第二話(S) 近所への挨拶
新しい家にようやくつき、その二階建ての家を眺めた。 ここが次に住む家か……。 そう思いつつ、新居に入りその心地を確かめる。 家は迷路のようには入り組んではいなかったし、そう広くもなかった。 しかし、前に誰かが住んでいたということを思わせる空気だった。 「皐月〜、家具を入れるの手伝って〜」 お母さんの声を聞いた私はその作業を手伝いに走った。 引越しには家具の運び入れは当然といえば当然だ。 しかし、こうして転勤族であるということはそれはただの宿命でしかない。 もう何度もこうして運んでるものだからすっかり慣れてしまった。 それでも重いことには変わりはないが。 やっと一通り家具を家へ入れ終えた私はリビングのソファーへと腰掛けた。 引越しの作業で疲れたのでゆっくりと休憩しようと思った。 でも…… 「皐月〜、引越しの挨拶に行くわよ〜」 お母さんがさっきと同じ口調で呼ぶ。 これも結局転勤族の運命というしかない。 無論、隣人とは仲良くするのは当然のことだが。 いつもと同じノリで大して着飾らずに、再び家を出た。 まずは家の左側の家から。 左側の家は古風で日本って感じの家。 縁側で浴衣を着てスイカを食べながら花火を見る姿が似合いそうなところだ。 ピンポーン、ピンポーン その家のインターホンから男の人の声が聞こえてきた。 「どなたですか?」 「隣に引っ越してきた岸原と申します」 「しばらくお待ち下さい」 そう聞こえたかと思うとすぐさま玄関が開いた。 「改めまして、隣に引っ越してきました岸原と申します。大した物ではありませんがお近づきの印に」 そういってお母さんは手に持った袋を手渡した。 いかにもまとめて買ったかのようで形からしてタオルか何かだろう。 「それではよろしくお願いします」 そういって私とお母さんは頭を下げてその家を後にした。 一度家に戻り再びタオル(だろうと思われるもの)を家から取ってくる。 そして、今度は新居の右方。 こっちは白壁の直方体のような家。 玄関までの道もそう長くはなく、その両脇は芝生だ。 ポストもどこにでもありそうな棒の上に赤い箱が乗ったもの。 お母さんは早速チャイムを押す。 ピンポーン、ピンポーン... その直後、バタバタバタ……と家の中から音がした。 そして、ドアが開く。 出てきた人は女の人だった。 「隣に引っ越してきました岸原と申します…」 さっきと同じような感じで挨拶が進んでいく。 この人はたぶん二階から降りてきたのだろう。 でも息はあがってはいなかった。 相当体力のある人なんだろうなぁ。 そう思っているうちに挨拶は終わった。 やはりさっきと同じようにタオル(らしきもの)を渡したようだ。 そして今度は向かいの家。 さっきと同じように家に戻る。 その途中何か視線を感じたが、それはさっきの家の二階から。 二階はさっきの家の人が降りてきたはずだから他にも誰か上にいたのか……。 そういえば、お母さんが言う人らしき姿は見なかった。 まだ学校から帰ってきていないのだろうか。 そうして向かいの家へと向かった。 |