第十話(S) 微々たる展開

朝起きて着替え終わった私はしばらくベットの上に座っていた。
いつもはそのまますぐに一階へ降りるところを今日はこうしている。
一昨日は美樹ちゃん。
昨日は仁志君。
二人とも一昨日のあたふたする育人君は私のことが好きだからだと言っていた。
それに私が話しかけた時に限って育人君の態度は一変する。
私がその場にいても普通に喋るのに私が話しかけると急に変わる。
育人君が私のことを好きならその私はその育人君のことを……。
私は別に育人君が嫌いだとかそういうことはないけども。
でも育人君のことが好きだとかそういうのは……。
ないと、そう言えるのだろうか。
自分が育人君と話したいと思っているのは事実だし、どうでもいいことならそんな風にも思わないだろう。
このぎこちないのが嫌だっていうのは単にそうなんじゃなくて、もしかしたら……。
そんな考えが自分の中で音を立てて渦巻く。
こうしていててもしょうがない。
私は自分の部屋から出て、階段を降りる。
私の家は二階に寝室。
一階にリビング、キッチンなど。
そう大して広い家でもないが居心地が悪いと言うわけでもない。
ビングには引っ越してきた日にかけたソファーが置いてある。
この上は私のお気に入りの場所。
一番落ちつける場所の一つ。
玄関へと向い、その重いとも軽いとも言えないドアを開ける。
「あっ、育人君おはよっ」
と、早速育人君に挨拶をかける。
「おはよう……」
「今日もよろしくね」
「うん……」
いつもと同じ……?
少しましになったような気もする。
気のせい……のような気もするし、そうでないような気もする。
でもどちらにしたって変化も微々たるもの。
ぎこちないのがどうにかなるためにも時間がかかるだろう。
何かが起こって……何かが変われば……。
そんな期待を膨らませる。
そういえばあの二人、美樹ちゃんと仁志君はいつからあんな仲なのだろうか。
クリスマスにわざわざマフラーをつくって渡すくらいだからただの友達ってわけでもないだろう。
たぶん付き合っているのだろうとは思うけど。
そう思うとなんだか二人が羨ましく思えてくる。
私もその二人みたいになれたらな……と、育人君の顔が浮かんでくるのだった。

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