第二十四話(S) 楽しみ

次の日。
起きてから制服姿に着替え早速玄関へと向かう。
そして玄関を開ける。
それとほぼ同じくらいに育人君の家の玄関も開く。
「おはよ〜、育人君」
「おはよ〜」
「今日も一緒に行くでしょ?」
「もちろん」
『今日も』というのも、あの日から毎日一緒に行っているからだ。
そういや美樹ちゃんと仁志君もそういう告白とかしたのだろうか。
いつの間にか……なんて言ってたけど。
「じゃあまた三十分後ね」
「うん」
――それからおよそ三十分後――
昨日遊園地で帰り際に買ってきた遊園地のマスコットのキーホルダーをカバンにつける。
もちろん観覧車でのあと、五時までの暇つぶしに南ゲート近くのお土産屋で買ったものだ。
育人君とその辺りの店をぶらぶらとしていてなんとなくいいなと思って買ってみたもの。
周りから見るといかにもお土産を探しているように見えたと思う。
そりゃ、お土産屋なのだから無理もないけども。
ともかくそろそろ時間なので育人君も待っていることだし外へと出る。
「待った〜?」
「いや、今出てきたとこだよ」
「それじゃあいこ」
「うん」
あれから育人君はやけにテンションが高くて……いや、これが普通だろうか。
ともかくいままでよりは高くて、そのぶん私としては余計な気を使う必要がないからいいけども。
しかし若干浮かれ過ぎではと思うところもあることにはある。
育人君だって以前の仁志君の話によると別に付き合うのが初めてではないらしい。
なら別にそんなに浮かれなくてもと思う。
まあ、育人君はそんな風だから付き合ってることを十分に実感してるみたいだけど、それに対して私はどうもそうは思わない。
なんだか私自身はあれ以前、ようは観覧車に二人で乗る以前と何も変わってはいないような気がする。
「なんだかなぁ……」
「ん?」
「いやこうしていてもね、なんだかいままでとあまり変わらないなと思ってね」
「そうかなぁ、僕は変わったと思うけど……」
「ん〜例えば?」
「前よりも気楽には話せるようになったかなって」
それはあくまで育人君だけであって……。
「育人君はでしょ?私は大して変わらないなぁ」
「何か変わって欲しいって、そう思うわけ?」
「う〜ん、だって付き合ってるってそういう実感があまりないし……」
「そうかなぁ……」
「少なくとも私はね」
「別にいいんじゃない?そのほうが気楽でいれるしさ」
気楽でいれる……って、育人君が最初から今のようならもっと気楽でいれたと思うけどな。
そりゃ、育人君のことだからそれは流石に無理だと思うけど。
前の時もそうだったって聞いてるし。
それで今の状態なら……やっぱり気楽か。
「私は元(はじめ)からそういうつもりなんだけどな」
「う〜ん……。ところでさ、誕生日っていつ?」
って、何故突然誕生日のことなんか……。
「えっ、誕生日?」
「うん」
実はまだ迎えてはいない。
要するに高一と言えど十五歳であって。
「二月の二十四日だけど……。育人君は?」
「ならもうすぐかぁ。僕は九月五日」
「ってことはもう十六?」
「うん」
ってことは実質一つ上か。
なんだかなぁ。
「へぇ……。しかし、なんで突然誕生日のことなんか?」
「えっ、だってやっぱりそれだけは知っておかなきゃいけないでしょ?」
それだけって誕生日訊いたらそれで満足?
まあそんなことはないだろうけど。
恐らくまず最初にこれだけは……って意味だろう。
でもその言い方は流石に誤解されるのでは……。
例えばこういう風に。
「じゃあ他のことは別に知らなくてもいいってこと?」
なんて言ったりすると……。
「えっ、別にそういうわけじゃないけど……」
やっぱり、そうくると思った。
結局のところ私が押すとそれを育人君が押し返すことはあまりないらしい。
そんなのでいいのかなぁ……。
「まあいいか。別にそんなに急ぐことは無いんだし。ともかく二月二十四日は楽しみにしてるよ」
「そりゃもうもちろん、期待してて」
とりあえずこれで、今年の誕生日に楽しみが一つ増えることとなった。

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