第十八話(I) 置いていかれて…

遅刻はしたものの無事に切符も買えた。
そして、時間通りに電車に乗ることもできた。
電車の中は日曜日の朝九時前だというのにそれが意外なことに空いている。
座るところは余裕を持ってあるくらい。
電車の座席は内側に向って座るものではなくて、進行方向に向って座る形式のもの。
その背もたれを前へずらし、四人が向かい合わせで座れるようにする。
そして進行方向の窓側に仁志が、通路側に美樹が、その向かいの窓側に僕、通路側に皐月さんが座る。
『毎度ご乗車有難う御座います……』
と、アナウンスが流れ電車は出発する。
もしこれが向かい合わせにならなかったら……果たして会話は成立しただろうか。
いや、そうなるとしたら僕は恐らく仁志の隣になるのか。
そういや最近はどうも仁志と喋っていないような気もするし。
それならそれもいいかもと思う。
「遊園地についたら別行動ね」
と、美樹が言う。
「えっ、別行動?」
と、皐月さんが訊き返す。
「俺は美樹と行くからさ」
やっぱり……。
美樹があの時僕からああいう風に聞いてそれを仁志に伝えてこうなったのだと思う。
仁志はあれなら聞いたとか何も言わないけれども。
でもそのあとでまさか一緒に学校に来るようなことになってるだとは思ってもいないだろうけど。
少なくとも二人はそうであろうことなど予想もしていなかったに相違ない。
それで結局これは遊びに行くと言いつつもWデートであって、最初から二人きりにするつもりだった。
なら最初からそのつもりで遊園地に誘われているわけか。
なんだかデートと聞くととても響きがいいように聞こえる。
別に今までデートをしたことがないとかそういうわけではないけれども。
『大久駅、大久駅……』
とアナウンスが入る。
『次は瑞井駅、瑞井駅……』
「それでいつ、どこに集合?」
「五時に北ゲートね」
なんだか予め想定していたように美樹が即答する。
五時か……。
着くのが九時頃。
五時までだと八時間もあるということになる。
随分長いなぁ。
それから電車は瑞井駅を通り、冨田駅につく。
その間は仁志と美樹が付き合い始めたのが何時だとかそんな話をしていた。
そして改札を通り、南口を抜け、バスに乗り遊園地へとついた。
一度ここへは来たことがあるもののそのときの記憶は曖昧。
どうもはっきりとは覚えていない。
だからあるのは来たという事実だけ。
だから見たこともないという状況に近い。
「なんか久し振り〜」
なんて、美樹が言う。
「じゃあ五時にあのゲートの前でな」
と、言い残して二人は入り口に向って駆けていった。
「とりあえず入らない?」
「うん」
そうして僕と皐月さんは五人の企てた計画に則ることとなった。

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