第三十二話(S) 恋する理由(わけ)

翌日の月曜日、その朝。
今日もまた育人君の家へと向かう。
多少、早く出ているせいか学校の前を通過しても誰にも出くわすことはない。
まあ、毎日日にち学校へは二人で来ているものだからクラスの中においては周りに公表しているようなものであるけども。
勿論、そういう話こそ伝わるのは早いものでクラスを問わず大方の人は知っていると思われる。
それでこうして付き合ったりなんかしてると皆からは一目置かれたりもする。
別に周囲に自慢するつもりなんて甚だないのだけども。
ところで昨日は、あのあと六時くらいまで話しこんでて気付いた頃には外は真っ暗だった。
時計を見て驚いた育人君は急いで帰る支度をし、駆けて駅のほうへと向かった。
あのあとどうなったのかは知らないけども、育人君の慌てようからするとその時間はよろしくないようだ。
私は学校の前を通りすぎ、育人君の家の前につく。
その隣にある家は懐かし(?)の前の家。
まだたった二ヶ月ちょっとしか経っていないのにここへ引っ越してきた頃がとても懐かしく思われる。
まあそれはさておき、早速そのチャイムを押す。
ピンポーン……。
「は〜い」
なんだか、土曜日に来たときよりも声のトーンが高い気がするのは気のせいだろうか。
もしかして育人君がばらしたことによってうちのお母さんみたいに舞いあがってる?
昨日も育人君が帰るときになって中から出てきてよろしくなんて言ってたけども。
そんな感じだろうか……。
駆ける音がして、玄関のドアが開く。
「おはようございま〜す」
「おはよう、皐月ちゃん」
そう挨拶を返すおばさんはあらん限りの笑顔。
……うちと一緒だな。
「育人でしょ?ちょっと待っててね」
さすが、察しが早い。
おばさんは中へかけていき、育人君を急かす声がして、育人君が出てくる。
「おはよ〜」
「おはよう」
で、玄関を出て早速歩き出す。
「はぁ」
「あれ、どうかしたの?」
「いや、なんだか家の中じゃお母さん、ずっと皐月さんの肩もちだから疲れちゃって」
うちのお母さんだって、育人君が来るとあんな調子だから……。
「ああ、それは多分家に来れば逆になると思うよ」
「ってことはあれからずっと?」
「うん、なんだか一人舞いあがっちゃってて。お父さんが帰ってきたときにもすぐに話し出す始末だから」
「へぇ〜」
「まあお父さんはそんなにでもなかったけど。というかお父さんは多分隣に住んでた人って位のイメージしかないと思う……」
「じゃあおばさんは何故?」
「あれ、知らなかった?お母さんはここの近くのスーパーでアルバイトしてるんだけど」
「いや、全然……」
「それで、お隣ってこともあってか育人君のお母さんと意気投合しちゃったらしくて」
「へぇ。だからうちのお母さんも昨日ああなったのか……」
なんか一人で納得してるみたいなんだけど……私にはそれが何なのかはわからない。
「それから自慢やら何やら色々と交わしているみたい」
「へぇ。じゃあ私生活も赤裸々?」
赤裸々って……。
「さぁ。私は何も聞いてないけど。何かばれちゃ拙いことでも?」
「えっ、別にそんなことはないけど……」
「ふ〜ん。まあ私は別に何があっても構わないけどね」
「僕も、何があっても気持ちの持ちようは今のまま、変わらないから」
これって所謂愛の深さってやつ?
う〜ん……愛?
……そういや私は育人君の何所に如何惹かれてこうなったのだろう。
…………。
まあ、今は育人君のことは好きだし、一人でいても愛しく、恋しく、切なくなるし、理由なんて別にどうでもいいか。
それに育人君にも理由なんて訊いてないし。
……まあ気にはなるけど。
またいつか機会があればそのときにってことで。
愛があればそれにわけなんて必要ない?
というか私は育人君の想いに応えただけなのではないだろうか云々。
まあその辺は深く気にしないでおこうっと……。

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