第三十話(S) 試みU

瑞井に越したその家はまた一軒家で、集合住宅の一角にあった。
駅からは数分の所で結構近いところにある。
電車で学校に向かうのは瑞井駅から大久駅を越えて西大久駅へ行くのが十五分弱。
そして西大久駅から学校までは十分弱。
ついでに学校から育人君の家までは数分ほど。
学校にはそんなに時間がかかるわけでもないところにある。
玄関先には前の家と同じようなポストが立っている。
これは要するに『場は違えど日課は日課だ』ということになる。
今日もまた何時もの時間に起きて新聞を取りに行って、引っ越しの片付け。
そして月曜日。
また朝にいつもと同じように新聞を取りに出る。
でもその光景はいつもと違う。
空からは雪が何時もと変わらず降り、地面にはそれが積もる。
同じなのはそれだけで、芝生なんかないし前に家もない。
これから家を建てる、その土地しかない。
それになんと言っても育人君がいない。
ともかく……逢える時間まで、待つしかないか……。
通学途中、育人君の家の前。
早速そのチャイムを鳴らす。
ピンポーン……。
「は〜い」
そう言って出てきたのは引っ越しの挨拶のときに出てきた育人君のおばさん。
隣家ということもあって、ある程度の付き合いはある。
「おはようございます……ってあら、皐月ちゃんじゃない?」
「おはようございます。育人君いますか?」
「育人?ちょっと待っててね。育人〜、お客さんよ〜」
と、呼ばれた育人君はおばさんと入れ替わりに出てくる。
「おはよ〜」
「お、おはよう……」
育人君は多少驚いているみたい。
そういや連絡をいれるのをすっかり忘れている……。
「さ、早く行こ」
「う、うん……」
そう言うと育人君は台所にカバンを取りに戻り、玄関先へと出てくる。
そしてまた歩き始めて。
「それにしても、なんでここに?」
「それは勿論、一緒に居たいからに決まってるじゃない」
「でも駅からでは学校からは反対の方向だし……」
「だから態々駅から学校を越えてここまで来たんだって」
「でもそれだとなんだか余計な分、歩かせているような気がして……」
「いいのいいの、私が来たくてここまで来たんだから」
「でも……ねぇ?」
う〜ん、くどい……。
「何?私が来たら邪魔なの?」
と、少し睨みをきかせてみたりする。
「えっ、別にそんなことないけど……」
「なら、こうして来ても構わないでしょ?」
「えっ、う、うん……」
「じゃあ明日も……ね?」
「え、うん……」
考慮してくれるのは嬉しいんだけど……私としてはできればずっと、こうしていたい。
それを分かってるんだか分かってないんだか……。
そういえばもうすぐ一月も終わり。
そして二月になるのだけれども、もう決まったのだろうか。
「でさ、どう?」
「え、どうって何が?」
「プレゼント。何にするつもり?」
「それは……ひみつ〜」
ひみつ〜ってまんまとこの間の仕返しされてるし……。
まあ、何れはわかることか。

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