第三十九話() 神社

『夏』といえば泳ぎに行ったり、すいかを食べたり、夕涼みをしたり、まあ色々ある。
その中でもやはり一二を争うのは納涼祭と花火大会じゃないかと僕は思う。
八月に入って間もない頃、ここ大久市では納涼祭が開かれる。
花火大会はまた別にあって、もう少し後の方だ。
もちろんこの市をあげた祭りには皐月さんと行く予定になっている。
大抵こういう祭りではいつもアベックが多くて、一人身でいるには居心地の良い場所とは呼べない状況になる。
だから大半の人はここに家族連れできたり、恋人同士できたりする。
そんな中で僕と皐月さんは祭りデビューというのだろうか。
二人で祭りに来るのは初めてだ。
皐月さんはどうやらこの祭りに自前の浴衣を着てくるらしい。
皐月さんの家で浴衣なんて見たことがないからどんな柄なのかも僕は知らない。
一方、僕は浴衣なんて持ってはいないから普段着のままで行くことにした。
なんともそれは普通過ぎる組み合わせだけども仕方ない。
納涼祭の舞台となる神社の近くでは数日前から準備が進められていて、もう随分さまになって来ている。
そして、納涼祭当日。
僕達は駅前で待ち合わせをすることにした。
納涼祭の舞台である神社は駅から線路沿いに歩いた先だからここが一番ベストである。
もちろんこんな日だから駅は祭りに行く人で群がえっている。
だから二人であの時計の下と、場所を決めておいた。
皐月さんが乗る予定の電車の到着時間の二、三分ほど前に僕は駅についた。
駅の構内や、前の公園には待ち合わせている人が多く、その中を掻き分けて時計の下へとたどり着いた。
それからしばらくして駅に電車が到着し、構内から乗っていた人が出てくる。
その出てきた人の中から皐月さんを探そうと思ったが、なんせ浴衣を来ている人が多く、さらに柄も聞いていないので探しようがなかった。
とりあえず出てくる人の顔を確かめて皐月さんを探す。
僕は出てくる人の波がおさまろうとした頃にやっと皐月さんの姿を見つける。
それと同時に皐月さんも僕の姿を確認したようで、僕の方へと歩いてくる。
「よっ」
「ねぇ、この浴衣似合う?」
僕は例にならう。
「もちろん。似合わない柄の浴衣なんてものがあったらそれを見てみたいものだよ」
「そうは言っても私に奇抜な柄は似合わないと思うけどな……。例えば赤が主色だったりとか」
「まさか一色統一の浴衣なんてないでしょ?味気ないから作ろうと思う人はいないよ」
「そう?まあこの浴衣が似合うのなら別に良いんだけど」
「そういえば花火大会も浴衣で来るんでしょ?」
「もちろん。あるからには着ないと勿体無いでしょ?」
「まあ、そうだけどね。それと同じのを来てくるわけ?」
「違う柄のほうがいい?ないこともないんだけど」
「うん、他のも見てみたい気もするな」
「そう?ならそのときは替えてくるけど……。まあ、とって一つだけじゃなくて色んなのを交互に出して来ないとね」
「うん。僕もそう思うよ。それより、そろそろ行かない?」
「そうしよ。波も引いてきたし」
それから僕らは神社の境内を巡り、その催し物を楽しんで歩いた。

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