第二十六話(I) 違和感

次の日。
僕は布団の上でふと過去のことを思い出していた。
中学二年の頃、僕は一人の女の子を好きになってしまった。
その時は経験豊富(?)な仁志に相談に乗ってもらっていた。
どうも自分の想いを自分から上手く伝えることができなくて。
それで、仁志に一役買って出てもらって付き合うこととなった。
そのときは別に片思いと言うわけではなくて、向こうも些か気はあったらしい。
それでもちろん夏休みにはデートに行ったりした。
しかし三年生の二学期の終わりがけに、わけあって別れてしまった。
聞いたところによると別の高校に無事に進学したらしい。
でも別れてからというもの一切の連絡は取り合ってない。
だから今どうしているとかそういうことは知る由もない。
僕としては卒業式くらいまで引きずっていたけれども……。
高校に入ってからは気分一新、何とか付き合う以前の状態に取り戻せた。
だから今更悔やむものとか心残りはないつもりだ。
一方、仁志と美樹は小学校の頃からずっと付き合ってはいるものの大した進展はなかったらしい。
鴛鴦(おしどり)夫婦ならぬ、鴛鴦恋人って感じで。
二人が同じ高校にいるのは高校が近かったと言うこともあるが、たまたま志望校が一緒だったかららしい。
あくまで聞いた話だから真相がどうなのかは知らないけども。
それに仁志にしても美樹にしても他の異性と付き合いがないわけではない。
二人とも大方の人には友好的だし、仲良くやっている。
二人が付き合っているらしいということはすでに学年中に広がっているようなものでそれに介入しようとする人もいない。
だから現状維持で進みもなく戻りもしないという関係を保っている。
勿論学年の中には他にも付き合っている人はいるし、噂されている人もいる。
だから仁志と美樹だけがそういう関係にあるわけでもない。
そんな中で僕は半年ほど心を捕われない生活を送ってきた。
そこに皐月さんが転校して来たことは転機であって……。
って、そろそろ行かないと。
自分の部屋を出て、階段を降り玄関の扉を開ける。
そこには一面の銀世界が広がっていた。
皐月さんはまだかなと家の方を見ると既にいて、空を眺めている。
「おはよ〜」
と、声をかけてみるも、返事はない。
依然として空を眺めているばかりで。
「……皐月さん?」
「あっ、おはようっ」
と、ようやく気付いたのか皐月さんが振りかえる。
いつもなら出てきたら直ぐに声をかけてくるのだけども。
何かおかしいなと思い尋ねてみる。
「おはよう。それより何かあったわけ?挨拶しても、返事ないし」
「えっ、別に何もないよ?いつもと同じ」
って、そんなはずはないと思うのだけども。
「そう?」
「そうそう。じゃあまたいつもの時間にね」
「えっ、うん」
皐月さんはそう言い残すと新聞を早々と取りに行き、家に帰ってしまう。
取り残された僕は仕方なしにとぼとぼと新聞を取りに行き家に戻った。
――それから30分ほど――
「待った?」
「いや、今出てきたとこ」
と、いつも通りの会話を交わして歩き出す。
新聞を取りに行くときの調子とはまた何かが違うような気がする。
でもそれからしばらく二人とも喋らない。
そのしんとした感じがまるで何かを待っているような感じで。
何か言わなければならないようなことがあっただろうか。
そう思った矢先、皐月さんが口を開く。
「そういや、趣味って何?」
「えっ趣味?僕は読書かな」
「読書?例えばどんな本?」
うちの書斎にはたくさんあるけど……。
やっぱり例をあげるなら有名なものにするべきか。
「あの映画化された海外のファンタジーとか……」
「へぇ。あれは美樹ちゃんと見に行ったことがあるんだけど」
「僕も仁志と行ったけど……。じゃあ、皐月さんの趣味って?」
と、誕生日プレゼントのこともあるので一応訊いておく。
「私?私は……手芸とかもやるけどやっぱりお菓子作りかな」
「ってことは、ケーキとか作ったりするわけ?」
「うん。クッキーとか、そういうの」
「へぇ。それは皐月さんの作ったものだから、美味しいんだろうな」
ケーキとかクッキーか……。
皐月さんの作ったものならまた機会があるときに食べてみたいなと思う。
しかし、これは誕生日プレゼントの参考になるかどうか……。

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