第三十六話() 大久にて

日曜日。
今日は美樹と買い物に行く約束をした日。
二時に駅に集合の約束なんだけど……。
でも、今あの黄色の時計が指す時間は二時十分。
そして美樹の姿はない。
美樹を探してうろうろしていると駅の方へと向かう、仁志の姿を見つける。
「よぉ、仁志」
「ん?育人か……。駅にいるところを見るとこれから何処か行くのか?」
「ああ、ちょっと買い物にな。仁志は?」
「俺?俺は……まあ、何処でもいいだろ」
「何処でもって……」
「それより電車来るから。じゃあな」
仁志は時計を確認しながらそう言って駅の構内へと走り去ってしまう。
電車が来るってことはダイヤまで確かめているってこと?
一体何処へ行くつもりなんだろうか……。
「育人、ごめん。忘れ物取りに帰ってたら遅くなっちゃってさ……」
それを聞いて振り向けば美樹がいた。
「いいよ、別に。そんなに待ってなかったし」
「そう?ならいいけどさ。ところで、今のって仁志?」
「えっ、そうだけど」
「おかしいな。さっき家を出てから取りに帰る間に電話があったらしくて」
「へぇ。なんて?」
「いるかいないかって訊いたらしいけど。多分うちに来るつもりだったんだと思うけどさ」
じゃあ仁志は始めから電車を使って行くつもりでもなかったのか……。
「僕は仁志に何処行くか訊いたんだけど曖昧なまま行っちゃって」
「へぇ……。まあとりあえず電車乗らない?」
「うん」
それからホームへ向かって電車に乗る。
そして大久駅で降り、デパートへと入る。
「半月振りかな。ここは」
「美樹は何か買うものあるわけ?」
「私も皐月ちゃんのプレゼント買いに来たんだけどさ」
「へぇ。それで買うもの決まってるの?」
「一応ね。育人は?」
「僕は……まだ……」
「まあそりゃ、付き合ってるんだから増して悩むよね」
「うん……」
「いいんだって。そんなに気を利かせなくても。その気持ちが嬉しいんだからさ」
「それはわかってるよ。でもあげるものだから悩まないわけにはいかないし」
まさか適当に選んで買っていくわけにもいかないし……。
「まあそりゃね……」
「それに今日は十九日でしょ?誕生日まで五日しかないし。しかも今日が最後の日曜日」
「でも私は仁志に凝ったものあげてないけどね」
あのクリスマスプレゼントは凝っていると思うんだけど。
「へぇ。マフラーは凝ってないわけ?」
「えっ、マフラー?あれは話してても編めるから」
「皐月さんと?」
「えっ……。まあ、そうだけど」
「僕も何かできたらいいんだけどな」
「大丈夫だって。そんなプレゼントの一つや二つで皐月ちゃんが嫌いになるとも思えないし」
「でも約束したからにはあげなきゃならないでしょ?」
「それはもちろん」
「ならやっぱり選ばなきゃならないし……」
「まあそう気を落とさなくても……」
「う〜ん……。じゃあ美樹は何買うわけ?」
「私?私は……まあ別になんでもいいじゃない」
美樹も仁志と同じだし……。
「私は私なりに気持ちのこもったものを送るからさ。育人も育人なりに……ね?」
と、言われてもなぁ……。
そして無事に決まって、帰りの電車で──
「そういえば美樹と仁志ってどっちから告白したわけ?」
まあ僕と皐月さんは皐月さんからだけど、二人のおかげで察したのは皐月さんが先だしな……。
「私はね、仁志に告白されたんだけど。まあ別にそのときは好きな人もいなかったし。別に仁志が嫌いというわけでもなかったし。それにお互い長い付き合いでよくわかってたからOKしたんだけど」
へぇ……。
「だからもし仁志に告白されるまでに育人が告白したとしても私はOKしてたと思うしさ」
まあ嫌いじゃないけど……。
でも僕としては幼馴染みであって恋愛対象としては見てなかったし。
「今は勿論仁志が好きだよ?こうして付き合ってるしね」
でもこうして美樹と二人で座っていると何処から見てもカップルだと思われているに違いない。
そう思えば仁志にとってはいい迷惑だよな。
「ならこんなことしてていいわけ?」
「大丈夫。それは私が保証するからさ」
その辺は任せてしまって良いものか……。
「で、この後どうするわけ?」
「どこに行くのも構わないけど。なんなら家来る?」
幾らなんでもそれは拙いでしょ……。

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