第二十九話(I) 理由(わけ)
はぁ……。 さっきから自分の部屋の布団の上でちらちらとカレンダーを見て溜息をつく……その繰り返しだ。 何故かといえば今日が土曜日であって、皐月さんが瑞井へ引っ越す日だからだ。 たしかに瑞井は近いし、高校でも会えるし、遊びに行こうと思えば行ける距離だ。 でも家が隣にあるということと比べると格段に遠い。 カレンダーの日付を何度も確かめてみるものの、やはり今日は土曜日。 今日の朝、いつものように挨拶を交わしたときに訊いたところによると三時くらいに家を出るらしい。 今はその三十分ほど前。 三十分といえば、朝の新聞を取りに行く時から学校へ行くために家を出るまでの時間と同じ。 皐月さんが瑞井に引っ越してしまうということは登校は駅からということになる。 駅はここから学校を通過してしばらくいったところ。 ということは、もう二人で学校へ行くということは無くなるということになる。 普通に暮らしていれば会うことができるのは唯一、学校だけ。 まあ、片想いならそれも切なくなるけど……。 でも付き合っているという関係にある限りデートにいくことは勿論ある。 初デートの遊園地以来、特といって二人で何所かに出かけるなんてことは無かった。 それはわざわざそういう機会を作らなくても隣の家だから会おうと思えばいつでも会えるからだ。 でもこれからはそうでなくて、機会を作らない限り学校でしか会うことができなくなる。 ということはデートか……。 なんだかそれが嬉しいんだか悲しいんだか、考えれば考えるほど分からなくなってくる。 まあ遠くなるわけだから寂しいことには相違ないが。 とにかく、いいこともあれば悪いこともあると、そういうことにしておくか……。 ところで、仁志と美樹の関係はどうなったかというと、あれから何も変わっていない。 美樹とどうやって仲直りするかその方法について僕はあれから仁志といろいろ談議を交わしている。 しかし解決策がなかなか見つからない。 それで一昨日の木曜日の朝、皐月さんに美樹はどうなのか訊いてみた。 「あれから仁志と美樹、ずっと喧嘩してるって感じでしょ?」 「うん」 「それで昨日美樹と話してたみたいだけど……どう?」 「美樹ちゃんは仁志君と喧嘩してるとは思ってないみたいなんだけど」 あれはどう見ても喧嘩しているようにしか見えなかったんだけど。 「えっ、なら喧嘩してると思っているのは仁志だけなわけ?」 「やっぱり美樹ちゃんのいう通り分かってなかったのか……でも普通は気付くはずないと思うけど……」 「えっ?」 「あっ、こっちの話だから気にしないで」 「そう?じゃあ美樹が突然焼きもちなんか焼いたわけは?」 「えっ、焼きもちのわけ?あれは焼きもちなんかじゃなくて……」 と、皐月さんが笑いながら言う。 う〜ん、何か可笑しなことでも言っただろうか。 「じゃ、じゃあ美樹が怒ったわけは?」 「う〜ん……それは、ひ・み・つ」 ひ・み・つ……ってそんなのあり? 「あ、そうだ、また電話かけたいんだけど電話番号教えてくれない?」 「えっ、うちのは○○○○-△△△-×××だけど」 「じゃあ何か用があったらかけるね」 「う、うん」 てなわけで、結局美樹はそんなに怒ってないということはわかった。 でもこれじゃ仁志は気が楽になるだろうけど、僕にとっては何も解決したことになっていない。 僕が知りたいのはあのとき美樹が焼きもちなんて焼いた理由なのに……。 なんだかそれ以上訊くのもしつこいような気がしたので止めておいたのだけども、なんだかすっきりしなかった。 一応、仁志には美樹はそんなに怒ってないとは伝えておいたけれどまる一日話していないせいかどうも話し掛けにくいらしい。 結局、一昨日も昨日も今日の午前中も仁志は美樹と話していない。 これでは何も解決していないし……。 一体、二人はどうなるのやら。 と、いろいろと回想を巡らしているうちにあと五分ほどになった。 とりあえず、外へ出て皐月さんを見送ることにするか……。 |