第二十一話(S) カルボナーラ

美樹ちゃんと仁志君が公園の北ゲート側から出ていったあと、育人君と昼食をとることにした。
園内に入ったとき南ゲートでもらったパンフレットを参考に、美樹ちゃんに教えられたお店を探している。
美樹ちゃんが言うには北ゲート側の通りに美味しいイタリア料理店があるらしい。
その料理店の名前は、小文字のFを二つ、筆記体で並べて『フォルティッシモ』
音楽好きの店長さんじゃないかと思う。
「この辺りじゃないかな」
パンフレットの地図によるとこの辺りにあるはず。
「もしかしてあれじゃない?」
と、育人君が『ITALIAN』と書かれた看板のある店を指差す。
ここは食券を買ってそれと引き換えでもらうという仕組み。
店の前には長蛇の列ができている。
「たぶん、そうだと思う。でも結構混んでるよね」
「どうする?」
「折角ここまで来たのだから勿論、並ぶでしょ」
私は育人君にそう言って、長蛇の後尾へとつく。
育人君もそのあとにつく。
「そんなにここのって美味しいわけ?」
と、訊かれても困る。
とりあえず内の事情を説明する。
「来たのは初めてだけど……美樹ちゃんがここは美味しいって教えてくれて」
「美樹が?」
「うん。食べるならここがいいって」
「へぇ……」
あんなに長かった列も何時の間にか先頭についていた。
それで、店の人が空いている席へと案内してくれる。
「それではどうぞ」
白い、テラスにでもありそうなイスとテーブル。
テーブルの真ん中にはパラソルがつけられていて日よけになっている。
でも今は一月だからあまり意味はないけども。
そのイスの上に荷物を置き、食券を買いにいく。
券売機の上には、様々な種類のピザやパスタの写真が並んでいる。
なんとなくパスタが食べたいなってそんな気分で、その中からカルボナーラを選んでボタンを押す。
そして人の流れに乗りながらカウンターでその券と引き換えに番号札をもらう。
やはりこう多いとそうせざる追えないのだろう。
交換し終えた私はさっき荷物を置いた席へと戻る。
「何頼んだ?」
なんだか育人君の方から話してくるのは初めてのような。
それも疑問で。
「え、カルボナーラだけど……育人君は?」
「僕はサラミ」
「あっ、ピザのほう?」
「うん」
それからしばらくして番号札に書かれている番号を呼ばれ、カウンターへとピザをとりに行った。
流石に、育人君の方が先に行ったので早かった。
ちょうど育人君が帰ってくるときに呼ばれ、私もとりに行く。
やはり券売機の上の絵とは少し違う。
そしてまた自分の席へと戻り、早速食べ始める。
「で、美樹ちゃんがいうだけのことはあると思う?」
「う〜ん……」
「どう?」
「そりゃ、美味しいとは思うけど……。あまり外食もしないからそれ以上はなんとも……」
なんとも……ってそれではまた続けようにも続けられない。
しょうがないので話題を変えることにする。
「う〜ん……。この後何所か行きたいところある?」
「仁志と美樹が勧めるし、どうせだなら観覧車には乗りたいけど……」
どうやら育人君も推されていたみたい。
やはりピンクの……なんだろうか。
「うん、それは私も。他は?」
「他は……とくにないけど……」
なんだかどうも絶叫系とかそういうのでなくて、静かで居れるところに行きたい。
流石に育人君であろうとも前で叫ぶのは気が引ける。
「なら、観覧車の向かいの植物園に行かない?」
「植物園に?別に構わないけど」
「なら食べた後、植物園に行って観覧車ね」
「う、うん」
なんかまた何時もの展開というのだろうか。
ともかく、食べ終わって返しに行った後、植物園へと行くことになった。

←20   (S)   22→

タイトル
小説
トップ