第二十五話(I) 敵(かな)わぬ相手

あれからまたいつもと同じように学校についた。
学校では、四人で昨日の想い出話に耽っていた。
その、毎度毎度の昼休み――
「それで、ピンクの観覧車の意味って?」
と、皐月さんが美樹に向かって尋ねる。
「あれ、乗ったんでしょ?」
「うん」
「なら、何か気付かなかった?」
「えっ、普通の観覧車だったけど……」
「あれ、可笑しいなぁ……そんなはずはないんだけど」
「そうは言っても美樹と仁志は乗ってないんだろ?」
「ああ、そのときは一つ手前のに乗ってしまってな」
と、割り入った僕に仁志が答える。
「うん、それで仕方なしにそのまま一周したんだけど」
と、美樹が相槌を打つ。
「それで、ピンクの観覧車の意味は?」
「ああそれは、あれに乗ると片思いが両思いになるって噂があって……」
それを聴いて僕と皐月さんは顔を見合わせる。
噂も何も実際付き合ってるし……。
「それでどう?」
「どうって言われても……」
「ほら何か、展開とかあるでしょ?」
展開って何……。
って、今日はやけに美樹が積極的だなと思う。
それに引き換え、仁志は怖いほど静かだ。
「展開?いや、以前のままだよ?ね、育人君」
「えっ、う、うん」
「ホントに?」
「も、もちろん」
「へぇ……」
と、美樹が疑わしい目で見る。
「二人共、今日一緒に学校に来ただろ?」
仁志のその突然の言葉に皐月さんが驚く。
「えっ、なんでそれを……」
「皐月ちゃん、やっぱり観覧車乗ってから何かあったんでしょ?」
と、美樹が待ってましたとばかりに尻尾を捕まえる。
正確に言うと観覧車に乗ってからではなくてそれ以前からなんだけど……。
「う、うん……。あれから、改めて付き合うってことになって……」
「やっぱり。そうじゃないかと思ってたんだ」
それから美樹はさらにハイテンションになった。
皐月さんは少しすっきりしたって感じ。
仁志はと言えば……相変わらず静かで。
でも、二人は肝心なところを聞き逃していることに気付いていない。
そして部活の終わった後――
僕は一人帰路についた。
皐月さんには未だ部活のことは訊けていない。
部活によって終わる時間が違うものだから、それがわからない限り帰りも一緒にというわけには行かない。
それでこうして以前と同じように一人で歩いている。
なんだか付き合っていると言う事実があるとこうして一人でいるのはどうも切ないものだ。
家につくと、二階に上がりいつもと同じようにカバンを開いた。
そして宿題を片付けて一階へと降りると時計はもう八時半を指していた。
うちはお母さんは専業主婦、お父さんは銀行員。
お父さんは単身赴任ではないものの帰ってくるのは遅い。
それに対してお母さんは家族で揃って夕食を食べたいと言うものだから、嫌でもこの位の時間になってしまう。
僕が降りた時分には既に机の上に夕食の準備はでき、お父さんも帰っていて、僕はその机の椅子へと腰掛けた。
「育人、最近学校はどうだ?」
「どうって言われても……今まで通り何も変わりないけど?」
「そうか?それにしては最近朝、読み始めるのがいつもより遅くないか?」
「えっ、気のせいじゃない?」
「それならいいが……」
「そうそう、お隣さんも同じ高校に通ってらっしゃるっておっしゃってたけど」
と、お母さんが話に割り入って来る。
「え、うん……一応」
まさか、付き合ってるなんてそうすんなりと言えるわけはない。
「それも同じクラスだって」
「えっ、うん。仲良くやってるよ」
仲良く……ってそれ以上の関係だとは思ってもいないだろうけども。
「そう?それならよかったわ」
と、こっちはなんとか押しきれた(?)ものの、いつバレるやら……。

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