第二十三話(S) あの色、あの場所
| 植物園は抜けたものの育人君は相変わらず。 あれっきりあまり喋らないし……。 逆効果だったかな、なんて思ったりもする。 でも別に育人君と手をつないでるのも悪い気もしないし、あれからずっとそのまま。 どちらかというとこうしてつないでいるほうがいいかななんて思う。 とくに力が入ってるわけでもないし、軽く握ってるという感じで。 おかげでこの寒い一月に頬と手はぽかぽかしている。 それでその手はつながれたまま次の目的地、観覧車へと向かう。 「ねぇ、ピンクの観覧車の意味って知ってる?」 と、あれから気になっていたことを訊く。 「えっ、ピンク?」 「そうそう。美樹ちゃんと仁志君が言ってたんだけど」 「皐月さんも?」 「私もって育人君も?」 「うん。『乗るならそれに限る』って仁志がね」 「へぇ、美樹ちゃんも『一つだけピンクになっている理由を知ってる?』って」 「2人ともにいうんだから、よほどピンクの観覧車には何かあるんじゃない?」 「なら、とりあえずその観覧車のほうに行ってみない?」 「うん」 と、その答えは観覧車についてからと先延ばしになった。 三度目になる公園を抜け、観覧車へと向かう。 家族連れやカップルが多い道を自分もまた一つのカップルとして抜けるものの、なんだか違和感を感じる。 たしかに育人君とはこうしてはいるけど、付き合ってるなんて一言も言ったこともない。 まあたしかに俗世間ではこういうのを付き合っているというのだろうけども。 でも関係は友達って感じだと思う。 西側の道を抜け大きな広場に出るとそこに観覧車があった。 黄色いボディの中に一つ、ピンクのボディのがある。 「仁志と美樹が言ってたのはあれか……」 「とりあえず、この列に並ぼう」 それで列の後ろへと並ぶ。 それから幾らか話した頃、気付けば列の前のほうへと来ていた。 観覧車のほうもピンクのがもうすぐ地上に来る。 「やっぱりピンクのに乗るのかなぁ……」 「ピンクのに乗るのは嫌?」 「そんなことはないけど……。よく分からないけどなんだか少し怖くてさ」 なんだかそれ、分かる気がする。 「私も……少し」 それで乗ったのはあのピンク。観覧車は二人の想いを乗せて回りゆく。 「ピンク……だよね?」 「うん……」 一つだけピンクの色をしてるといえども、中はごく普通。 普通過ぎて、これがその特別なピンクのだと信じ難い。 逆に何も変わりないのが怖いくらい。 それで、その普通過ぎる観覧車に育人君と向かい合わせで座る。 なんだか気恥ずかしい。 逆に隣同士のほうが落ちついていられたと思う。 そう言えば、以前に育人君に直接訊けば……と思ったことがあったことを思い出す。 あのときはこんな関係じゃなくてかなりぎこちなかったけど今なら多分答えは聴けると思う。 そりゃ、少しは押さないと無理だろうけども。 早速、そう思って訊いて見る。 「あのさ……育人君って……私のこと、どう思ってるの?」 「えっ、僕は……」 やっぱり……。 で、流石に自分も恥ずかしいけれども育人君を押してみる。 「私は……好きだよ、育人君のこと」 さっきからだが、それにも増して何か熱いものが胸のうちからこみ上げてくる。 勿論脈は速いし、頬も熱い。 「僕も……勿論好きだよ」 「よかった。なら別に付き合ってもいいでしょ?」 「えっ、うん。それは喜んで」 と、言うことで育人君と私は正式(?)に付き合うことになった。 「はぁ、なんだか緊張したら疲れちゃった……」 「僕も……」 でも観覧車はまだ半分ちょっと超えたくらい。 あと半分このままというのもなんだから、いっそのこと……。 「そうだ、乗りかかった舟だし下につくまでに……キスしない?」 「えっ、キス?」 「そう。どうせ二人っきりだしね」 「僕は……構わないけど……」 「なら私もこっちね」 というわけで、流石にファーストキスではないものの育人君とキスをした。 多分、人に見せられないほど頬は赤かっただろうけども。 でも、このときは自らが転勤族であることはすっかり忘れていたのだった。 |