第二十四話(I) 誕生日

遊園地に行ったその翌日。
また今日もいつもと同じようにパジャマ姿で階段を降りる。
そして、玄関の扉を開ける。
なんだかいつもより遥かに軽く楽に開いたような気がする。
それも昨日のことがあったからだろうか。
その家の玄関の扉が開くのとほぼ同じに皐月さんの家の扉も開く。
「おはよ〜、育人君」
「おはよ〜」
「今日も一緒に行くでしょ?」
「もちろん」
あの最初に皐月さんに誘われてからと言うもの朝はずっと一緒に行っている。
「じゃあまた三十分後ね」
ちなみに時間も例にならって三十分後。
「うん」
――それからおよそ三十分後――
学校へ行く準備もでき、早速玄関の扉を開け外へ出る。
昨日のあれからなんだか浮かれてて、そのせいか夜もなかなか寝られなかった。
それに三十分後にしては少し出てくるのが早かったような気もする。
皐月さんもまだみたいだし。
とそう思った矢先、皐月さんの家の扉が開く。
「待った?」
「いや、今出てきたとこだよ」
「それじゃあいこ」
「うん」
なんだか前に聞いたことがあるような気がする。
気のせいかな……。
ともかく昨日のあれから一掃距離が縮まったと思う。
付き合っているっていう事実ができたことよりも、そのことによってより気軽に話せるようになったことのほうが僕は嬉しい。
今までは何か一線が間にあったような気もするし。
でも流石に仁志と美樹みたいにはまだなれなさそうだ。
やはり小五からというその年月がものを言うのだろうか。
時は金なりというけども僕にとっても金では買えないほどその年月は貴重なものだと改めて思う。
「なんだかなぁ……」
って、突然何なんだろう。
「ん?」
「いやこうしていてもね、なんだかいままでとあまり変わらないなと思ってね」
変わらないといえば変わらないけど……。
とりあえず僕の気持ちの持ち様は見た目の部分よりも大分変わったと思う。
「そうかなぁ、僕は変わったと思うけど……」
「ん〜例えば?」
「前よりも気楽に話せるようになったかなって」
「育人君はでしょ?私は大して変わらないなぁ」
「何か変わって欲しいって、そう思うわけ?」
「う〜ん、だって付き合ってるってそういう実感があまりないし……」
「そうかなぁ……」
「少なくとも私はね」
「別にいいんじゃない?そのほうが気楽でいれるし」
「私は元(はじめ)からそういうつもりなんだけどな」
「う〜ん……」
たしかに言っちゃなんだけど、ここ数週間のうち変わっているのは僕だけか……。
最初の頃はまるで上がっててそれこそ話すらできなかったしなぁ。
それが今じゃ付き合ってるなんてなんだか嘘みたいで。
そういや、観覧車で訊こうと思って訊きそびれていたことを訊いておかないと。
「ところでさ、誕生日っていつ?」
やっぱりこれだけは早いこと訊いておいた方がいいだろうなと思い訊いてみる。
もう遅いかもしれないけど……。
「えっ、誕生日?」
「うん」
「二月の二十四日だけど……。育人君は?」
「ならもうすぐかぁ。僕は九月五日」
「ってことはもう十六?」
「うん」
「へぇ……。しかし、なんで突然誕生日のことなんか?」
「えっ、だってやっぱりそれだけは知っておかなきゃいけないでしょ?」
「じゃあ他のことは別に知らなくてもいいってこと?」
「えっ、別にそういうわけじゃないけど……」
って、他のことって何……。
「まあいいか。別にそんなに急ぐことは無いんだし。ともかく二月二十四日は楽しみにしてるよ」
「そりゃもうもちろん、期待してて」
とりあえず観覧車で訊きそびれたことも訊いた。
あとは何を送るか考えておくだけ。
しかし本当に何を送ればいいのだろう。
よく考えればまだ皐月さんのことは大して知らないような気もする。
なんだか少しだけど『他のこと』の意味がわかったような気もした。

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