第三十三話() 電話T

二月十一日、土曜日。
明日は皐月さんの家に行く、その二回目。
聞くところによると今度はケーキを作って待っているらしい。
それもあってか、駅からは僕が美樹と仁志を案内していくことになった。
まあ、あれだけ近いから迷うこともないだろうけど。
朝はまたいつも通り二人で学校へ行って、話して、普通に過ごしていた。
今日は部活がないものだから家でゆっくりとしていられる。
と、いえども勉強はしなくてはならないのだけども。
昼ご飯を食べた後、二階の自室にてしばらく勉強をする。
それにある程度、きりがついて布団の上で横になって漫画でも読もうかと本棚から一冊取り出すと、一階にある電話が鳴った。
ピリリリリ、ピリリリリ──
その電話をどうやら下にいたお母さんが取ったようで、部屋はまた静かになる。
しばらく呼ぶ声もないので僕に掛かってきたのではないのだろうと思い、また漫画へと目を戻す。
「育人、電話よ〜」
掛かって、受けてからしばらく経っているから、その間は電話の相手とお母さんが話していたということだろうか。
ともかく漫画を伏せておき、階段を駆け下り、電話を受ける。
「もしもし」
「私だけど。今から行っていい?」
電話の相手は、皐月さん。
道理で僕に替わるまで時間が空いたわけだ。
「今から?別にいいけど」
「じゃあ二時過ぎにね」
「うん」
──ガシャン
僕が二言、三言話したのち電話は切れた。
確かに『来たいときに電話でも』って言ってたけど……。
学校では何も言ってなかったのに電話も突然掛かってくるものだ。
─そして二時頃─
ピンポーン……。
家の呼び鈴が来客の知らせをする。
二階に居た僕は階段を降り、玄関へと向かう。
「あ、育人君」
「ささ、早くあがって」
「うん」
そして、二階の自分の部屋へと案内する。
そして洋風布団の上に二人で腰掛ける。
「急だったから何もないけど……」
「えっ、ううん。別に構わないよ。私だって急に押しかけたんだから」
と、言っても本当に何もないしな……。
「そう?」
「そうそう。私も育人君の部屋が見たかったし」
まあたしかに僕は皐月さんの部屋には行ったけれども、皐月さんは僕の部屋を見てないしな。
「……ところでさ、なんで私のことが好きだってそう思ったの?」
って、何故突然そんな話に?
「えっ……。う〜ん、なんていうのかな。一目惚れっていうやつ?」
「じゃあ根本的な理由はないわけ?」
「と、いうと……どこがどうだからとかそういうの?」
「まあ、そういうこと」
って言われても、何をどう……。
あえて言うなら皐月さんが越してきたあの日のことなんだろうけど、言うにも言えないし……。
「う〜ん、言うのはなんだけど、そういうのは別に……」
「そう……」
「じゃあ皐月さんは?」
「えっ?私?」
「あの遊園地の観覧車で先に言ったのは皐月さんでしょ?」
「まあ、そうだけど。あれは……」
「あれは?」
「あれは……ああでもしないと、育人君、言ってくれそうになかったから」
「え……」
まあたしかにあんなにいいチャンスだったのに自分からあんなこと、言い出そうとも思ってなかったよな……。
「まあ私もあれ以前から好きだったんだけど……一種の切っ掛けってやつで」
僕が言うための……切っ掛けか。
「へぇ……。で、なんで僕なんか?」
「『なんか』なんて言わないでよ。好きでいる私の立場がないじゃない」
「うん……。で、何故僕のことを?」
「なんだかこう……自然にね。もしかしたらあの二人に言われたせいかもしれないけど」
あの二人って、また仁志と美樹?
「へぇ。なんて?」
「あの席替えのときに、美樹ちゃんと仁志君が『育人君が私に惚けてるんじゃないか』なんて言うから」
「えっ……」
なっ、なんであの二人、そんなこと、皐月さんに言ってるんだよ……。
それじゃあんまりじゃないか、二人とも……。
と、まあ僕は知らぬ前に林檎になっていた。

←32   (I)   34→

タイトル
小説
トップ