が済みお皿を片付け終わったら、早速ケーキ作りに取りかかる。
レシピを見ながら小麦粉・卵・牛乳・砂糖なんかをボールの中に順に入れてかかる。
それを型に流しこんでオーブンにいれ、スポンジをつくる。
そして先に用意しておいた生クリームで周りをコーティング、ホイップクリームでデコレーションをして──
ピンポーン……。
まだ作ってる途中なんだけども。
「お母さんが出るから、安心して作ってて」
「え、うん」
でもちょっと心配……。
ともかく目の前にあるケーキに買っておいた苺を乗せ、ケーキを完成させる。
自分や家族で食べたことはあるけど、他の人に食べてもらうのは初めて。
だからその味が少し心配になるけども味見をするわけにもいかない。
食器棚からお皿を六枚出し、フォークを四本出す。
フォークは私と育人君、美樹ちゃん、仁志君のぶん。
ケーキとお皿の差、二枚はお父さんとお母さんのため。
流石にこれを四人で分けると大きいし。
「皐月、三人とも居間に居てもらっているから」
と、玄関から案内し終わって戻ってきたお母さんが言う。
「は〜い」
ケーキを持ったまま、ドアを開けることはできないので先にキッチンと居間のドアを開けに行く。
キッチンと廊下の間のドアを開け、居間と廊下の間のドアを開ける。
「よっ」
と、育人君が挨拶する。
前々から思うに、どうも育人君とは合わない挨拶のような気もする。
「あ、ちょっと待ってて。今、ケーキ持ってくるから」
三人にそう断ってキッチンに向かい、ケーキとお皿を取りに行く。
「お待ちどう」
そう言い、ケーキを炬燵(こたつ)の上におき、自分も空いたところへと入る。
「とりあえず、ケーキ食べる?」
「あぁ」
「うん」
それを受け、ケーキを六等分にしてお皿の上へと置く。
そして、うち二つをキッチンの冷蔵庫へと片付けに行き、三人にその感想を訊く。
「どう?」
「美味しいと思うよ」
「美味いね」
「う〜ん、作り方教えてくれない?」
え、あのどこにでもありそうな普通のレシピを?
「えっ、作り方?」
「そうそう」
まあ、普通のだけどもいいか……。
「じゃああとでね」
「うん」
ところでこの間育人君が家に来たときには引っ越しから一週間しか経っていなくて必要以外のものは片付いていなかった。
けれども、今は部屋からダンボール箱は消えている。
整頓できたら見せてなんて育人君言ってたし。
「そういやあれから結構部屋片付いたんだけど……見る?」
「え、うん」
「あのさ、皐月ちゃん」
と、話しかけるのは仁志君。
「何?」
「ここの電話番号教えてほしいんだけどよ……」
と、小声で言う。
「電話番号?いいけど。なんで?」
つられて自分も小声になる。
「最近美樹といろいろあるからさ、相談に乗ってもらいたくてよ」
まああれは美樹ちゃんの気遣いなんだけどね。
「相談?私でよければいつでもいいよ。○○○○-××-□□□□ね」
仁志君はその番号を帳に書く。
「じゃあまた、かけさせてもらうよ」
「うん」
あれ、もしかして育人君には電話番号、まだ教えてなかったっけ……。

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