第二十八話() 喧嘩?

引越しのこともあってか、昨日の朝の皐月さんはいつもとは何かが違っていた。
しかし、昨日の昼休みからはまた元通り。
今日の朝なんかは、それこそ例の約束の話とかもしていた。
おかげで皐月さんが引っ越すことに対して僕も大分気楽になれた。
それこそ話に没頭しすぎて時間をすっかり忘れてしまっていたものだから、危うく共々遅刻してしまいそうになるくらいで。
ともかくそれほど僕と皐月さんはすっかり打ち解けてしまって。
その分仁志や美樹には遊園地の件で借りが出来たわけだけども。
それでも部活のことは思い出すたびにまた忘れてしまうものだから未だに訊けず終い。
何時になれば訊けるのだろうか、それは定かではない。
そんな僕と皐月さんの仲とは対照的で、昨日の一件から仁志と美樹は仲が悪い。
勿論二人とも僕や皐月さんとは喋るのだけども、仁志は美樹、美樹は仁志の話が出てくると黙ってしまう。
それに喧嘩の原因が皐月さんの新居のことだから皐月さんも二人に大分気を遣っている。
無論、僕にも関係があることであってその分僕も気になって仕方がない。
それに二人とも友達付き合いが長いし、二人には仲直りしてほしい。
二人は付き合っていると噂される以前、それこそ小学校以前からずっと仲がよかった。
それから今まで僕の知る限りでは二人が喧嘩なんてしたのは一度も見たことが無い。
僕は仁志と喧嘩くらいしたことはあるけども……。
だから言ってしまえば仁志は僕とよりも美樹との方が仲がいいと思う。
まあ『喧嘩するほど仲がいい』という言葉もあるからはっきりとは断定も出来ないけれども。
そんな美樹と仁志が喧嘩なんてしてるのは僕も見るのは初めてで、どうすればいいものなのか悩んでしまう。
それは皐月さんも同じみたいで今はどうすることもできない状態で止まっている。
で、僕のことも美樹のこともあるはずなのに仁志が何故突然あんなことを言い出したのか。
とりあえずその真意は訊いてみることにした。
あくまで前提は、僕がいるのに……ということでだが。
昼休みに弁当を食べ終わってから―─食べている間はどうも美樹のいる場だし訊きづらいので―─早速訊いてみる。
「なあ仁志、昨日皐月さんの家に行きたいって言ってたよね?」
「ああ……。それが?」
「あれってさ、何で?」
「何でって訊かれてもなぁ」
「僕が皐月さんと付き合ってることくらい、百も承知でしょ?」
勿論、二人には喋ってあるから知らないはずが無い。
「ああ……」
「なら、何故わざわざ僕の立場が無くなるようなことを?」
と、昨日の僕の立場上のことを話す。
「……」
「それも美樹に嘘ついてまでさ」
「また美樹のことか?」
と、ついうっかり美樹のことを話すとこうなってしまうわけで……。
「う〜ん……」
「美樹とは、縁りを戻したいけど……この通りだしな」
なるほど、仲直りはしたいと思っているわけだ。
「しかし……なんで嘘なんか?」
「なんでって訊かれてもなぁ、なんかついムキになって……」
ムキになって……ってそれでは説明になってない。
「第一、何で皐月さんのとこに行きたいなんてことを突然?」
「俺は美樹と一緒に行こうかと思ったんだけどな。それにしても美樹があそこまで怒るとは思わなかった……」
「ああ、美樹にしてはまた随分怒ってたし……それにあれは焼きもちだよね?」
「たぶんな……今まで美樹が焼きもちなんて焼いたことなかったしな。あの時は流石に俺も驚いたよ」
……じゃあ結局美樹が焼きもちなんて焼いた理由は何だろう?
さっき皐月さんが美樹と話してたけど……あとで訊いてみよう。
「それはもちろん僕だって。喧嘩こそ初めてじゃないか?」
「ああ。美樹と喧嘩なんていままでしたことなかったしな。それこそどうやって美樹と仲直りしようか……」
「う〜ん……ならさ、僕に任せてよ」
「任せて……いいのか?」
「まあ、任せておいてよ。どうにかするからさ」
と、僕が仁志に皐月さんとのことの借りを返す形になった。
しかし勢いに乗って引き受けたけどもどうするべきか……。

←27   (I)   29→

タイトル
小説
トップ