第十七話(I) 遅刻

大きな観覧車。
ピンク色のボディ。
その中に僕と……誰だろう。
その顔はぼやけていてあまりはっきりとは見えない。
ともかく二人で乗っている。
どこの遊園地にでもあるような形の観覧車。
その中に顔の確かめられない誰かと二人きり。
二人とも一言も喋ることがない。
でも、観覧車はそんなことを他所に回り続ける。
遠くの海に浮かぶヨットが風を受けて泳いでいる。
その見えない誰かがふと目を閉じる。
何故かそれだけははっきりと見えた。
そして僕は……ええっ!?
/
さっきまで観覧車に乗っていると思ったのに気がつくと何故か自分は自分の部屋で寝ている。
脇にあった時計を覗くと時計の針は8時25分を差している。
なんだ八時二十五分か……。
と、まだそんな時間かと二度寝をしようとしたその寸前で気がつく。
八時二十五分!?
今日は当の日曜日。
幾日も待ち焦がれた二十二日の日曜日。
二度寝なんかしてはいられない。
あと五分で西大久駅まで行く必要がある。
そして駅は歩いてちょうど二十分くらいのところにある。
こうゆっくりしてはいられない。
寝間着姿から一転、私服に素早く着替え階段を駆け下りる。
そして台所で用意してあった目玉焼きとご飯を急いで食べる。
さらにまた二階へ行き、昨日用意しておいたリュックサックを肩にかけて家を飛び出す。
「いってきま〜す」
そういう声はとっくに扉を閉めたあとで家の中には聞こえてなかった。

/
走り始めてからどれくらいが経っただろうか。
僕にとってはとても長く感じる。
ようやく駅が見えてきた。
駅にある時計は例を見ない真っ黄色のデザイン。
その針は八時三十五分を差している。
その時計の下には仁志と美樹、そして皐月さんがいる。
勿論待っているのは僕。
とくに仁志なんか痺れを切らしているようで貧乏揺すりをしている。
僕を見つけた仁志が二人にそれを教えている。
そして三人でこっちへとやってくる。
「ごめん、寝過ごしちゃって……」
と、途切れ途切れの白い息が目の前を漂う。
「だから、昨日ああやって八時半に駅集合だって念を押しただろ?」
「う、うん……」
と、すっかりよわる。
「ともかくもうすぐ電車来るから急ぐぞ」
「あっ、うん……」
そして四人で切符売り場へと向った。

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