第十九話(I) 家族

五時に集合すると約束した北ゲート。
仁志と美樹に二人きりにされてしまった僕達はとりあえずゲートを抜ける。
ここは入場料を払ったらあとは乗りたい放題。
ただ待つばかりのところ。
今日は流石に日曜日なので少し混んでいる。
目立った服でも着ていないと見つけるのに少々時間がかかりそうなくらい。
進むのには不自由はないけれども……。
その人ごみの中を皐月さんと二人で歩いて遊園地中央の大きな公園に出る。
公園の中央には噴水があり、その周囲にベンチがいくつか外向けに並んでいる。
噴水はそれほど大きいものではなくてどちらかというと、その周りの道や植え込みの場所のほうが広いくらい。
そしてベンチの前には桜の木が植わっている。
でも、冬なので枝だけしかなく、何処か寂しい。
そのベンチに二人で腰掛ける。
「それで……何に乗る?」
「もしよかったら、しばらくここにいない?」
「えっ、なんで?」
「なんだか、しばらくここでこうしていたくて」
と、似合わぬことを言って赤面する。
「ふ〜ん……」
なんだかイマイチな反応。
「私と二人っきりで?」
「えっ、それは……」
そりゃ、そう言われればそうなんだけど、どうも肯定しずらい。
「なら、ここにいよう。しばらく」
「う、うん……」
なんかこうすっかり皐月さんのペースに乗っている。
いつかの美樹との会話みたいな、そんな感じ。
あの時はすっかり弱って白状したんだっけ。
その結果、ここにこうしていられるんだけども。
「それにしても、美樹ちゃんと仁志君は何処に行ったんだろう……」
と、言いながら皐月さんは辺りをぐるりと見回す。
「あれってもしかして先生じゃない?」
皐月さんの指差したほうはちょうど噴水の反対側。
「そうみたいだけど……」
たしかにそこにいるのは先生らしい。
近くには奥さんや子どもも一緒にいるよう。
差詰、家族と一緒に遊園地に遊びに来たというところだろうか。
見る限り先生の子どもは二人で、小学校の二、三年位と五、六年位。
「ねぇ、行ってみない?」
「でも行ったところで迷惑にならない?」
「う〜ん、そうだね……」
先生の座るベンチの前にはソフトクリーム屋があって、どうやらそこのソフトクリームを食べているみたい。
食べ終わったのか、先生がゴミを正面のゴミ箱へ捨てに行く。
そして戻ってくるときになんだか見つかっては行けないような気がしてベンチの背もたれに二人して隠れる。
なんだかそれが可笑しくて二人して笑う。
奥さんと子どもも食べ終えたのだろう。
奥さんがゴミをまとめてゴミ箱へ持っていく。
そこからベンチへ戻ってくるときに奥さんの顔が見えた。
それこそ、先生にはもったいないんじゃないかと言いたくなるほどの美人だった。
それから先生の家族はベンチを立ち、公園の南側へ抜けていった。
「あれって家族サービスかな?」
「多分そうだと思うけど」
「でも先生に小学生の子どもがいるとは思わなかったよね」
「うん、先生訊いても歳明かしてくれないけど四十は流石に超えているだろうから余計に」
「あれ、先生の歳ってわからないの?」
「今年度来た先生なんだけど、何度訊いても教えてくれなかったからみんな諦めちゃって」
「そうなんだ」
「それから先生の歳は明かされないままで……でも少なくとも四十はいってるだろうなってみんな言ってるけど」
「へぇ……」
「おい、育人」
噴水の対岸を見ながら話していた僕は後ろから突然話しかけられて吃驚する。
そしてその声の主の方へ振り返る。
するとそこにはゲートで分かれたっきりの仁志と美樹が立っていた。

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