二月十一日。
今日の土曜日もまた何時もと同じように一緒に学校へ行って他愛も無い話をして……。
そうして過ごしてお昼になって、学校を出て、電車に乗って、家に帰って……。
先週の日曜日、育人君が家に来たときに美樹ちゃんと仁志君をどうにか仲直りさせようと二人で話した。
それでいっそのこと二人とも一緒に家に来れば……ということになった。
家のお母さんにしてみれば仁志君は初見。
美樹ちゃんはもうお馴染み。
育人君は、二度目。
今度は付き合っているという関係の上で来ることになる。
そして、その翌日の月曜日。
二人にそのことを話そうと思ったところ、いつの間にか仲直りしていた。
まあ、それが目的だったのだからいいのだけど。
それで本来の目的とはまた違うのだけども、二人と育人君が明日、遊びに来ることなった。
でもそれでは育人君は二度来て、私は一度も行ったことがないということになる。
そして私は行きたいときにいつでも電話でもと育人君に言ってある。
なら今日、電話をかけて育人君の家にも行けばと。
お昼ご飯を食べた後、勉強を済まし早速育人君の家へと電話をかける。
ピリリリリ、ピリリリリ──
「はい、もしもし。三野木です」
「もしもし。岸原ですが」
「あら、皐月ちゃん?」
「えっ、はい」
「お母さん、元気?」
育人君に電話をかけたつもりだったんだけど……。
「え、まぁ……。ところで、育人君いますか?」
「あ、育人?ちょっと、待っててね。育人、電話よ〜」
それからしばらくして電話の相手が育人君に替わる。
「もしもし」
「私だけど。今から行っていい?」
「今から?別にいいけど」
「じゃあ二時過ぎにね」
「うん」
──ガシャン
危うく、育人君のおばさんと長電話するところだった……。
──そして二時頃──
ピンポーン……。
玄関のドアを開けると、二階から育人君が降りてくる。
「あ、育人君」
「ささ、早くあがって」
「うん」
案内され、二階にあがり、育人君の部屋へと入り、ベットの上に座る。
床はカーペットで私の部屋と同じ位の広さの部屋の中に、窓が二つ。
一方の窓の下にはベットがあり、その向かいに机、更にその隣には本棚がある。
「急だったから何もないけど……」
「えっ、ううん。別に構わないよ。私だって急に押しかけたんだから」
「そう?」
「そうそう。私も育人君の部屋が見たかったし」
しかし、見た……からどうなんだろう。
ただそれだけで終わってしまえば何をしに来たのかもわからない。
そうだ、先日の育人君が何故私のことを好きになったのかって言うのを、この機会に訊いておけば……。
「ところでさ、なんで私のことが好きだってそう想ったの?」
「えっ……。う〜ん、なんていうのかな。一目惚れっていうやつ?」
というと、あの初めて会ったあの朝に?
何やら育人君がしばらく時が止まったかのようになっていたけど……あれか。
「じゃあ根本的な理由はないわけ?」
「と、いうと……どこがどうだからとかそういうの?」
「まあ、そういうこと」
「う〜ん、言うのはなんだけど、そういうのは別に……」
「そう……」
答えは出ず、曖昧なまま。
「じゃあ皐月さんは?」
「えっ?私?」
やっぱり、訊くと訊かれる……。
「あの遊園地の観覧車で先に言ったのは皐月さんでしょ?」
「まあ、そうだけど。あれは……」
「あれは?」
「あれは……ああでもしないと、育人君、言ってくれそうになかったから」
「え……」
「まあ私もあれ以前から好きだったんだけど……一種の切っ掛けってやつで」
育人君の気持ちを知るための……切っ掛け。
「へぇ……。で、なんで僕なんか?」
『なんか』って言ってるけど、過去に付きあったことがあると聞いているけど……。
私は『育人君なんか好きになった』ではなくて、『育人君だから好きになった』のに。
人はいさ心も知れず(ふるさとは─と続くのだけども)。
「『なんか』なんて言わないでよ。好きでいる私の立場がないじゃない」
「うん……。で、何故僕のことを?」
「なんだかこう……自然にね。もしかしたらあの二人に言われたせいかもしれないけど」
あれって二人の育人君に対する気遣いだったのかな……。
「へぇ。なんて?」
「あの席替えのときに、美樹ちゃんと仁志君が『育人君が私に惚けてるんじゃないか』なんて言うから」
「えっ……」
それを聞いた育人君は久しぶりに真っ赤になっていた。
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