第十五話(I) 土曜日の朝

次の日の朝。
昨日の朝はああして誘われてあんな話をしたものだから、それから昼休みまでずっと険悪な雰囲気のままだった。
学校へ行く途中にしても、あれだけしか交わしてない。
結局何のために誘われたんだろうかと、不思議になるくらいに。
でも、おかげで昼休み以降すっかり打ち解けたけれども。
今日も昨日と同じように誘ってくるのだろうか。
いや、そう易々と同じことが二度も続くものなのだろうか。
それに誘われたとしてもまた昨日みたいになっては同じことの繰り返し。
それでは誘われたにしても意味がない。
そりゃ、誘ってくれるのは嬉しいけど……。
いつものように階段を降り、玄関の扉を開ける。
今日は久し振りに雪が降っていた。
少し寒いくらいの風が吹いている。
その風に煽られ雪が宙を舞う。
これが桜なら綺麗だろうななんて季節違いのことを考える。
ガラガラガラ……
と、皐月さんの家の扉が開く。
「おはよ〜」
「おはよう」
なんかあまりにも返事が普通……。
「よかったらさ、今日も一緒に行かない?」
「いいけど……」
二日続けて?
期待はしていたものの、やはり自分の耳を疑いたくなる。
「え、何かあった?」
「いや、別に何もないよ」
「ん、そう?ならまた三十分後ね」
「う、うん」
それから新聞を取りに行き、また昨日と同じようにしていると三十分がようやく経った。
今度は学生服に着替えて家を出る。
雪はあれからまだ降りつづけているようで芝生の上に白いペンキが零れたかのように広がっている。
ガラガラガラ……
と、皐月さんの家の扉が再び開く。
「待った?」
「いや、今出てきたところ」
「それじゃあいこ」
「うん」
と、また二人で並んで歩き出す。
「育人君は冨田パークって行ったことあるの?」
たった三駅の近場なのにあそこには一度しか行ったことがない。
それも物心がつく前であまり覚えていない。
「ん〜小さいときに行ったみたいなんだけどよく覚えてなくて」
「へぇ……。そういやさ、去年のクリスマスイヴにもこうして雪が降ってなかった?」
あの日はたしかクリスマスケーキを買いに行くときに美樹に会ったはず。
美樹はこれから皐月さんの家に遊びに行くとか言ってた。
「降ってたと思うけど……。たしかその日って、美樹が遊びに行ってなかったっけ?」
「そうそう。マフラー編み終わったって言ってたような……」
「マフラー?」
「あれ、知らない?」
「うん」
「仁志君がマフラーしてたでしょ?」
それはたしか、おせちの買い物に行ったときのことだろう。
珍しく仁志が家に遊びに来て、買い物に付き合ってもらった日。
「うん。え、あれって美樹が?」
「そうそう」
美樹もちゃっかりクリスマスにプレゼントを贈ってたのか。
「へぇ、買ったのかなぁと思ってたけど。ああだからあの時あんなこと訊いていたんだ」
「そう。でもあの二人何時会っているんだろうね」
「さぁ、知らないけど」
というか、知ってたら怖いと思う。
「そういや、遊園地でもあの二人一緒?」
「たぶんそうだと思うけど……」
それから何故か沈黙が続いていた。
「あっ、じゃあまたあとでね」
気付くともう既に校門を過ぎていたのだった。

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