第三十五話() 電話U

週末の金曜日。
夕飯を食べた後、TVを見ていると電話が鳴った。
ピリリリリ、ピリリリリ──
こんな時分に誰だろうと思い電話をとる。
「もしもし、三野木ですが」
「あっ、育人君?」
皐月さんか……。
「皐月さん?何かあった?こんな夜分に」
「えっ、ちょっとね……。今時間ある?」
「あるけど……」
「じゃあ、しばらくこうして話しててもいいでしょ?」
「うん。もちろん」
しばらく……って、そんなに長い話だろうか。
「ええっと……。実はお父さんの会社、潰れちゃって……」
潰れたって……倒産!?
「えっ……」
「だからもう、ここから他へ引っ越すこともないんだ」
まあそりゃそうだけど、でも……。
「え、でも……」
「あれ、嬉しくない?」
嬉しい?
皐月さん、何を言ってるんだろう……。
「嬉しいわけないよ。倒産ってことは職を失ったってことでしょ?なんでそれが嬉しいのさ?」
「あっ……。ごめん、再就職先はもう決まってて……」
何それ……。
そういうことは先に言ってもらわないと。
「だから勤めるところが変わったってだけで……。他はそんなに変わらないから」
「へぇ……」
「寧ろ、転勤で引っ越すこともなくなったから。これ以上育人君と離れることもないだろうし」
「そう……」
まあそのことは素直に嬉しいんだけども。
「それを育人君に伝えておきたくて……」
「それは……ありがとう」
なんだか、微妙な感じ……。
「そういや電話番号教えてなかったよね?」
そういや教えてもらってなかったよな……。
「えっ、うん。うちのは教えたけど」
「じゃあ教えておくね」
「うん」
「○○○○-××-□□□□ね」
「わかった。じゃあまた掛けたいときに掛けるよ」
「うん」
ああそうだ、二十四日の放課後は空けておいてもらわないとプレゼントの渡すときがない。
「……そうだ。二十四日の放課後って時間ある?」
「部活あるから……。その分は遅くなるけどね」
「それは僕も一緒だけど……。じゃあその日はよろしく」
「うん。楽しみにしてるね」
「期待してて」
部活で思い出したけれど、皐月さんは何部に入っているのか、今だにわからないんだっけ。
この際だし、訊いておこう。
「そういや……部活って何所はいってる?」
「えっ、私?私は手芸部だけど」
たしか趣味も手芸だって言ってたよな。
「へぇ。手芸部か……」
「育人君は?」
「僕はテニス部」
まあ中学校で入ってたから高校でも……ってだけだけど。
「へぇ。私はどちらかというと文化部のほうがいいかな……」
「運動は嫌?」
「そんなことはないけど。ただ書いたり作ったりするのが好きなだけ」
「じゃあ小説とか書いたりしてるわけ?」
「小説は書かないけど。詩くらいならたまに」
「へぇ詩か……。見てみたい気もするなぁ」
「えっ……。あれは幾ら育人君でもちょっと……」
「そう……」
「育人、お風呂空いたわよ〜」
と、お母さんが僕を呼ぶ。
「あっ、そろそろお風呂行くから切るよ」
「うん」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ〜」
──ガシャン
う〜ん、僕は安心していいものか……。

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