第九話(S) キーパーソン

あれから学校へ行く用意も済み、学校へ登校し朝の暇な時間を過ごしている。
育人君は今日の朝も昨日と相変わらずぎこちない様子だった。
学校へ来て用意を済ませた私は席であの仁志君が来るのを待つ。
育人君と仲のよい仁志君なら何か知っているかもしれない。
そう思って。
あのぎこちない様子には何かある。
それが朝……というよりも昨日から気になっている。
それにあのことも。
私が学校に来てから十分ほどしてから仁志君が教室へとやってきた。
育人君の方はまだ来ていない。
訊くなら今。
そう思って早速仁志君に話しかける。
「仁志君って、育人君と仲良いでしょ?」
「ああ、そうだけど」
「昨日から何かぎこちないような気がするんだけど何か知らない?」
「育人が?ああ、たぶんそれは……」
「それは?」
「昨日さ、皐月ちゃんが育人に話しかけただろ?」
「うん」
「あれってもしかして初めてか?」
「えっそうだけど……」
「もしかしたらそのせいかもしれないけどよ、あのとき育人の顔赤かっただろ?」
「それは美樹ちゃんも言ってたけど」
「たぶんそれが関係しているんだと思う」
やっぱり……。
「昨日さ、育人に顔が赤いって言ったら冷や汗かいててよ」
「冷や汗?」
「ああ、あれってやっぱ照れてたんじゃないのかって思うんだけどよ」
「美樹ちゃんも惚れてるとかどうか言ってたけど……」
「なら美樹の言うとおりなんじゃないか?」
美樹ちゃんの言うとおり……ということは育人君が私に惚れていると仁志君もそう言いたいわけか。
でも仁志君にしろ、美樹ちゃんにしろ結局本人からは直接聞いたわけではないみたいだけど。
育人君が私に惚れてる……か。
自分の頬がぽっと赤くなる。
「それよりさ、皐月ちゃんは育人のことどう思ってるわけ?」
唐突な質問をされて焦る。
それが拍車になってか頬が熱い。
「えっ、私!? べ、別に嫌いじゃないけど……」
「ま、育人もああ見えて結構いいやつだからさ」
「えっ、うん」
「でも育人がもし皐月ちゃんのことを好きだったとしたら多分しばらくはこのままだと思うけど」
「このままって昨日みたいな調子?」
「たぶんそうかと。あいつ普段はそうじゃないけどさ」
しばらくこのまま……って明日も明後日もこのままか。
「お、育人どうしたんだ?」
育人君が教室へと入ってくる。
でも朝と何も変わっていないようで、相変わらずだった。
「えっ、いや別に……」
「そうか?」
「何もないって」
「それならいいけどよ……」
「それより美樹ってまだ?」
「えっ、美樹ちゃん?」
思いにもよらない質問で思わず返事を返してしまう。
「えっ、う、うん……」
さっきの仁志君に対する会話と打って変わって突然ぎこちなくなる。
惚れてる……か。
本当にそうかもしれない……。
「まだ来てないみたいだけどよ、美樹がどうかしたのか?」
「いや、いつも僕より早いのに今日はまだなのかなと思ってさ」
「おっはよ〜」
美樹ちゃんが相変わらず元気のいい挨拶で教室に飛びこんでくる。
「ごめん、ごめん。ちょっと遅くなっちゃって……」
ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン……
そのときちょうどチャイムがなる。
「さ、チャイムも鳴ったし早く座ろ」
美樹ちゃんにそう言われて席につく。
それから育人君と美樹ちゃんは二人で先生が来るまで話しこんでいた。
私と仁志君はどことなくそれにふてくされていたようだった。

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