第三十一話() 訪問

そして、一月も終わり二月に入ってその最初の日曜日。
今日、二月五日は皐月さんが越してから二度目の日曜日。
と、言うことは今日はいよいよ皐月さんの家に遊びに行く日。
ところで美樹と仁志はあれから相変わらず。
美樹は喧嘩してる気はないらしいし、もちろん僕とも何時も通り話してくれる。
そして四人で話しているときなんかも仁志と話しているときに美樹に振っても受け応えはしてくれる。
でも美樹から仁志に話しかけることはない。
一方仁志はあれがかなり効いたらしく美樹がいるところでは、あまり喋らない。
まあ受け応えもしてくれるのだけども、一言程度で。
まる一週間経った筈なのに、こんな調子で大丈夫だろうか……。
それも含めて皐月さんとは二人だけで色々と話したいと思う。
一昨日の金曜日に待ち合わせの時間などを決めた。
それによると今日、五日の三時に瑞井駅にということだった。
恐らく三時という時間はおやつの時間帯だからだろう。
その瑞井駅まではここから三十分ちょっと。
それを見越して二時二十分くらいに用意を済まし、家を出る。
そして単身、電車に乗り、瑞井駅に着く。
ここは駅前に大きな映画館があって、仁志とも某映画を見に来たことがある。
この映画の入り口辺りで待ち合わせとのこと。
改札を抜けホームを出て映画館を目指そうとしたところ、ちょうど皐月さんの姿が見えた。
どうも皐月さんも映画館を目指して歩いている途中らしい。
そこへ駆けてゆき、早速声をかける。
「よっ」
「あっ、育人君。今の電車で着いたところ?」
「うん」
「じゃあ行こう。ここから少し歩いたところだから」
と、いうわけで駅から皐月さんの新居へと移動。
まあ新居といえども借りてるんだそうだけど。
そしてしばらく歩いたところにその家はあった。
玄関先はコンクリ張りで、駐車場っぽくなっていて、家と同じような赤いポストがその中に立っている。
家は二階建て、両隣には同じような家が並んでいる。
向かいは空き地で売り出されている模様。
「さあ入って」
と、皐月さんに誘導されて家に入るとそこには皐月さんのおばさんがいた。
「こんにちは」
「こんにちは……ってあら、育人さんじゃない。皐月、お客さんって美樹ちゃんじゃなかったの?」
「え、うん……」
"美樹ちゃん"ってことは美樹もよく皐月さんの家に遊びに来てるってことだろう。
「ささ、育人君あがって」
「えっ、うん」
その後、おばさんに軽く会釈をして、言われるがままに二階へとあがる。
して階段を上がった先の突き当たりの部屋へと入る。
「まだ片付けきれてなくて散らかってるけど……」
皐月さんはそう言うものの、僕からしてみれば綺麗に整った部屋だ。
部屋は八畳くらいで、窓は二つ。
その四角い部屋に本棚と勉強机、ベットなどがおいてある。
その広い部屋の真ん中に円卓があり、そこに二つの座布団がある。
「先に座って、くつろいでて。クッキー取ってくるから」
そう言って皐月さんは部屋を出ていき、僕はその部屋に取り残される。
僕はてっきり皐月さんの部屋なのだからいろいろと着飾った部屋だと思っていた。
でも意外にシンプルで、とりあえずは必要最低限のものしか置いてない。
そして部屋の隅にはまだ片付けきれていないダンボールの箱が幾つかある。
二週間目ではまだはやかったか……。
そんなことを思っていると、皐月さんが戻ってきた。
「お待ちどう」
そう言って皐月さんが空いた片手で扉を閉めると、扉は閉まりきらずに半開き状態で止まっている。
そして、皐月さんは机にクッキーを置いて、座布団に座って、はぁと溜息一つ。
「……どうかしたわけ?」
「……実は付き合ってること、バレちゃって」
う〜ん、うちも月曜の件で怪しいって思われてるんだけど……。
「別に気にすることないって。どっちみち何時かはバレるんだし」
「そりゃそうだけど……」
「それにこそこそと隠れる必要が無くなったんだし」
「うん……」
「というか、うちもそろそろ危ないんだけど……」
「えっ?」
「だって月曜から朝にうちに来るでしょ?あれからずっと疑われてて」
「……」
「いや、まだバレてはいないよ?」
「なんだ、なら別に話しちゃってもいいよ。というかそれなら話しておいてくれない?」
「え……」
「そのほうが育人君ちに行くのも楽になるしさ。お願い」
そんなお願いってあり……?
でも僕としてもそのほうが気が楽になるしいいかも。
「う、うん」
「では一段落ついたところで、お先に頂きま〜す」
と、言って皐月さんはクッキーを口に運ぶ。
って、僕のために作ったクッキーじゃなかったっけ。
まあ美味しかったからいいか。

←30   (I)   32→

タイトル
小説
トップ